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これが夢でありませんように  作者: ミカン♬
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 私、ジゼルは父に売られてペリエド伯爵に嫁いだ。実家は貧乏男爵家で二人の姉も父に売られるように嫁いでいった。


 末娘の私は魔力のない無能で教育も受けられず、社交界からも遠ざけられ使用人扱いの娘だった。その私に伯爵家に嫁げと父は命令し私はロイド様の妻になった。


 それは書類上の妻で、実際妻になるのはカレンという平民だった。

 式を挙げるのも伯爵夫人の座に就くのもカレンだ。


 早い話、私はカレンになった。そしてカレンは男爵令嬢ジゼルになったのだ。

 私達は驚くほど姿も声もそっくりだった。双子といっても過言ではない。髪は黒、目は栗色で身長も同じ。貴族の教養がないのも同じだった。


 そっくりな私達なのに、どうして私は愛されないんだろう。


 ロイド様の隣で嬉しそうに「今日から私はジゼルなのね。名前なんてどうでもいいわ、ロイドの妻になれるんだもの」とはしゃぐカレン。


 そんな笑顔を私は一度でも浮かべたことが有っただろうか。横柄な父の顔色を見ながら18年間生きて来た。姉達も同じだ、優遇されるのは長男だけで楽しい事なんて何もなかった。


「君の実家とはそういう契約なんだ。これからはカレンと名乗って、一応は愛人として離れ家に住んでもらうよ。生活には困らないようにする」

 小太りのロイドは冷たい声で私に告げた。


「承知致しました」

 衣食住が約束されるなら実家よりはマシな生活が出来るかもしれない。


 離れ家に住みだすとメイドが一人私の世話を担当した。最初は普通に世話をしていたが私の所に主人が通わないと知ると扱いは雑になった。

 夫人を溺愛する主人には必要ない愛人だ。食事も質素なものになり、一月後メイドは家事もせず、食事も一日1回残飯が届けられた。


 外からは鍵が掛けられて外に出られない。父とどんな契約を交わしたか知らないが、私が死んだところで平民一人が死んだというだけだ。


(別にここに縛られる必要もないじゃないの)

 愛人としての務めを果たす必要もない、私の存在する意味がここには無いのだ。

 (一生こんな惨めな暮らしが続くなら、修道女か娼婦にでもなる方がマシじゃないかしら)

 我慢の限界を越えていた私はメイドが残飯を持って来ると、後ろから花瓶で殴って鍵を奪った。

 死んではいない気絶しただけだ。上等なメイド服を脱がせて着替えると私はペリエド伯爵家から逃げ出した。



 行く当てもなく夕日が沈むまで街を歩いていたら正面から「カレン!」と声を掛けられて「はい」と反射的に返事をしてしまった。


「見かけなくなって心配していた、どこかの使用人になったのか」

 男は20歳前後、赤毛の強面な警備隊の兵士だった。


「あ・・・屋敷から逃げて来たの。その・・・ご主人に愛人になるよう強要されて」

「そうなのか?これからどうするんだ?」


「どこか働き口はないかしら?屋敷にはもう戻れないわ」

「前の店だと主人に連れ戻されるかもしれないな」

「誰も私を知らない職場はないかしら?紹介状も無くて困ってるの」


 男は訝し気な顔をしていたが「とりあえず俺の家に来い」と言ってくれた。藁にも縋る思いだったが、見知らぬ男の家など怖くて行けない。


「そんなの悪いわ、今日は教会にでも泊めて貰うから」

「遠慮するな幼馴染の仲じゃないか。襲ったりしない安心しろ」


 羨ましい、カレンにはこんな親切な幼馴染もいるのか。警備兵だし信用していいだろうか。

(名前が分からない、困ったな)


 男に連れられて歩いていると「ケイン!あれ、カレンも一緒か?」と別の警備兵に声を掛けられて男の名はケインだと分かった。


「ザック、悪いんだけど今夜泊めてくれないか、カレンを俺の家に泊めるんだ」

「いいけど、カレンはどこかの貴族と結婚するんじゃなかったのか?」


「違ったみたいだ。後で行くから頼むよ」

 ザックと別れてケインは私を彼の家まで連れて行ってくれた。


「適当に食事をしておいてくれ、鍵を掛けて寝るんだぞ」

「有難う、迷惑かけてごめんなさい」

「・・・気にするな。職場は俺が休みの時に一緒に探そう、じゃあな」

 ケインは私が就職するまでここに置いてくれるつもりなのだろうか。


 意地悪メイドを殴った時は良心の呵責など無かったが、ケインを騙すのは胸が痛む。

 今頃伯爵家はどうなっているのか、私を探しに来るとも思えないが契約違反だと問題になっていないだろうか。

 早く遠くに行きたい。誰もカレンを知らない場所に。



 翌朝ノックがしてケインが帰ってきた。

「ロクな食べ物は残ってなかっただろう?」

「いいえ、卵を焼いてパンに挟んで食べました」


「ハムとミルクを買ってきた」

 ケインとハムをパンに挟んで食べているとノックがして、可愛い女性が入ってきた。


「あ・・・・またね!」

「ちょ!セーラ!」

 慌ててケインは追いかけて行った。きっと恋人なんだろう、誤解させて申し訳ない。

 残ったハムサンドを完食して、私はケインの家を出た。


読んで頂いて有難うございました。

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