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1話 コタツの中の妖怪少女

 古びた学生寮に入居して来た僕は、まずコタツを確認する。


 夢にまで見た完璧なコタツが目の前にある。


 美しい木目が浮き出た高級感あふれる天板。

 暖色で市松模様なフワフワの布団。

 小さくて古びているけれど、すごいコタツだ。


 ……このコタツに一目ぼれして、わざわざ県外の大学を受験した甲斐があったなあ。


 ただこの寮、全体的に作りが古臭い。

 そのせいか……オバケが出そうでとてもこわい。

 まあそこは我慢しよう。

 オバケなんか本当にいる訳がないし。

 ……うん。


 ……いる訳……ないよね。


 うん。いる訳ない!

 そんな事よりコタツだ。

 電源スイッチを入れて……と。


「どんな具合かなあ……」


 布団を捲って、足を入れ込んでみる。


 温かい……やっぱりコタツは最高だ……!


 ……ん?

 なんか……足に柔らかいのがぶつかった。


「――ヒッ……! ヒィャアアアアアアア!!」


 なんか……いる……かすれ声で叫んでいる。


「うわあああああああああああ!」


「……ヒィイ! ヒィイイイイイイィ!」


 僕が驚くと、女の子の声がまた叫んだ。

 やがて、コタツから怯え切った女の子の顔が出て来た。

 長い黒髪と円らな青い瞳が可愛らしい。

 ……白い着物を着ているのと、肌が青白いのはちょっと怖いが。


「あなた……人間ですか?」


 女の子は恐る恐る僕を見ながら、当たり前の事を聞いて来る。


「あなた……人間……なんですか?」


 なんだろう。哲学的な問いだろうか。


「まあ生物学的には人間かなあ」


「……ヒィッ!」


 怖がりながらも、コタツから離れようとしない。

 ……良く分からない子だが、コタツが好きなんだろうな。

 何で僕の部屋にいるかは知らないけど、多分迷子かなんかだろう。

 きっと悪い子じゃないはずだ。

 僕はそっと微笑み掛ける。


「何でそんなに怖がるの?」


「私……見える人間とか初めてなんで……」


 見える人間!?


「見えない人間とかいるの?」


「……見えないのが普通です……あなた、何で見えるんですか」


 どうにも話が噛み合わない。


「こわいです……見えないでください!」


 見えないでくれ、って……どんな要求だよ。


「もう無理……そうだ……妖怪組合に頼もう……」


「妖怪組合……?」


「あなたのような……見える人間を退治してくれる、とっても強い妖怪の組合です!」


「妖怪!!!??」


「妖怪です」


「もしかして……君も?」


「妖怪です!」


「ヒィイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇


 うーん……

 どうも、僕は気絶していたらしい。

 ……嫌な夢を見たな。漏らしちゃった。

 コタツの布団も濡れてしまっている……最悪だ。


「あの……大丈夫ですか?」


「――ヒィイイイイイイイイイイイイ!!」


 青白い肌の……白い着物を着た女の子……!

 夢じゃ……なかったのか……!


「オバケ……やだ……こわい……助けて……!」


「怖がらないでください! 怖いのはこっちですよ!」


「……こわい……僕そういうオバケとか……怖いのほんと無理」


「へぇ……妖怪を怖がる人間もいるんですねぇ」


「いや……当たり前でしょ……人間がオバケを怖がるのは……」


「そうなんですか?」


 今の所は、死ぬほどはこわくない……。

 でも……もしこわい姿に変身とかされたらこわすぎて死ぬ。


「変身とか……しないよね?」


「しませんよ。フリーザじゃあるまいし」


 よかった……それにしても……


「オバケなのにドラゴンボール知ってるんだ……」


「ヤジロベーが好きです」


 ……なかなか渋いチョイスだなあ。


「どこで見たの?」


「ちょっと前にネトフリで見ました」


「ネトフリで!?」


「なんか、頭の中で思い浮かべたらポワーって見れます」


 どういう原理かわからなくてこわい。


「そんな事より、おしっこどうにかしてくださいよ」


「あ、ごめん」


 大学生にもなっておしっこ漏らしちゃったのは、ちょっと恥ずかしい。

 まあオバケを見て漏らさない方がおかしいし仕方ないけど。


「ほんと人間って怖いですね……何でおしっことかするんですか?」


「妖怪っておしっこしないの!?」


「しませんよ。おしっこなんか」


「……こわい!」


「ちょっと! もう気絶しないでください! あなた……気絶したら白目向いてて滅茶苦茶怖いんです!」


「いやいや……君の方が怖いから!」


「私は怖くありません!」


「怖いよ!」


「あなたが怖がりなだけでしょ?」


「僕は怖がりじゃない!」


「オバケだぞー!」


「ヒィイイイイイイイイイイイ!!!」


「……やっぱりあなたが特別怖がりなだけでしょ」


 ううううぅ……こいつ……僕を馬鹿にしやがって!

 ……絶対に許さない! 怖がらせてやる!


「人間だぞー!」


「…………」


 だめだ……そんなには怖がっていない。

 こうなったら……


「オレワ白目人間ダ……!」


 くらえ! 白目攻撃!


「ヒッ……ィイイイイイイイイイイイイイイイ!!」


 ……頭を抱えてガクガク震え出してしまった。

 しかし……こわがっているオバケもこわいな。

 一旦逃げて着替えよう。

 ついでにドライヤーでも取って来るか。

 とりあえずおしっこを乾かさないと。


 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇


 コタツに戻ると、オバケはもうあまり怖がっていなかった。


「もう! 怖がらせないでください! 怖がらせますよ!」


「分かった! 分かったから怒らないで! こわいから!」


「じゃあ、私も怖がらせないようにするんで、あなたも私を怖がらせないようにしてください!」


「わかった」


 ……怒ってるオバケは本当にこわいなあ。

 怖がりながらも、ドライヤーのスイッチを入れて、布団の濡れた所にあてていく。


「早く乾かしてくださいね。おしっこ怖いんで」


「おしっこは怖くないでしょ」


「……怖いです。何で体からあんなに水が出るんですか。おかしいでしょ」


 言われてみれば怖い気もして来た。

 ……いや流石におしっこは怖くはないけど。


「あなた名前なんですか?」


「龍造寺家近だよ」


「こわい!」


「こわくはないでしょ!」


「なんか、落ち武者っぽくて怖いです!」


「別に落ち武者じゃないよ!」


「龍造寺くんとか家近くんだと怖いし……チカくんって呼んでいいですか?」


 ……チカくん……可愛すぎて何か恥ずかしい。

 まあ怖いんだったらしかたないか。


「別にいいよ。チカくんで。それで……君の名前は?」


「火木子っていいます」


「――ヒッ!」


 なんか……妖怪っぽくて怖い!


「怖がらないでください!」


「火木子ちゃんだって怖がってたじゃん」


「だって怖いですもん!」


 怖いなら仕方ないなあ。


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