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恵比寿青年の『貧困脱出マネー講座』1

 恵比寿青年に追い詰められた怪しい浄水器会社の社長は、顔面蒼白になりながら返事をする。


「わ、分かりました。でもひとりで浄水器を撤去するのは時間がかかるので、明日専門の職員を呼んで三人で作業します」

「ダメです、明日になったら用事が出来たので来週とか、きっと先延ばしするつもりでしょ。今すぐ浄水器を撤去してください。私と恵比寿さんが手伝えば、三人で浄水器を家の外まで運べます」


 それから三人がかりで浄水器の取り外し作業にかかったが、水道管に取り付けた器具を外すと浄水器は意外なほど軽くて、七海ひとりでも運べそうだった。 

 恵比寿青年は浄水器会社社長が逃げられないように、浄水器を本人に持たせて軽トラまで運び、しかも運転席に乗り込むとハンドルを握った。


「お人好しの天願さんでは、この詐欺師社長に言いくるめられるだろう。浄水器買い取りの交渉は僕が行う」

「そうですね、よろしくお願いします恵比寿さん」

「ところで恵比寿、ワシはお腹が空いてきた。ご飯が食べたいぞ」


 この場面でも通常通りの小さいおじさん。


「申し訳ありません、大黒天様。今日は天願さんの作るジャンクフードで我慢してください」

「そうよ小さいおじさん。最近食事が豪華すぎたから、今日は粗食で済ませよう。十倍超激辛のレトルトカレーがあるよ」

「また激辛か、娘は少し恵比寿から料理を習った方がいいぞ」


 すると恵比寿青年はじっと七海の顔を見つめ、含みのある笑みを浮かべた。


「いいえ大黒天様。天願さんは料理の前に、いちから徹底して教え込まなければならないことがあります」


 あれ、これで一件落着じゃないの。

 恵比寿さん怒っているみたいだけど、私何かマズい事した?

 

  

 ***

 


 翌日、いつも通り朝六時四十五分に朝食を作りにきた恵比寿青年は、七海に厚みのある封筒を渡した。 

 

「天願さん、これは浄水器の買い取り代金、三十五万円です。詐欺師相手だから、支払いはその場で現金を払わせました」

「恵比寿さんありがとう。今月も家計がピンチで、スマホ料金の支払いにカードローン使おうか迷っていたの」


 七海は大喜びで封筒を受け取ろうとしたが、恵比寿青年は封筒を頭上に掲げて渡さない。


「天願さん、君はディスカウントストアと居酒屋バイトのダブルワークでそれなりに収入があるのに、どうしてスマホ料金を支払えない?」

「それはゲームアプリの課金とか電子書籍の漫画とか、小さいおじさんもスマホで映画見まくってレンタル料が発生したし」

「娘よ、最近のスマホは便利だな。映画も見れる漫画も読めるし、それに飽きたらゲームも出来る」

「その話を聞いたら、この封筒は簡単に渡せないな。天願さん、君がいくら借金を背負っているか教えてもらおう。それから大黒天様は、僕の予備のスマホで好きなだけゲームを楽しんでください」


 恵比寿青年は封筒をジャケットの内ポケットにしまうと、鞄からスマホを取り出し、小さいおじさんにスマホの使い方を教え始める。


「ちょっと恵比寿さん、私の金使いを怒りながら、小さいおじさんにはスマホ与えるなんて態度が180度変わりすぎ!!」

「僕は大黒天様から、君の借金をどうにかしてくれと頼まれた。天願さんの借金体質が改善されないと、大黒天様は僕の元に来てくれない」

 

 恵比寿青年は昨日の件があったので、午前中の仕事をキャンセルして七海の相談に乗るという。

 七海の抱える借金は、奨学金とカードローンのリボ払いが、合計で五百万円近くある。


「天願さんは、浄水器の他に騙されて購入した健康器具があると言っていたが」

「確か台所の戸棚に20万円で購入した万病に効果のあるサプリメントがあるから、これを業者に返品してお金を戻してもらえるはず!!」


 七海はそう言うと、台所から大きなダンボールの箱を抱えて持ってきた。

 箱の中からガラガラと軽い音がして、中には封の切られたプラスチック容器が大量に入っていた。


「天願さん、なぜ空の容器を保管している? さっさと燃えないゴミは捨てなさい」

「だからこれは万能薬と言われて購入したサプリメントだけど、あんずさんの病気は治らなかった。この容器は中身が半分残っている」


 恵比寿青年は七海から渡された容器をチェックすると、乱暴にダンボールに投げこんだ。


「このサプリ、ほとんど飲まれているし残りも賞味期限が切れだ。それに商品がインド製なんて、いくら僕でもヒンディー語は対応できない」

「ええっ、このサプリとても高かったのに、捨てるなんてもったいない」


 ガックリと肩を落とす七海を、小さいおじさんは心配そうに見つめている。

 しかし恵比寿青年は事務的に話を続ける。


「このサプリの他に、買わされたモノはありますか?」

「今私が使っている温熱敷き布団と布団一式、40万円もしたわ」

「では天願さん、それを持ってきてください」

「ええっ、今使っているお布団はよく寝れるし、ちょっとコーヒーこぼして汚れているし、お気に入りの布団を持って行かれたら困る」

「……なるほど、品質の良い布団なのですね。それは返品できないな」


 結局七海が健康食品健康器具に費やしたお金。

 ==============

 ・怪しいサプリ 20万円(賞味期限切れ インド製)

 ・高いお布団 40万円(使用中)

 ・怪しい浄水器 50万円+フィルター代10万円

 ===============

 金が取り戻せたのは、怪しい浄水器の買い取り35万円だけ。

 そしてこれから七海は、恵比寿青年の『貧困脱出マネー講座』を受けることになる。


「ところで天願さん、君はこの封筒の中身、浄水器を買い取ってもらった三十五万円をどうするつもりだった?」

「ちょっと洋服買ったりプチ贅沢した後、残りは一番借金の大きな奨学金返済をするわ」


 中古の浄水器を三十五万円で売ってくれた恵比寿青年には感謝だが、その金の使い道は七海が自分で考える。

 しかし七海の答えを聞いて、恵比寿青年は大げさにため息をつく。


「リボ払いより奨学金返済を優先するって……君は本当に金融知識が無い。今のままだと、どれだけ働いても生活は苦しいままだ」

「奨学金は350万円も借りているから、先にそっちを減らした方がいいでしょ?」

「とりあえず君はどこからどれがけ金を借りているのか、全額書き出してもらおう。話はそれからだ!!」


 恵比寿青年はそう言うと、テーブルの上に置かれていたダイレクトメールの束を七海の間の前に置く。

 実は七海自身、毎月のローン支払いがいくらなのか把握していない。

 目の前の恵比寿青年に睨まれながら、七海はカードローン会社のダイレクトメールの仕分け作業をする。

 その結果……。


「ちゃんと計算したの初めてかも。えっと毎月の支払いは、奨学金が50000円でカードローンA,B社は2万円。C,D社が1万円で、ひと月11万円借金払いしている」

「君はこの借金を、いつまでに払い終わるつもりだ?」

「カードのリボ払いは月1万円だから楽だけど、奨学金の借金の方が大きいし」

「君は、カードローンのリボ払い利息がいくらか分かっているのか?」


 七海は慌ててダイレクトメールを広げると、砂粒ぐらい小さい文字で書かれた説明文に、年利15パーセントと書かれていた。


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