第1話
俺の周りを覆っていた靄が晴れると…
草むらに居た。
片手には『実践魔術教本』を持っている。
ここはどこだ???
異空間と本には書いてあったが…
異空間というより異世界か??
周りを見ると何軒かの家が見える。
ちょっとした集落だ。
しかし、家の感じは何か変だ。
昔の日本の民家に見えるがどことなく違う。
何人かの人影が見えた。
顔つきは日本人のようだが…
服装は江戸時代の日本の服のようで、どことなく違う。
俺は話しかけてみた。
「こんにちは」
彼らは不思議そうな顔でこちらを見る。
「ここはどこですか?」
更に不思議そうな顔で俺をマジマジと見てくる。
「○×☆★…」
全く理解不能な言語で彼らは話し合っていた。
日本語が通じない…。
嘘だろ???
そして彼らは民家の方へ戻って行った。
近くの山を見てみる。
なぜかハゲ山で最初は気付かなかったが、山の連なりで近所の山だと分かった。元の世界ではハゲ山では無かった。
んで、草むらは多分、俺のアパートが有った場所だろう。
少し山の方に向かうと川があるはずだ。
確かめるために山の方に向かった。
案の定、川はあった。
ただ、俺が居た世界では土手があったが土手はなく自然な形を残したままの川だ。流れも速い気がする。
どうしようも無いので俺は集落に向かった。
すると…
いつの間にか俺は住民に囲まれてしまった。
服装も違うし、言葉も通じない。
怪しいんだろうな。
どうなるんだろう…
どうやって逃げよう?
と…考えていると住民達が一斉に俺に襲い掛かってきた。
…しかし、住民達は思いの外、力が弱い。
例えるなら、幼稚園児が襲い掛かってきてる感じだ。
実際、背丈もかなり低い。
簡単に突破できた。
元の世界に戻る為、最初の草むらに戻り、もう一度瞑想し異空間の扉をイメージする。
…全く変化無し。
やはり、あの魔方陣と正確な方位が必要なようだ。
元の世界に戻るには最低でも巨大な紙と方位磁石、定規、マジックか筆が必要だ。どれも現段階では揃えれそうにない。
どこも行くあてはなく…途方に暮れた俺は集落に戻った。
今度は襲いかかっては来なかった。
俺に対する怯えの表情が見て取れる。
俺は日本語で「助けてください!!」
と叫んだ。
すると、集落の長老らしき人物が俺に話しかけてきた。
言葉はまるで通じないが…どうやら泊めてくれるっぽい。
そしてしばらく長老の家で厄介になることになった。
朝から昼下がりまで畑仕事。
畑仕事が終わった後は集落の男達は剣の素振りや、訓練をしていた。
…が、俺は畑仕事が終わった後は剣の訓練には参加せず、自分の食い扶持分の畑を新たに開墾したりしていた。
なぜかこの世界では、俺は異様に力がある。
土もかなり柔らかい上に石も簡単に砕ける。
土木工事の現場で働いていたこともあり、開墾するのはお手の物だ。
剣の訓練に参加しない理由はもう一つある。
俺は中学高校と剣道部だった。
その俺から見た彼らの剣術は異様だ。
構えからしてバットを振るかのような構え。
これが彼らの剣術の基本だ。
剣道とは根本からして違う。だからこそ参加するのは余計に嫌だった。それに俺は39才。この集落では高齢者に分類されるだろう。
だから、彼らも俺に剣の訓練に参加を強制することは無かった。
一方、魔術の方は『実践魔術教本』の付録の小さな魔方陣の上で簡単に召喚できるようになり、その召喚した使い魔は、俺や外の人間にもはっきりと可視化できるようになった。
そんな暮らしが一年程続いた…。