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父さんが再婚して連れてきたのは吸血鬼な妹でした  作者: しゅん
第十章 みぞれの準備期間
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第70話 めんどくさかったっ!

 



「『今年の誕生日プレゼント、星夜の時間が欲しい』——送信っと」


 ククク‥‥‥星夜はこれをどんな風に解釈するんだろうか。


 あたしは単に当日の時間が欲しいだけだけど、まぁ悪癖で抽象的に送っちゃうよね。


 これを選んだ理由は、お母さんに言われたムードを出すためと、自分の退路を断つため。


 って、これ今考えたら、星夜がやった事と同じじゃん。


 月菜から話を聞くとき自分が逃げ出さないように観覧車に乗ったって言ってたし。


 さすが、伊達に15年、もうすぐ16年も一緒に育ってきただけあるわ、考え方が同じなのが良い証拠。


 まぁ、これで場は用意できるし、後はこのなよなよした心持ちだけ。


「やぁ、来てくれてありがとう。大狼さん」


 だけどそれも今日、引締めよう。


 あたしは、手を上げてこっちに来る辰巳君に手を振り返した。


 場所を移動して、駅構内にあるレストラン。


「ごめんね、今日は呼び出しちゃって」


「大丈夫大丈夫! あたしも駅の方に用事があったからさ」


「そうなんだ‥‥‥あっ、ごほん! 大狼さんの私服姿、初めて見たけど似合ってるよ」


「そう? ありがと!」


 そんなちょっと歯の浮くようなことを言ってくる辰巳君。


 イケメンだからセリフが似合ってますなぁ‥‥‥辰巳君が好きな子が言われたら黄色い声間違いなしだよ。


 小滝辰巳くん。


 隣のクラスの男子生徒で塩顔イケメン。


 体格はスラっとしていて、星夜より身長は高いんじゃないかな? 性格も穏やかで礼儀正しく、女子の中で現在大株上がりの一番星みたいな人だ。


 あたしの主観としては、全然良い人だし、女子たちの評価は正当だと思う。


 仲良くなったきっかけは、辰巳君の隣の席の子が中学からの友達で、休み時間とかに駄弁りに行ったり、物を借りに行った時に声をかけられて知り合った。


 まぁ、それから何がどうしてそうなったのか、昨日突然告白されたんだけど、返事をNOで突き返したあたしにとってちょっと気まずい相手。


 それで昨日の今日で駅に呼び出されたのは、あたしに何か聞きたいことがあるかららしい。


 大体予想は付くから話を聞くのは昨日のうちに電話でもよかったんだけど、あたしも辰巳君に聞きたいことができたからちゃんと向かい合うことにした。


「それで、話ってなにかな?」


 回りくどいことは面倒なので、単刀直入にあたしは聞く。


 辰巳君は、ドリンクバーで持ってきたコーヒーを一口飲むと、真剣な表情になった。


「その、昨日は突然悪かった。びっくりさせたよね」


「あぁ~、うん。びっくりしたかな」


「でもあの時の気持ちは本当なんだ。ゴールデンウィークが近いとかじゃなくて、君に一目惚れしてて——」


 あー、なるほど。最近ゴールデンウィークが近づいてきたから、それに合わせてはっちゃけようとする人たちがいるのは知ってるし、辰巳君は断られたのがそれだと思ってるわけだ。


 まぁ、そう思わなかったかって聞かれたら、ちょっとはそう思ったけど。


 頭の中でそんなことを考えながら、辰巳君の続きの言葉を聞く。


「——だからさ、どうかもう一度考え直してほしい。僕は君と恋人になりたい」


 そう言い切って、辰巳君は頭を下げる。


 あたしは当事者だけれど、どこか他人事の様に「すごいなぁ‥‥‥」なんて思いながらそれを見てた。


 確かに、辰巳君は光栄なことにあたしのことを本気で想ってくれてるんだろう。


 それはちゃんと伝わってきたし、だからこそ関心はしたんだけど、やっぱりあたしの心は少しも傾かなかったのも事実なわけで。


「返事は急がないから、今度でいいよ」


「うーん、いや、今の方がいいかな」


「そっか‥‥‥じゃあ、心して聞くよ」


 机の上でギュッとこぶしを握り締めて、覚悟のにじんだ瞳を向けてくる。


 あたしの思ってる以上に真剣だったんだなってことが分かって、ちょっと心は痛むけど、その瞳を見つめ返して、あたしはお断りの言葉を告げた。


「やっぱり、あたしの答えは変わらない。ごめんなさい」


 簡潔にそう言うと、辰巳君は少しだけ目を瞑って、大きく深呼吸をした。


 あ~、うん。やっぱり、こういうのって気まずいなぁ‥‥‥聞きたいことはあったけど、今日はもう帰ろうかな。


 そう思って、お金を置いて席を立とうとしようとすると、辰巳君が再び口を開く。


「‥‥‥その、どうしてか理由を聞いてもいいかな?」


「えっと‥‥‥どうしても聞きたい?」


「お願いします」


 まぁ、そりゃあ気になるか。


 今まで、中学のときや高校に入学してから何度か告白されてきたけど、本気かどうかはともかく、それらは大抵サラッとしたものやダメ元の冗談半分だったりしたものが多かったこともあって‥‥‥まぁ、あたしは軽そうに見えるのかもしれないけど。


 だから、そういう時は適当にあたしには心に決めた人がいるからって言えばそれで納得してくれて、困ることは無かった。


 けど、今回のは明らかにそういう感じじゃないよね。


 それなら、いつもみたいにその人自身のことを理由にしないで、他の人のせいにして言うのは良くない‥‥‥かな。


 それに辰巳君にはそっちのほうがいいか。


「分かった。かなりきついこと言うと思う」


「‥‥‥」


 それでもほんとに聞くのか? って気持ちを込めて言えば、辰巳君は神妙な面持ちで頷いた。


「じゃあ、今日のあたしの格好見て、どう思った?」


「え? それは、可愛いと思うよ。メイクもいつもと違うし」


「うんうん、そういう所に気づいてくれるのは女子的にポイント高いぞ! それに、あたしは辰巳君のことは嫌いじゃないよ 良い人だと思ってるし気持ちは嬉しい」


「あ、うん? ありがとう。でも、なら、どうして‥‥‥」



「でも、これ、す~~っごいっ! めんどくさかった!」



「え‥‥‥‥‥‥」


 あたしが、本気でぶっちゃけると辰巳君は、時が止まったように動かなくなった。


 そして数分、あたしが言ったことが理解できたのか——。


「——ぐはぁっ!?」


 銃で心臓を打ち抜かれたように、うめき声をあげて机に突っ伏す。


 まぁ、本当にかなりショックなことを言ったのは自覚してるから、そうなるのもしょうがないよ。


 店内にいた他のお客さんも辰巳君の突然の発作のような怪行動に何事かと興味深げな眼を向けてくる。


「ほ、本当にきついね‥‥‥これは、効いたよ。でも、僕はっ、君にそんな風に言われてもっ!」


 まるで戦場駆け巡り負傷して、それでもなんとか生き残ろうとする兵隊のように這う這うの体で身体を持ち上げる辰巳君。


 そんな彼に、あたしはさらなる追い打ちをかける。


「うんー、辰巳君が思ってるほど、あたしは良い女の子じゃないよ? あたしって気分屋だからさ、興味ないことってとことんどうでもいいんだよね」


「——ぐほぉっ!?」


「それに、一目ぼれとかいう衝動的な気持ちより、時間をかけて育んできた想いを大事にしたいかな?」


「——かはぁっ!?」


 ——カンカンカ~ン!


 どこからか、そんな勝利のゴングが聞こえてきたような気がした。


 辰巳君はあたしの三連バーストに虫の息だ‥‥‥あまりのショックだったのか、白目向いて瀕死の生き物の様に手足がぴくぴくしてる。


「おいお~い、辰巳君? 大丈夫か~?」


「‥‥‥‥‥‥」


 返事がない、まるで生きる屍のようだ‥‥‥これなんだっけ? 月菜が言ってたんだけど。


 まぁ、辰巳君がこうなるのも仕方いとは思うけどね‥‥‥あたしだって、好きな人にあんなこと言われたら三年は引きずるもん。


 あたしが辰巳君に言ったことを要約すると‥‥‥。


 一つ、『あなたの為にメイクしたり着飾ったりするのはめんどくさいです』


 二つ、『あなたのことなんて異性として興味も関心もありません』


 三つ、『一目惚れとか、マジないわ~』


 っていう、辰巳君全否定の文字列みたいなもので。しかもポイント高いよって最初に褒めて、上げて落とす作戦付き。


 興味深そうにこっちを見てた人たちも、どういう状況かわかってきたのか、「やめて! これ以上はやめてあげてっ!」みたいな目でこっちを見てくる。


 あれ? なんか向こうの席の人も、ダメージを受けてるような‥‥‥。


 まぁ、でも辰巳君にはこれくらい言って、とどめを刺しておかないと諦めてくれなさそうだったし。


 それに、彼を狙ってる女子は結構いると思うから、そういう子たちにいわれもなく恨まれたりするのは嫌だったもん。


「——だから、ごめんね?」


 てへぺろっ★


 なーんで、胸の中でつぶやくあたしでした。




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