表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
父さんが再婚して連れてきたのは吸血鬼な妹でした  作者: しゅん
第九章 狼双子がやってきた!
63/105

第60話 いけっ! 頑張れっ!

 




「星夜にーちゃん、結構うまいね!」


「そりゃあ、暇なとき月菜に相手させられるからな、そこそこ腕は上がったと思うぞ」


「むむっ、そういうのなんかむかつく! ていっ!」


 あられが「やろうっ!」と満点の笑顔で持ってきたのは、月菜がよくやってる格闘ゲーム『大乱闘』だった。


 それで今、総当たり戦をしようってことで、俺としぐれで勝負してる。今のところ俺が有利!


「おぉ! いけっ! 星夜にーちゃん! 頑張れっ! しぐれちゃん!」


 今、俺はソファーの下に座ってるんだけど、その後ろのソファーの上ではしゃぐあられは、俺の肩に手を置いてぐいぐい前のめりで歓声を送ってる。


 まぁ、揺すられることは全くプレーに影響はないんだけどさ、当たってるんだよね。ぐわんぐわん揺すられるたびに、ふにゅんふにゅんって男子的に幸せな感触が高等部に‥‥‥。


 いや、別に変な気持ちとかにはなったりしないよ? だってみぞれの次くらいに気心知れた仲な訳だし。でもさ、こうなんか意識しちゃうじゃん? 男子のみんな分かるよね!


「星夜にーちゃん、そこで波動弾! あ、みぞれちゃん、スマッシュボール出たよ!」


「ちょっ——あられ、はしゃぐなって!」


「動きが鈍くなった‥‥‥いまっ!」


 やべ! 邪心に囚われて、一気にダメージがっ!


 ‥‥‥しかし、言えない。


 後ろで、ただただ純粋にはしゃいで応援してくれてるあられに、ちょっと胸あたってますよ‥‥‥なんて言えない!


 そんなこと言おうものなら、「星夜にーちゃん、あられでそんなこと考えてたんだ‥‥‥」って感じに傷つけてしまうかもしれないし、しぐれからは「星夜にぃ‥‥‥変態」って軽蔑される。


「あっ! あっ! 星夜にーちゃん! やられる! あぁ‥‥‥」


 くっ‥‥‥なんて無防備なんだ。確かにこれはみぞれが心配するのも分かるぞ。


 ゆさゆさと、さらに密着してくるあられに脳のリソースを割かれて操作がおろそかになった結果、俺の残機が一つ減ってしまう。


「ふふんっ、星夜にぃはもう後が無いね? ほれほれ!」


 そう言うしぐれは残り二機で、対する俺はゼロ。


 しかし、あられは画面に夢中で離れてくれないし‥‥‥ええい! こんな時は、別のことを考えよう!


 例えば、そうだな‥‥‥。


『無垢』というものは時に残酷である。


 そこに悪意や下心というものが含まれてない100%の純真であることが分かるため余計に質が悪い。


 きっと今のこの状況も、あられは決して俺を官能的に誘惑してプレーの邪魔をしようとか、そんなことを一切考えてないんだろう。


 逆にそんなことを思ってしまう俺が煩悩まみれなのだ。


 分かってる、きっと人はいつか大人になるにつれて、その無垢なる気持ちを忘れてしまうのだろう。だけど俺は嘆かずにはいられない。


 あぁ‥‥‥いつから俺はこんな煩悩だらけになってしまったんだ‥‥‥諦めない心、信じる気持ち、正義は必ず勝つ! そういういかにも無垢なアン〇ンマンみたいな清らかな気持ちはいずこへ?


 俺はいつも使う波動を感じるワンコを操作しながら、ふと考える。


 そして、Bボタンで出せる必殺技の波動弾を見て、一つ思い当たる出来事があった。


 あれはたしか、身体が弱いながらも母さんがまだ生きていたころ‥‥‥小学一年生の時。


 あの頃の俺は、日曜の朝にやってた『ドラゴ〇ボール』を見て、そのいまだ健在だった無垢なる心で修行さえすれば、手からビーム的なものが噴出可能なのだと信じてた。


 何度『かめはめ波』と声をあげただろう。何度『かめはめ波』と叫んだだろう。


「世界中のみんな! おらに元気を分けてくれ!」と言っても、誰も分けてくれなかったし、途中何度か挫折して『波動拳』で試してみたけど、やっぱり駄目だった。


 当然だけど、どれだけ攻撃力を有していたとしても必ず被弾者のパンツだけを都合よく残すような気の利いたエネルギー波は人間の両手から出るわけがないのだ。


 それを一番最初に察したのは、一緒に修行してたみぞれだった。


 あれ? でも待てよ‥‥‥当時は知らなかったけど、みぞれって犬じゃん。てことは、今俺が使ってるキャラみたく波動を感じれば、波動弾打てるんじゃないか? ‥‥‥今度やってもらおう。


 で、話を戻して、それでも俺は、「きっと僕の気合が足りないんだ! うおぉぉぉぉーー!」って感じに愚直に信じて、みぞれが抜けた後も毎日頑張っていたけど、三日過ぎて、五日過ぎて‥‥‥一週間が過ぎた頃には、さすがに何の成果も得られないし、朝早く起きるのは辛かったのもあって段々と修行を怠るようになって、最後には諦めるに至ったわけだ。


 きっと、この時に俺は無垢なる心が少しだけ欠けてしまったんだと思う。


 さて、ちなみにこの話はここで終わりではない。これはたぶん、月菜が言ってた父さんから聞いたっていう『かめはめ波伝』ってヤツだと思うんだけど。


 実は、俺とみぞれが修行する傍らで、もしかしたら俺たちよりも気合が入れて修行をしている一人の男がいた。


 誰かって? 決まってるだろう‥‥‥父さんだ。


 ベッドの裏に『巨乳ナースのお注射しちゃうぞ♡』っていう、本があるくらい煩悩まみれの父さんだけど、俺たちが修行してるのを見て、忘れていた無垢なる心を取り戻したのか‥‥‥それともただのアホだったのかはわからないが、結局最後まで『かめはめ波』を叫んでいた。


 俺たちが諦めた後もずっと、「かぁ~~めぇ~~はぁ~~めぇ~~ッ‥‥‥波あぁあぁあああぁっ!!」って月を吹き飛ばしかねないパワーを込めた声を発し続けてたっけ。


 当時、三十代前半の何とか頑張ればギリお兄さんと言えるかもしれない、オッサン予備軍が早朝からコレだから、近隣の人はさぞかし恐れおののいていたと思う。


 して、俺が諦めてからどれくらいたっただろう? そろそろ父さんの叫び声が目覚ましになり始めた時だった。


 日が昇り始めるかもという早朝、俺はやったらめったらハイテンションの父さんにたたき起こされ、そして告げられた。「星夜! ついに出たぞ!」って。


 父は便秘だったのか‥‥‥っと、寝ぼけた頭でそう思ったけど、どうやら違うらしい。


 そりゃそうだ、確かに早朝、快眠してる一人息子をたたき起こして便秘からの解放を宣言する父親とか最高に嫌すぎる。


 なら、いったい何が出たのか‥‥‥父さんは言った、煩悩の片鱗すら見えない純朴少年のような尊い無垢な笑顔で「かめはめ波が出た!」と。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ