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父さんが再婚して連れてきたのは吸血鬼な妹でした  作者: しゅん
第八章 妹クッキング
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第52話 言葉にするべき

 


 ◇◇星夜side◇◇



 月菜が料理に目覚めたらしい。


 いや、それ自体はとてもいいと思う。


 月菜だって女の子だし、いつかは結婚して嫁に行って旦那さんに料理を振舞う‥‥‥おい、誰だよそいつ! ぶっ殺してやる!


 ‥‥‥ごほんっ! まぁ、別に料理すること自体はいいんだけど、如何せん一緒に過ごし始めてから月菜が料理をするところを見たことが無い。


 もしかしたら、月美さんと暮らしてた時にしていたのかもしれないけど、その可能性は低いだろう。そういう話も聞いたことないし。


 料理とは常に危険がつきものだ。包丁は普通に刃物で下手したら指ちょんぱするし、火を使えば火傷の恐れも家事になることだってある。


 実際、父さんが料理しようとしたら指切って、火傷して家事を起こしたから、料理慣れしてない素人がキッチンに立つことの恐ろしさは身で知ってる。父さんがこんなだから早急に料理を覚えようと頑張ったのだ。


 だからすご~く心配で、付けてるテレビ何て目に入らなくて、思わず月菜の方を向いちゃうんだけど‥‥‥。


「こっち見ないで! 気が散る!」


「は、はい!」


 これである。


 それはもう、キッチンには、通さん! 通りたくば我を倒していけ! って感じに睨みつけてくるから、渋々ソファーに座ることしかできない。


 普通に一人でやるよりも月菜がメインでやるなら俺がアシスタントとして二人でやった方が楽だとおもうんだけどなぁ。


 ‥‥‥それにしても、月菜がエプロンつけてキッチンで東奔西走してる姿はなんだか新鮮だ。


 腰まで届く黒髪を邪魔にならないように紐で結ぶ姿は、初めて見たけどグッとくるものがある。


 そういえば、月菜と生活し始めた初日に月美さんがエプロン姿で朝食を作ってたっけ? 


 なんか、あの時は久しぶりに見た女性のエプロン姿で新妻感が凄かった。なんでこう、女性はエプロン姿が似合うんだろう? 俺が着ても、なんのそのって感じなのになぁ。


 ‥‥‥待てよ? つまり、なんだ。月菜がいつか結婚したら、毎朝あんな感じに朝ごはん作って起きてくるのを待っててくれると? おい、誰だよそいつ! ぶっ殺してやる!


「‥‥‥でも、俺がそんなこという権利はないか」


 だって俺は、一度そうなるかもしれない未来を断ろうとしたから。


 実際は言葉にさせてもらえなかったけど、たぶんそうしたってことは月菜も俺が何を言おうとしてたのか勘づいてたんだろうな。


 それで、俺を惚れさせて見せるからって。好きにさせて見せるからって‥‥‥え、待って? もしかして、料理したいって言い始めたのもそういうこと? ‥‥‥健気すぎる。


「え、もしそうだったらくっそ嬉しすぎるんだけど‥‥‥」


 チラッとキッチンを伺えば、ふんふんと鼻歌なんか歌いながら下ごしらえしてる月菜の姿が‥‥‥あ、目が合った。


「(‥‥‥ニコッ!)」


 ——バキュンッ!


「ぐはっ!」


 な、なんか撃ち込まれた気がする‥‥‥反則だ、あんなウインクして微笑むなんて。


 思わず、胸と口元に手を添えて項垂れてしまった。顔が熱い。


 それと同時に、チクチクと痛む心。


 ああああぁぁぁぁーーーー罪悪感がぁぁぁぁーーーー!!


 だって、今の俺と月菜の状況は今更だけど、どう考えても俺に都合がいいじゃん。


 月菜の言った、「俺から告白させる!」って宣言は、つまるところ俺が月菜の告白をキープしてるってことと同じようなもので。


 というか俺、止められて返事してないってことは、同じようなものどころかまんまキープじゃん‥‥‥。


「はぁ‥‥‥」


 正直、確かにみぞれのことで頭一杯悩ませては要るんだけど、すべての悩みのリソースをそれに割けてるわけじゃない。月菜のことも悩みの一つではある。


 さっき言った罪悪感と、これからの関係もそう。


 特別な妹‥‥‥これは時間稼ぎでしかないはずで、いつかはきっと白黒つける日が来ると思うと、胸が痛い。


「やっぱり、一度ちゃんと言葉にするべき‥‥‥かもなぁ」


 今の俺の状態は、例えるなら返さなきゃいけないキャッチボールを返せてない状態で、むずむずして居心地が悪い。


 月菜がいらないって言ってる以上、それでも伝えようとするのはエゴなのかもしれないけど。


 こんなこと考えてるとウインクの銃撃から徐々に回復してきて、どうしたものかと思いながら、改めて月菜の方を向いた。


「え‥‥‥」


 そしてサッと、さっきまで深刻に考えてたことなんて忘れて、一気に顔から血の気が遠のいていく。


「せいっ!」


 ——ドガンッ!


「たぁ!」


 ——バッコン!


 あ、あんな包丁の持ち方したら絶対ケガするぞ! それに野菜切るのはそんな力入れなくてもいいって! まな板がどったんばったん鳴ってるから! あぁ、恐ろしや恐ろしや……。


 もう俺はいつ怪我してもおかしくない月菜に気が気じゃなかった。


 これは、うん。たとえ倒してでもこれは月菜と代わるべきだな‥‥‥俺の心の安寧のために!


 そうして俺は軽く腕まくりをしてキッチンに向かった。





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