6 完結
頭の傷も癒えて元気になった私は職場に復帰した。無理しなくても良いと皆から声を掛けて貰って、嬉しくて目が潤む。
今日はケインとザックさんが全快祝いをしてくれる。前にザックさんに連れて行って貰ったお洒落なお店だ。
仕事が終わり、寮に戻って可愛いワンピースに着替えると裏門の所でウキウキした気分でケインを待っていた。
メイドに襲われてからケインは凄く神経質になって、街を一人で歩いてはいけないと言われている。
『性格の悪かった本物のカレンを恨んでるヤツがいるかもしれないからな』
幼馴染なのに酷い言い草だ。二人の間に何があったのか詳しく聞いてみたい。
終業時間で次々と人が私の前を通り過ぎていく。その中にセーラさんを見かけた。
彼女は急いで門を出ると、待っていた物凄く美形な恋人と腕を組んで楽しそうに帰って行った。美形の恋人は食堂でも見かけたことがある、女性にとても人気のある騎士だった。
「ケインは顔で負けちゃった?」
「なんだよ、失敬だな」
いつの間にか仏頂面のケインが後ろに立っていた。
「あの人騎士よね?」
「アイツ、もう剣を握れないんだ。病気だからセーラが面倒見るしかない」
「複雑な理由があるのね、ケインはもう平気なの?」
「平気だよ。カレンの方が・・・危なっかしくて目が離せない」
「ほら」とケインが腕を差し出したので私は手を添えて、セーラさん達と反対方向に歩き出した。
「引っ越そうと思うんだ。もっと広い家に」
「今の家は職場が近くて便利なのに?」
「ん・・・一緒に住まないか。その・・・カレンが嫌じゃなければ」
「住みたいわ!」
「え?本当に?・・・俺、断られると思った」
「どうして、嬉しいわよ?」
これってプロポーズよね?それとも心配で目が離せないから?
「まだ早いかなって・・・でもザックに越されたらいやだし・・」
「ザックさんはお友達よ」
「カレンは俺の事・・・いや、俺と結婚してくれる?」
「良かった~プロポーズだった。喜んで!」
いつか想いを告白しようと思っていたら、ケインがプロポーズしてくれた。
(嬉しい!)
ケインの腕に両手でしがみ付いた。
「可愛すぎて・・・それ、ちょっとマズイ・・・」
横を向いてケインは片手で顔を隠した。
こんな日がくるなんて幸せ過ぎて怖い。
「ほーほー結婚するだと?俺を差し置いて?・・・おめでとう!」
お店でザックさんに報告すると、パチパチと拍手して祝福してくれた。
「カレンちゃん幸せになるんだよ~」
「うん、ありがとう」
「次の休暇に家を探しに行こうと思うんだ。教会も予約しないと」
「お前、お金あるの?」
「大丈夫だ。ああ、故郷の親にも連絡しなきゃ。カレンと結婚するって聞いたら驚くだろうな」
「いいな~俺も結婚したい~」
お酒が入って二人で盛り上がっている。デザートを食べながら幸せな気持ちで二人の会話を聞いていた。するとテーブルの下でケインがそっと手を握ってくれて、私もキュッと握り返した。
お店の支払いは「お祝いだ~!」と言ってザックさんが奢ってくれた。ケインがお金を出しても受け取らない。
「いいのいいの~」と酔ってご機嫌なザックさんとお別れして、寮までケインに送ってもらう。
やってみたかった恋人繋ぎをして、街灯に照らされる道を歩いた。
「そうだ、刺繍のハンカチ有難う」
「使ってくれたら嬉しいわ」
「勿体なくて使えないよ」
「え~使ってね。ケインを想って刺繍したのよ?」
「またそんな、可愛いことを・・・」
ふいに唇に温かな感触がして、キスされたと分かって顔が熱くなった。
「家に連れて帰りたいけど・・・無理だよね?」
「また今度ね。大好きよケイン」
「愛してるよ」
ケインに抱き締められて、彼の熱が私の体に伝わってくる。その温もりが泣けるほど私を安堵させる。
ペリエド伯爵と結婚すると聞いた時は、父が持ってきた話だからロクなもんじゃないと諦めた気持ちだった。あの日人生を諦めずに逃げて良かった。
愛する人と結婚できるなんて夢のようだ・・夢・・・
(まさか、私はずっと夢を見ているの?)
どうかこれが夢でありませんように。
伯爵家の離れ屋で、死の間際に見ている幸福な夢でありませんように。
ケインの温かな腕の中で私は祈っていた。
最後まで読んでいただいて有難うございました。