3話 お化け屋敷にご用心
火木子ちゃんのまぶたが、開いた。
ちゃんと眠れていいなあ。
……僕は結局オバケがこわくて一睡もできなかった。
「おはようございます」
「おはよう」
「いつまで繋いでるんですか……」
「あっごめん……」
急に恥ずかしくなって来たので手を離した。
女の子と一晩中手をつないでしまった……オバケだけど。
「エッチなこと、してませんよね?」
「してないよ」
「……ふーん」
「信じてよ!」
「人間を信じたらダメだって、おばあちゃんが言ってました」
「おばあちゃんいるの?」
「はい。すごくおっぱいが大きいですよ」
「なにそれ……こわそう」
「怖くないです。チカくんの方が怖いでしょ」
「僕は怖くないし」
「こわいです!」
まあいいや。
とりあえず朝ごはんでも食べるか。
僕は台所に行って準備をして戻った。
「なんですか、それ」
「牛乳掛けたシリアルだけど」
「それを……食べるんですか?」
「当たり前じゃん」
スプーンで普通に食べていくと、火木子ちゃんは信じられないという感じで震えだしてしまった。
「そんなに怖いの?」
「だって……食べるとか怖すぎです……」
「オバケは何も食べないの?」
「食べる訳ないでしょ!」
なにも食べないとか……やっぱりこの子はオバケなんだ!
「……こわい!」
「怖いのはこっちですって……何で食べるんですか?」
「だって、食べないとお腹すくし」
「お腹すくってどんな感じですか?」
「えーっと……こう……おなかがキューってなって……」
「こわ……」
「怖くないし。ドラゴンボールの悟空もいっぱい食べてるじゃん」
「あれはアニメだから怖くないです。実際に食べてるとか怖すぎですよ!」
僕はオバケが出るアニメとかは怖くてみられないのに、すごいなあ。
ドラゴンボールでも何回かオバケが出たから、その回は怖くて飛ばしちゃったし。
「早く食べてください!」
「うん……んぐ……もぐ」
「咀嚼音がこわいです!」
注文が多いオバケだ。
コーンフレークを食べ終えた頃、ピンポンが鳴った。
……また新しいオバケとかじゃないだろうな。
怯えながら出たら、普通に宅配便だった。
……オバケじゃなくて良かった。
「何ですかそれ?」
「実家から荷物が届いたんだ。スーファミとかゲームボーイとか漫画が入ってるよ」
早速スーファミをテレビにつないでみる。
「ゲームですか。人間にバレないようにこっそりやったことあります」
「こわ……こっそりしないでよ」
「セーブしてないから大丈夫です」
「そういう問題じゃないの! こわいことはしないで!」
「……ごめんなさい」
「もう勝手にしないなら、いいよ」
ソフトは何にしようかな……そうだ!
マリオワールドにしーよおっと。
「これクリアして」
僕はワールド2のオバケ屋敷にマリオを移動させていく。
本当はオバケ屋敷の外観を見るだけでこわいけど、我慢して移動させた。
「これ、オバケ屋敷ですか?」
「火木子ちゃんはオバケ屋敷こわい?」
「全然怖くないです」
「じゃあオバケ屋敷クリアして」
「いいですよ! 任せてください!」
やった! オバケ屋敷が怖くて二面で止まっていたけど、火木子ちゃんに攻略して貰えばクリアできるかもしれない!
「よーし頑張りますよー!」
僕がコタツに隠れると、早速火木子ちゃんはお化け屋敷に入って行ったようだった。
それにしても……この音楽……!
「ヒッ……! ちょっとこの音楽こわい! 音止めて!」
「ううううぅ……確かにこの音楽はこわいですね……」
「やばい……! 死ぬ……!」
震える手でリモコンを操作して、何とか音量を0にする。
「――ヒイイイイイイイイイイイ!」
僕は……見てしまった……
テレビ画面に……オバケがいっぱいいる!
「ちょっと……足に抱き付かないでください!」
「こわい……助けて……」
またコタツにもぐったらオバケは見えなくなった。
それでも、僕は怖くて仕方が無かった。
そういや……よく考えたら僕が今抱き付いているのもオバケだった……!
でも……もう何でもいい……オバケでいいから……助けて……
「ああもう……チカくんのせいで死んじゃったじゃないですか!」
「死んだの……?」
「白いやつにぶつかって死んじゃいました」
「ヒィエエエエエエエエ!!」
「抱き付くのやめてください! こわい!」
「怖いのはこっちだよぉ……!」
「とにかく、絶対私がクリアしてあげます!」
火木子ちゃんは大分ムキになっている感じだった。
「あっ……! もう……! 雑魚風情が……!」
……ゲームやってると口が悪くなるタイプなんだろうか。
「今の……当たって……ないでしょ!」
怒ってるオバケ……こわい。
「このヒゲが! おちるな!」
というか、今更だが……すごくエッチな事をしてしまっている気がする。
火木子ちゃんの太もも……やわらかい。
でも……こわいから仕方ないよね。
「やったあああああああ!」
「クリアした?」
画面を見ないように顔を出して見ると、火木子ちゃんがドヤ顔でガッツポーズしていた。
「私にかかれば、これくらい余裕です!」
「ありがとう! 火木子ちゃんは僕の命の恩人だ!」
「どういたしまして!」
ピーチ姫……ずっと待たせてごめんね……今度こそ絶対に僕が救い出してあげるから……!
その後、プレイを交代した僕は、順調にクリアして行った。
しかし……2面の城に差し掛かった時だった……
「ヒイイイイィ! 火木子ちゃん……オバケが出た!」
白い骨のオバケだった……怖い!
「火木子ちゃん! 何とかしてよ!」
「無理……! 怖いです!」
「あれ……火木子ちゃんも怖いの?」
「ごめんなさい……人間じゃなくても……骨はこわいです……」
「そうなんだ……」
僕は攻略をあきらめた。
……ごめんピーチ姫。やっぱり無理だったよ。