異世界でもいいことないようです。
「あのー、そろそろ次の世界にいってもらえませんかー?」
無表情、ポーカーフェイスがばっちりきまった受付嬢風の女神様(自称)が困っていることを表すように肩を下げておれをのぞき込む。
というのも、今オレがいるこの広いホールにいるのは、オレと彼女だけ。
初めの時点では、彼女も愛想笑いをしていたのだが、どうやら営業スマイルだったようで、無表情なのが素の性格らしい。
オレは無駄に白い空間に待合席とでも呼べばいいか、簡素な椅子に腰を掛けていた。
それも、すっぽんぽん。裸で!
もちろん、お年頃の三十路を迎える童貞魔法使いが、見ず知らずの女性に裸をさらすのだ。興奮どころか縮んだね。心とか肉体的にも縮んだ。
そして、たんたんとオレが次元を超えた場所にいることを知らされた。
そこの女がいうには、異世界のとある魔法少女が戦闘中に時空魔法を発動したらしい。その結果、本来は台風とか地震とか自然災害で相殺されるはずが、ピンポイントでオレの存在を消し飛ばしたという。
このまま、精神だけが肉体から飛び出てしまい、憐れみをもってこの現世から離れた味気ない、なんにもない、椅子と下手な営業スマイルしかできない女のいるところに保護もとい監禁されたらしい。
「で?もう一度聞くが立地は選べないんですね?」
「当然です。消し飛ばされたあなた一人分がその世界で増えるのです。だから、地球でのあなたの人生と同じ価値、その世界で居てもいなくても変わらない空気のような人生を送るくらいの資格しかないです。」
酷い言いようだ。ブラック企業で稼ぎの悪い営業が上司に居てもいなくても変わらないといわれている気分になる。もちろん、オレには関係ない。。。。はず。
というか、オレって地球規模でカス人生が約束されてたんだな。
「ぐだぐだいってやがりますと、人間卒業させて畜生に転生させてやりますです。」
なにこのこ怖い。
無表情に加えて、気が長くないのだろう。オレがぐずぐずしていたの癇に障ったのか、羽ペンを指でくるくるしはじめている。小学校とかではやったあの技だ。
明らかに飽きてきている。
「わかった。好条件でとは言わない。せめて、せめて、少しでも現世以上に楽しい生活を」
オレの必死の懇願もといあきらめの発言が続く間もなく。
「あっ、先に転生先に送っちゃったデス」
あっ。この子面倒くさいと机の上にあるものすべて捨てちゃうタイプの娘だ。
しかも、なにその字。紙を見せられても全く読めないんですけど。
途端に、あたり一面光出す。
おおー、これが異世界への転生の瞬間なのか。
その途端に、オレの意識は途絶えた。
最後に見えた受付嬢は、なんか餅みたいなものを爪楊枝で口元に運ぶところだった。
仕事しろよ。
★ ★ ★
ジャリッ。
頭が・・・くらくらする。
ちょろちょろ水の流れる音が聞こえる。
そして、鼻腔いっぱいに感じる草と土の匂い。
オレは、うつぶせで地面に横たわっていた。
四つん這いになり、なんとか座る姿勢になるとお尻を刺激する草達である。
「裸かよ」
異世界での第一声は「裸」。みなさんご期待ください。
と、くらくら意識で思う。
こんな時こそ、余裕だ。余裕を忘れないように、前世でも緊張感なの男と言われたオレだ。
けっして、慌てることはない。むしろ、冷静にあたりを見回す。ぼんやり視界に入るのは、草草草。
それもそのはず、オレはもともと目が悪い。ネットゲームとノベルとエロゲーと、戦犯は多数上がるがひとまず置いておこう。
だって、楽しんだもん。
喉に猛烈な渇きを覚えたオレは、音がする草のほうにのっそりむっくり歩いていく。
ちょうど、葦が茂っているのがぼんやり見えた。
「がんばれオレ。水辺までもう少し」
すると、次の瞬間オレの前に忽然と人が現れた。
まさに魔法でいきなり現れたような感じだった。そして、この人、とても臭いです。
風下に居れば5M離れても居場所がわかるレベルである。
「師よ。私はやりましたぞ。あなたを超えるべく魔力を。。」
どうやら、オレが視界に入っていないようだ。一人でぼろいフードマントをはためかせ、葦の方に向かって吠えている。
可哀想な部類の人なんだろう。それより水だ。オレは喉の渇きに忠実に、水辺に向かうべく歩を進める。
ポキッ。見えなかったが小枝を踏んずけてしまった感覚が痛みとなってオレに伝わってくる。
靴がない人弱な足元である。
これだから、裸足の蛮族は嫌なんだ。
「誰?」
透き通るような冷たい声を耳元から感じると同時に、鼻を刺すような刺激臭あふれるスメルの人がオレの顔、吐息がかかるレベルまでくっついていた。
「ひっ」
オレは足の痛みも気にせず、2Mほど離れる。裸の男が臭い女から逃げるとかなんという変態プレイ。
「きれいな黒目」
典型的に魔法使いが被るような三角トンガリ帽子のしたから見えたのは、真っ赤なお目目。この時点で、ラノベとかでよくある吸血鬼のイメージが浮かんだ。
「いいないいな。黒目黒目。」
オレの周りをぴょんぴょん跳んで回る怪しい臭い女。
途端に、視界が崩れ空をみる。自分がひっくり返ったと気付いた時には、左目に激痛がはしる。
「ああああああああああああああああ!」
痛い痛い痛い・・・。痛みというレベルではない瞳に串を突っ込まれて目玉をえぐられてんだから。
「黒目は貴重だから、一個頂戴。代わりにこれあげるから。古龍の瞳だよ。」
「あああああああああ」
左目に異物の感覚を感じると同時に、オレの上で馬乗りになり、オレの目玉を太陽に透かしているこの頭がおかしい女を突き飛ばした。
「いたいな。でも、君に悪い取引じゃないからね」
オレが燃えるような痛みを発している左目を抑えながらのたうち回っていると、お尻をはたきながら立ち上がるくそ女。
「バーイ」
手を振りながら消えてしまった。
しばらく左目を抑えて痛みに耐えていたオレだけど、脂汗を流しながら意識を手放すには、そう時間がかからなかった。