誰かを革命家
もっとマシな顛末を辿れたかもしれない――そう思ったのは一際日差しが厳しかった夏の日。クリスマスすら寄り付かない二十五日の夏は今でも脳裏を沸騰させる――例えば、アイスを片手に歩くことを財布が許してくれるとしたら正しい考えで相応しいことをしていたに違いないとツクヅク思うほど。
学校の帰り道、交差点に従って進みを折る。この時の僕は学校内に置いてあるアイス自販機に嫌われていて、いざ使おうとしたら財布にも――機嫌が良かった記憶はない。
熱を帯びた光と熱に侵されたアスファルト。最悪なサンドイッチから逃げてしまいたい、朝にミネラルウォーターの残りで冷やしたハンカチを首元に当てながら歩道を進む。僕をブォンと笑いながら横切るバイクに舌打ちしていると、僕と同じ学校の制服を着た女子高生に気づいた――こんなやつ居たっけ。不思議に思いながら、熱で嫌気が指していた僕は裏路地に入っていく彼女を追いつつ帰路に着くことにした。暑そうな蜃気楼を眺めながら帰るくらいなら、暑そうに汗を流す彼女を見た方が――涼しいに違いない。
涼しげな彼女。
驚いたことに僕とは違って一瞬たりともハンカチに身を委ねない姿に尊敬の念を抱いていた。男らしいとさえ思うほど――勇敢で、夏に対する反逆心を感じる。
気づいた時には僕もハンカチをポケットに収め、二度と出さないようにチャックもガラガラ閉め上げる――革命家の才能が彼女にはあったのかもしれない。
しばらく歩いていると彼女は足を休めた。僕も羽を休めようとポケットに手を伸ばして諦める。もう少し、早く止まって欲しかった。
羽を休めようと考えたのは間違いかもしれない――不意に思ったのは彼女が振り返ったからだった。
酷く遅い風に揉まれたような感覚。
『ストーカーですか?』
『違うさ、帰り道が偶然一緒で……』
嘘が走る寒気、寒気が走る嘘。
彼女は知ってるような素振りで唇を舌で光らせた。
『では帰りましょう、私の家にアイスがあります』
『どういうこと?』
『あなたの帰り道はあっちでしょう? 後ろから、いつも見てましたから』
いつもと違った、いつもと変わった、愚かな僕。
きっとそれは、彼女が違っていただけで――彼女が変えてきたに違いない。
彼女には、革命家の才能があったに違いない。
有名なあの人を意識したつもり。