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第四章 魔族の王

 小さな子供が冷たくなった両親を抱きながら泣いていた。

 魔界ではよくある光景だった。

 一つの勢力に支配されることは幾度となくあったが、そう長く続かずにまた複数の勢力に別れ戦いが始まる。

 常に上を目指し戦い続ける……。

 魔界には絶対的な支配者が必要だった。

「俺は敵を全て倒す……」

 これもまたよくある光景だった。

 だが違う事もあった。

 この者が本当に全ての敵を倒してしまった事だ。

「一緒にくるか?」

 小さな子供、その男の子に同じくらいの男の子が話しかけた。

「お前は俺の敵か?」

 男の子は何も信じられなかった。見える物全てが適に見えた。

「んー、そう警戒するなって。お前も行く宛が無いのだろう?」

 同じ様な身の上なのだろう。

 小さい者、弱い者は集まってお互いを助け合った。

 やっている内容は誉められた物ではなかったが、生きていく為には仕方の無いことだった。

 弱い者達はいつか強い者になってやると思わずには居られなかった。



「ルシファー、ここに居たのか。次は北の地を攻めるんだろう? 一緒に行こうぜ、お前の傍は安全だからな!」

 小さな子供達はもう弱い者ではなかった。

 過去と同じ様に誘うが頼る者と頼られる者のは逆だった。

「フッ、お前は変らんなアモン。北の地か……俺に逆らうとは馬鹿な奴らだ」

 奪われる方から奪う方へ。

「俺の敵は全て倒す」

 もう誰もルシファーを止められなかった。

 そして過去の自分と同じ境遇の子供が目の前にいた。

「よくも父さんを! お前はいつか倒してやる!」

 冷たくなった父を抱き、その後には更に小さな子供が脅えて泣いていた。

 ルシファーは過去の自分と重なり……子供達を殺した。

「いつかなどは無い。敵は皆殺しだ」

 今までの魔族は相手を支配する事が目的だった。

 しかしこの者は違い、敵を皆殺しにした。

 圧倒的な力がそれを可能にしたのだ。

「ルシファー……何もそんな子供までは……」

「黙れ、アモン。敵に容赦はしない。戦いを選んだ時点でこの者達の死は決まっていたのだ」

 このような事が幾度と無く繰り返された。

 情け容赦の無い無慈悲な者に、敵は増えるばかりだった。

 いつしかルシファーは魔族の敵となっていた。



「周りは敵だらけだな。まぁ俺はもうお前について行くと決めているからな」

 数の上では圧倒的に不利だった。

 だがアモンにとっては勝敗はあまり重要では無いのかも知れない。

「不利な方に付くとは変った奴だな。好きにするが良い」

 アモン以外にもルシファーに付く者は居たが理由は違った。

 こちら側が勝つと信じて疑わなかったからだ。

 一度でもそば戦えば分かる。

 その圧倒的な強さが。

 だがもし敵であったならその一度で終わりだった。

 次は無い……。

 そして魔族の敵はいなくなった。

 正確には多数派の魔族がいなくなったのだ。

 居ない者の敵はもう敵ではない。

 ここに魔王が誕生した。

「魔族の敵が魔族を滅ぼし自分が新たなる魔族になるとはな。これでお前の敵は居なくなった。これからどうするつもりなんだ……魔王様よ?」

 魔王は答えが見つからなかった。



 魔王に恨みを持つ者は居ない。

 すべて死んでしまったからだ。

 争いが無くなりしばしの平穏が訪れた。

 しかし魔王の必要性が無くなり不満の声が上がる。

「魔王の力はもう必要ない。これからは新しい者達が魔族を率いていくべきだ!」

 皆の為と言い多数派が少数派を軽んじ、平等と言いながら弱者の為に強者が働く。

 これは平等なのだろうか?

 魔王はこのように逆らう者を粛清した。

「厳しいな……」

 アモンはどうしようもない事とはいえ何とかしたかった。

「弱者を助けたいのなら助けるが良い。だがそれに俺を巻き込むな。俺に反抗さえしなければ平穏に過ごせるだろう」

 魔王は弱者を助ける事を強制しなかった。

 助けたいのなら勝手にしろと。

 ……そして魔王自身は弱者を助けていた。

「まったくお前は勝手な奴だよ」

 アモンはそれを知っていた。

 強制されない限り弱者を助けようとする者は少ないという事も知っていた。

 そして魔王が禍根を残さない為、全てを殺してきたせめてもの罪滅ぼしだという事も知っていた。



 不満の声は止まなかった。

 際限なく膨れ上がる不満を止めるには明確な答えが必要だった。

 もし今の時点で魔王が居なくなったら新しい魔王を決める為、また争いが起きるだろう。

 力による支配は争い事が無くなった時、その必要性が無くなり支配体制は崩壊する。

 これまでと同じ歴史が繰り返されようとしていた。

 これまでと同じ答えしか魔王は思いつかなかった。

 ……魔王は新たなる敵を求めた。しかし魔界にはもう居ない。






「君の願いを何でも叶えてあげるよ」




 黒い羽の生えた女の子が言った。

 魔族には悪魔がお似合いということだろうか。

「ただし、君が死んだ時に魂を貰っちゃうけどね」

「本当に何でも叶えることができるのか?」

「僕は嘘はつかないよ、信じて欲しいな!」

「俺は敵と戦いたい! 俺を敵と会わせろ!」

「それは無理かも。君の魂とは釣り合わないからね」






 魔王は何かに取り付かれたかのように研究に没頭した。

 この世界のどこかに自分よりも強い敵が居ると思えたからだ。

 次元の扉が開き、天界への道が続いた。

「これより……別の世界を侵略する」

 魔王は魔族同士で戦うよりも他の種族、天族との戦争を選んだ。

 魔王軍の力は絶大だった。

 新たなる世界、新たなる敵。

 残虐非道な行いも、この新たなる可能性を開いた魔王にとってはカリスマ性の一つにすぎない。

 これまで一致団結などしたことも無かった魔族が始めて一つにまとまったように思えた。



「俺のする事はもう無いな……」

 魔王は天界への侵略の指揮は執らなかった。

 魔界の自らの城に篭り、ずっと魔法技術の研究をする毎日を過ごしていた。

 外と連絡を取らず、ただひたすらに研究をする。

 いままでの時間を取り戻すかのように。

「魔王……ルシファーよ、どうしたのだ? なぜ指揮を執らない?」

「黙れアモン。俺は魔族に新たなる道を示した。それでいいだろう……」

 ずっと戦い続けてきた魔族は戦い慣れていた。

 そして複数のゴーレムを操作する力は戦争の為にあるといっても良かった。

 反対に天族は明らかに戦い慣れていなかった。

 戦争などしたことが無かったのであろう。

 ここまで魔王軍は奇襲と魔族のゴーレムの力で優位性を保ってきた。

 だが天族がまとまり組織だった動きをしてからは拮抗していた。

 そして一番の理由は……魔王の不在だった。

「アモン様……魔王様は?」

「駄目だ、研究に夢中だ……」

 戦いが長引くに連れ、魔王への不審が徐々に募っていった。 

「ルシファー! お前が来てくれれば形勢は逆転するかもしれん!」

「興味はない。それよりもアモン、お前は敵に負けた時の事を考えておけ」

 魔王の口から信じられないことが発せられた。

「なっ! お前は何を言っているんだ? 負けるつもりで戦争を仕掛けたのか!」

 アモンの声は怒りに満ちていた。

「そうではないが……始めに侵略を仕掛けた時、赤い剣を持った奴が居た。奴ならば俺を倒す事ができるかもしれん。争いばかりの魔族に新たなる道が開く可能性がある」

 魔王はずっと先の事を考えていた。

「魔族は天族に劣っていると? 確かに我等は戦い続ける事しかできない。しかしお前のように絶対的な力があれば魔族を支配する事はできるだろう。現にそうしたではないか!」

「俺も永遠に支配し続けることはできない。そうしたとしても俺以外の全てが滅んでしまうだろう。魔族には俺よりも強い者か、敵が必要なのだ……」

 アモンには魔王が死にたがっている様にも思えた。

「だがこのままでは双方が滅んでしまう可能性すらあるぞ!」

「ならば……俺より強い奴をここへ連れて来い」

 魔王はこの先どうすれば良いかの答えが知りたかった。

 そしてその答えを自分より強い者なら出せるかもしれないと思ったのだ。

 弱い者ではこの魔族を率いる事は出来ないだろうとも思っていた。

 魔王はアモンに次元の扉を生成する魔道具を二つ渡した。

「一つはここに繋がる扉だ。そしてもう一つは魔界でも天界でもない場所へ繋がる扉だ。天族に俺よりも強い奴が居ない時はそれを使い新たなる世界へ探しに行け!」

「俺にお前を殺す奴を連れて来いだと……」

 アモンはそんな事をしたくは無かった。

 それならば双方滅んでしまった方が良いとさえ思えた。

「お前にしか頼めない事だ。だが俺より弱い者を連れて来たらお前ごと倒してくれるわ!」

 アモンは驚いた。

 これまでルシファーが頼み事をすることは無かったからだ。

「……次に会う時が魔王の最後になるだろう!」

 アモンが強者を連れてくるのが先か、魔族もしくは天族が滅ぶのが先か。

 魔王が指揮を取り始めてからは魔王軍が有利となった。








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