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父さんが再婚して連れてきたのは吸血鬼な妹でした  作者: しゅん
第十一章 星夜とみぞれ
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第76話 ‥‥‥待ってるね

 



 ショッピングモールの関係者らしき人に注意された俺たちは、そそくさとその場を離れる。


「もうっ、星夜のせいで怒られちゃったじゃん!」


 うん、さっきよりもボリュームを抑えてコソッと言ってくるのはいいんだけど。


「どの口が言うか! その口が!」


 みぞれのほっぺを片手で挟んで潰してみる。やらかいなぁ。


ふぉおふちじゃ(このくちだ)っ!」


「ははっ、変な顔だなー」


「ぷはっ! 星夜がぐにゅってするからでしょー、まったく! あ、ケーキ屋さんこっちだよ!」


「もうわかってるてーの」


 みぞれに手を引かれてやってきたのは、駅構内にあるのに出店みたいな感じじゃなくて、窓ガラス越しにケーキを作ってる厨房が見えるここらへんだと有名なケーキ屋。


 こういう厨房が見える店舗って、俺みたいな料理する人間からすると、手際とかが気になってついつい見入っちゃいそうになる。


 そんな誘惑を押し切って店に入ると、フワッと甘い、美味しそうなケーキの匂いが身体を包み込んだ。


「ん~♪ いい匂いだね!」


「そうだな。さっき月菜からの返信見たらショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキって言われたんだけど、どうするよ? ていうか、月菜のやつめっちゃ食べるな‥‥‥」


「あ~、それはたぶん月菜だけじゃないと思うなぁ‥‥‥あたしはショートケーキがいい!」


「んじゃ、俺もショートケーキでいいかな。流石に三つは食べすぎだから、月菜もそれにしてショートケーキ三つでいいか」


「待って! せっかくだからホールにしよう?」


「なぜに?」


「えー、あー、ほら! 甘いものは別腹だから、一個じゃ足りないかなぁーって!」


 と、言うみぞれの目はなんかぐるぐると泳いでる。


 なんか怪しい。


 ホールのケーキは顔よりも大きいけど‥‥‥まぁ、食べきれないことは無いか。


 去年はこの大きさがおもちゃに見えるくらいのケーキ作ってるしな。最悪、あられとしぐれも呼べば問題ないだろう。


 ちなみに、去年の誕生日の追加情報だけど、俺とみぞれはそこそこ食べたと自負してるけど、流石に食べきれなくて、父さんが糖尿病一歩手前までいったことをここに記す。仮にも医者の端くれなら栄養管理くらいしっかりして欲しいものである。


 まぁ、そんなことはどうでもよくて、みぞれが店員さんを呼ぶとすぐにやってきてくれた。


「はい、ショートのバースデーケーキですね! メッセージの方はいかがしましょう?」


「ん~、せいやくんみぞれちゃんおたんじょうびおめでとう! で、お願いします!」


「ちょっと子供っぽくない?」


 ひらがな表記に幼稚園児を感じるわ。


「何言ってるの? 星夜なんてまだ青二才(サラダマン)みたいなもんで——あいたっ!」


 そうだよなぁ‥‥‥みぞれもまた、あの時にあのお菓子売り場にいた一人だった。


 父さんの恥ずかしい思い出を消去するため、みぞれに一発デコピンしてから、店員さんにそれでお願いしますって伝える。


「あはは、承りました。今、予約が立て込んでますので少々お時間いただきますがよろしいですか? 大体四十分後くらいになります」


 さっき厨房を覗いたとき、平日だからかパティシエらしき人は一人しかいなかったからな。


 俺は別に問題ないので、みぞれに『どうするよ?』って視線を向ければ、みぞれは時間を確認して何か考えるそぶりを見せた後、「よしっ!」って呟いて、店員さんに了承した。


「それじゃあ、四十分後にまたいらしてください。ありがとうございました!」


 店員さんに見送られて店を出る。


 四十分くらいなら、このショッピングモールなら十分に時間を潰せるし、ウィンドウショッピングとかしてたらあっという間だろう。


「んじゃ、ケーキができるまでそこら辺でぶらぶらして——」


「星夜っ!」


 適当に歩き出そうとすると、いつの間に離れてたのか数歩後ろで立ち止まってたみぞれに強く呼ばれる。


 どこか覚悟を感じるその声に振り返れば、みぞれはいつもとは違う、真剣みを帯びた雰囲気を纏ってた。


「今から、屋上で大事な話があります! そこにあたしは先に行ってます! 星夜は十五分したらそこに来てください! とってもとっても大事な話だから‥‥‥待ってるね」


 言葉少なにそれだけ言って、みぞれは俺の返事を聞かずにエレベーターの方へ向かって行く。


 俺はそれを茫然と眺めることしかできないで‥‥‥。


 ここの屋上か‥‥‥それって、そういうことだよな。


 みぞれの言う大事な話ことが、いまいちわからないけど、その場所を選ぶってことは二つに一つだ。


 俺に、実は恋人ができたって報告をするか‥‥‥それとも。


 この駅は、隣接されてるショッピングモールのその上にホテルも設立されていて、一番上の屋上にはフラワーガーデンが広がってる。


 しかも十九時半までは一般公開までされていて、そこそこ高いところにあるため景色の眺めがいいと人気のスポットだ。


 そして、その中のほんの数分だけ、特別な場所になる時間が存在する。


 みぞれが提示した十分後って言うのは、たぶん今の時期のその時間帯なんだと思う。


「‥‥‥俺も、怖いとか言ってないで腹をくくるか」


 大事な話があるって言ってたんだし、流石にただ景色をただ見たいだけってわけじゃないだろう。


 なら俺もちゃんとみぞれに土曜日のことをしっかりと聞こう。


 さっきみたいにぐちゃぐちゃと考えてるなんて、みぞれとの騒がしいやり取りで、なんてバカバカしく、うじうじしてるんだろうって思ってたところだし。


「とりあえず、あと五分くらい時間を潰そう」


 早めに行っても、お互いに覚悟が決められきれずに何もできなくなる可能性があるし、ピッタリに行った方がいいだろう。


 といっても、ただ立ち止まってるのもなんだか落ち着かないし、俺はゆっくりと屋上に続くエレベーターに向かいながら、流し目でお店を見ていく。


 そういえば、みぞれに時間が欲しいって言われたけど、もしもこれからの時間のことを言ってるのなら、それは誕生日プレゼントに入らないよな?


「まだちょっと時間あるし、ここでなんか買ってこうかな」


 ちょうど目に入ったアクセサリーショップに足を踏み入れる。


 普段、俺自身は来ることが無いからなんだか新鮮だなぁ。


 アクセサリーなら、女性にあげるプレゼントとしてはピッタリだろう。


 少なくとも、レゴのお城とかドミノアートとかよりは不自然じゃないと思う。


 そう考えると、やっぱみぞれが毎年ねだってくるものっておかしいよな‥‥‥もしも、みぞれの大事な話が恋人報告の方だったら、来年から作ることもなくなるのかな。


「はぁ‥‥‥気が重い」


「いらっしゃいませ! 何かお探しですか?」


「——うおっ!?」


 たぶん、俺の独り言が聞こえたわけじゃないと思うけど、店員さんのタイミングがピッタリすぎてびっくりした。


 う~ん、洋服とかならともかく、普段アクセサリーを付けない俺が選んでも、センスが良くなるとは思えないし、ここは店員さんに相談するか。


「あ~、えっと、幼馴染の女性にあげる誕生日プレゼントを探してるんですけど、何がいいのかわからなくて、おススメってありますか?」


「う~ん、そうですね。では、その方に贈りたい言葉や、伝えたい意味なんかはありませんか?」


 送りたい言葉や、伝えたい意味? 


 アクセサリーを選ぶのに、なんでそんなことを聞くんだろうって思ったけど、商品についてるポップとかを見て納得。


 贈るものや、それについたチャーム、パワーストーンとかで意味が全然違うんだ。


 なら、せっかくだし、名前も知らない店員さんくらいなら。


「実は——」




おまけ。

 ◇◇とあるアクセショップの店員さん(見た目大学生)◇◇


 ちょうどみぞれが星夜を呼び出してるところを目撃して。

「あら~? これは何かが始まる予感‥‥‥」


 みぞれが一人、屋上に向かうところを目撃して。

「あらあら~~?? あの子は、この前のミサンガの‥‥‥」


 そして、星夜がお店を出て行って。

「ふふっ、今日はいい甘き青春の日々(スイートサラダ)が見れたわ」


 ‥‥‥もしかしたら彼女は、あの日あの時お菓子売り場にいたのかもしれない。


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