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妊婦に席を譲らない男の話

作者: 宇奈月 凪留

私はあまりにも愚かだった。


電車に乗っていたときのことだ。片道二時間の電車道、その半分に差し掛かった時だった。列車内には座席に座れないくらいには人がおり、私は始発駅から乗っていたために列車の片隅の座席を確保できていた。そこにマタニティマークのキーホルダーをつけた女性と、その母親と見られる白髪の女性が乗ってきて、丁度私の前あたりに立った。横に座っているサラリーマンらしき男性は動く気配はない。私は席を譲るべきかと思った。しかしこの先更に一時間は乗ったままなのだ、という思いが脳裏をよぎる。それと同時に、いつか妊娠していた知人に聞いた話を思い出していた。妊婦だとしても、調子が悪くなければ電車やバスで立つ程度大したことではないこと。そしてマタニティマークは席を譲ってもらう為ではなく、万一病院に搬送された時などのためにある、ということだ。そして私は、自分勝手にも座席を譲らなかった。一駅過ぎた。二駅過ぎた。私は今目の前に立っている二人に席を譲らなかったこと、そして今から譲る勇気も無いことで少し気分が悪くなってきていた。

二人が乗って来てから三駅目に着いた時だった。丁度向かいの席に座っていた眼鏡の男性が降りていった。白髪の女性は妊婦の女性に座席を勧める。この時、愚かにも私は二人が目の前から離れたことに安堵していた。しかしそれは間違っていた。列車を降りた男性の隣の席の男性が、黙って立ち上がったのだ。停車中の列車から降りるかのように、視線も合わせずに。白髪の女性は空いた席に座った。だが座席から立った男性は列車からは降りなかった。少し離れたところに何事もなかったかのように立ち、先ほどまで読んでいた資格試験の本を鞄にしまった。その男性はその後数駅に渡って降りることはなく、二人の女性の方が先に降りていった。


気がついたらその男性はいなくなっていた。私は胸の中に気持ちの良くないものを残したまま、今は空席のある列車の中に座っている。

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― 新着の感想 ―
[一言] 座っている時は席を譲りたいなと思いつつ、どんどん人が車両の中に詰まって来て結局譲れなくなっちまうのがもう嫌で仕方がない!
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