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グエン紛争

第八話 グエン紛争


各地の刑務所スピーカーからイベントの告知があってから、当然Edgeの中は大騒ぎとなる。


イベントには、運営から正式に、『 グエン紛争 』の名前が与えられた。


また、同時多発PKを実行した初期装備の連中を、『 放置民 』と呼称することが運営から発表されている。


世界各地で起こった同時PKと、白翁党による破壊活動、刑務所占拠により、多くのプレイヤーがリアルタイム20時間以上のペナルティを受けることになった。


この時点でPKされたプレイヤーは申し込み時間に間に合わず、イベントに参加できない事になる。


これに対して運営は一切のフォローを行わないと宣言してしまった。


グエン紛争は運営にとっても予想外な本物のゲリライベントで、グエン派が成し遂げた同時多発PKも、一つの成果として扱われたためだ。


また、事前に放置民の出現を察知し、独自に対処したことで、グエン一派の占拠を免れた街が存在したこともこの対処を後押しした。


ただ、イベントの勝敗に関するカウントに、この時のPKは加算されない旨も付け加えられた。


キティのサーチアンドデストロイの流れ弾でPKされた普通の初心者プレイヤーや、タイミング悪くダンジョンでキルされた者などにとっては、なんとも許しがたい決定でもある。


華麗に無視されたが。


この混乱の中で生き残ったプレイヤーたちは、占拠を免れた二つの拠点に集うこととなる。


幻想城と、腕章のガスマスクの街である。


いまだ、白翁党による破壊活動と街の占拠は続いており、うかつにそういったエリアへ近づくとPKされてしまう。


姿勢は徹底しており、イベントで自分達の陣営につく可能性のあるキャラクタも、現時点ではとにかくPKする、というグエン一派の方針が見て取れた。


幻想城と腕章のガスマスクたちの街に集まった生き残りプレイヤーたちは、イベントの楽しみ方を件見学学話し合っていた。


「刑務所に捕まってる連中も開放できないのかよ?


戦力になるぜ」


「そいつはいいや、で、お前どっち派なんだ?


捕まってる奴らどっちにつかす算段で言ってんだよ?」


腕章のガスマスクの街では、街中の酒場がごった返している。


イベントへの参加は積極的だが、どっちにつくべきなのかは決めかねている様子だった。


なにせ、グエン派と違ってこちらには場をまとめるものがなにもない。


どのプレイヤーも、グエンの要求の成否に大した興味は無かった。


ただ大きな祭りが目の前にあるのに、じっとしていられるはずもない。


皆が感じていたカオスの中で、メガホンアイテムによるとある告知が集団に方向性を定める一つの材料を与える。


それは、Edgeの資産家として名声をはせたキャラクタの放った遊びだった。


PKアラートより幾分穏やかな音と見た目で、そのディスプレイは全プレイヤーの前に展開される。


胸元にリボンを仕立てた白いシャツ、黒いスカート、ロングヘアーのザ・お嬢様といった風貌のキャラクタが語った。


『 賭けをいたしましょう。


胴元は私、ルビノフスキが。


フォームを作成しました。


ボトムは100、上は青天井で、誰がPK数1位になるか、お賭けになってくださいまし 』


どよめきは世界中に一瞬で広がった。


もちろんEdgeプレイヤーは賭けが大好きである。


以前にもルビノフスキは別のイベントで同じ賭けを仕掛け、大人気と名声を得た。


「お嬢が動いたぞー!」


「やっぱりだ! 待ってたぜお嬢!」


そこら中であっという間に予想屋が出店されていく。


そんな中でお嬢様の説明は続いた。


『 私の仕掛けに前後はありません。


1位を予想し、一口のみです。


キャンセル変更不可です。


締め切りはイベント終了2時間前。


かけられた総額によるオッズ変動と、現在のイベント内PK数は締め切り同時刻まで公開いたします。


獲得金額が最大であった方には、私が破滅を賭けて2倍払い戻しといたします 』


それで説明は終了、フォームはすでに賭けられる状態で、誰でもメニューから開けるようになっている。


「ふはは、運営の奴らまたこっちを先に作りやがった。


イベント内容の詳細化はいつも後回しだもんな」


「それにしてもこの街はよく持ち堪えたぜ?


腕章のアンニャロー白翁党のどえらいヒットマンにやられたらしいな」


「ああ、あいつな、最近赴任した超ムカつく警官な。


あいつはグエン派にはいかねえ気がするよな、なんでか」


酒場では世界中から集まったアウトローが、腕章のガスマスクの行方を話題に挙げ始めていた。


「昨日やられたんなら、ぼちぼちリボーンできるはずだよね?


あいつがまとめてくれるんなら、私はグエンを敵に回してもいいわ。


あいつの事は嫌いだけど、やるやつなのよ」


「そりゃあいいね。


面倒を押し付けてやるくらいしか、俺たちにゃ意趣返しの機会はないさ。


やってもらおうぜ、なあみんな、そうだろう?」


各所からまったくだ! という声が上がり、これまた一瞬で街中を伝版していく。


リアルでもsnsなどがフル稼働でEdgeの祭りを盛り上げており、腕章のガスマスクの街は、世界からバラバラに集まった連中の妙な一体感により、全体がグエン派に敵対する意志で纏まっていった。


腕章のガスマスクの手腕がプレイヤー達に与えたプレッシャーは相当なものだった。


それが裏返り期待となった結果、とにかくも彼の意志とはまったく無関係に、その存在ははちゃめちゃな連中の神輿に担がれることになったのだ。





厚記 孤道こと(キティ)の同級生は、彼女のいない教室で、そのデスクの周りを囲んでいた。


「コトさんが学校に来ません」


「せめて麗しい姿を見たいよな、せっかく麗しいんだから」


「なんか昨日、警察と職員室にいたらしいぞ」


衝撃の目撃情報に、恐怖が他のクラスメートにも伝版する。


「ええ......マジなのコト......


今Edge大変らしいけど、アレだけはやりすぎんなって言っておいたのに」


「ヴァーチャルとリアルが混ざって混ざって、とうとうゲームの外でPKしちゃう......


警察と歩くフルダイバーか。


ゲーマーの一番最後の方だな」


ホームルームが始まるが、教師だってソワソワしてる教室の空気にはすぐ気づく。


「……ああ、まず、厚記のために言っておくが、彼女は決して罪を犯してない。


なにも恥ずかしいことはしてないが、如何せん私ら教師にも、警察への協力のために身柄を預かる、としか聞かされてない。


ま、最悪の事態は免れているようなので、心配するな」


バーコード頭、茶色い地味なスーツ、メガネで上から口調の典型的嫌われる社会系学科の教師は、普段にない優しい口調で生徒を諭した。


この学校を卒業した孤道の同級生は口を揃えて、教師が次に発した言葉が、人生の教訓になったと語る。


「……もう一つ、こんなことを口にしたら、どんなバッシングがあるかと私も怖いが、君らのために言わなきゃならん」


ため息を付いて、教師は声を内緒話のそれまで落として言った。


「危ないから、厚記のことは、しばらくそっとしておきなさい」


学校で同級生たちが孤道の動向に戦々恐々としている中、一昼夜戦い続けて流石にグロッキーな本人は部屋で爆睡している。


起きたらすぐにログインして、Edgeの時間で17:00に、万全の姿勢で足並みを合わせる算段である。


彼女はログアウトしてすぐに入浴、食事、睡眠と学校を無視して動こうとしたが、睡眠の前に警察が家にやってきて連行された。


向かった先は警察署ではなく職員室で、校長・教頭・生活指導・自治会長などが居並ぶ中、地元警察署長の説明のもと、警察活動への協力のため、孤道の身柄を預かる旨が伝えられた。


反論したのは教頭と自治会長だ。


「アンタ方ね、先程から自分の都合ばかり並べているけど、厚記さんの気持ちはどうなんだね?


彼女はね、とっつきにくいかも知れないけれど優秀で、人間の深い生徒なんだよ?


ゲームで一名を持っているのは知っているがね、アンタ方がそれを使って彼女の人生を狂わせるなんてこと、筋が通りますかね!」


「私に言われても困る。


これは、世界で初めて正式な国連軍が組織される可能性もある案件だ。


多国籍軍じゃないぞ、国連軍だ。


あのアメリカが、国連に指揮権を渡してもいいから収めるべきって考えてるんだぞ。


その大事件のど真ん中に、彼女がいる。


私らを使う権限は日本の警察をとっくに飛び越して、国連安保理が握ってる。


あなた方の行動は素晴らしい。


だが、どうなっても私は知らん」


流石に国連安保理を出されては二人もたじろいたが、それでも正義感のもと食って掛かろうとする教頭と自治会長を抑えたのは、普段の孤道を知っている生活指導の教員だった。


「……教頭……冗談じゃ済まねんすよ、あの厚記って生徒は。


おい、厚記、お前、今回のことどう思ってる。


学校に来れないってことは、周りから遅れるってことで、お前のこれからにとんでもない影響があるんだぞ?


親御さんにも相談したのか?」


孤道はうんざりしたように、即答した。


「したよ。


ヤレ、の一言しか返ってこなかったけど。


また賞金が出ると思ってるんだろうけど、今回はどうなのかな、その辺聞いてる?


所長さん?」


「まあ、流石に将来を保証するくらいはしてくれるだろ、こんな大事に巻き込むんだから」


孤道は答えを聴くと立ち上がる。


「寝かして。


私をあんたらの思ってる通り使いたいなら、メンテナンスに気を配って」


全く何の反応もない校長、いやしかしと孤道を諭そうとする教頭と自治会長、安保理の登場にチビリそうな生活指導員、全部無視して家路につく。


「送ってくれるの?」


警察もため息を付きながら立ち上がる。


早くこいつから離れたいという本音を隠そうとしていなかった。


パトカーの中で所長は言った。


「なあ、俺のキャリアの傷にはならんが、こんな大事の一因になるのも本当は嫌なんだよ。


頼むからお上の機嫌を損ねないでくれよ?」


「どうしろって言ってんの、そのアンポンタンとかいうのは」


頭をかきながら所長は言った。


「いつも通りにプレイさせろ。


ただし、誰にも邪魔をさせるな、だそうだ」





キティとグエンがクラフト場所に選んだ最悪の街も、実を言えば無事であった。


この街に初期装備のままじっと佇んでた場合、10分と命は持たない。


ここの住人は、放置民のように怪しい存在には極めて敏感で、近づくものはいないし、遠距離から狙撃の的になってほぼすべてが処理されていた。


その状況は白翁党にも分かっていたので、街の占拠も諦められている。


イベント発表にも大きな反応はなく、いつもどおりのエンドコンテンツ状態であった。






17:00 キティがログインするとほぼ同時に、イベントのマニュラルが一部更新される。


勝利条件の詳細化であった。


””

グエン一派:

現在保有している街の占拠の実態を継続したまま、できていない2つの街(幻想城・腕章のガスマスクの街)を占拠したとみなした場合。

成否は運営が判断する。(敵対勢力の反撃力がなくなったとみなされることが基準。

刑務所の占拠は必要条件とする)


敵対派:

グエン一派の解体が成功したとみなされた場合。

成否は運営が判断する。(グエン一派が占拠している街の数は関係なく、その実態が消滅したとみなされた場合。

グエンのPKは必要条件とする)


両陣営が時間一杯まで勝利条件を満たさない場合、総PK数の多い陣営を勝利とする。””




大衆を率いることになるであろうパンクヘッド伊藤や侍、腕章のガスマスクにとっては重要な部分であったが、キティにしてみればまたしてもどうでも良かった。


(で、どっちに付けば面白いのかな)


刑務所前の公園で、キティは腕を組んで考えていた。


「ま、あのスナイパーがいるし、今回はこっちで良いや」


マニュアルによればグエン派には星付きベレー帽、敵対派にはドッグタグが配布され、強制装着されるという。


ベレー帽を矯正装着されては邪魔だし、ともキティは思っていた。


キティは腕章のガスマスクの連絡先を交換していない。


なんと言っても相手は警察で、しかもライバルだ。


そこまで仲良くできなかったし、イベントが終わったらまた追いかけられることもあるだろうに、気軽に連絡されてもたまらない。


仕方がないので侍に連絡をとってみた。


『 お、キティ。


来たな、今どこだよ? 』


刑務所前にいることを伝えると、面白いから入ってこいという。


普段は入り口にゲートがあって、許可のないものが通れば警察が飛んでくる。


仲間を脱獄させるために乗り込まれては大変なので、基本面会は全面お断りなのだ。


当たり前だが。


警戒しながらゲートを通るが、何の警報もならず、警官も出てこない。


そのまま軽犯罪者が集まる街が一つ収まったようなホールまで進んだ。


そこは、逮捕されていないキャラクタも入り混じって、世界中から集った荒くれ者でごった返していたのだ。


「あっ! キティだ!


おい、俺らの天使が来やがったぞ!」


「おお、見ろよ、アンタ断トツ人気だぜ!


大暴れ見せてくれよ、なあ!」


PK数1位予想で1番人気のキティの登場に、ホールは大盛りあがりである。


「こっちだキティ!


馬鹿かお前正面から来るなよ!」


侍が群がるキャラクタの中からキティの手を引いて向かったのは、ホールの奥、噴水の広場だった。


そこには、公開処刑のように一人の男が捕まって、丸太にくくられていた。


所長である。


「……確かに面白い」


「だろ」


腕章のガスマスクが丸太に腰掛け腕組みしている。


後輩ガスマスクはライフルを胸元に掲げて、所長を守っているようだ。


「やっちまえ! そいつをPKするんだよ!」


「俺にやらせろう!」


世紀末で聞こえてきそうな罵声が、公園を取り囲んだキャラクタから上がり続けている。


「来たな、キティ。


彼は優秀だったが、リアルで白翁党とつながっていた。


どうやらリアルマネーも動いていたようだが、刑務所へ奴らが踏み込む手引を企てたんだ」


腕章のガスマスクが淡々とあらましを説明する。


「この街は放置民の無差別PKをほぼ防いだからな。


白翁党がここまでたどり着けなかったのさ。


で、この大将がキティ、アンタと同じく所長の悪さに思い至って、リボーンするなりとっ捕まえたのさ」


所長は、捕まっていながらどこか楽しげな笑みをたたえていた。


腕章のガスマスクは丸太の上に立つ。


自分の内側に沸々と湧いている、高揚感を確かに自覚し、姿を消したシステム管理部の言葉を反芻した。


どうするかを、自分で決めるのだと。


集まったキャラクタ達にメガホンを使って話しかける。


天井のあたりに巨大なディスプレイが現れ、腕章のガスマスクを写した。


『 招集をかけたわけでも無いのに、よくぞ集まったもんだ。


守るべきはまずここだからな、この動きは正解だ。


俺を担いでくれてるようだが、はっきり言っておく。


グエンには死んでもらう。


だが、この街の治安回復以外に、俺が動く理由はない。


それでも良いなら、一つ、俺の酔狂に乗ってくれ 』


突き上がる群衆の腕と咆哮の中、腕章のガスマスクはゆっくりと所長の前に向き直る。


「寝返ってください、所長。


バッティングセンターよりゃ暇つぶしになるでしょう」


「汚い金をもらってるんだ、そうはいかない。


ここで寝返ったら俺のリアルがマジでやばいだろ?


良いから撃て」


そんな会話に割って入ったのは、キティが投げたナイフ。


所長の喉元に突き立って、彼の体を光に変えた。


後輩ガスマスクがぽかんと口を開ける中、キティは侍と腕章のガスマスクに近づく。


「フェアリー侍のギルドはどうしてるの」


ついていけねぇ、とぼやきながらも、侍は答える。


「ウチをしたって集まってくる奴らを、ギルドメンバーにしたりと忙しいだろうぜ。


定員一杯持ってるからな、入れなくても協力するかとかな。


とにかく仲間を増やしてるさ」


キティと腕章のガスマスクは同時にため息をつく。


「幻想城にも刑務所はあって、受け入れてくれそうだから転移できるな。


侍、お前らのトップがいる場所まで刑務所からどれくらいだ?」


「何だ? 行くのか?


5分かな」


「今17:45か。


間に合わんが、仕方ない、行くだけ行ってみるか」


キティと侍、そして腕章のガスマスクは、まず幻想城に向かう事になった。






幻想城では少し雰囲気が違っている。


多くのギルドメンバーが生き残り、さらにはサウザンドフィールドの実力を頼ってやってきたプレイヤーが、幻想城にたむろしていた。


こちらもカフェや酒場にキャラクタが集まったが、どちらにつくかというよりも、イベントに向けてのギルドの方針を探っているという趣で、幾分思慮深いやりとりが散見された。


「基本的にはさ、グエンは敵ってことだよ。


グエンの言うこともわからんことはないけどね。


警察や運営を敵にしてるからさ、それこそグエンが言ったように、Edgeの宣伝に使われてるこのギルドが、あっちに着くのはないよね」


「どう戦うかだよな、問題は。


相手は強力な武器を持ったPKを恐れない連中だ。


しかも無限ワキときた。


救いは動きがしょぼいことだな。


当然、白翁党も厄介だ」


「やっぱり勝利条件はちょっと細かくなったな。


PK数が多い方の勝ちなら、向こうに不利すぎなんだよ。


だっていくら武器が強くても勝てるだろ、放置民には。


そしたら、数が多いってのは自然と被PK数増やす要因になるじゃん」


城の中にもプレイヤーが溢れている。


あまりログインしないプレイヤーも、招集に応じて集まっていた。


とりわけ幹部たちは、今後の方針を話し合うため、城の玉座の間に詰めている。


侍の姿はなかったが。


「うちは、グエンと戦うぜ。


まずは、生き残った街と協力を確認だ。


副長に行かせたからな」


話したのは、でかいパンクヘッドの男。


サウザンドフィールドのギルドマスターにして、一年前アーティファクトを発動し、魔王を従えたオンリーワンプレイヤー、パンクヘッド伊藤だった。


パンクヘッドと銀色のロングコートが特徴で、彼のいる王座の傍らに、魔王である金髪幼女を控えさせている。


玉座に向かい合うように9人の幹部が立ち並んでいた。


集まった幹部一同、異存なしを確認すると、彼は城の中にいるキャラクターに向けてメガホンを打った。


『 うちは、作戦を考えてある。


敵をこっちの提案に載せなきゃだから、ちょい面倒なんだけど、まあおいおい説明するから協力してくれな!


後数分、時間までのんびりしようぜ! 』


17:55 節目の時間を目前に控え、ギルドメンバーや、ギルドのファンにとってパンクヘッド伊藤の信頼は厚く、一方の街と違い、理路整然とその言葉に従って、全体がイベントに備えていた。


伊藤の放送が終わった瞬間、玉座の間に柔らかな光を招き入れていたステンドグラスが破壊され、真っ白な光球が金髪幼女の右胸を貫き、同時に肩口から上半身の1/4を吹き飛ばす。


後ろの壁が爆発し、その攻撃の威力が開放された。


後から、爆音が追いかけてくる。


その場に居た9人の幹部は全員が反応できず、気づいた時には一連の大破壊が起こっていた。


それが何者かによる規格外の狙撃だと判断できたのは、金髪幼女本人以外に居なかった。


もちろん、パンクヘッド伊藤も動きを止めてしまう。


壁の爆発の粉塵に紛れて、300人の白翁党員がなだれ込む。


その大半は金髪幼女を取り囲み、圧殺するように武器をつき入れて動きを止めようとするが、彼女を留めることはできず、伊藤を守ろうと立ち上がる。


だが、その時すでに9人の幹部はすべてがほぼ同時に眉間や心臓に銃弾を受けPKされ、伊藤の前に一人の男が立ちはだかっていた。


オールバック、薄い色のストライプのスーツ、オートマティックのハンドガンをその眉間に向けて、落は伊藤の前に佇んだ。


「伊藤。


サウザンドフィールドから1000人、グエン派によこさんかい」


加えたタバコを強く吸い、長く吐く。


「おどれがワシに打たれたら、そこの小娘はワシの飼い犬になる。


それがどういうことを招くか」


ぐいと、銃口を伊藤の額を刺すように突きつけた。


「分かっとるな」


伊藤をPKしたものが、魔王をテイムする。


それはパンクヘッド伊藤しか知らないはずの秘密であったが、金髪幼女の真価をも、この男は知っているのだと理解したとき、彼に選択肢はなくなった。

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