表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

第七章 変革

 見覚えのある扉がグラウンドに現れた。

 ただその大きさは小さかった。

 そして世界で一番有名な人物がそこから現れた。

 教科書にも載っている大罪人……魔王その人だ。

「久しいな、あかり……」

 魔王は師匠に話しかけた。

 やはり師匠は勇者だったのだろう。

 それよりも何故魔王がここにいてどうして生きているのかが気になった。

「久しぶりね、魔王。再会を喜ぶべきかしら?」

「俺は……お前に会いに来たのだ……」

「そう? 私は会いたくなかったわ」

 魔王と師匠は睨みあっていた。

「貴方には見張りがついていたはずだけど?」

「そいつならここにいる……」

 次元の扉から魔王のゴーレムだろうか、鎧を着込んだそれに魔王と似たような黒い衣装の男が運ばれてきた。

 そして師匠の前に男は投げられた。

 それは父さんだった……。

 父さんはピクリとも動かず倒れたままだった……これが死というものだろう。

「父さん!」

 俺は叫び傍に寄ろうとするが師匠に制止される。

「……貴方がやったの?」

 強い口調で師匠は質問した。

「いや、こいつの持ち主がやった事だ」

 魔王はそう言って槍を召喚した。

 天族しか使えないはずの宝具を召喚したのだ。

「嘘! あれは父の……」

 深紅が信じられないという感じで叫んでいた。

 天族の長の持ち物なのだろうか?

「そういうこと……ラファエルが封印を解いたのね」

 師匠は全てを悟ったようだ。

「まぁ、こいつは俺が倒したがな」

 次元の扉からまた同じ様にゴーレムが現れる。

 今度は白い鎧を着た女が父さんの隣に投げられた。

 多分天族と思われた。

 そしてその顔は良く知った者だった。

「母さん……」

 俺は地面に両膝をついてしまった。

 俺は死というものを二度続けて感じ取ることになった。

「美香までも……御免なさい。私が甘かったわ……」

 師匠は悲しい表情をしていた。

 師匠のこんな顔は今まで見たことが無かった。

「蒼人! 皆を連れて逃げなさい。私は魔王の相手をする!」

 その言葉と同時にグラウンドの周りの観客席ごと黒い球体に囲まれてしまった。

 多分魔族の結界だろう。

 そして次元の扉はいつの間にか消えていた。

「逃がしはしない。これで邪魔者も入らない。お前を倒す事で過去の汚名を返上し、再び魔王

として君臨しよう……」

 魔王はいくつものゴーレムを召喚した。

「蒼人、皆を頼むわね。下がって自分達を守る事だけを考えなさい!」

 師匠、いや勇者と魔王は再び戦う事になった。



 魔王はこれまで死んだのでは無く、封印されていたのだろう。

 そしてそれを父さんと母さんが守っていた。

 ここ最近魔界に行っていたのも何か問題があったからなのだろう。

 その問題とは天族が封印を解くかもしれないという事であったのだろう。

「どうして父が? 天族の意思だとでも言うの?」

 深紅は泣き出しそうな顔をしていた。

「真紅朗……謝って済むことじゃないけど御免なさい。私の父が貴方の父を……」

「深紅は知らなかったのだろう? 責任は無いよ、気にしないで……」

 俺はそれ以上は何も言えなかった。

 俺自身がこの信じられない光景を理解していなかったからだ。

 いつの間にか俺の両親は冥子のゴーレムによってグラウンドの端の方へ移動されていた。

 師匠と魔王の戦いはどれほどの物になるか分からないので、これ以上傷つくことの無い様にする為の配慮だった。

 そして俺達が話している間も師匠と魔王は戦っていた。

 師匠はゴーレム達の隙間をかいくぐり、魔王へ直接攻撃を入れようとしていた。

 師匠はその直前で時の魔法を使い死角へ回り込み攻撃する。

 魔王はその攻撃を回避した。反応できるはずも回避する時間も無かったのにだ。

 あれは……時の魔法だった。

「どうして魔王が時の魔法を使えるの?」

 冥子が蒼人に言った。

「僕にも分からないよ」

 蒼人も知らないようだった。

「宝具を召喚した時にまさかとは思ったけど、封印されている間にいろいろ研究したようね」

 師匠が魔王にそう言った。

「する事が無かったからな。宝具を召喚することは出来るがあまり力は引き出せない。……障壁が破れればそれで良い。時の魔法も少し時間を止めるだけだ。攻撃を回避するにはそれで十分だがな」

 魔王は自慢するかのように得意げに話した。

 これは余裕かそれとも別に何か理由があるのだろうか?

 そしてどこかで聞いた事がある能力だった。

「まるで真紅朗みたい……」

 深紅が呟いた。

 俺が魔王と似ているのか、魔王が俺に似ているのか。

 ……考えたくも無い事だ。

 そして師匠と魔王の戦いの決着はその後にすぐについた。

 先ほどと同じ様に師匠と魔王が交差する時、魔王の槍が師匠を貫いていた。

 蒼人以上の魔法が使えるはずなのに、師匠はなぜか使わなかったように見えた。

「フッ、手加減とは恐れ入る。それで倒されてしまっては意味は無いと思うがな」

 魔王は槍を大きく振り師匠を俺達の方へと投げつけた。

「師匠どうして? どうして本気で戦わないんです!」

 師匠は貫かれた胸に手を当てながら答えた。

「私は過去へと戻る時の魔法をもう使わないと決めていてね。少し早いが後はお前達にまかせるよ……」

 師匠は俺の前に手を当て、何かの魔法を使った。

 俺は…………忘れていた事を思い出した。

 魔族の歴史、天族の歴史、そして勇者と魔王の二人が歩む事の出来た別の未来の事。

 師匠のこれまでの事を俺は知っていたが思い出せないようになっていた。

 最後に俺は力の制限を掛けられていた事も分かった。

 そしてそれが解かれたことも。

「これで力を限界以上に使う事ができるだろう。……まだ経験が浅くその力をどう使えば良いか分からないだろうがお前ならきっと上手く使える。仲間もいる事……から、な……」

 師匠は動かなくなってしまった。

 俺の大切な人がまた一人居なくなった……。

「俺はお前達に興味は無い。見逃してやろう」

 魔王はそう言っていたがそうもいくまい。

「お前に興味は無くても俺にはある。父さん母さん、そして師匠を殺されたんだ!」

「ならばお前も同じ所へ送ってやろう」

 俺と魔王が対峙する。

「真紅朗一人でやらせる訳にもいかないわよね」

「僕が変りに倒してあげるよ」

「私も手を貸すわよ!」

 皆も一緒な気持ちだった。

 そして冥子のゴーレムが俺の両親と同じ様に師匠を運んでいった。

 今は悲しむ事も弔う事も後回しにするしかない。

 それ以外に俺は復讐心もあったが、それよりももっと大切な事が分かった。

 これからどうすれば良いか全てが分かった。

 まずは魔王を倒してからになるが。

「真紅朗君とはこれでさよならだね」

「真紅朗さんはもう道に迷う事はないでしょう。たとえ迷ったとしても私達以外が導くことでしょう」

 そしてずっと傍に居た黒江と真白の姿は消えてしまった。

 二人の事はずっと気になっていたが今はそれどころではなかった。



 俺の烏は不幸中の幸いで魔王の作り出した結界の中に居た。

 これで視覚共有に仮想画面も使う事ができる。

「俺と蒼人で魔王を狙う。冥子と深紅は魔王のゴーレムを抑えてくれ!」

 俺と蒼人は時の魔法を使い一気に距離を詰める。

 そして俺は氷の槍を蒼人は炎の玉を無数に作り出し攻撃する。

 さらに見えない雷でも同時に攻撃する。

 俺は普段以上の力が出せ蒼人と同じ位の魔法を使う事ができた。

 ただ時の魔法だけは今までと同じ力しか使う事ができなかった。

 師匠が力を使わなかった事に関係しているのだろう。

「児戯だな」

 魔王は自身の周囲にすぐにゴーレムを召喚し氷と炎を防ぎ、見えない筈の雷は槍を避雷針として防いだ。

 その間も俺と蒼人にゴーレムが襲い掛かり、俺達は吹き飛ばされた。

「ぐはっ!」

「くっ!」

 俺と蒼人は苦悶の声をあげる。

 なんとか致命傷だけを避ける事で精一杯だった。

 これが……魔王の力か!

 俺は烏との視覚共有で全てのゴーレムの動きが分かったが、圧倒的な情報量の把握だけでなくその操作量が半端じゃない。

 魔王のゴーレムが抑えられないのは冥子の力が足りない訳ではない。

 冥子は魔王の全てのゴーレムに対応していたが、召喚されてすぐの物にはどうしても対応が遅れる。

 かといって深紅のせいともいえなかった。

 剣の対策を知っているのか魔王のゴーレム達は盾で受け流すようにしていた。

 これは俺が立てた作戦が悪かったと言えよう。

「魔王のゴーレムはほぼ無限に出てくる。バラバラに戦っても駄目だ! 固まって一斉に攻撃を仕掛けるしかない!」

 俺は皆に次の作戦を伝えた。

「見えているゴーレムは私が何とかするわ!」

 冥子が叫んだ。冥子は魔王のゴーレムを抑える事が出来るかもしれないが長くは持たないだろう。

 先ほど魔王が咄嗟に召喚したゴーレムは四体。

 雷を自らの槍で防いだ事からもそれ以上は出せないと予想できる。

「一人二発は頼む!」

 俺は蒼人と深紅に頼んだ。

 最後の一撃は誰になるかは魔王次第だ!

 魔王までの間に居るゴーレムの全てを冥子が土のゴーレムで押さえ込む。

 その隙に俺達は魔王に向かって走りこむ。

 魔王の背後には蒼人と深紅が回り込んでいた。

 蒼人の時の魔法で深紅を移動させたのだ。

「はぁぁぁ!」

 深紅の叫びとともに宝具レーヴァテインが魔王を襲う。

 魔王はゴーレムで剣を受け流し、また別のゴーレムで深紅を攻撃する。

 深紅は宝具の鎧に守られていたがダメージを受け吹き飛ばされた。

 これで残りのゴーレムは二体。

「師匠の仇を討たせてもらう!」

 蒼人は深紅と同時に炎で攻撃する。

 魔王はそれをゴーレムで防ぎそのまま蒼人に向かって行く。

 また別のゴーレムが別の角度からで蒼人を攻撃する。

 蒼人は魔法の防御障壁で耐えるが、二体のゴーレムに挟まれ動きを封じられた。

 これでゴーレムは残っていない。

 ゼロのはずだ!

「止めだ!」

 最後に俺が魔法をこめた殴打を魔王に叩き込もうとする。

 当然のように魔王は俺を槍で薙ぎ払う。

 だがそれは仮想画面でその後から更に赤い剣で斬りかかる。

 どこにでも瞬時に出せる宝具の力で俺は深紅のレーヴァテインを受け取っていた。

 それすらも魔王は反応する。

 魔王のゴーレム達が使っていた槍を、いつの間にかもう片方の手で持ち俺を貫いた。

 本当の最後に……俺が魔王に黒い剣を突き立てた。

 そして二度目に槍で貫かれたのは俺の作り出した分身ゴーレムだった。

 俺は仮想画面、分身ゴーレム、自分自身という三段構えで突っ込んだのだ。

 魔王が見えない物に反応できるは雷の攻撃で分かっていた。

 だが俺はゴーレムと宝具を使える事を隠していた。

 時の魔法を使う俺達は人間にしか思えなかっただろう。

 そして俺は今まで以上の力が使えるようになった為、分身ゴーレムですら魔王の結界防御障壁を破る程度だがレーヴァテインを扱う事ができたのだ。

 時の魔法は後出しが勝つ。

 その事を最初の交戦で俺達が分かっていないと思わせそれを切り札にした……と思わせる。

 裏の裏を書いたつもりだが、お見通しだったようだ。

 最後の戦いは最強の時の魔法を両者とも使わずに終わった。

 だがまさか最後に二度動いてくるとは思わなかった。

 魔王は最後に六回の行動を起こしていた。

 そして俺は冷静に今の戦いを分析していた。

 いつもの情報収集と分析だ。

 ……だがこれは悪い癖だったようだ。

 俺は剣を刺した事で警戒を緩めてしまったいた。

 魔王は宝具の槍を深紅に向かって投げていた。

 止めを刺した俺に攻撃しなかったのは、槍が近い者を攻撃するのに向かなかったからだろうか?

 もしくは最後まで天族と戦いたかったのか?

 それは魔王にしか分からない事だった。

 3 蒼人は動きを封じられたままで、魔王の攻撃に気付いていない。

 2 冥子はゴーレムの相手だけで、手が話せない。

 1 深紅も吹き飛ばされたままで、攻撃を回避できるか分からない。

 俺は槍と深紅の間に入った。俺が使える時の魔法では自分以外動かせないからだ。

「止めはきちんと刺しておくものだ……」

 そして魔王は力尽き地面に倒れこんだ。

 同時に魔王のゴーレムと周りを囲んでいた結界は消えさった。

 深紅がこちらに振り向き槍に刺された俺を見ていた。

 深紅まで槍は届かなかった事が何よりだった。

 深紅のその白い鎧は名前の通りの色に染まる……事は無かった。

 魔王の宝具の槍も遅れて消え去った。

「真紅朗……その体は……」

 深紅が理解できないといった顔をしていた。

 俺に血は流れていない。

 ……機械だからな。

 俺の脇腹の肉が槍で切り裂かれ、傷口からは機械と思われる部品が見えていた。

「深紅、大丈夫か?」

 俺の傷は浅くは無いが機械にとっては大したことは無い物だった。

「真紅朗は……阿門さん美香さんそして片桐先生が機械を元に生み出したの……」

 冥子が深紅に説明した。

「真紅朗こそ大丈夫なのかい?」

 蒼人が俺に話しかけた。

「傷は大丈夫だよ」

 魔王から受けた傷……は大丈夫だ。

「真紅朗……」

 深紅はまだ混乱して理解できないようだった。



 俺は魔王の持ち物を調べある物を探していた。

 そして魔王から腕輪をはずし自分の腕につけた。

「真紅朗? 何をしているの?」

 冥子が俺に質問する。

「多分これで次元の扉が開ける。……天界へと繋がる扉を開けるはずだ」

 俺にはまだやらなければならない事があった。

「そんなにすぐに行かなくても対策を考えた方が良くないかな?」

 蒼人はそう言ったが俺にはあまり時間が無かった。

「どうしてもすぐに天族の長に会いたくてね。……深紅、悪いが君の父を討つ事になる」

 余裕があればこんな事をした理由を聞くがそれは多分無理だろう。

 そしてどんな理由だろうと許せる気がしない。

「……分かったわ。私も一緒に行ってこの手で……」

 深紅は覚悟を決めたようだ。

「悪いけど一人で行かせて貰うよ!」

 俺は天界への次元の扉を開き、皆の静止が入る前に行動した。

 そしてこういう時に言うとっておきの言葉があった。

「冥子、蒼人行って来るよ。……そして深紅! 戻ったら結婚しよう!」

 俺は次元の扉に入り天界へと向かいそしてまたすぐに扉を閉じた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ