序章
「ごめん、わたし、今日は参加できない」
せっかくの、週に一度しかない文芸部の活動だというのに、先輩はまたしても参加できないらしかった。俺が入ってくる前は積極的に活動していたと聞いているが。
だがこの部活は、強制参加でもなく、アットホームな雰囲気で活動しているので、致し方のないことではあるのかもしれない。
でも。
「待ってください先輩、納得できません」
「どういうこと?」
「先輩の作品を見ていたらわかります。先輩はきっと、なによりも小説が好きです」
「……きみ、それちょっとうざいよ」
俺の言葉に、先輩は軽く微笑みながら優しく注意する。
しかし、注意されたことよりも先輩の笑顔に隠れた寂しい影が気になってしまう。先輩は心優しいから、人を注意するのは苦手なのかもしれない。
「でも、そうだね。わたしは、なによりも小説が好き」
「それなら……!」
「でも、きみたちと小説を書くことは、もうない」
その沈痛な笑みが、納得しがたい。これはもう、人を注意するのが苦手だから、とかではない。別の理由があるように見える。
だが、先輩は追及されたくないみたいで、俺は仕方なく部室に向かう。
「……それじゃあ、俺は部活行ってきます。先輩、お疲れ様です」
「お疲れ」
表情は見えなかった。短い言葉にどんな感情がこもっているのかも、読み取れなかった。ただ、先輩は一人で帰っていった。