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桃太郎(一流)

作者: LED

 昔々ある所に、お爺さんとお婆さんが(中略)桃から生まれた桃太郎は、鬼ヶ島(おにがしま)へ鬼退治に出かけました。



「――あれが鬼ヶ島か。ウワサ通りの孤島だな」


 桃太郎は双眼鏡(そうがんきょう)を覗き込んで、ほくそ笑みました。

 彼の周囲には「きび団子」一個でお供についてきた「とされる」……犬、猿、キジがおりました。


『桃太郎のダンナ、言われた通りに戦力を揃えてきやしたぜ~』


「大変結構! 戦いとは数だからな。

 お前たちには鬼に奪われた食べ物を取り返し、美味しい『団子』の作り方を教えてやると約束したのだ。

 その分はきっちり働いてもらわないとなァ」


 あれ? きび団子じゃなくてただの団子? と思われた方。

 実は「きび団子」の原型ができたのは江戸時代末期。店で売られ始めたのは明治に入ってからなのです。そんな訳で当時「きび団子」はまだありませんでした。


「してダンナ。鬼ヶ島をどのように攻めるので?

 この戦力なら、寝込みを襲って一気に鬼どもを皆殺しにできますぜ、へへへ」

「愚か者。そんな事をして何になる。たとえ勝てたとしても、こちらも大きな被害が出るだろうが。

 敵より戦力が勝っているからといって、馬鹿正直に本拠地に攻めかかるのは三流の桃太郎がする事よ!」


 桃太郎に三流も一流もあるのだろうか、と犬は思いましたが、敢えて口にはしませんでした。


「心配いらん。お前たちは俺の指示通りに動けばよい」


 桃太郎は自信たっぷりに邪悪な笑みを浮かべました。



 翌朝。鬼ヶ島の鬼たちは、周囲の状況が一変しているのに気づきました。


「やけに騒がしいな。一体何が起きた?」

「大変です。キジが大勢やってきて、我らを襲っております!」


 鬼の首領が慌てて外に出ると、何十羽というキジの群れが地上を走り回って、鬼たちをほんろうしています。


「くっ、こいつら……鳥のくせに足が速ええ!?」


 実はキジ、鳥なのに飛ぶのは苦手。その代わり走るのは大得意という連中なのです。

 キジたちが鬼をかく乱している隙に、次は犬たちが飛び出してきました。彼らの狙いは鬼、ではなく……


「犬どもが舟を繋いでる縄を、次々と噛みちぎっています!」

「なん……だと……」


 あっという間に鬼たちの所有する舟は全て、島から離れていきました。

 犬とキジが舟に飛び乗ると、海に潜んでいた猿の軍団も舟に乗り込みます。猿は泳げるのです。


「今度は猿か! オレたちの舟を器用に()いでやがるッ」


 猿たちによって、舟は鬼が泳いで辿り着けない遠くまで流されてしまいました。


 あ然とする鬼たち。

 ところが一艘(いっそう)だけ、島に近づいてくる舟がありました。乗っているのは当然、我らが主役・桃太郎です!


「あー、鬼ヶ島の諸君。我が名は桃太郎!

 君たちの舟は全て、この桃太郎が奪い取った!

 鬼ヶ島という孤島にいる以上、これで君たちの移動手段は封じたも同然よ!」

「ぐぬぬ……桃太郎とやら。一体何が目的だ?

 さては村の連中に頼まれて、我らを退治するつもりなのかッ」


「くっくっく、勘違いするなよ。我が目的はあくまで『鬼ヶ島の悪さを何とかする』事! 退治そのものではない!

 もっとも君たちが『話し合い』に応じないなら、皆殺しもやむを得ないが……どうだね?

 鬼ヶ島の諸君にとっても、決して悪くない話だと思うのだがねェ」

「話し合い……話し合いだと!?」


「そう、話し合いだ! そもそもなぜ、君たちはわざわざ舟を作ってまで、周辺の村々を襲うのだね?」

「そ、それは……」


「まァ大体、想像はつくがね。鬼ヶ島の土地だけでは、住む鬼全員が食うのに足りないからだろう?」

「確かに、その通りだが……」


「ならば取引しよう。安心したまえ、この桃太郎――諸君ら鬼どもの味方だ。

 わざわざ盗みに頼らずとも、君たちの食いぶちが確保できるよう取り計ろうではないか」

「一体どういう意味だ? まさか食べ物と引き換えに、鬼ヶ島の財宝をよこせと言うつもりではあるまいな?」


「そんな馬鹿げた事は言わん。君たちは財宝より素晴らしい、取引するに相応しいモノを持っているからな!」

「へ? 取引に相応しいモノ……?」


 鬼たちは首をかしげましたが、桃太郎は得意げに言いました。


「君たちの持つ金棒! そして舟! いずれも優れたワザがなければ到底作れぬシロモノだ!

 君たちの腕を見込んで、その技術を買おう。見返りに十分な食べ物をくれてやろうではないか!」

「むむむ……」


「もちろん強制ではない。だが話し合いが決裂すれば、いずれまた鬼ヶ島は攻め込まれるだろう。

 その時のリーダーが、俺のように心優しい男とは限らんぞ? さあ、どうするね?」


 桃太郎の提案を聞き、鬼たちはしばらくの間、皆で相談していましたが……やがて決断しました。



 桃太郎は、鬼ヶ島から数人の鬼を村に連れて帰ってきました。

 しかし彼らは今までのように悪さをしに来た訳ではなく、村の人々に鉄の農具の作り方や、遠くの海まで行ける舟の組み立て方を教えにやって来たのです。


 村人たちも最初は疑っていましたが、桃太郎の熱心な説得もあり、最後には鬼たちを受け入れました。


 鬼たちに教わり作った農具や舟で、村人たちは以前とは比べ物にならないほど、たくさんの米や魚を得られるようになりました。

 もちろんたくさん採れた米や魚の一部は、技術を教えてくれた鬼たちへの見返りとして取引されたのは、言うまでもありません。


「くっくっく。一滴の血を流す事もなく、戦わずして勝つ。これぞ兵法の極意よ」

「桃太郎のダンナ、いつから孫子の回し者になったんですかい?」


 「桃太郎」のふるさとである岡山県では、桃太郎だけでなく鬼たちも(たた)えるお祭りが、今日でも盛んに(もよお)されています。


 めでたし、めでたし。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦法からお供の生態まで目から鱗が落ちまくるお話でした…!!頭脳派桃太郎、カッコいいです。誰も損をしない、これが本当のハッピーエンドですね(*´ω`*)
[良い点] これが一流……! 屈服させるのではなく、弄落するわけでもなく、正濁あわせ持って真に制する……!
[一言] この作品にも。笑(^^)
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