6話 怖くなくなりあい
鈴城さんが来た次の日は休みだったので、僕はずっとコタツでゴロゴロしていた。
オバケの火木子ちゃんも一緒だ。
「あったかいですねー」
「うん。あったかいねー」
可愛い女の子と一緒にコタツでダラダラするのはとてもいい。
……女の子がこわいオバケなのが玉に瑕だけど。
「チカくん。この前怖くなくなってくれるって言ってましたよね?」
「言ってたねえ」
「じゃあ怖くなくなってください」
「いいけど、火木子ちゃんも怖くなくなってよ」
「私は怖くありませんよ!」
「こわいよ!」
「どこがですか?」
「オバケって時点で怖い。それに服もこわいし」
「服が?」
「真っ白な和服とか着てたら完全にオバケじゃん」
「そういえば白い和服来てる方多いですね」
「ヒッ! ほかのオバケの話しないで!」
「あっ……ごめんなさい」
……火木子ちゃんよりももっとこわいオバケとかもいるのかもなあ。
そう考えたらまた漏らしそうになってきた。
「そんなに怖がってないで、怖くなくなってください」
「そんな事言われても……どうやったら怖くなくなれるの?」
「うーん。一番は妖怪になってくれる事ですかね」
「嫌だよ! こわいこと言わないで!」
「そういうと思ってました」
「他になんかないの? 怖くなくなる方法」
「チカくんが女の子だったら、ちょっと怖くなくなると思います」
「僕男の子だよ?」
「じゃあせめて女装してください」
「ええー!?」
「お願いします!」
「恥ずかしいよ……」
「最初はタオルを胸に巻いて、おっぱいみたいにするだけでいいんです」
「ええ……」
「きっと可愛いですよ」
火木子ちゃんはにんまり笑って僕を見ている。
……なんかこわい……いつもとは別の意味で。
「タオルだけでいいですから」
「……仕方ないなあ」
僕は洗面所でタオルを取ってシャツの中に入れ込んだ。
触って見ると、柔らかくないけどちょっとおっぱいっぽくなった。
……なんか変な感じだ。
「触っていいですか?」
コタツに入るなり、火木子ちゃんが這い寄ってくる。
「今日の火木子ちゃん……いつもよりこわい」
「後で怖くなくなってあげますから」
「ヒッ……!」
火木子ちゃんが僕のおっぱいに触れてきた。
どうしよう……何かに目覚めてしまいそうでこわい!
「可愛いですね……女の子になっちゃってますよ……」
「僕……男の子なんだけど……」
「空気読んでください」
「ごめん」
火木子ちゃんは、ずっと僕の胸を撫でてくる。
なんだか頭がフワフワしてきた。
「チカちゃんって呼んでいいですか?」
「……ううぅ」
や……やばい……
「……もうっ! やめてよ!」
「あっ……ごめんなさい」
……あー恥ずかしかった。
「もういったん終りね」
「はーい」
「次は火木子ちゃんが怖くなくなる番だよ」
「えー」
「僕だって頑張って女の子になったんだから、火木子ちゃんも頑張ってよ!」
「わかりました」
「うん」
「……で、どうすればいいんですか?」
うーん。どうして貰えばいいんだろう……?
「『私はオバケじゃない』って100回言って」
「じゃあ行きますよ。私はオバケじゃない私はオバケじゃない私はオバケじゃない私はオバケじゃない……」
――ヒイェッ!
「ストップ! 余計こわいよ!」
「何が怖いんですか?」
「だって普通の人は『私はオバケじゃない』とか言わないし。そんな事言われたら余計オバケっぽくなってこわい」
「じゃあ、どうすれば怖くなくなれますか?」
「……うーん」
うわ、またおっぱい触って来た。
「ちょっと!」
「ごめんなさい。おっぱい触ってると安心できて怖くなくなるんで……」
おっぱい!?
「……それだ! おっぱいだよ!」
「おっぱいがどうしたんですか?」
「火木子ちゃんのおっぱい、触っていい?」
「……怒りますよ」
「こわいから怒らないで! エッチな意味じゃなくて……おっぱい触ったらこわくなくなる気がするんだ!」
「変態……訴えますよ」
「火木子ちゃんだって触ったじゃん!」
「私はいいんです!」
なにそれ……
「ずるいよ」
「……女の子になってくれたら、私のおっぱい触ってもいいですよ」
「僕は男の子だよ」
「じゃあ駄目です。おっぱいを触るのは女の子だけの特権なんです」
おっぱいを触るのは女の子だけの特権……かあ。
ずるいけど、ちょっと説得力がある気がする。
「でもずるいよ。僕はおっぱいまで作って頑張ってこわくなくなったのに」
「まだこわいです」
「でもちょっとはこわくなくなったでしょ?」
「それはそうですけど」
「火木子ちゃんも怖くなくなってよ」
「じゃあ……チカくんが完全に怖くなくなったらいいですよ」
「いいって……どういう事?」
「……おっぱい触っていいですよ」
火木子ちゃんは、ちょっと恥ずかしそうにしながらも、確かに言ってくれた……『おっぱいさわっていいですよ』……と。
「ほんと!? 嘘じゃないよね!?」
「……そうやってがっつかれると怖いです」
「ごめん」
「頑張ってもっと怖くなくなってください。そしたらおっぱい触っていいんで」
「うん。頑張る!」
僕は頑張る事にした。