06 命名と就職
06
スライムのコロコロとした感覚に目を覚ます。下の食堂の騒がしさから俺はちゃんと朝に起きれたみたいだ。ベッドの上にいつまでもいたい。一生寝ていたい・・・。はいはい、ちゃんと起きますよ。カバンの奥底にずっといた綺麗な服に着替える。ご飯食って軽く体を水洗いしたもんだから体の泥や汗が流れてさっぱり!そこにベッドだぜ?もう永遠に寝ていられるよな。髪を軽く整えスライムと共に一階の食堂に行く。
「あれ、おはようさん。ちゃんと朝起きれたんだねえ。朝ごはん出すから待ってな。」
なんか村にいるお母さんを思い出してしまう。みんなは俺の心配をしているだろうか?センチメンタルになりつつ朝ごはんのサンドイッチを食べて外に出る。
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「え!それって本当ですか!?」
「はい、ここはラット町ではなく学園都市ダルメシアンです。ラット町はここと反対側の方向にありますね。」
町役場で仕事を探しに来たが衝撃の事実が発覚。なんと俺が今まで歩いていたのは兄さんたちが行っていたラット町ではなく学園都市に来てしまったらしい!しかも道が開拓されていないところを俺はひたすら歩き続けていたらしく生きて人のいるところにこれたのは奇跡に近いみたいだ!
「そんな奇跡のトリノさんにお聞きしたいことがあります。そのスライムはトリノさんのパートナーでしょうか?もし、テイマーのスキルをお持ちでなおかつスライムと契約されてる方向けの求人が出ておりますがいかがしますか?」
やたらグイグイくるな。もしかしてちょうどいなかったとか?
「はい、テイマーのスキルは持っています。ぜひ、お願いしたいです!」
「はい、それでは面接いたしますので少々お待ちください。」
おお!!こんな運のいいことがあるのか!?先行き良すぎて逆に心配なぐらいだぜ。
「スーラーイムーお前はラッキースライムだ!最高のスライムだ!」
イエーイ!とスライムを抱きしめてぐるぐると回る。面接受けていないけど、決まったわけじゃないけれど!
「喜んでるとこ悪いが面接するぜ。俺について来てくれ。」
「はい!」
役場の奥の方へ歩く。さすが都市なだけあってすごく大きい。ここの建物はどれもそうだ。村ではせいぜい2階と屋根裏レベルなのにここじゃあ倍以上のある5階だてもザラだ。これが街、いや都市か・・・へへっ。
「じゃあ、これから面接をする。俺はギルドマスターのバーグだ。よろしく。」
「俺、いや私はタダヒロ村から来ましたトリノです。膝の上に乗っているのはパートナーのスライムです。」
「話は聞いているが本当にタダヒロ村のもんなんだな。そういう骨のある奴は大歓迎よ。」
「疑わないんですか?」
「嘘つくならもっとマシなもんつくぜ、海の向こうの大陸から来ましたーとか夜の森から来ましたーとかな。タダヒロ村なんて知っている奴も少ないしそれこそ地図持ってるお貴族さまぐらいしか言わないんじゃないか?」
「はぁ、確かにそうかもしれないですね。何にもない普通の村なので。」
「でよ、村の話はいいんだよ。お前そのスライムとちゃんと契約してんのか?テイマーのスキル持ってるんだろうな。」
「大丈夫です。このあいだの成人式で神父にそう言われましたから。」
「ふーん。で、そのスライムの名前は?」
「えっ!名前、です、か・・・」
「おいおい、神父からなんも聞いてねえのかよ。テイマーなんぞ珍しくないんだからそんくらいちゃんとしとけよ。」
あー、そういえばなんも聞いてないや。よかったね、で終わったもんなー。よくお前俺について来たな。スライムが照れて揺れる。かわいい、俺の癒し。
「パートナーになるにはな、モンスターに名前つけてやんなきゃいけないんだ。というわけでここで名前をつけろ。」
「ええっそんないきなり言われても・・・。」
「やれ、じゃねえとお前はテイマーのスキルを持ってないとみなし嘘をついたと兵士に突き出してやる。」
それはダメだ。折角のチャンスを無駄にするわけにはいかない!
「ちょっと待ってください。今考えますので。」
「おう。」
えーとえーと、名前だよな。名前ってどうやってつけるんだ?直感か、願いを込めるかだよな。スライムだから最後に ”ム“ をつけたいなぁ。そしてこいつはきっと歴史に名前を残すスライムだ。ちゃんとした名前にしないと!かわいくてかっこよくて立派で呼びやすい名前・・・。リイム、サイム、コーム、ワイム、トリノのスライムだからトリムとかは?いや、威厳がない。アポム、ドーム、カリム、オウム、キョム・・・。いいのが思い浮かばない。唸れ!俺の頭!「マルコとか・・・?」
いやいやいやいや、それはない。丸いからマルコとか馬鹿でナンセンスにもほどがある。
ピカァーー
スライムが光った。
「お、決まったみてぇだな。よし、じゃあ採用な。態度能力ともに問題なし!そうだなあ明日明後日あたりから働いてくれるとありがてえな。どうよ?」
「おまえ、おまえは・・・マルコでいいのかよ。もっとかっこよくて偉大な名前じゃなくていいのかよ・・・。」
「おっと、これは聞いてねえな。」
ちゃんとした名前つけてあげたかった。最後の子でトリノなんて適当につけられた俺とは違うちゃんとした名前を。こいつに見合うちゃんとした名前を・・・。なのに、どうして
ぷるぷる。 スライムがいやマルコが許すようにからだを擦りつける。俺のスライムはどこまでもかわいいしいいやつだ。もし、神様がこの世にいたらこんな感じで天使もこんな感じだ。
「あー、落ち着いたか?」
「はい、すいません。」
「まあ、いいけどよ。俺も娘の名前つけるときかなり悩んだからよ。でだ、お前を採用することにしたわけなんだが待遇について話すぞ。
勤務時間は鐘に従ってもらう。仕事内容はゴミ処理場にいるスライムを管理すること。脱走しないように見てるのがほとんどだけどな。給料は日給制で1日につき銀貨1枚と銅貨50枚。あと職員用の宿舎がある。家賃が銀一枚の格安だ。その分ちと古いがそれは外観だけで中は綺麗だからそんなに気にするほどじゃない。確か空いていたはずだから入れるはずだぜ。ああ、もちろん家具付きでスライムも一緒に暮らせるから安心しな。なんか質問あるか?」
「え、あ、いえ。随分と給料がいいんだなって。俺の村だと月給銀一枚だったもので。」
銀貨37枚と銅貨50枚と銀貨1枚だぜ?比べもんになんないよ。しかもこんだけもらって更に家賃銀貨1枚とかありえない。他の人はもっといいところに住んでいるんだろうなー。さすがにそこまで贅沢はしないけど。物価が高いので節約して行く方向でいきます。頑張るぞマルコ。
「まあ、規模が違うからな。それじゃあこれからギルドカードを作ってもらう。字は読めるんだよな?じゃあ書け。」
「あの、なんでギルドカードが必要なんですか?」
「ゴミ処理場はなギルドの管轄なんだよ。一応スライムもモンスターだからな。ていうか俺が面接する時点で気づけよ。」
あ、すいません。
ギルドでは傭兵と冒険者が主に所属している。モンスターを倒したりダンジョンに入ったり護衛をして素材を集めて金を稼いでるやつらだ。誰でもなれる職業だが稼げないやつと稼げるやつの差は激しい。夢はあるが命のやり取りがつきものとなっている危険な仕事である。マルコがいるけど俺は冒険者になろうとは思わない。確かにモンスターを倒したらマルコは進化するかもしれないが金も装備もない状態で行くのは死にに行くのと同じだ。俺は路上で暮らしたいわけじゃないし今んとこは安全第一で。
「書けました。」
「よし、ちゃんと書けてるな。血印を押してっと。」
親指に針を刺して血を少し出す。それをカードにつけるとカード赤黒い光を放ち血を吸収した。契約の魔法が発動したためだ。もし違反行為を行えば程度に応じた罰がすぐ行われる。カードに“職員”という文字が浮き上がる。
「完璧だ。宿舎は明日から住めるように手配しとくからそうだなあ、食器や布団とかは流石に無いから買い出ししなくちゃいけねえよな・・・。それじゃあ、明日中に買い揃えてもらうとして明後日から仕事してもらうか。」
買い揃えるか・・・そんなにお金あったけ?食器一式で銀1枚いけるかな?布団一式が最低でも銀2枚そこに服やタオル食料に石鹸に洗濯板。うん、無理。
「はい、わかりました。」
「先立つもんちゃんと持ってるか?」
最低限の布団と銀1枚分のアポウをまとめ買いでなんとかなるだろう。残り銅貨12枚。家賃は次の日の給料で払うとして銅62枚。銅60枚で石鹸と洗濯板を買う。2回目の給料で食器とタオルを買い、その翌日に服類。完璧だ!俺天才☆
「あははは・・・。まあ頑張ります。」
仕方なさそうにバーグさんが言う。
「ギルドにはな、初心者支援で申請すれば銀5枚がカードを作ったら貰えるようになってる。借金じゃないから返済する必要もない。条件はあるがお前なら大丈夫だろう。」
「でも、それって職員にも適応されるんですか?」
「カード作れば関係ねえよ。利用できるものは最大限利用しろ。お前が無理したって誰も喜ばねえよ。」
無理か・・・。確かに俺一人なら別にこれぐらいの我慢大丈夫だろう。でも、俺にはマルコがいる。こいつは俺が守らないといけないんだ!
するとマルコがミョーンと伸びて「お願いします」と言うようにバーグさんの手の上に自身の体の一部を乗せた。
「なんだ、スライムのほうがしっかりしてんじゃねえか。じゃあ、マルコ。この書類に記名しろ。」
「いやいや俺が書きますから!スライムに文字なんか読めるはずないでしょ!!」
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マルコはトリノの面倒を見なければならないと思っています