カジノ・サイドストーリー・序
本作品に出てくる登場人物・団体は全て架空の人物であり
実在する人物・団体とは一切関係ありません。
The Outcasts・初めに
僕が、このアンダーグラウンドの世界・・
人々が数枚のカードに血眼になり
時に破滅すら賭けるような世界だ・・に足を踏み入れてから
もう10年以上経つことになる。
その間、僕は実に多くの人と出会い
そしてそのほとんどの人々と別れた。
この世界で出来た数少ない友人のうちの一人は
既にこの世の人ではなく、
別の一人は、とっくの昔にこの世界から足を洗った。
「お前がこんなに長くこの世界にいるなんてね」
その友人は逢うたびにそう言って僕をからかう。
僕自身、そう思うから返す言葉も無い。
僕の身体に染み着いたこの世界の色は
どれだけ洗っても消えなくなったかもしれない。
そしてある日、僕はふと思いつく。
「僕はこれを何かに残しておかなくては」
ごく普通の生活をしている人の大半は
裏社会など、まるで知らないままに生きている。
逆に、残りの人々のほとんどは、
裏社会の入り口をほんの少し覗いてみただけで
既にその世界を知った気になっている。
それでももちろん構わないだろう。
知る必要のない事を知らないままでも
それで何も困ることは無い。
でも、僕にとってはそうではない。
僕は僕自身が澱のように沈殿させてきたものを
丁寧に掬い上げて、濾してやらなければならない。
それは、僕の中でそうされるのを待っているのだ。
少し、想像してみていただきたい。
あなたは、日々の中で地下鉄に乗るだろうか。
もし乗るのなら、地下鉄の駅へ降りていく階段は
本当に地下鉄の駅に続いているのか
あなたは不安になったことは無いだろうか。
階段を降りると、そこには果てしない闇の世界が広がり、
その世界で生きる裏の住人達がいるかもしれない。
あなたが先ほど入った階段の入り口は
本当に地下鉄の入り口だっただろうか。
それは良く似ているけれど、
違う世界の入り口だったかもしれない。
裏社会への入り口は、そんな風に存在している。
あなたが何気なく通り過ぎているだけなのだ。
そして裏社会の住人たちは
もしかしたらあなたの部屋の隣に住んでいるかもしれない。
ほんのちょっとしたきっかけで
あなたは彼らと接点を持つかもしれないし、
あなたもその世界へ入り込んでしまうかもしれない。
何事も無く済むかどうかは、
抜け出せるかどうかは、誰にも分からない。
だから僕は、この世界で僕が味わったことを
出来るだけ書き留めておこうと思う。
それは「起きた順番」ではなく「僕が思い出した順番」だから
時系列はまるで狂っているかもしれない。
それは「客観的な真実」ではなく
「僕の都合で並び替えられた事実の羅列」だから
真実の姿とはまるで異なっているかもしれない。
でも、もしあなたが「いつか」
裏の世界に迷い込んだり、裏の住人と接点を持ってしまった時には
この話が、彼らの世界の地図になるかもしれないし
この話が、彼らの言葉を理解するための辞書になるかもしれない。
あるいは、彼らの生態を記した図鑑になるかもしれない。
そうであればいいなと思う。
仮定の話を続けたけれど
それは突拍子も無い法螺ではない。
もちろん、たとえ法螺だと思われたとしても、
僕はそれを書かずにはいられないのだけれど。
ただ、この話は定期便ではない。
更新には、前触れも、予告も無い。
魔法の世界を描いた小説で使うフクロウ便のように
それは突然届くだろう。
一週間後に更新されるかもしれないし
連日更新されるかもしれない。
一ヶ月空くこともあるだろうし
一日に二回更新されることだってあるかもしれない。
だから、あなたがこの話に関して出来ることと言えば
その「いつか」が明日でないことを祈ることくらいだ。
明日降りる階段の先に
真っ暗な裏の世界が広がっていないことを。