5話 鈴城さんVS火木子ちゃん
「……この寮……すごい妖気」
「こわいこと言わないで!」
「ごめん」
部屋に戻ると、いつも通り火木子ちゃんがコタツでダラダラしていた。
「ただいまー」
「あ、チカくん。おかえりなさい。相変わらず怖いですね」
「火木子ちゃんの方が怖いし」
鈴城さんは、辺りをキョロキョロうかがっている。
「龍造寺君、誰と話してるの?」
「誰とって……オバケとだよ」
「オバケはどこ?」
「コタツに座ってるよ……見えないの?」
「……見えないよ」
「ヒッ……!」
背筋に寒気が走った。
……やっぱり……火木子ちゃんはオバケなんだ。
僕にしか……みえないんだ。
「チカくん。誰と話してるんですか?」
火木子ちゃんにも、鈴城さんは見えていないようだ。
声も聞こえていないんだろう。
つまり……火木子ちゃんも鈴城さんも、お互いが見えていないし、お互いの声が聞こえない。
全部見えるし聞こえるのは僕だけってことだ。
「火木子ちゃん……オバケが好きな子を連れてきたんだけど……」
「オバケ好き……?」
「うん。見えないけど好きなんだって」
「何ですか……それ……」
やばい……怖そうに怯えてしまっている。
「こわい! こわいです!」
「見えない人間は怖くないって言ってたじゃん」
「見えない奴がこっちを探してたら……余計怖いでしょ!」
言われたら……分かるような気もする。
「悪い人じゃないから」
「こわい……むり……!」
コタツにもぐってしまった。
「龍造寺君、どうしたの?」
「鈴城さん。火木子ちゃんが怖いって言ってる」
「そうなんだ……」
「ごめん。今日は帰って」
「そんなあ……」
「ごめんって」
「もう少しいさせてくれるなら、おっぱい揉んでいいよ」
「……おっぱいを!!???」
おっぱいを……揉んでいいだって……?
鈴城さんの大きなおっぱいを……揉めるのか。
……揉みたいなあ。
……いやだめだ……火木子ちゃんが可哀そうだし。
「ごめん。一旦帰って」
「ええー!」
「さようなら」
鈴城さんは、渋々帰って行った。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「火木子ちゃん。もう出て行ったよ」
「ありがとうございます……」
コタツに入ると、火木子ちゃんが抱き付いて来た。
「ううううぅ……怖かった……」
「ごめん。見えなければ大丈夫だと思って……」
「うううううぅ……」
あ……今おっぱいが当たった気がする。
……いや駄目だ、エッチな事を考えては。
こういう時はエッチな事を考えない方がカッコいい気がするし。
「よしよし。もう怖くないよ」
「やっぱり……人間……怖い……」
「今日だけは、僕もオバケって事でいいから」
「本当ですか!?」
「いや、本当にオバケになるつもりはないよ! 僕をオバケにするオバケ光線とか出したらダメだよ!」
「気を付けます」
気を付けますってなんだよ……こわい!
「震えてる……やっぱり……チカくんも怖いんですね」
「火木子ちゃんが変な事言うから……本当にオバケにしないでよ!」
「大丈夫ですって……」
「でも……やっぱりこわい……」
「じゃあ、今日は私の事人間だと思っていいですから……」
「火木子ちゃんが、人間?」
「はい。チカくんと一緒です」
「そっか……ありがとう……」
1時間くらいコタツに寝そべって火木子ちゃんと抱き合っていたら、大分怖くなくなった。
でも怖くなくなったら、今度は恥ずかしくなってしまった。
「何か息が荒いですよ」
「……そんなことないよ」
「もしかして、エッチな事考えてませんか?」
「考えてない」
「ふーん」
見透かしたような目で見られた……
「……とにかく、チカくんはもうちょっと怖くない感じになってください」
「火木子ちゃんだって、怖くなくなってよ」
「……わかりました。私も怖くなくなりますから、お互い頑張りましょう」
「うん」
よーし。
火木子ちゃんも頑張ってくれるみたいだし、頑張って怖くなくなろう。
……でも……いい加減恥ずかしいなあ……
「あの……火木子ちゃん……そろそろ」
「あ……離れますね」
「手は繋いでてくれる?」
「いいですよ」
その日、僕と火木子ちゃんは手を繋ぎ合って眠った。