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第六章 人間の勇者

 小さな子供達がたくさん居た。

 あまり広くは無いが狭くも無い敷地の中で楽しそうに遊んでいる。

 皆で一緒に起きてご飯を食べ遊ぶ。

 そしてまた一緒に寝る。

 全員が一緒に住んで生活をしていた。

 ……ここは孤児院だった。



 裕福では無かったかもしれないが不幸でも無かった。

 親は居ないが親代わりは居る。

 きちんとした教育も受けられ不自由は無かった。

 ただ本当の家族は居なかった。

 いずれ一人になるその事だけは覚悟しなければいけなかった。

 高校生になる女の子が一人、この先の事を考えていた。

 進学する事もできるし、働く事もできる。

 選択肢がありすぎて迷う程だった。

 そんな時に天界より次元の扉が開いた。

 人は魔法の力に目覚め、その強大な力に困惑した。

 次元の扉は当初存在が伏せられたが、人々が使えるようになった魔法の力に比べたら些細なことですぐに情報が開示された。

 ただその扉の先がどうなっているかは分からず周辺地区は封鎖されたままだった。

 高校生の女の子……片桐あかりは魔法の才があった。

 その力をあっという間に使いこなし、新たなる選択肢が増えることになる。






「汝の願いを何でも叶えよう」



 女の子が言った。話した内容を考えると神様かもしれないと思えた。

「ただし、汝が死んだ時に魂を貰う事になる」

「何でも叶えるって本当なの?」

「我は嘘はつかない、我を信じよ!」

「私が生まれる前の事を知りたい! 私の知らない全ての事を知りたい!」

「それは難しい。汝の魂とは釣り合わない」






 あかりは魔法の特訓をした。この魔法の力ならできない事は無い。そう思うことが出来たからだ。

 あかりが時の魔法を使う事が出来るようになるまで、それほど時間は掛からなかった。

 始めは時を止めることが出来るようになった。

 時を止めている間に物を動かすことが出来るようになった。

 物の時間を戻したり進めたり出来るようになった。

 そして……自分の時間を戻せるようになった。

 自分の過去へと戻れるようになり、同時に周りの時間も戻っていた。

 生まれる前には戻ることはできなかった。

 だが生まれた瞬間に戻ることで両親を知ることができた。

 あかりは捨てられたようだった。

 よくある話だ。

 それ以上知りたい事も無く、今まで通り一人で生きて行くだけだった。



 自分の過去を知り次はこの魔法の力を知りたくなった。

 人々が魔法を使えるようになった時とほぼ同じくして次元の扉が開いた。

 まず間違いなく関係しているだろう。

 あかりはその発生した時を確認することにした。

 発生してすぐに見慣れない格好をした二人が扉から現れた。

 警戒をしつつも話しかけ情報を得ることができた。

 面倒だったが人間界の政府関係者に事情を説明する事を薦めた。

 そしてその二人から助力を求められたのだった。

 あかりは時の魔法により誰よりも強力な魔法を使えると分かっていた。

 訓練する時間は無限にあったからだ。

 放って置いたら後々人間が困ることは分かったので協力することにした。



 人間界より魔界へ次元の扉が開かれた。

「久しぶりの魔界だ……」

「アモン、懐かしんでる暇は無いわよ。今こうしている間にも戦争は続いている」

「そうねミカエル。さっさと終わらせましょう」

 三人は足早に魔王の居る城へと向かった。

 道中はアモンの計らいにより争い事無く進むことが出来た。

「アモンって魔族でも地位のある人だったのね」

 ミカエルが驚いたような感じで話した。

「こう見えても魔王の右腕として働いて居たんだよ。魔王が強すぎて傍で立っていただけだがな」

 アモンは自慢げに話していた。

「右腕でこれなら魔王もそんなに強くないのかもね」

 あかりが笑いながら話した。

 だが笑っていられたのは少しの間だけで魔王と対峙した時に笑いは失われた。



 魔王の城にある一番大きな広間で三人と魔王は対峙していた。

 そこには他に誰も居ない。

 構造物は強固な結界で守られ、多少の攻撃では壊せないだろう。

 魔王はここで雌雄を決するつもりのようだ。

「遅かったな、アモン」

「これでも急いだんだがな」

「それでどちらが相手をしてくれるんだ?」

「ルシファー……本当にやるのか? 今なら和平の道もまだ残されているはずだ!」

「それは無い。もし俺が倒される事があれば後はお前の好きにするが良い」

 魔王の決意は固かった。

「私の名はミカエル! 天族を代表して相手をするわ!」

 ミカエルは赤い剣と白い鎧の宝具を召喚した。

「やはりお前が相手となったか……城は壊しても良い、全力で来い!」

「そんな無駄な戦い方はしないわ、きっちり貴方だけを斬ってあげる!」

 ミカエルは魔王へ向かって走り込む。

 その間には魔王の召喚したゴーレムが立ち塞がる。

 ゴーレムは鉄だろうか、一体一体が鎧を着込んでおり防御力が高そうでまるで重装歩兵のように思えた。

 だがミカエルの剣に斬れない物は無い。

 手前のゴーレムに頭上から剣を振り下ろす。

 しかしゴーレムは剣をまともに喰らわずに受け流した。

 魔族は普通ゴーレムを使い捨てにする。

 また新しいのを作れば良いからだ。

 だが魔王は違った。

 ゴーレムそれぞれが緻密な動きで戦ってくる。

 ゴーレムの強さは堅さで決まる物だが、これは考えを改めるしかない。

 そして一撃で倒せないとすると多勢に無勢、ミカエルは追い込まれた。

「その剣で斬れない物は無いのだろうが、当たらなければ意味が無い」

「くっ!」

 ゴーレムは丸みを帯びた盾と長い槍を持っていた。

 盾で受け流し、槍で突く。

 その長い槍は少数を多数で相手するのにとても有効だった。

「終わりだ」

 包囲され逃げ場の無いミカエルに槍が突き立てられる。

 その瞬間ミカエルの姿は消え去り、いつの間にかアモンとあかりの傍に移動していた。

「ほう?」

 魔王は驚きの声をあげた。

「横槍を入れて悪かったわね」

 あかりが魔王に対してそう言った。

「その者では俺を倒せない。天族ではないようだが、次はお前が相手をしてくれるのか?」

「私は人間界の片桐あかりっていうの。貴方が作った次元の扉のおかげで魔法を使えるようになったわ。御礼をしてあげないとね!」

 あかりは自身ありげにそう言った。

「アモンは天界だけでなく別の世界、人間界まで行ったのか」

「苦労したよ。そしてこの者は強いぞ、多分魔王よりもな!」

「アモンよ、お前の予想ではそこの天族は勝てるのでは無かったのか?」

 魔王がアモンをからかうように言った。

「俺は無理だと言ったんだが聞き入れられなくてね……って、いたた。怪我人は大人しくしろ」

 魔王との戦いで怪我をしていたミカエルがアモンを叩いていた。

「フッ、お前が天族と馴れ合うとはな……」

 魔王はからかうように言っていたが少しだけ嬉しそうだった。

「話しは終わったかな? 私は何時でも始めれるよ!」

「待たせて悪かったな……。それでは始めようか」

 魔王のゴーレムがあかりを襲う。

 同時に魔王は自分の周りに複数のゴーレム達で壁を作った。

 先ほどのミカエルを助けた魔法に対抗する為だ。

 加速の魔法による物だと考え、相手の攻撃に素早く反応しようとした。

 だがそんな壁など意味は成さなかった。

 魔王はあかりをすぐに見失いそして、背後からの攻撃を喰らった。

「がはっ! 一体どうやっているのだ……」

 魔王は何も出来なかった。

 知らないことは分からない。

 対応の仕様が無いのだ。

 魔王は自らをゴーレムと同化させた。

 いままで攻撃を喰らう前に敵を倒してきた魔王には珍しいことだった。

 だがそのゴーレムもあかりによって簡単に壊されてしまった。

 時の魔法で魔王が身にまとうゴーレムの時間を操ったのだ。

「あっても無くても同じだよ!」

 魔王はゴーレムとの同化を解かれ、また攻撃を喰らう。

 攻撃はすべて殴打によるものだったが天族の宝具による物と同じかそれ以上の威力があった。

 魔王は片膝を地面についた。

 同時に戦いの負けを悟った。

「俺の負けだ……。止めをさすが良い……」

 そして魔王に最後の攻撃が加えられた。



 あかりは魔王の頬を左右から両手で引っ張っていた。

「私の勝ちー。魔族は強者に従うんでしょ? 何も死ぬことは無いわ、和平の道を選びなさい」

 魔王は驚いていたが、決心は変らなかった。

「俺にそんな事はできない。殺せ、それですべてが上手く行くだろう!」

「嫌よ! じゃあ死んだ事にして姿を隠しなさい。それでも結果は変らないでしょう?」

「魔王よ、お前は負けたのだ。後は俺の好きにして良いんだろう? 死んだ事にして置くからどこへなりと行くが良い」

「天族は私の方でなんとか誤魔化しておくわよ」

 アモンもミカエルもあかりの意見に賛成のようだ。

「俺の気が変りまた戦争を起こすかも知れんぞ?」

「その時はまた私が止めるわよ」

 魔王が倒れたことはアモンによってすぐに魔族全体に伝えられた。

 はじめは信じない者も多かったが、新しく次元の扉が開いていたこともあり信じざるを得なかった。

 ミカエルの手により天族に魔族の降伏が伝えられた。

 すぐに天族の長ラファエルはそれを受け入れた。

 ここに魔族と天族の戦争は終結した。



「俺はこれからどうすればいい……」

「ずっと城に篭っていたのでしょう? 外の世界を見て回るのも良いんじゃないかしら?」

 魔王にとってはそれが良いのかもしれない。

「そうだな、魔界には居ない方が良い」

「天界も止めた方が良いわ」

「人間界か……」

「え、ちょっと魔王とか迷惑だから来て欲しくないんだけど!」

 あかりは面倒事が増えそうで嫌そうな顔をした。

「まぁ魔王は見張っておいて貰わないとな!」

「そういうわけであかりよろしくね!」

 あかりは拒否する事ができなかった。



 その後、天族が魔族に要求した事は天界に許可無く入るなという事だけだった。

 魔族はそれを素直に受け入れた。

 誰も手出しをできなかった魔王を倒してしまった力を恐れたからだ。

 そして魔族にはこれまでに無かった長い平和が、天族には大規模な変革が訪れることになる。



 あかりと魔王は人間界に来ていた。

「人間界に争いは無いのか?」

「あるよ。でもまずは話し合いでお互いを知る事から始めるんだよ」

「話し合いか……。俺は……お前の事が知りたい」

「えっ! な、何をいいだすんだい?」

 あかりは珍しく動揺していた。顔も少し赤い。

「お前のあの魔法は何だ? いくら考えても全く分からん」

「魔法の事かい!」

「何の事だと思ったんだ?」

「し、知らないよ! 魔法はあれだ、時を自在に操る事ができるんだ!」

 魔王とあかりは少しずつお互いを知る事にした。



 魔族と天族はお互いを知る為、交流を深めることにした。

 場所は人間界。

 人間は魔法の技術を得る為にもこの提案を快く受け入れた。

「魔法学校?」

「そうだよ! お互いを知ることもあるけど技術の交流も図れるわ。できればそこで教師をして貰いたいの」

 あかりにミカエルが相談しに着ていた。

「面倒だから無理! 真雄まおの相手もあるしね」

「真雄って魔王の事? 人間界の名前にしたのね。でも魔王が名前だったの?」

「名前に興味が無い見たい。苗字も白石なんだけど、城で石のように動かなかったからでしかも漢字も間違ってるし適当すぎるよ!」

 あかりは魔法で文字を書きながらミカエルに説明していた。

「じゃあ、片桐にしてあげれば?」

「えっ、はっ? 何を言ってるの?」

「いろいろ噂がですね……」

「それを言うなら貴方も天族と魔族で……」

「ちょっと、それどこから聞いたの!」

 二人はお互いに噂の出所を探りあった。

「……まぁ悪いんだけど教師は無理だねー」

 そして話は適当な所で切られた。



 人間と魔族、天族は子孫を残せることが分かった。

 しかし魔族と天族は無理だった。

 これから先、この事が争いの種にならないか心配された。

 だが今のところ争い事は無く平和が続いていた。

 あかりと真雄は一緒に住んでいた。

 広くも無いが狭くも無い普通の一軒家だ。

 そして少し広めの庭のある家。

 その庭で二人は話していた。

「俺が人の親になるのか……」

「私は今まで本当の家族が居なかった。真雄とこの子……本当の家族ができるのね……」

 あかりはお腹に手を当てていた。

 そこへ魔族と思しき人が現れた。

「魔王様、どうか魔界にお戻り下さい!」

 どこからか魔王の生死と所在が漏れたようだ。

「俺はもう魔王ではない。悪いが俺の事は忘れてくれ……」

「真雄……」

 一部の魔族が戦いを望んでいた。

 余力を残した状態での降伏。

 魔王を討たれた為の降伏は、もしその生存を知ってしまったら受け入れれる物ではなかった。

「俺はもう戦わない。もし戦うとしてもあかりとその子の為だろう」

「そうよね……」



 そして元気な男の子が生まれた。

「うむ、俺に似て強そうな子だ! 名前を考えたんだがシンというのはどうだろう? 魔王と勇者の子で神! とても良い名前だろう、強そうだしな!」

 真雄は紙に名前を書いてきたのをあかりに見せた。

「お願い、そんな変な名前は止めて……。それに貴方はもう魔王じゃないでしょう? 私も考えたのだけど真っていうのはどうかしら?」

 あかりは同じ様に紙に書いた名前を見せた。

「ほお、真魔王か! それも強そうだな!」

「お願いだから魔王から離れて……。まことって読むのよ!」

「あかりが決めたのならそれでいい! 今日からお前は真だ!」

 魔王は子供を天高く掲げた。

 あかりと真雄はこれまでで一番幸せな時を過ごしていた。



 魔族、天族そして人間は少しずつお互いを知り歩み寄ってきた。

 しかしそれ以上の速さで争いの火種が歩み寄ってきた。

 魔族はもう一度戦い名誉を回復したかった。

 天族は実質的に魔族に勝った訳ではなかったので明確な勝利が欲しかった。

 人間は時の魔法を使える者が新たに増えず魔族と天族を恐れはじめていた。

 原始的な魔法の力だけでは天族魔族に一歩遅れを取っていたからだ。

「真君か、可愛いねー」

「あの真雄が子供の前だとデレデレしているのが凄い面白いわよ!」

 ミカエル、今は名を改め美香とあかりが真を挟んで話していた。

「もうこのまま持って帰っちゃいたいくらいよ!」

「だめだよー、あげないんだから! って……あー……」

 天族と魔族では子孫が残せない事をあかりは気にしてしまった。

「冗談よ、私と阿門の事は気にしないで! 二人で話し合って決めたんだから!」

「そうだったわね……。そういえば名前も変えたんだよね。白木だっけ?」

「そうなの、城で木の様に立ってたからとか誰かさんと同じでがっかりだわ……」

「魔族に名前を決めさせちゃ駄目ね……」

 美香とあかりはがっくりと肩を落とした。

「って、今日はそんな話をしに来たんじゃなかったわ! ……最近天族の中で怪しい動きがあるの」

「怪しいって?」

 美香は真剣な顔で話し始めた。

「魔王を狙う者と……時の魔法についてね……貴方達が狙われているかもしれないの」

 あかりは暗い顔をした。

「一応覚悟はしていたわ……。真雄にも伝えておくわ」



 あかりと真雄は細心の注意を払って生活していた。

 しかし狙われたのは子供だった……。

「真! なんという事だ……」

「真! あっ……ああ……」

 真雄とあかりが叫んでいた。

 食べ物に毒を混ぜられたのだった。

 天族は魔族と人間が手を結ぶのが不安だったのだろう。

 あかりは時の魔法で時間を戻し、人生をやり直した。

 二度目は交通事故だった。真以外にも大量の人を巻き込んだ。

 三度目は病院でだった。薬に毒が混ぜられたのだ。

 四度目は爆発だった。範囲が広くあかりも真雄も重症を負った。

 五度目は銃による狙撃だった。小さな頭がはじけ飛んだ。

 六度目は宝具を使い複数の天族による刺殺だった。もうなりふり構わずだった。

 七度目は同い年の子供による刃物だった。狂っているとしか言えなかった。



 天族は変ってしまった。

 争いを好まないのではなく知らなかっただけ。

 一度争ってしまったら明確に勝たなければ納得できないのだろうか。

 今の人間に助けて貰った状態がそんなに我慢なら無い状態なのだろうか?

「魔王様、このような仕打ちをする天族に罰を! 今一度天界を侵略するべきです!」

 前に魔王に再起を進めにきた魔族がここ最近は頻繁に訪問していた。

「……分かった」

 魔王は決心した。今一度天族と戦うことを。

「真雄!」

「あかり……すまない。真を頼む……」

 真はまだ子供ではあるが成長し狙われることが少なくなった。

 また時の魔法を操ることが出来るようになり自分でも防衛できるようになった。

 真雄の力が無くとも死ぬ事はないだろう。

 魔族と天族は再び戦争をすることになった。

 阿門と美香は魔族側についた。

 美香は剣を返上し、完全に天族の敵として戦うことを決めていた。

 あかりは……どちらにもつかなかった。

 真のこともあるが争いたくなかったのだ。

 二度目の戦争は魔族が有利に進めていた。

 人間が中立を保ち天族に助力しなかったのもあるが、魔王が本気になったことが一番の理由だった。

 遠からず天族は滅びるだろう。

 真はあかりが時の魔法を覚えた歳と同じ歳になっていた。

「母さん……俺は父さんと同じ道を行くよ……」

 争いたくないあかりと違う道を真は選んだ。

 ……魔王と同じ道を選んだ。

 あかりが争いたくない理由は自分があの時魔王を倒しておけばこうはならなかったと思ったからだ。

 時の魔法を使い自分の都合の良い世界を作ってしまったと。

 何度もやり直し死んだ真を生き返らせたが今の真は本当に自分の息子なのだろうか。

 死んでしまった真と今の真は同じなのだろうか。

 あかりには分からなかった。

 あかりは時の魔法を最後にもう一度だけ使った。

 魔王と対峙したあの時に戻す為に。



 あかりは魔王に止めを刺すあの時に戻っていた。

「俺の負けだ……。止めをさすが良い……」

 そして魔王に最後の攻撃が加えられた。

 あかりは魔王を殺す事ができなかった。

 変りに封印の結界を張る。

「アモン! ミカエル! 手伝って。魔王を……封印する!」

 魔族の結界、人間の時の魔法そして天族の宝具による封印。

 あかりは宝具に魔法を封じ込める力の応用で魔王自身を閉じ込めることにした。

「封印などしてどうする? 殺してしまえば良いものを……」

 魔王は抵抗する気は無いようだ。

「……もしかしたら貴方とは分かり合える日が来るかもしれないじゃない……」

「フッ、そんな日は来るわけがない……」

 魔王は笑っていた。

「……もしかしたら私と貴方が愛し合う日も来るかもね……」

「ハハハッ、俺はその柔軟な発想に負けたのかも知れんな」

 それが魔王の最後の言葉だった。

 魔王は小さな宝石のような玉に封印された。

「あかり……どうして倒さなかったの?」

 ミカエルが質問した。

「私にその覚悟が足りなかっただけよ……」

「この玉はどうする?」

 アモンが質問した。

「それは宝具でしか封印は解けないでしょうね、それも強力な宝具でしかね」

 赤い剣を持ちながらミカエルが答えた。

「それなら……」

 あかりは迷ったが自分の近くには置きたくなかった。

 天界だとすぐに解かれ魔王を亡き者にするかもしれないからだ。

「アモンが魔界で管理するのがいいでしょうね」

「そうだな……そうしよう。俺が責任を持って管理する」

 その後はあかりが経験して来た事と同じ様に進んだ。

 だがそこに魔王の姿は無い。

 ……二人の息子の姿もだ。




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