4話 妖怪大好きっ子 鈴城さん
次の日、僕は大学に初めての講義を受けに行った。
入学式の時にも来たけど、緊張するなあ。
教室も、滅茶苦茶広くてすごい。
一限目は民俗学だった。
偉そうな太ったおっさんの教授が、教壇に立っている。
授業は結構面白かったけど……
「このように中世の絵物語に妖怪が……」
「――ヒッ……!」
いきなり妖怪とか言うので怖すぎて思わず声が漏れてしまった……
酷い……聞いてないよ……講義でオバケの話するとか……
必須科目だからサボる訳にもいかないし……どうしよう……
憂鬱なまま講義をこなしていくと、ゼミが始まった。
本がたくさんある狭い部屋に、偉そうなおっさんが座っている。
……講義でオバケの話した人だ。
「山田内健三でございます……えー皆さん大学生との事で……浮かれに浮かれている事と思いますが……ハメを外しすぎないよう。ハメハメもし過ぎないよう」
今の、下ネタだろうか。
「ハメハメハ大王!」
……何だそのポーズ。
変な教授が担任になってしまったなあ。
「はい。おあとがよろしいようで。皆さんもハメハメする際はコンドームをお忘れなく!」
うるさいなあ……余計なお世話だよ……。
多分、みんなそう思っている事だろう。
そして、自己紹介する流れになった。
「退魔院泰斗。寺生まれ。レバーが好きだ」
肉食獣みたいにギラギラした目はいかにもレバーが好きそうな感じ。
お坊さんみたいな服を着ているけど、髪は金髪ロン毛だ。
「猫山猫江ッス。趣味はフリーおっぱいッス」
猫耳のコスプレをしている、細目の可愛い女の子だ。
オタサーの姫ってやつなんだろうか。
小柄だけどおっぱいが大きい。
それにしても……フリーおっぱいってなんだろう……
「鈴城雪乃です。妖怪が好きです。よろしくお願いします」
妖怪が好きなのはこわいけど……
黒髪ポニーテールのすごい美人だ……おっぱいも大きい。
あ……目が合ってしまった。
うう……恥ずかしいなあ……
「ほれ、君も自己紹介してくれ」
教授が僕に促してきた。よし、がんばるぞ。
「龍造寺家近です。コタツが好きです。苦手な物は怖いやつです」
みんな拍手してくれた。
なんか嬉しい。
「ゼミは以上です! 皆さんにプレゼントがあります!」
何だこれ……あ……コンドームの箱だ。
「エンジョイザ、ハッピーキャンパスライフ! フォオオ!」
……へんな教授だ。
セクハラで訴えられたりしないのかな。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
ゼミも授業も全部終わったので、僕はカウンターテーブルでゲームボーイをしていた。
6つの金貨っていうマリオの奴だ。
このゲーム面白いけど……オバケが出るステージがあるからクリアできないんだよなあ。
そうだ……これも火木子ちゃんに頼んでクリアして貰おう。
「あの……」
「うわっ! びっくりした!」
……マリオが死んでしまった。
「驚かせちゃった?」
「うん……マリオが死んじゃった」
「ごめんね」
同じゼミの鈴城さんだった。
「鈴城さん……どうしたの?」
鈴城さんと目を合わせるのが恥ずかしいから目線を落とす。
そしたら、大きなおっぱいがモロに目に入って来てしまった。
慌てて目を逸らす。
「あの……龍造寺君……」
もしかして、そういうお誘いかな?
僕のハッピーキャンパスライフが始まってしまうのかな?
「実は龍造寺君から妖気を感じて……」
「妖気……!?」
何だよそれ……こわい……!
「最近、不思議なことが起こったりしなかった?」
どうしよう……火木子ちゃんの事を話したら、流れ的に退治する感じになってしまいそうだ……
そうなったら怖くなくなるのは確かだけど……火木子ちゃんが可哀そうだ。こわいだけで、火木子ちゃんは何も悪い事してないし。
「その顔、やっぱり……」
やばい……バレてしまった……
「オバケなんかいる訳ないよ! じゃあね!」
「あっ……待って!」
僕は全速力で逃げたけど……
「ハァ……ハァ……むり……しぬ……」
「龍造寺君って足遅いね」
すぐ追いつかれてしまった。
「何で逃げるの?」
「オバケを……退治しないで……」
「えっ?」
「火木子ちゃんを退治しないで!」
「……退治とかしないよ」
しないのか……良かった……
「私、妖怪が好きだからこの大学に来たの」
信じられない……
「オバケ怖くないの?」
「怖いけど、怖いのがいいんじゃん」
全く理解できない。
世の中にはいろんな人がいるんだなあ。
「そういや妖気がどうとか言ってたよね?」
「うん。妖怪が居たら、なんとなくわかるの。実際に見た事はないんだけどね」
「ごめん。妖怪っていうの止めて。オバケって言って」
「怖がりだね、龍造寺君って」
「誰だって普通怖いでしょ!」
「ごめんごめん」
まったく……なんて度胸のある子だ……
「龍造寺君の家にいっていい?」
「えっ……!!!???」
……これは……!? やっぱりエッチなお誘いか!?
随分と積極的な子だなあ!
「オバケ、いるんでしょ」
そっちかー。
「まあ……オバケならいるけど」
「やった! 連れてって!」
「……いいよ」
「ありがとう!」
火木子ちゃんは人間が怖いらしいけど、見えない人間は怖くないらしいし、まあ大丈夫だろう。