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父さんが再婚して連れてきたのは吸血鬼な妹でした  作者: しゅん
第九章 狼双子がやってきた!
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第66話 全然、嬉しくなんてならないや

 


「それじゃあ、俺は買い物行ってくるから三人とも留守番頼むな」


「「「うぃ~!」」」


 やっぱり、ぞんざいに顔すら向けてくれない三人の妹たち。


 ‥‥‥今日の俺はきっと不憫な星の下に生まれてしまったんだわ‥‥‥。


 そんな自虐を心の中でつぶやきつつ、俺は家を出る。


 今日の夜ご飯は何にしようか?


 いつもなら月菜に何食べたい? って聞くけれど、今日の月菜はゲームに集中して答えてくれなかったし、それなら次策でみぞれがこれ食べたい! って言ってくるやつを作るけど、みぞれからは未だにメールは返ってこないし。


「‥‥‥はぁ、ほんとに何してんだか」


 メールはお昼に送ったのに、今はもう日が沈みかけてる夕方、かれこれ四時間くらい返信が来てない。


 みぞれは結構まめにスマホのチェックしてるから、気が付いたらすぐ返事をくれると思うんだけど‥‥‥。


「いやいや、たまにはこういうことだってあるだろう! うん!」


 ぶんぶんと頭を振って、少し歩くペースを上げる。


 というか、普段はこんな逐一メールの返信が来てないかなんて気にも留めてないんだ、そんな気にしたって仕方ないだろう。


 それより、今夜の夕飯のメニューだな! 


 まぁ、俺も特にこれと言って食べたい料理はないし、スーパーの特売で安くなってるやつで決めるか。


 特に何か食べたいものが無い時、もしくは金銭的に危ういかも‥‥‥そんな時は、とりあえず安そうなものを適当に買って、それで作れそうなものを考えるのがベストである。


 これが食べてぇ! というならまだしも、まぁなんとなくこれ作るかって感じなら、こうすればわざわざ高くなってる食材を買う必要がなくなるのだ!


 これ、主婦の生活の知恵ね。


 まぁ、そんなわけでスーパーに到着した俺は、披露した知恵に従って食材を買い物かごにぽいぽい入れていく。


 一応来る前に冷蔵庫を覗いてきたら、カレーがまだ残ってたから、付け合わせで何品か作るだけだしそんなに多くはない。


「っと、そういえば今日、お菓子結構出したからなんか補充してくか」


 あられとしぐれが来たから、いくつかお菓子を食べてたのを思い出して、カートをお菓子コーナーへと向ける。


 さて、今日の特売のお菓子は‥‥‥。


「‥‥‥なるほど、おかきか」


 知っての通りおかきとは、お餅を乾燥させて焼いたもの、または揚げたものを指すのだけど、こいつにゃあ謎がある。


 サラダ味っていう謎だ。


 皆、一度は考えたことが無いだろうか? サラダ味なのに、サラダの味がしない‥‥‥と。


 昔、まだお母さんが生きてて元気だった頃なんだけど、たぶん幼稚園くらいかな? その時、疑問に思った俺は父さんに聞いたことがあった。


 当時、聞いてみたはいいものの正直何言ってるのか分からなかったけど、今改めて思い返せば分かるかもしれない。


 父さん、なんて教えてくれたっけな、確か‥‥‥。


「ほう、星夜よ。そこに目を付けるとは言い心がけだ。いいか? サラダ味って言うのはな、人生だ!」


 ‥‥‥うん、はっきり言って今でも何言ってんだコイツってなるな。


 あぁ、でも、このセリフの後になんか熱く語ってったっけ? え~っと‥‥‥。


「実はな、父さんも若かりし高校生の頃に気になって徹夜で調べたことがある。まぁ、厳密に言うとサラダ味とはサラダ油をからめて塩をまぶしたものをサラダ味というらしい、だからぶっちゃけ塩味だな。父さんは思ったよ、こんなことに一晩を使ったなんて当時の俺は何と若かったものかと、まさに苦き青春の日々(サラダ・デイズ)だったと‥‥‥」


 父さんは、一つ咳払いをしたあと意味深な顔で、「気づいたか?」と言った。


「そう、サラダなんだ‥‥‥つまりだな、サラダ味とはそんな青二才のころを思い出させてくれる苦い味——すなわち人生なんだよ。‥‥‥ふっ、星夜にはまだわからないか。まぁ、いずれお前もこのサラダ味のおかきを食べて、『これを食べてた頃の自分はなんて若かったんだ、まるでサラダ味のような人生だった』って思う時が来るさ」


 ‥‥‥う~ん、いやはや、我が父親ながらこの自論を俺を含めたお菓子コーナーに集まってた子供たちに力説してたと思うと‥‥‥確かに、あの頃は苦き幼少の日々(ビーンズサラダ)な幼少期だった。


 しかも今思えば、父さんはサラダ味の謎を高校生の時に一晩かけて調べてたのか‥‥‥ばかじゃねえの?


 もしかしたら、サラダ味を単に塩味と表記しないのは消費者に、父さんと同じようにこういったばかみたいな経験をさせて、自分はまだ苦き青春の日々(サラダ・デイズ)の中だということを認識させ、暗に『そなたらはまだお菓子が必要な子供なのだ』ということを心に刷り込ませ売り上げを伸ばそうとするお菓子メーカーの策略。


「‥‥‥っ!? つまり、サラダ味とは陰謀の味‥‥‥」


 エマージェンシー、エマージェンシー! なんてことだ、俺はついに新たなる日常の闇を見つけてしまった! これは直ぐにでも父さんに伝えなくては!


 そう思って、俺は素早くスマホを取り出したとき、ピコンと通知音が鳴ったと思ったらみぞれから返信が届いた。


『ごめん、返信遅れた! 今駅で、もうすぐ帰るとこ! 星夜は?』


「お、えーっと『スーパーで買い物中』っと」


『そうなの? じゃあ、一緒に帰ろう! ちょっと待ってて!』


「『りょーかい』っと、んじゃ陰謀の味はみぞれにでも伝えることにするか」


 俺は、サラダ味のおかきを一つ手に取ってレジに向かった。


 そんなに量が多かったわけでもないので、会計は直ぐに終わる。


 だからまぁ、みぞれを待ってる間の時間が空いちゃったなぁ‥‥‥どうするか。


「う~ん、たまには迎えに行くのもまた一興?」


 家に帰っても月菜たちは俺を無視するし、もうすぐ日も落ちるからな。


 それにちょっと、今はみぞれに会いたいような‥‥‥そんな気がする。


 俺の足は自然と駅の方へと向かって行った。


 スーパーと駅はそれほど離れてないため、三分くらいで到着する。


 駅に近づくにつれ、地元の中高生らや休日であるけれど一日の仕事を終えたサラリーマンやOLさんたちが疲れた顔をして行きかってる姿が見えてきた‥‥‥お疲れ様です。


 さて、この人ゴミの中からみぞれを探すのは困難だろうけど、まぁでも誰かと遊んで別れるところなら、たぶん改札の方だろう。


 そう思い、改札の方に行って——俺は思わず、その場に茫然と立ち尽くす。


 そこにみぞれはいた‥‥‥いたんだけど、一人じゃなかった。


「あいつは、この前の」


 しかも、見覚えのある男だった。小滝辰巳(こたきたつみ)、この前みぞれに告白してた同級生。


 そう理解した瞬間、今日お昼に思ったことが頭の中にリフレインする。


 ——デートとかじゃないの? ——いつ彼氏ができても ——今日できたっておかしくなんか。


 そういうこと、なんだろうか? 


 そういうこと、なんだろうな‥‥‥。


 スッと全身の血液が引いていくような気がした。


 周りの喧騒が聞こえなくなって、世界にただ一人取り残されたような感覚。


 みぞれが‥‥‥俺の知らないところに消えたようなぽっかり空いた気持ち。


「——あっ! 星夜だ! こっち来たの? もしかして迎えに来てくれた?」


 やがて、手を振って二人は別れた後、みぞれは直ぐに俺がいることに気が付いて、駆け寄ってくる。


 しぐれが言ってた通り、今日のみぞれはいつもより少し、濃いめの大人っぽい化粧をしていた。


 その事実に俺の予想が確信に変わっていくことに拍車をかけていく。


「いや~、星夜が迎えに来てくれるなんて、レアものだね! ん? あれ? 星夜、大丈夫? ちょっと顔色悪いよ?」


「あ、あぁ‥‥‥帰るか」


「え、うん?」


 俺がぽつりぽつりと歩き始めると、みぞれは俺の様子に不思議そうにしながらも、いつものようにぴたりと肩をくっつけて隣についてきた。


 だけど、それすらもどこか遠くのように感じて。


 あれ? おかしいな、みぞれに恋人ができたら幼馴染として祝福できると思ってたのに‥‥‥。



 ——全然、嬉しくなんてならないや。



 家に着くまでの帰路の間、無言の帰り道がただただ続いた。




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