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父さんが再婚して連れてきたのは吸血鬼な妹でした  作者: しゅん
第五章 モヤモヤの正体
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第33話 もう逃げない

 


 ◇◇月菜side◇◇



 真っ暗な部屋のベッドの上で膝を抱えて縮こまる。


 そんな私の腕の中にはぬいぐるみを抱え込んでる。星夜とゲーセンに行って獲れたぬいぐるみ。


「‥‥‥‥‥‥」


 少し冷えた頭で、ボーっとさっきのことを考える。


 私は、完全に暴走してた。


 夢の中の十六夜月菜を見て、幼馴染の大狼みぞれを見て、ずるいと思って抑えていた感情が爆発した。


 気が付いたら星夜を襲ってて、でも止まらなくて、足りなくなって、誘惑して……拒絶された。


 どれもこれも全部全部、私が宵谷月菜になったから、星夜の妹になったから起きたことだ。


 だから、嫌だって思っちゃった。妹なんてやめてしまいたいって思って‥‥‥言っちゃいけないことを言っちゃった。


 今頃、星夜はすごく落ち込んでるよね‥‥‥これからどうしたらいいか本当にわからないよ。


「うぅ‥‥‥ごめんなさい」


 後悔しても遅いのに、ぽろぽろと涙があふれてくる。


 言ったことは撤回できないし、しかもあの時出てきた言葉は本心だ。


 もう、どう取り繕ったって私と星夜は元通りには戻れない。


 なら‥‥‥私は‥‥‥。


 目元に残った涙を袖でぬぐって、タンスの中からキャリーバッグを取り出して中に必要なものを詰めていく。


 私は、この家を出よう。


 今の私にここ以外の居場所なんてないけれど、ネットカフェとかを渡り歩いて、せめてお母さんたちが帰って来るまで。


 そうしないと、このままいればきっとまた、星夜に対する好きが積もって暴走するかもしれない。


 私は星夜への想いを我慢できないし、できたとしても辛いだけ。


 星夜の方も面倒な妹がいなくなって楽な生活に戻れるはず。


 そう、戻るだけ。少しだけ、出会う前に戻るだけだから。


 距離をとって、時間を空けて、星夜への想いを忘れて、ちゃんと妹に戻ったら‥‥‥。


 そうしたら謝って、もしも兄さんが許してくれたら、帰ってこよう。


 荷物を入れ終わって、最後に手紙を書く。


 何も言わないで家を出たことに気が付いたらきっと兄さんはすごく心配するから‥‥‥最初の夜の時みたいに。


「ふふっ‥‥‥」


 あの時の兄さんの慌てぶりを思い出して、ちょっとだけ笑みが漏れた。


 でも、同時にちょっとだけ胸がズキンと痛む。


 ‥‥‥こんな感情は兄妹にいらない。


「ちゃんと妹になって帰ってきます」


 最後にそう書いたら、手紙を机の真ん中に置いておく。


 そうして、キャリーバッグを持って、窓から飛び出そうと開けたその時。


「どこ行くのさ」


 夜空をバックに蒼い瞳を輝かせる見知った相手がリビングに立ってた。


「大狼みぞれ‥‥‥どいて」


「い・や・だ♪」


 なら、力ずくで押し通すまで。


 そう思って、足に力を込めた瞬間‥‥‥私の身体は床の上に倒れかけてた。


「えっ‥‥‥」


 何が起きたのか分からなかったけど、どうやら足払いをかけられたみたい。


 直ぐ近くに大狼みぞれの顔があって組み伏せられてることに気づく。


「離して!」


「おことわりだよ!」


 この人、何者‥‥‥? 力をいれても、それ以上の力で押さえつけられる。


 吸血鬼の夜の腕力は人間には圧倒的なはずなのに。


「う、んっー! 離してっ! 私はもう、ここにはいれないの!」


「嫌だよ、というかここにはいられないってなに?」


「あなたにはわからない! 好きを伝えられないのがどんなに苦しいかなんて!」


「何をバカなこと言ってるの? それで逃げようとしてるの?」


「逃げてなんてない!」


「逃げだよ」


「逃げてなんて——」


「ふーん、じゃあ星夜はあたしが食べちゃうけどいいよね? あたしがその気になれば星夜なんてペロリだよ?」


 そう言う大狼みぞれの声は、瞳は本気だった。


 星夜を食べる‥‥‥きっとそれは、さっき私がやったみたいなことをやろうとしてる訳で‥‥‥つまり私の星夜が誰かのものになっちゃうということで……。


「そんなの‥‥‥いや、だよ‥‥‥だれにも、とられたくないよぉ‥‥‥」


 考えただけで涙がこぼれるくらい嫌だった。


 せっかく好きになった初恋の人、こんな吸血鬼な私を快く迎え入れてくれたお兄ちゃん。


 女としても、妹としても、誰かにとられるのは耐えられない。


「なら、やるべきこと、星夜に伝えるべきことは分かるよね?」


「伝える、こと‥‥‥」


 そうだ‥‥‥今考えれば、ここ最近の私は気持ちが先走って、確かに真剣に想いを伝えずに行動してた……けど。


「でも、私は妹だから‥‥‥」


「そんなの想いを伝えられない理由になんてならないよ」


「ぇ‥‥‥?」


「妹とか関係ないでしょ、ましてやあんたと星夜は血のつながりがあるわけでもないんだし。あんたは星夜が受け入れられないのが怖かっただけ」


「それはっ‥‥‥」


「うるさい! 言ったよね? 星夜に近づきたいならこのみぞれちゃんを倒しなさいって、そんなよわっちい気持ちじゃ絶対認めないから!」


 そう、なのかな? 私は怖かった? もうわかんないよ‥‥‥何もかも。


 ただ今は、兄妹とかモヤモヤとか、あんなに悩んでたのが馬鹿らしくなるくらいどうでもいい。


 目の前の大狼みぞれに馬鹿にされたような気がして、私の気持ちがちっぽけなもののように言われて、すっごいすっごいすっごい——。


「むかつくっ!! うわあぁぁぁぁぁぁーーっ!!」


「わっ!? ちょっ!?」


 上半身に力を入れてグッと起きあげると、私の上に跨ってた大狼みぞれがゴロゴロと吹き飛んでった。


「いてて‥‥‥ちょっと! 何するのよ!」


「それはこっちのセリフ! 最初に転ばしてきたのはあんたじゃない!」


「あんたが逃げようとするからでしょうが!」


 うっ‥‥‥それを言われると、反論できない‥‥‥。


 私が言葉に詰まってると、大狼みぞれは立ち上がってパンパンと埃を叩きながら、私に蒼い双眸を向けてくる。


「まっ、でも、もう逃げようとは思わないでしょ」


「それは‥‥‥うん、もう逃げない‥‥‥けど、星夜にどんな顔して会ったら」


 だって、さっき気がつかされたように、私は星夜にちゃんと想いを伝えてない。


 なのに星夜に迫ってキスして‥‥‥しかも、じ、自分から胸を揉んでもらおうとしたり、「シよ‥‥‥」って囁いたり‥‥‥今思えば痴女じゃんっ!? 完全にビッチじゃんっ!?


 あ、ぅ‥‥‥これ星夜の方から見たらそうとしか思えない、絶対エロ吸血鬼とか思われてるよぅ‥‥‥いや、もしかしたら淫魔とか思われてたりして‥‥‥これってもう、告白以前の問題なんじゃ‥‥‥。


 そんな風に頭を抱えていると、「はぁ‥‥‥」って露骨なため息が聞こえてきた。


「なに?」


「ううん、兄妹なんだなって思っただけ。それよりも星夜から伝言ね、明日の13時に駅前に来てほしいって」


「それって‥‥‥」


「デートのお誘いだよ。兄妹じゃないね」


 えっと‥‥‥つまり、星夜が私のこと妹じゃなくて一人の女の子としてデートしてくれるってこと、だよね。


 どうしよう‥‥‥嬉しい……すごくすごく嬉しい。


「そこでちゃんと星夜に伝えて来なさい、あんたの気持ちを」


「‥‥‥うん、分かった」


 もう一度腕で擦って涙の跡を消す。


 私はもう、逃げない。


 星夜にちゃんと私の気持ちを伝えて、結果がどうなるにしてもそれをしっかりと受け止めて、前に進もう。


 私は覚悟を決めた。


 それにしても‥‥‥。


「あなたはそれでいいの? あなただってその‥‥‥星夜のこと‥‥‥」


「な~に? なんだかずいぶん調子づいてるみたいだけど、あたしに塩を送る余裕あんの? ヘンタイさん?」


 うぐっ‥‥‥そうだった、あの時は大狼みぞれもリビングにいたんだった。


「まぁ、思う所が無いわけじゃないけどさ。あんたの気持ち、少しはわかるから。恋愛対象にされてないのはあたしも一緒だし」


「え?」


「なによ?」


「い、いや、なんでもない」


 待って? もしかして、大狼みぞれって星夜の無意識の気持ちに気が付いてない? 星夜は少なからずこの幼馴染のことを想ってると思うのだけど。


 ‥‥‥‥‥‥あ、分かった。この狼娘も星夜と逆の意味で同じなんだ! 今までが近すぎるがゆえに、恋愛対象に見られてないって思いこんでる。


 恋愛対象に見てるのにそれは違うって幼馴染の延長戦だと思いこんでる星夜と、恋愛対象に見られてるのに相手にされてないって思いこんでる大狼みぞれ‥‥‥私が言うのもなんだけど、難儀なものだなぁ。


「なに、その目? まぁ、とにかくあんたは明日、逃げずにピシッと決めて来なさい!」


 そう言って、頼もしく背中を押してくる大狼みぞれはどこまでも幼馴染で‥‥‥ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ好きになれた。


「月菜」


「ん?」


「月菜、それが私の名前。いい? 私が明日、星夜を奪っちゃうから! 今のうちにせいぜい悔しんどいて!」


「ふーん? そう、あたしはみぞれだから。そんな大見え切って、失敗しても慰めてなんてあげないからね!」


「ふん、星夜の伝言を言い終えたんだから早く出てって!」


「言われなくても、こんなヒキニートな部屋になんてとどまりませんよ~だ」


 ……でも、やっぱりむかつく! みぞれむかつく! ほんっとうにムカムカする!


 それはあっちも同じなんだろう。


「じゃあね! 月菜!」


「おやすみ! みぞれ!」


 私が枕を投げつけて、それを避けてリビングに立ったみぞれは、最後に私に向かってべ~って舌を出すと、一階に下りて行った。


 見送って私は一人、気合を入れる。


 よし! 明日は、私にとって一世一代の大勝負! いつまでもくよくよしてないで前を向こう!


 差しあたっては星夜を悩殺するために、そういうのが得意なお母さんになにかアドバイスを‥‥‥。


 星夜、私はもう逃げないから。だからちゃんと見てほしい。妹じゃなくて、一人の女の子として。


 私、頑張るから。




ここまで読んで頂きありがとうございます!


次からはまたデート編です。ただし、二人とも本気のデートです!


楽しみにしててください!


それで、お願いなんですが‥‥‥作者はシリアスシーンが苦手です。はい。


なんで読者の皆様に、こうしたほうが良いんじゃない? とか、なんでもいいので意見してほしいです。参考にします。


全然辛口でもほんの少しでも構わないので、たくさんください!


お願いします。


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