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父さんが再婚して連れてきたのは吸血鬼な妹でした  作者: しゅん
第二章 吸血鬼な女の子との生活は理性を保つのが難しい
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第7話 俺は兄なんだ

 


「——挟撃……だと」


 月菜も脱衣所で服を脱いでいるときに黒き疾風によってこっちに追いやられたってことか。


 一匹いたら三十匹いると言われる敵でも同時多発発生は予想できない。


 そう事態を把握したとともに、この月菜の反応で俺の最後の希望が潰えたことを察した……絶望だ。


 そうこうしてるうちに俺の高い主婦力がキッチン奥の壁で静観していたヤツがこちらに向けて進撃を開始してきたことを察知する。


「……もう、ここまでか」


 あぁ……くそ、こんな時じゃなければ今の俺の状況はエロい格好の美少女に抱き着かれてるっていうなんとも幸せな状況だっていうのに。


 ……って! 俺はなんてことを考えてるんだ! 月菜は妹なんだからそんな目で見ちゃいけないだろう! 


 月菜は家族! 妹! そして俺は兄!


「……そうだ、俺は兄なんだ」


 なのにいいのか、こんなところで諦めて?


 俺は、胸の中で自問自答する。


 このまま、涙目で抱き着いてきて「ゴゴゴゴゴゴゴ! ジョジョジョジョジョージ!」と声なき声で叫んでる妹を放置していいと思っているのか?


「いいや、ダメだろう!」


 俺一人なら諦めてたかもしれない。


 このまま暖かい夕食を放り出して、どうでもいいとばかりに武器を取り、ゴキバスターことジェット・星夜になって何もかもをジェットした。


 だが、今の俺は一人じゃなく、月菜の兄だ。


 着やせするタイプなのか谷間丸見えで下着姿の月菜を連れて外に逃げるわけも行かないし、かといって月菜を置いていくなんて言語道断なこの状況だが、兄として……いいや、男して腹をくくるしかない!


「ふぅぅぅーーーー……っ!」


 集中だ、集中しろ! 竈少年も言ってただろう、「全集中!」って! あれをやるんだ! 俺ならできる!


 覚悟が決まった途端、熱かった頭が一気に冴えて、冷静になってく。


 そうだ、奴はしょせん毒も無ければ牙ももたないただの虫、何も恐れることなんてない!


 なんだ、考えてみればそうじゃないか! 


 火星に行かないとジョージにもなれない、ただカサカサとはい回るだけの劣等昆虫が、この最新鋭のホモサピエンスである俺に後れを取るはずがない!


 俺は後ろに月菜を庇いながらまずはこっちに向かってきてる俺が見つけた奴の方に向き直る。本気を出した俺なら、菜箸であいつらを捕まえることくらい造作もないんだ!


「——行くぞ! ぜんしゅう——飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでる飛んでるっ!!!!!!!!」


「うっぎゃああああああああっ!!!!」


 気づけば俺は、月菜を抱きかかえて家中を駆けまわってた。


 だって無理! 歩いてくるならまだしも、飛んでくるなんて卑怯だ! 俺は空中なんて飛べないのに!


 月菜の悲鳴が響き渡って、椅子がひっくり返るわ、テーブルは蹴飛ばすわ、月菜のブラが外れそうになるわ、まるでオセロをひっくり返したような惨状がリビングに広がることになった。




 ■■



「く、くらえっ! ジェーーーットっ!!」


 ——ぷしゅ~~!


「よしっ! 奴は倒した! もう安心だよ、月菜」


 ふぅ、なかなか手ごわい奴だったぜ!


 ゴッキーどもがキッチンから離れたから俺はジェット・星夜になってヤツらを討伐した。


 ふふん! このジェットを手に持った俺はどんな相手にも無敵なのだ!


 そのことを未だに下着姿で——ちょっと取れかかってるけど、床にペタンと女の子座りしてる月菜に言うけれど。


「ゴゴゴゴゴキブリブリブリブリ!」


 月菜はまだ再起動できてないみたいだ。


 正直、冷静になった俺に今の月菜の格好はかなり目のやり場に困るんだけど、このままにしておくわけにもいかないし……ええい! 妹なんだ! 興奮なんてするかー!


 ……まぁ、そんなはずもなく、とりあえずなるべく見ないようにしながら月菜の目を覚まさせることにした。


「全集中だ月菜。とりあえず、深く呼吸をして落ち着こう! はい吸って~」


「す~~~……げほっげほっげほっ!」


 しまった、まだジェットが換気しきれてなかったか。


 薬剤の匂いに咳き込んだ月菜の瞳からぽろぽろと涙があふれ出す。


 その拍子に取れかかってたブラが肩から落ちそうになってたから慌てて抑えつつ、落ち着くように背中をさする。


「うぅ……ぐすっ……」


「ああ、ほら泣かないで!」


「うぇええん! もうお家かえるぅ……」


「よしよし、ここがお家だから。大丈夫、もう奴らは倒したしオムライスも守ったから、ね?」


「……オムライス」


「そうそう、美味しくできてるから。とりあえず、今の格好じゃ風邪ひいちゃうしお風呂入ってきちゃいな」


 そう言って、月菜をゆっくり立たせたら腕を引いて脱衣所に連れて行く。


 そうして、もしまだいるようならこのジェット・星夜が徹底的に殲滅してやろうと意気込んでリビングに戻ろうとすると、月菜にちょこんと服の袖を掴まれた。


「……いっちゃいや」


「月菜?」


「こ、怖いから一緒に入ろ?」


「——んなっ!?」


 まさかの申し出に、俺は度肝を抜かれた。


 いや、それはまぁ、兄妹ならお風呂に一緒に入るくらいあるかもしれないけど、それは幼稚園とか小学校低学年とかの時期で、流石に今年高校生になる年齢で入るのは無いだろう。


「い、いや、それは流石に——」


「お兄ちゃん……」


 断ろうとしたら、そんな切なそうに呼ばれて、ちらっと振り返って見た月菜は上目遣いで瞳を潤ませてる何とも庇護欲を掻き立てる表情をしてて。


 くっそ! こんなの断れないじゃないか! 断った時の罪悪感が半端ない!


 かといって、一緒に入って赤裸々に裸を見るのも罪悪感がある! 絶対にこの後気まずくなるの見えてるし! いくら妹と思っててもナニが起きないかもわからないし、いやまぁ、俺が我慢できればいいんだけど。


 くっうううううう! 俺はいったいどうしたら!


「……わ、わかった。俺はここにいるから、それならいい?」


「……うん、それなら」


 月菜がそれで納得してくれて俺はほっと息をついた。


 結局数秒悩んで考えた解決策は一緒に入るのじゃなく、月菜が入ってる間、俺は脱衣所にいるってこと。


 ふんっ、ヘタレだと笑いたきゃ笑うがいい! だが、俺は月菜に嫌われることはしたくないんじゃ!




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