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って、ちがうちがう!
何見惚れちゃってるの!? 見た目に惑わされちゃだめ!
気を引き締め直してにらみつけるが、男性は全く意に介さずにこにこと笑っている。
「な、んですか…」
…怖い。
例えどんなに見目麗しくとも、知らない人なのよ。見知らぬ男性が手を伸ばせば私を害せる距離にいて、実際それに近いことをしていた。本能的な恐怖は拭えない。
「いや…可愛らしいなと思って。しかし怯えさせてしまったな。すまない」
素直な謝罪に勢いが削がれる。恐怖が完全に拭えたとは言わないが、幾ばくかの緩和はあった。
「あなたは、一体…」
「私の名は…クロウ、と言う。よろしく」
「クロウ、さん?」
…カラス?
今のは英語のcrowのアクセントだった。
濡羽色の髪に、鈍色の瞳。馴染み深い落ち着いた色だったからてっきり日本人だと思ってたけど、違うの…?
そう思ってあたりを見回せば、洋館のような内装に調度品の数々。占領しているこのベッドも、2人で寝転んで余りある大きさだ。
よく観光地を紹介する雑誌には洋館の写真もあるし、絶対に日本ではない、とは断言できないかもしれない。でも私、直前までそんな所にはいなかったはずなんだけど…。
私がいたのは大学。日もとっぷりと沈み、先生たちのいる研究室さえ灯りがまばらになる時間。建物の施錠時間と言う事で、毎日の勉強場所としていた食堂を追われ、帰宅の途についていたはずだ。
友人たちはとっくに帰り、一人ぼっちの帰り道。暗がりに立つ施設に寂しさを覚えなかったわけではない。
毎日毎日脇目も振らず、必死に勉強するのは楽しいわけではなかった。それでも、「あなたのため」と母にかけられた期待に応えるべく、義務感のような気持ちで頑張っていたはずなのだ。明日もこれが続くのだと、疑いもしなかったのに…。
「で、あなたは?」
「あっはい、朔良と申します。」
「サクラ? 変わった響きだな。」
「そうかもしれませんね。」
クロウさんの反応がここが日本ではない可能性を高めていく。
仮にここが日本でないとするならば、驚異とすれば誘拐だろうか。別にうちは特別お金持ちという訳ではないから誘拐するメリットは思いつかないけど。
でも、名前を聞いてくるなんておかしいか。誘拐犯なら私の素性もわかってるものよね?
ああでも念には念を。
なんにしてもペラペラしゃべるのは良くないと思い、そっけなく返しておくことにした。




