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「ここ、入れといてください」
「はい」
先輩が示したのは、いつの間にかその手にあった金ダライだった。さっきの寄り道したときに持ってきたもののようだ。タライとともに、小さなバケツもある。
私に指示を出す間にも、手際よく縄のついたバケツを井戸の中に入れ、縄を巧く手繰りながら水を引き上げていく。
バケツの中にはきれいな水がたっぷり入っていた。
「タライに入れていいんですよね?」
「はい」
たらいをバケツに近づけ、井戸の壁の高いところからザバッと水を入れる。
「サクラは魔法、使えますか?」
「いいえ…多分、使えません」
「そう」
なら、と先輩は服と水の入ったタライの前に立ち、目を瞑って腕を伸ばす。
空にある手は指先までピンと伸ばして開かれている。
「我、水虬に畏み申す。我が求めに応じ、力を貸し与えたまへ」
先輩が呪文を唱えると、タライの水が少しずつ巻き上がり、服と共に浮かび上がった。周りにはまとまりきれなかった大小さまざまな水滴が一緒に浮かび上がって、キラキラときらめいている。
「うわあ…っ! すごい…!」
先輩は私の声に動じることもなく、水の玉の中をぐるぐるとかき回す。服の汚れが浮き出てきたのか、水の中にはきれいな部分と汚れた部分が分けられてきた。
汚れた塊が水の玉から離れ、先輩が持ってきていたバケツの中へと入っていく。
一通り汚れが抜けてきれいになると、先輩は一度タライの中に戻した。
「…ふう。」
一息ついた先輩の額には汗が浮かんでいる。
「これって魔法ですよね? すごいです! …お疲れですか?」
「集中力がいるんです。普段はやりませんし」
「そうなんですね。ありがとうございます」
続いてタライの中からブラウスを持ち上げると、バサバサと服をはたいた。
「できました」
何度か水切りをしただけなのに、ブラウスはパリパリに乾いている。
すごい…! これが魔法の力! かけてるときはとってもきれいだし便利! でも集中力とか、失うものも多いみたいだ。
「では手近な部屋で着替えて、仕事を始めますよ」
「はい先輩!」




