1節
「ん、ぅ…?」
身体がぞわぞわと粟立っている感覚がする。
胸のあたりから背中へむずむずと広がるそれは、あまり気持ちのいいものではない。
何かが、身体を這っている…?
その刺激に引っ張り上げられるようにゆっくりと意識の淵から覚醒すると、信じられない光景が視界に広がった。
「…っ!?」
声もまともに出ないまま、私はそこから飛び退いた。
視界に広がっていたのは、口元にあった己の手、捲り上げられた服、覆い被さる誰かの体躯。
そして、服に隠れてその先は見えなかったが、それでも屈強だと察せられる男性の手首だった。
つまり、眠っていて無防備なのをいいことに、男性に服を捲られ露わになった胸を弄られていたのだ。
これが恐怖せずにいられようか。
必死に服を直して後ずさった。
そういえば、これ、私の服じゃない…。膝より上くらいの、控えめなレースで裾を縁取られたシンプルなワンピースのようだ。襟ぐりは広く肩口まで空いていて、角度と姿勢によっては中が見えてしまいそう。脚は下着と白いかぼちゃパンツを履いている。
「ああ、気づかれてしまったか。残念。」
男性の体躯から下敷きにされていた足先までも逃がそうとした時、頭上に降ってきたのは鷹揚に構えた男性の声。なんとか見上げると、にこやかに微笑む男性の姿があった。
__なんて、きれい。
形のよい眉、長いまつげに縁取られた切れ長の目。健康的に焼けた肌に薄く引かれた唇。その全てが線は細いながらも男性的な魅力は失わない、魅惑的な雰囲気を醸している。そして上半身は、軍服のような詰め襟に隠れて肉体を見ることは叶わないが、がっしりと広い胸板は鍛え上げられた体躯を想像させる。
だがそれ以上に…。
烏の濡羽色か、またはすべてを飲み込むような宵闇と例えるのが最も似合う長く美しい黒髪に惹かれた。




