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08 仕事初日

08



「へ“プコッ!!!」


いつもの優しいマルコはどこへ行ったんだ・・・。強烈な打撃とともに目覚める仕事初日。マルコに引っ叩かれてトイレへ行き用を足して水の入った洗面器で顔を洗う。ついでに寝癖も直しておく。部屋に戻るとマルコが昨日のポトフの残りを温めてくれている。俺のできたスライムに感謝しながら黒パンを切ってよそってくれたポトフをテーブルへ運ぶ。


「いただきます。」


一人暮らしではありえないスムーズな朝。俺だけだったら街で暮らしているとはいえ寝坊していること間違いなしだろう。起きれる自信がない。ゆったりと朝ごはんを食べ、片付けをしていると良い感じの時間になった。


「よし、それじゃあ行くとしますか。」


部屋に鍵をかけて階段を降りていく。12の時から3年間村の働き口を総なめにしたので今更新しい職場に緊張しなくなっていた。緊張しないだけであって別に期待がないわけじゃないんだけどな!

出勤の波がやはりあるらしく人の気配の無かった宿舎から人が現れた。


「おはよーございまーす」


「あ、おはようございます。」


「おはよう、新人くん?」


「はい、よろしくお願いします!」


「スライム連れの子だ!ゴミ処理場の子?新しい子入ったんだー。よかったねー」


「ポンジんとこの新人?あいつもやっと寝れるようになるんだなぁ。いやぁ、よかったよかった。」


「じいさん死んでから大変そうだったもんな。休みの日は部屋にこもりきっりだったし」

「使い潰されないように頑張れよー」


すれ違いざまに色々話しかけられるが村生まれ村育ちの俺が捌き切れるはずなくひたすら笑顔を浮かべていた。


「オハヨー。俺のコウハイ?キミが?ウソじゃないよね?マボロシじゃないよね?」


「うわっ!」


後ろから鬱蒼とした声をかけられた。他の人が明るい声だったからビックリしたー。


「おはようございます。ゴミ処理場に今日から働かせてもらうトリノです。よろしくお願いします!」


「うわぁ、マブシイ・・・ヨロシクねー。俺はポンジ。フツウにポンジでいいよ。こっちはスライムのヨウカン。チョット一人だったから疲れているけど二人だとタイヘンじゃないからアンシンしてね。案内するよ。ツイてきな。」


「はい。」


言葉が変だけど見た目がアレだけどいい人そうでよかった。ボサボサの茶髪に無精髭にクマの濃い半開きの目。道端で会ったら絶対に近づいちゃいけない人だと思うだろう。職場の先輩だから別にいいけど。ポンジさんの後をついて行くとギルドの敷地の奥の方。この時間にはすでにゴミを捨てに来ていてドサドサと街の人たちがゴミを捨てに来ているのを横目に『関係者立ち入り禁止』と書かれた扉を通る。廊下を出て右側の扉に入る。


「じゃあ、ここでキガエルよー。ダレ用とかないから自分のサイズのやつキてねー」


「はい!」


中サイズを探して着る。ポンジさんは背が高いから大を着るみたいだ。作業着を着ると自然に背筋が伸びる。キラキラした様子で見つめるマルコにピースをしとく。おいおい、そんなにはしゃぐなよ。ポヨンポヨンと跳ねて可愛い奴め☆


「サキへ進むけどいいかな?」


「はい!大丈夫です!」


更衣室を出て廊下の突き当たりの扉まで行く。


「ここのサキがゴミ処理場だよー。右側にゴミの集まってる箱があって左側にスライムたちがいるのね。」


扉の向こうには大きな四角い箱とスライムと書かれた丸い桶が左右に並んでいた。四角い箱のこちらとは反対側に人が板に上がって箱の中に様々なゴミを捨てていた。


「始業時間になったらスライムたちを左から右に移すんだけどその時に手前の箱だけにスライム入れるんだよ。奥の小さい箱は契約したスライムじゃないとできない決まりになってるから。それじゃあ、今からスライム移動させていくからよく見ててね」


ポンジさんはスライムの入っている大きな桶の下の方の板を外しそのままゴミの入った箱に立てかけた。手前の大きなゴミ箱へ向かってスライムがポムポムと行進する。50体のスライムスライム可愛いマジ可愛い尊さの極地。ここは天国か?


「はあ、尊い・・・」


「爺さんと同じタイプの人間だな、おk。じゃあ、奥の箱の方に行くぞ。」


「はい!」


両手を上げてギリギリ指先がかかるくらいの高さのある奥の箱の前へ行く。


「ゴミは2種類に分かれていて、魔力を含むゴミと魔力を含まないゴミに分かれているんだ。この小さめの箱は魔力を含むゴミ入れだね。危険性はないはずだけど、ずっと続けるとスライムが進化しちゃうんだ。進化してもどうということはないけど念のためにね。」


進化するんだ!ここ最高だな!!


「まずここにスライム入れて」


ポンジさんがヨウカンを小さいゴミ箱に投げる。俺もそれに続いてマルコをやさしく投げた。


「ハシゴに上る。」


箱同士の間にあるハシゴに上る。そこには箱をまたがるようにかけられた板とその両端に椅子があった。


「覚えることは特にないけど、前が分別の確認。後ろがスライムの監視。どっちも大した仕事じゃないから好きな方を選んでいいよ。」


「え・・・えっと前の方で。」


「わかった。魔力の含むゴミはそうだなー、キラキラしているものかな。間違えて捨てられたらすぐにスライムに吸収させて。無駄話して後ろをつまらせたりとかしないようにね。説明終わり。頑張ってね。」


そう言ってポンジさんは椅子に座ってしまった。俺も前の方へ向かう。椅子に座って捨てるものを確認し続けた。捨てる人たちは荷車やバケツを運んで段差のある板に乗りゴミを捨て降りる。その様子を黙々と見続けていると飽きてきた。まだ初日の昼前。本当にこんな仕事で1日に銀1枚と銅50枚ももらえるのか?





##########






やっとお昼休みが来た。


「おヒルだよー。ご飯タベに行こ」


ポンジさんについて行きギルド2階の食堂に行った。ギルド中の職員が一度に集まっていてとても賑やかだ。魚サンドという珍しいものを頼み向かい合わせでご飯を食べる。村には魚が無かったため魚を食べるのは人生初だ。細長く柔らかめのパンに薄いオネオンとベネガーを混ぜたものと焼いた薄い赤色の魚が挟まれている。肉とは違うあっさりとした味に酸っぱいオネオンがよくあっていて美味しい!魚がほろほろと口の中でばらけて食べやすいからパンと合わせるとちょうど良い。今晩はこれにしようかな。マルコにも食べさせてあげたい。作るのも簡単そうだし。ポンジさんは目の前でタマゴサンドを食べていた。




「うん、お昼の後は書類仕事だよ。本当はずっとゴミ箱の上にいなきゃいけないんだけどギルドの方も人がいないみたいでね。簡単なものはこっちで処理してるんだ。どっちかっていうとこっちの仕事の方が多いからお昼前でもやっていることが多いよ。」


暇が潰せて良かったというべきなのかなー。ハシゴの上には登らず、ゴミ処理場の奥の方に置いてある机と椅子方へ向かった。俺の膝ぐらいまである紙の束。


「アア、まだこんなにアルんだね。昨日ケッコウ減らしたはずなんだけどナ。」


ポンジさんの死んでいる目がもっと死んでいく。

ずっと不思議だったんだ。こんな仕事なのになんでポンジさんが疲れ切っているのか。その理由がわかったこの書類だ。


「文字もかけるし計算デキルんだよね?マスターから聞いたよ。契約するときに自分で書類を読んでいて、お金の計算もちゃんとできていて迷い無く文字を書いたことも。問題なく戦力になれるよってね。」


えぇ、そんなこと見られたの!?裏試験じゃん!


そこからは黙々と書類を捌いていた。マルコたちにスライムを任せて計算に誤字脱字のチェック、書類の確認をしていく。

16の鐘が鳴りポンジさんに付いて行きギルド本部へ終わった書類を届けた。そして、追加の書類を渡され処理場の片付けをし1日の仕事が終了した。


「いやーキョウは平和にできたよ。ヒトがいるって良いねー。それじゃあ、アシタもよろしくね!」


「お疲れさまでしたー」


「よし、じゃあ俺たちも行くとするか。魚買いたいから通りの方に寄って行こう」


嬉しそうに揺れるマルコと一緒に通りの方へ向かって行く。魚サンド、楽しみにしてろよ。



初出勤回

ポンジさんのイメージは社畜。いつか、給料が高いのと人手不足の理由を書きます。給料が高いのには訳がある。


魚サンドのレシピ

薄切りオネオンとベネガーと塩胡椒を混ぜる。

小麦粉を満遍なくサイモンにまぶす。

サイモンを中火で焼く。

オネオンとサイモンをパンに挟む。


もちろん知識のないトリノは失敗する。

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