プロローグ 「意味の分からない出会い」
「あの」
背後から声が聞こえた気がした。
今日は土曜日。休日である。
しかし、パソコンとにらめっこしているこの男は、断じてダラけた生活を送っている訳では無い。
昨日やり残した仕事を、たった今休日を返上して自宅で行っているのだ。
社会人2年目。仕事には慣れてきたが、比例して仕事量が増えてきた。
とはいえ、休日にまで仕事を残してしまうなんて、まだまだ効率が悪いなぁ…と、この男、相原冬馬は、自身の仕事ぶりを反省しながら自室のデスクにへばりついていた。
「…あの」
…背後から声が聞こえた気がした。
冬馬は一人暮らしである。故に、自分以外の声が聞こえるはずがない。
むしろ家の中では自分の声すら滅多に聞こえない。風呂場の鼻歌くらいである。
ここ最近働き詰めだったから、流石に疲れているのか?
冬馬はその声らしきものを、疲れからの幻聴だと捉え、無視…
「…あの…すみま…せん…」
…しづらかった。その声は今にも泣き出しそうである。
これは、マジで俺、やばいな。病院行こう…。
自分の頭がついにイッてしまったのかと考えながら、冬馬は振り返り、
固まった。
目の前には、背中まである黒髪に、レースの付いた花の髪飾り、フリフリの黒いドレスにまん丸ぱっちりお目目の可愛らしい小学生くらいの女の子が、涙目で座っていた。
「すみません、ここは…どこ…ですか…?」
冬馬は、病院へ行こうと決意した。