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異世界でも花を愛します  作者: しうぉん
3/3

3


 黒服の男がいる道とは違う道から公園から出ていく花梨。そんな花梨の背中が見えなくなるまで見守る。

 見守ってる間にも黒服の男は俺に向けて歩いてきていた。


 大分長い間待っていてもらったからな。

 本当に申し訳ない事をした と内心反省をしながら彼に視線を向ける。

 男は俺との距離が10m程になると同時に歩みを止めた。


 遠くからでは容姿はわからなかったがこの距離ならよく見える。

 服装は全身を黒の外套を身に纏っている。そして肝心の顔はフードを目深に被っているため詳しくは分からない。

 背丈は俺より少し高め、180くらいだろうか。だいぶな高身長なようだ。


 俺がじろじろと観察をしていると彼は何がおもしろかったのか途端に笑い声を上げ始めた。

 急に笑い始めた彼に若干引きながら質問を投げかける。



「お前は誰だ、いやお前は何だ?ほんとに人間か?」

「ほう…?」



 俺の質問に対し実に興味深いと言わんばかりの反応をする男。

 目の前の男から発せられる異様なオーラ、禍々しいとでもいうべきなのだろうか。

 そんな異質さに冷や汗が止まらない。



「ふむ、本来なら質問に答えてやる義理もないのだが。貴様は特別だ…。私の名はガルセス、魔族だ」

「魔族…」


「ああそうだ。まあ聞きなれないのも仕方ないだろう、なんせ私はこの世界のものではない。こことは違う世界、いわゆる異世界からきたのだからな」

「なっ…!」



 異世界だと?

 普通なら頭のおかしいやばいやつと一笑に付す事ができるのだが、彼から放たれるオーラを直に感じてしまうと嫌でも納得させられてしまう。


 俺の反応に満足したのか彼はクツクツと喉を鳴らす。



「さて無駄話はここまでだ。今からお前を殺す…のだが、無駄な抵抗はしてくれるなよ?こう見えて多忙な身でね。さっさとあちらの世界に帰らなくてはならないのだよ」



 先程まで被っていたフードを脱ぐ。途端に放たれるプレッシャー、先程までのオーラとは打って変わってこちらからは明確な殺意が伝わってくる。

 凡人ならこの(プレッシャー)だけでも脅威になりかねい。

 運が良くて気絶、最悪の場合心肺停止。所謂(いわゆる)死。

 


「ほう、この圧を受けてピンピンしているのか。私が言うのもなんだが、貴様本当に人間か?」

「ああ、正真正銘の人間だ。周りよりほんの少し強いがな」



 黒服の男、改めガルセスの言うとおり俺の体にはなんの影響も出ていない。

 俺だって生半可な鍛え方はしていないのだ。


 こんな圧ごときで気絶などしていたら最愛の幼馴染の護衛などやっていられない。

 あいつは昔から面倒事を引き寄せる体質だからな。

 …そうだな。ちゃっちゃと終わらせて俺も帰らなきゃいけねぇんだ。

 

 ガルセスを睨みつける。

 ガルセスもガルセスで愉快そうな表情でこちらを見てきている。

 早く帰りたいだのなんだの言っていた割には、妙に楽しそうな雰囲気を醸し出している。


 そんな彼の口角がニィっと上に釣り上がる。

 それを合図に俺の死闘が始まった。



 一気に距離を詰め顔面に向かってストレートを放つ。


 だが当然そんな馬鹿正直な攻撃が当たるわけもなく軽々と避けられる。


 いつの間にか後方へと吹っ飛んでいる俺。腹部に激痛が走る。そして理解する、膝で蹴り返されたのだ。


 なんとか受け身は取れたものの衝撃を抑えることができずにそのまま10数m転がって止まる。


 普通ならこれで戦闘不能になってもおかしくはないのだが俺は何事もなかったかのように立ち上がる。


 そしてガルセスを睨みつける。

 


「化物が!」

「…ククク、お互い様じゃないか。ここで殺してしまうのが凄く惜しいと思ってしまっている自分がいるんだ」


「ならこのまま生かしておいてくれよ」

「悪いがそれも出来ん。(あるじ)の命令は絶対だからな」



 こりゃまいったと頭を抑えるガルセス。

 余裕の表れだろうか、現在彼は視線を俺から外していた。

 再び視線を戻す彼だがその表情が固まった。

 俺の姿が消えていたのだ。慌てて周囲を見回す。



「瞬閃――!」

「なぅ!……かはっ!」



 懐から聞こえてくる俺の声に、慌てて防御をしようとするがそれよりも早く俺の拳が彼の腹に刺さる。

 そして彼は先程の俺のように大きく後方に吹っ飛んでいく。

 


「ぐっ!」

「隙ありってな!!」



 予想はしていたがいくらなんでもタフすぎる。

 先程の技をくらっても吹っ飛びはしたが致命傷にはなり得なかった。

 それに何事もなかったように立っている。

 だが一矢報いる事はできた。

 そのことがどうしようもなく嬉しかったのだ。



「すまない少年、名を何と言う」

「ゆうと、柊木悠斗だ」


「そうか、ゆうと。先の戦い実に楽しかったぞ、感謝する」

「な、なんだ急に」



 急に名前を聞いてきたと思ったら、急にお礼までされてしまった。

 薄気味悪く感じつつ、もしかしたら見逃してくれるかも と淡い期待を抱いてしまう。

 だがそんな期待も次の一言で砕け散った。



時間制限(タイムリミット)が近づいてきている。よって、ゆうと貴様を私の魔法を用いて一撃で葬ることとする。本当にすまない」

「…そうか。…じゃあ最後に一つだけお願いしてもいいかな?」


「聞こう」

「俺が望むことは一つだけ。…花梨、いやこの世界の人達には手を出さないでもらいたいんだ」



 本当にそれだけだ。

 最初から生きて帰れるなどとは思っていなかった。

 それならば…相手に自分の事を少しでも認めさせこのお願いをしよう、それが俺の狙いだった。



「もとよりそのつもりだ。私の目標(ターゲット)はゆうと一人だったからな。他にはもうないか?」

「あぁ、それが叶うんだったら他に望むことは何もない」



 何もないというのは嘘になるか。


 本当は今すぐ逃げ出したいほどにこわい。

 誰だって死ぬのはこわい。

 だがここで逃げるのは間違っているというのだけは分かる。


 人間でもない、ましてやこの世界のものでもないガルセスがここまで誠意を見せてくれているんだ。

 大人しく死を受け入れよう。



「うむ。そうか、すまないなゆうとよ。ほんの一時だったが拳をぶつけ合えたことを誇りに思うぞ」

「俺もだ。…ほら時間がないんだろ?俺しぶといからとびきりでかいの撃ってくれ。…ほら!ちゃっちゃと殺っちゃってくれ!」


「あぁ、では始めるぞ…」

「おう」



神滅魔法(ジャッジメント)――」

「…っ!」



 彼は手を俺の方にかざしながら除々に距離を取り始めた。

 彼が言葉を発すると同時に地面にとてつもなくでかい魔法陣らしきものが浮かび上がる。

 それは頭上にも浮かび上がり何重にも重なって空にまで伸びている。


 これは凄いなと素直に感心する。

 これなら問題なく死ねるだろうと確信した。



 その途端、頭の中に走馬灯が流れる―――

 


 花梨との出会い、花梨との約束、花梨との何気ない会話、花梨の笑顔、花梨の…花梨の………。




 流れてきたものの全てが花梨関係のものであった。

 そして最後に思い出す、俺が遮ってしまった花梨の告白。



「…あれ……なんで………」



 ツー と頬を伝う涙。

 必死に止めようと服で擦るがそれでも溢れ出てくる涙。

 そして湧いてくる後悔。

 もっと早くに告白をしていればよかった。それなら花梨の記憶にも俺が居座ってくれていたはず。

 我ながら気持ち悪い思考だなと苦笑いする。

 

 俺がそんな事を考えている間に準備はできたようで彼はこちらに声をかけてくる。

 それに対して俺は小さく返事をしてその時を待つ。

 


「さらばだ、ゆうと」


 


 そして魔法が発動された。



 オォオォォオオオォォ―――



 闇と光の激しいぶつかり合い、その中心にいる俺の体を虫食いのように破壊していく。

 不思議と痛みはない。むしろ心地良いとさえ思ってしまう。

 既に俺の身体は消えている。



 神々しい光が天高く昇っている。



 恐らくこの光で花梨も察するだろう。

 彼女の気持ちを考えると胸が苦しい。

 だがもうそれも手遅れ。

 次第に消えていく意思。

 根性で抗おうとするもののそれも敵わず落ちていく瞼。


 最後に届け俺の気持ち―――――



(愛してる花梨―――――)




 それを最後に意識は暗闇に沈んだ。




 だから気付かない。

 最後に謎の声が聞こえたことも―――――

 そしてその声が邪悪に満ちていたことも―――――



「…まに……あ………た……」





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