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第八章 結末

 天界への次元の扉の先は白を基調とした装飾で囲まれた、宮殿のような場所へと続いていた。

 そこには玉座があり一人の男が座っていた。

 男は白い服装に身を包み、その上から更に白い鎧を身にまとっていた。

 一人しか居ないその場所は白く明るいはずなのにどこか暗い雰囲気だった。

「君が来るとはね……」

 男が言葉を発した。

 その男を俺は知っていた。

「天族の長が自らお出迎えとは恐れ入ります」

 天族の長ラファエルはここに次元の扉が開くと予想していたのだろう。

 だがそこから訪れる者は予想と違ったようだった。

「昔、ミカエルがいや美香だったか。美香が連れて来た子だね?」

 俺は父さん母さんに連れられて一度謁見した事があった。

 母さんの兄だから一応書類上は伯父という事になるのだろうか。

「もしや君が魔王を倒したのか? 倒すとしたら勇者だと思っていたよ」

 驚いた様子だったが予想していなかった訳では無いだろう。

「それで今日はどういった用件で訪れたのかな?」

「娘さんをください」

 俺はここで重要な事を述べた。

「ハッハッハッ! 君は面白い男だね。……少し話をしたくなったよ」

 俺は正直な所この男の事をあまり知らない。

 俺も話をしたかったのだ。

「君はどこまで分かっている?」

「俺は師匠の、勇者の記憶を受け継いだ。ほとんど全て分かっている。だがどうして貴方が魔王の封印を解いたのかは分からない」

 そしてラファエルは語りだした。

「君は天使とあった事があるかい? 何でも願いを叶えてくれる天使に。僕はあるよ、夢の中だけどね」

 俺は似たような経験をしていた。

「ある者は敵を求め戦い続けるのが願いだったそうだよ。そして最後には敵に倒される事を願うようになった」

 魔王に良く似ているな。

「またある者はずっと同じ時間を繰り返し失敗をやり直したそうだよ。そして失敗と成功の違いが分からなくなった。どちらも同じ意味の無いものになってしまったそうだよ」

 勇者の事だろうか。

「僕は争いの無い平和な世界を願ったよ。そして争いの無い世界では人々は堕落し衰退してしまった。平和が平和と感じれなくなったんだね。……最後は争いを求めていたよ」

 そんな理由か。

 人は争いに慣れ、成功に慣れ、平和に慣れた。

「理由は分かったが俺には分からない感情だな」

 それが俺の答えだった。

「機械には難しかったかな。でもそれで良い。魔王を倒すことが出来るほどの力を持った者だ。君が何時か新しい答えを見つけてくれる気がするよ」

 ラファエルは俺に近づいてきた。

「本当は僕を討ちに来たんだろう? だからといって僕は簡単に討たれるつもりは無いよ」

 ラファエルのその言葉を合図に他の天族達が俺を囲んだ。

 ここまでは予想通りだが、すこし数が多い。

「君はちょっと無理をしすぎなんじゃないかな?」

 だがこちらにも頼りになる援軍が居た……蒼人だ。

 多分時の魔法を使い、次元の扉を閉じる前に天界まで付いて来ていたのだろう。

「天族の長は俺に任せてくれないか? 蒼人はまわりの天族を抑えてくれ」

 俺は一対一でやりたかった。

 俺の最後に出来る事になるかもしれないからな。

 それに蒼人なら一人でも全てを相手にできるだろうしな。

「……分かったよ。最後は僕が全てなんとかしてあげるよ」

 蒼人は俺の事が分かっているようだな。

 本当に全てを知っているようで怖いが頼りになる奴だよ。



 俺は魔王が使用していた魔道具の腕輪で結界を張った。

 俺とラファエル二人のだけの空間が黒い球体上の結界で囲まれた。

「ふむ。僕は確かに強くは無いが……宝具はそうではないよ」

 ラファエルは宝具を召喚した。

 見覚えのあるそれは魔王の持っていた槍だった。

「宝具グングニル。そして……」

 まだあるというのだろうか?

 初めから来ていた鎧も宝具だろう、そして魔王の使っていた槍。

「宝具イージスの盾。僕専用の面白い盾だよ」

 最後に盾が召喚された。

「俺も宝具を使わせてもらう」

 俺は赤い剣を召喚した。

「君はその剣を使いこなせるのかい? 使いこなしたとしても僕には勝てないと思うけどね」

 衝撃波までとは行かなくても何でも斬るくらいなら使えるはずだ。

 そして俺には烏がなかった。

 あったとしてもこの狭い空間では簡単に壊されたかもしれないし、周りに配置しようにも黒いその姿はここでは目立ちすぎ他の天族にすぐに壊されただろう。

 これで俺は視覚共有と仮想画面が使えない。

「さぁ、話し合いは終わりだよ。決着をつけようか」

 深紅の時とは違い、きちんと話し合いができた。

 性格はあまり似てないが最後は力ずくという事は同じだな。

 俺は先に仕掛けた。

 まずは氷の槍での攻撃をする。

 防御障壁の範囲と威力を知る為だ。

 牽制のつもりだったが、思わぬ反撃を食らってしまった。

 ラファエルは盾を氷の槍に当てるとそれは俺の方へ向かって飛んできた。

 俺はそれを回避する事は出来たが、驚きの表情を隠せなかった。

「この盾は魔法吸収し、それを反射する。それがたとえ宝具の力だろうともね。面白い力だろう?」

 これは多分、本当はレーヴァテインに対抗する為の物だろう。

 これで俺は迂闊に魔法も使えないし、盾を封じてから攻撃しなければならない。

 鎧の障壁もあると考えると、攻撃は宝具の剣で行わないと効果も期待できない。

 時の魔法で最高のタイミングで攻撃はできるだろう。

 しかし障壁を停止時間中に超える事はできない。

 盾の防御と槍の攻撃は最低でもなんとかしなければいけないな。

 残る手札は分身ゴーレムだが自分と全く同じ物を一人か、複数人出す場合は力がその分均等に割られてしまう。

 十人なら一割ほどの力しかだせず、それだと陽動にすらならないだろう。

 俺は分身を三人だした。

「君は本当に何でも出来るんだね。……でもそれに力が伴っていなければ意味は無いよ」

 俺の分身は力があまり無い事を見抜いたのだろうか?

 それでも俺は戦いを挑んだ。

 俺はラファエルに勢いよく近づき、時の魔法で最適と思われる位置から攻撃を仕掛けた。

 まずは分身が二人で攻撃を仕掛けるが槍になぎ払われ、盾で弾かれた。

 そして自分と分身の二人で攻撃する。

 ラファエルはそれに反応してみせた。

 自らを弱いと言って置きながら、それは魔王並みの反応速度だった。

 一人は槍に体を貫かれてしまったが、そのまま槍に突かれながら進みラファエルの手を押さえる。

 もう一人はレーヴァテインで攻撃を仕掛けるが盾で防がれる。

 盾と剣が激しくぶつかり合う。

 何でも斬る剣と何でも跳ね返す盾、その矛盾の結果は何も起こらず盾の勝利といえた。

「この盾はその剣に対抗する為に作った物だからね。そして君の分身は力が足りないようだね」

 分身は確かに力が足りない……が自分自身はそうではない。

 槍に貫かれていた俺はもう一つの宝具黒い剣を召喚し、ラファエルの盾を持つ手を斬り裂いた。

 俺は続けて槍を持つ手も斬り裂いた。

「ぐっ! ……機械の君には死という概念がなく、恐怖という概念もないのかな?」

 ラファエルはもう力がないのだろう、盾も槍も消え去り最後に鎧も消え去っていた。

「死というものは知っている。そして怖い事もあるが……それは槍に貫かれる事ではない」 

 俺は貫かれた場所を手で押さえながらそう言った。

 だがもう話す時間すらあまり残されていない。

 そしてラファエルは最後の望みを言った。

「……できれば魔王と同じ倒し方をしてくれるか? 戦い続けた彼は僕の理想だったんだよ」

 師匠の記憶で俺は知っている。

 魔王は平和を求め、ラファエルがしていた事が理想だった事を。

「俺は魔王の胸をこれで突き刺した……」

 俺は黒い剣を手に取った。

「そうか……僕の力はやはり魔王には届いていなかったか……」

 ラファエルは苦痛に顔を歪めるというよりは悲しい表情をしていた。

 だが魔王はレーヴァテインを異常に警戒していた。

 あの剣無くしては勝てなかっただろう。

「いやきっと届いていたよ……」

 俺が最後にそう言ったのを聞いてラファエルは笑ったような気がした。

 そして俺はラファエルに剣を突き刺した。

 ラファエルはその場に倒れ動かなくなった。

 これで全て終わったはずだ。

 何とか間に合ったようだ。



 そして俺は結界を解いた。

 周りには天族達が倒れており、蒼人が笑って迎えてくれた。

「魔王のゴーレムの方がまだ強かったよ。君も勝ったようだし、これで終わりだね」

「そうだな……」

 蒼人はこれだけの天族を倒してまだ余裕がある感じだった。

 そして俺はまた次元の扉を開き帰ろうとするがそれは出来そうになかった。

「ここまでかな……」

 俺は力の限界が解かれリミッターが外れたような状態で動いていた。

 俺はその場に倒れこみ、手足が黒く変色し灰となって散っていく。

「君は無茶しすぎなんだよ!」

 蒼人が駆け寄ってきた。

 多分初めからこうなる事に蒼人は気付いていたのだろう。

 そして蒼人の時の魔法は生物以外の時間を戻し直すことが出来る。

 この為に蒼人は天界まで付いて来たに違いなかった。

「本当は使いたくない……でもやるしかないよね」

 蒼人は一瞬迷った。

 俺も本当はこの事が一番怖かった。

 死ぬことでは無く直されることが本当に怖かった。

 直せるという事は俺が、真紅朗が人ではないという事だ。



 蒼人は……時の魔法を使った。




 人間界の学校に取り残された冥子と深紅。

「蒼人は上手くやっているかしら? 上手く行ってなかったら今度は平手じゃ済まさないんだから!」

「蒼人ならきっと大丈夫よ。そして真紅朗も……ね」

 冥子と深紅は俺たちの事を心配していた。

「真紅朗はやっぱり機械なのかな?」

 深紅が冥子に質問した。

 どうしても信じたくなかったのかもしれない。

「真紅朗はこれまで人に言われた通りに行動してきた。機械を使い、ゴーレムを使い、宝具を使い、魔法を使い、最後に自分の分身まで作り出した」

 これは全て人の模倣。

 人が辿ってきた道だった。

「真紅朗は人になる為に人に作られた。そして自分で結論を出した事は今まで無かったはずよ。でも今は違う。誰に言われたからでもなく魔王を倒し、天族の長の元へ向かった」

 冥子も深紅と同じ気持ちなのだろう。

「きっと真紅朗は人以上に……人だと思うわ!」

「そうよね、真紅朗はきっと人だよね……」

 言葉はおかしかったがそれがあっているように冥子も深紅も思えた。

「それにしても真紅朗の奴、最後に死亡フラグみたいな事を言って行くとかどこで覚えたのかしら!」

 冥子は怒っていた。

「せめて私の返事くらい聞いていけば良いのに……」

 深紅は不貞腐れながらそう言った。

「返事の内容はどうだったのかしら?」

 冥子が興味ありげに質問する。

「それは……真紅朗が帰ったら直接言うわ!」



 そして外には烏がとんでいた。烏は「何」の使いだろうか?



 魔王が再び現れそして討たれた事、またそれに天族の長が関わっていた事は一般の人々には伏せられた。

 争いの種をわざわざまくことはないからだ。

 勇者はこれまでも伏せられていたので問題にはならなかった。

 魔王はなぜ手の内を明かすような事をしたのだろう?

 天族の長はなぜ娘に最強の宝具を持たせて送り出したのだろう?

 勇者はなぜ最後まで全力を出さなかったのだろう?



 世界は緩やかに変っていった。

 三つの種族が力を合わせ新しい技術を作り出したのだ。

 機械に魔族のゴーレム、天族の宝具、人間の魔法を使い、人とほぼ同じ機械を作り出した。

 最後に時の魔法を使った場合、人とまったく全く同じになった。

 その為、時の魔法が使用されることは……無かった。

 だが新しい可能性は示された。

 人にできない事は無い。

 願いは叶えて貰うものではなく……自分で叶えるもの。

 そしてその叶えようする事自体が、本当に必要な力なのではないだろうか?




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