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第十二話:譲れないものがあるのです

 国王であらせられるフィリップ陛下にお父様を通して面会する日取りはすぐにでも決められました。

 私が最善と思った形ではなく、あくまでオルラウンド侯爵家の娘のまま挑むこととなりましたが……もう後には引けません。


 これで良かったのか? と自分に問う声は少なからずあります。これから私が行おうとしてることは王家に逆らったと取られても仕方ないでしょう。

 どのような結末に至るにせよ、私の貴族令嬢としての生き方には終止符を打つ事になると私は考えています。王家の権威をこれ以上、穢さないためには私は消えるべきなのです。

 王家の権威が下がり、威光が減ってしまえば国は惑ってしまうでしょう。国の為だけを思うのであれば私のやろうとしている事は愚行に他なりません。


 それでも――私にだって譲りたくないものがあります。そんな決意から私は顔を上げて王城を睨みました。


「ベラ、行くぞ」

「はい、お父様」


 先導するお父様の背中に付いていくように王城に足を踏み入れます。私の存在に気付いた者たちが驚き、何か小声で話し合っている声が聞こえてきました。

 同情、侮蔑、困惑。そんな声と視線が入り交じる中でも私は背筋を伸ばして王城の廊下を進みました。

 そして辿り着いたのは国王の執務室です。お父様が来訪を伝えるのと同時に、その扉が開かれました。

 待ち受けていたのは当然ながらフィリップ陛下です。陛下以外の人は見られず、あくまで私たちと個人的な会見の場ということなのでしょう。表情を引き締めたフィリップ陛下は私を見ると、重々しい声で告げた。


「クロム、ベラドンナ。よく来てくれた」

「陛下、貴重なお時間を頂きましたこと、真に感謝申し上げます。そして此度の騒動、それを収められぬ愚昧でありながら御前に姿を見せたこと、恥じ入るばかりであります」

「謝罪の必要はない。此度の一件、それはこちらでも調査を進めている。クラレンスがベラドンナに何をしたのかも、ね。むしろ頭を下げなければいけないのは本来であれば王家だ。非公式の場だ、どうかここだけの話ということで許して頂きたい。……本当にすまなかった、ベラドンナ」


 フィリップ陛下が立ち上がり、私の前まで来ると私の手を取りながら深く頭を下げた。

 国王陛下に頭を下げさせるだなんてとんでもない、と思いましたが、あくまでここだけの話と前置きされては私からは何も言えません。


「お止めください、フィリップ陛下。私に謝罪の必要など……」

「いや、謝罪させてくれ。君のような忠臣に息子は王子にあるまじき仕打ちを行った。何を言った所で弁解も出来ない。私たち、王家の責任を君が担ってくれていた。そこに感謝こそすれど、あのような仕打ちを行って良い道理はない」

「それでも、王家が自らの過ちを認めては……」

「いや、過ちであるならばそれは正さなければならない。王子と言えど、国という秩序を乱さそうとすることは許されない」

「……そう仰るのであれば、もっと早くに動いて欲しかったのですけれど。それを言っても詮無きことです。どうか有効にご活用下さい」


 クラレンス殿下が矯正が一向に進まず、私が代理で政務を果たしていたという状況は歪だったのです。その歪を解消しきれないのであれば、次に国王として何をしなければならないのかは想像すれば理解出来ます。

 叩いても直らないのであれば使い潰すしかありません。王子という立場にある以上、国王と言えどもそう簡単に排斥することは出来ません。それこそ決定的な過ちでも起こして、正当性を得なければ。

 だから……私は生贄にされたのでしょう。そしてこの方ならそれが出来るでしょう。私は知りながらも、止めることが出来なかったのですから。なら、最も効果的に活用されるべきなのです。全ては国の秩序を維持するために。


「……本当、クラレンスもなんであんな目が曇っちゃうかなぁ」


 私の言葉にフィリップ陛下が情けなく表情を崩して、軽薄な遊び人のような態度に切り替えてしまいました。

 お父様は深々と溜息を吐いて、私も苦笑になってしまいます。相変わらず態度の差が激しい方ですね、フィリップ陛下も。


「本当、本当に悪いと思ってるんだよ、ベラドンナ。君はクロムの娘だし、私にとっても義理の娘になるだろ? それを楽しみにしてたんだ。君は本当によくやってくれた。報いてあげたいよ、心の底から。けれど、国王は本当に柵ばかりでね……」

「はい、存じています」

「……それで、今日の用件はなんだい? 可能な限り、君の要望を聞いてあげたいと思っている」

「クラレンス殿下と面会させてください」


 私の申し出にフィリップ陛下が顔を顰めました。訝しげな表情は、私が何を考えているのか測り損ねているかのようでした。


「……それは、何故?」

「可能ならば冤罪であったことを認めさせたいです。証拠として冤罪であることは証明出来ると思いますが、それを本人が認めなければ私の溜飲が下がりません。冤罪であることを法的に我が家の冤罪が証明されても、私個人の納得には足りません」

「ふむ。つまり、罪を自覚させたいと? それで? 謝罪でもさせたいのかい?」

「いえ、罪を自覚して頂ければ。謝罪された所で最早、どうでも良いので。……ただ、どうして今回の事を起こそうとしたのか真意を知りたいですね」

「……どうしてだい?」

「私は、クラレンス殿下と向き合ってこれたと思えなかったからです。それを私の落ち度だと思ってしまったからこそ、私は自分の思う自分になる為にクラレンス殿下の思惑を知る必要があると思ったのです」


 私はクラレンス殿下に諦めを覚えていました。愛されることもないと、私を見ることはないのだと。弟のようにしか思えず、仕事を放り捨てるなら私が代理をすれば良いと矯正することも諦めました。

 それは、私の最善じゃない。向き合うことを諦めていたのはそれ以外の選択肢を許されないと思っていたから。けれど責務を一度手放して、自分を見つめ直して思ったのです。


「どうせ壊れてしまう関係なら、納得いく形で全部壊してやろうかと思いまして」


 諦めるのは嫌だ、と。許したくない、と。こんなに頑張ったんだから、と。

 そんな浅ましい思いは火に薪を焼べるように燃えさかってしまった。もう自分では止められない程に。

 壊れてしまうなら、自分の手で。諦めて見捨てるのではなくて、見限るのは私の方だと言うために。



「勝ち負けも決めないうちに、ただ諦めて打ち捨てられる女にはなりたくないんです」



 争いを避けるように生きて来て、捨てられるように裏切られるぐらいなら。

 なら争ってでも勝ち取ってやりたいと、私が今までやってきた事が無駄でなかったと。無価値にしたのは貴方の方だと、ただその事実を叩き付けて自覚させてやりたいなんて暴力的な我欲。

 ただ従うことが正義だと思って生きてきました。それが貴族の娘として、王家の嫁ぐ女として必要なことだと思って。


 それが無価値だと、その生き方を与えた癖に言うのであれば……最後に牙を剥くぐらいは許してくれたって良いじゃないですか。

 破滅? 上等です。もう一度、破滅を受け入れて投げ出した身なのです。破滅と引き換えに賭けなきゃ掴めないと言うのなら、私は自分の運命すらベットしてみせます。


「クラレンス殿下の真意を知って、その上で叩き潰したくてここに来ました」


 私にとて、譲りたくない誇りがあるのです。

 好戦的に笑みを浮かべながら、私はフィリップ陛下にそう言い切りました。


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