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父さんが再婚して連れてきたのは吸血鬼な妹でした  作者: しゅん
第三章 兄妹デート
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第12話 ……シッタカしてすみません

 


 それから病院を後にした俺たちは、途中にある自分たちが通うことになる学校も案内して、明日からここに登校することに改めて高校生になることを感慨深く思ったりしつつ、その足で駅前のそこそこ栄えてるところまでやってきた。


「うわぁ、人間がいっぱい……」


 駅前にはショッピングモールから映えな写真が取れそうな様々な飲食店にカラオケやらレジャスポやらのレジャー施設とかがあって、そこを残り少ない春休みを謳歌する学生グループや平日だから普通に働いてるサラリーマンの人たち、買い物に来た主婦なんかが歩き回ってた。


 そんな様子を見た月菜は人混みの多さに驚いてるようだ。


 というか、普通なら『人がたくさん』って言いそうなところを『人間がたくさん』って言ってるところに吸血鬼を感じるな。


「月菜は人混みが多いの結構苦手だった?」


「ううん、あんまりこういう所来たことないからびっくりして……たくさんの色んな音がする」


 月菜はそう言って耳を澄ますように瞼を閉じる。


 確かにごちゃごちゃと色々な音が混ざってる。俺には一つの雑音にしか聞こえないけど。


 月菜と一緒に過ごして分かった事がいくつかある。


 その一つが、凄く耳がいいこと。


 吸血鬼ゆえなのかはわからないけど、家にいるときは家の中のどんな小さな音でも全部聞こえるそうな。


 ゴキブリの足音が聞こえるって言って俺と一緒に寝よって言ってたのもそういうことだ。


 たぶん俺と違って月菜には一つ一つの音の区別がしっかりと分かるんだろう。


「……あ、この歌って」


 少しして何か聞こえたのか、月菜がカッ! っと眼を開けた。


「兄さん、こっちに行きたい!」


「分かった分かった、そんなに慌てんなって」


 じゃれてくる犬のように月菜に引っ張られて、人混みをかき分けてく。


 こういう感じはドギマギとかしなくてなんとなく兄妹やれてるなって安心する。


 そうして手を引かれるまま危うく日傘を落としそうになったのを慌てて支えてあげたりしながらもやってきたのは。


「お、おぉ……ここはあの噂に聞く」


「あぁ、ここは確かに月菜が好きそうだな」


 全体的に青が目立つ建物で、どことなくオタク感のある人が出入りしてるお店、アニメ専門ショップのアニマートだ。


 そこから店内BGMのアニソンが聞こえてくる。月菜はこれを聞きつけたんだろう。


 月菜と過ごして分かった事その二。


 月菜は女子には珍しく意外とアニメオタクだったりする。


 さっき言った通り今まで月菜は昼に寝て夜に起きる生活をしていて、そうなると夜にリアルタイムで見れるテレビ何て深夜アニメしかなかったみたいで、なんとなく見てるうちにはまったそう。


 あの同時多発的ゴキパニック事件の日、月菜の引っ越しのダンボールを開けてたんだけど、そのほとんどがアニメのグッズやブルーレイ、原作の漫画やラノベだったっけ。


「というか月菜、今まで来たことなかったの?」


「うん、起きるときには終わってた」


「なるほど」


 こんなところにも吸血鬼の弊害が。


「それじゃあ、入ってみる?」


「いいの?」


「時間はまだいっぱいあるし、月菜の行きたいところなら」


「やった!」


 ということで上機嫌な月菜と一緒に店内に入る。


 こういう所は入るのに遠慮する人もいるけど、俺は特にそういう抵抗感はない。


 特別のめりこむほどアニメ好きってわけではないけど、アニメを見ないわけじゃないしマイナーなヤツならともかく有名なのは友達の影響もあって知ってるし。


 ……が、その認識は少々誤りだったかもしれない。


「あ、見て兄さん! フェ○トシリーズのコーナーがある!」


「お~、これは俺も知ってるよ。F○OでしょF○O」


 友達も言ってた、というか俺のスマホにアプリを入れさせられて予備機にさせられてる。


「あ~、それもあるけど私的にはU○Wの凛ルートが好き」


「……ん?」


「でもやっぱり、Z○ROも面白い……あ、H○の三部のブルーレイ予約しないと」


「……んん?」


「あ、兄さんのその顔、全くわかってないヤツだ。いい? 兄さん? フェ○トシリーズはね、ステ○ナ○トから始まって——」


 そこから月菜のかなり長い解説が始まった。


 出会ったころと比べたら今は格段に話すようにはなったけど、こんな風に次から次へと目をキラキラさせて言葉が出てくる月菜は珍しい。


「——で、それぞれの作品が独立した物語を作ってて、そのどれもが魅力的な一大シリーズなの、分かった?」


「はい、わかりました……シッタカしてすみません」


 数十分に及ぶ月菜の解説が終わった時には俺はもうがっくりと打ちのめされてた。


 ……オタクこわい。


「ふぅ……話したらまた見たくなっちゃった。帰ったら一緒に兄さんも見よ!」


 月菜はそう言って無邪気に笑うと、止めてた足を動かして店内を闊歩し始める。


「……」


 ま、いっか。


 テンションが高い月菜を見てれば、それに付き合ってアニメ三昧も悪くないかもしれないな。


 そんな事を思いながら月菜についていって、時折解説させられたりしながらアニメショッピングを楽しんだ。


 それからしばらくして。


「はぁ~満足満足!」


「……あはは、それならよかったよ」


 アニマートから出てくるのはツヤツヤな笑顔で青いビニール袋を振り下げてる月菜と、疲れて苦笑する俺。


 いやもうすごかったんだよ。


 あの後も月菜はキョロキョロと店内をくまなく見まわしてお気に入りのモノがあったら自慢するように俺に教えてくれて、気になるモノがあったらそこに真っすぐに向かって。


 そんな感じにラノベ、漫画、CD、ブルーレイ、グッズと各コーナーすべてを回って、初めてアニマートに来たらしい月菜は興奮して周りが見えて無さそうだったから、時折他のお客さんとぶつかりそうになるのをそれとなくぶつからないようにしたり。


 やっぱりオタクって怖い。


「あ、というかもうお昼か。月菜はお腹減ってない?」


「ん~? ちょこっとだけ」


 レジ袋を持った反対の手をお腹を当てた月菜は、そう言って人差し指と親指をその愛らしい顔の横でちょこっとを示した。


 そしたらまぁ、なんと不思議。


 そんな可愛いしぐさにオタクパワーに当てられて減衰してた気力が復活!


「それじゃ、いい感じのお店知ってるからそこ行こ」


「うん!」


 元気よく頷いた月菜を連れて、俺はとっておきの店に向かうことにした。



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