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第三章 日常

 昨日は蒼人に朝まで冥子について質問攻めをされてあまり休めなかった。

 退屈な授業がいつも以上に退屈に思え眠ってしまいたくなった。

 今日の学科は次元の扉についてだった。

 魔王が初めて作り出したとされるそれは世界に六つある。

 天界と人間界、人間界と魔界、魔界と天界。

 最後の場所は封鎖され、現在は使用することが出来ない。

 自由に行き来でき交通手段として有効な為、現在最も研究されている分野だが未だに作ることは出来ない。

 天界と人間界、人間界と魔界を繋いだ次元の扉は魔王が作り出した試作品を使い作り出したと言われている。

 魔王ならば自由に作り出すことが出来たのかもしれないがそれは叶わない事だ。

「真紅朗君が願えば叶うかもしれないよ?」

「魔王ほどの魂があれば……ですけど」


 

 退屈な学科が終わり、実技の時間が来る。

 実技は疲れるからあまり好きではないが覚えてしまった学科の授業を受けるよりは良かった。

 厳重に結界が張られたグラウンドで実技の訓練をするのが日課になっていた。

 深紅の攻撃に耐える事はできないが結界が無いよりは良いだろう。

「そう、きちんと見極めてから斬るのよ!」

 離れた観客席から冥子が深紅に話しかける。

 深紅は土のゴーレムを剣で斬り裂いていた。

 そして俺は深紅の死角から剣で斬る。

 俺の力では軽く殴った程度のダメージしか深紅には与えられない。

「くっ!」

 軽く声を上げる深紅。

「油断しちゃ駄目、相手から仕掛けてくることもあるのよ!」

 俺はゴーレムに紛れながら深紅と戦っていた。

 俺は何度か深紅にダメージを与えるが、深紅は俺の位置を少しずつ把握出来るようになっている気がする。

「はぁぁぁ!」

 そして俺はゴーレムごと斬られそうになる。

 だが寸前で蒼人の魔法障壁で守られた。

「大分良い感じになってきたね。でも真紅朗は弱いから当てるときはもう少しだけ力を抑えると良いよ」

 酷い言われようだが助けて貰ったので言い返せない。

「でも少し練習しただけでここまで真紅朗の位置を把握できるとは凄いな」

 俺はもう相手をするのが辛くなってきたので正直な感想だった。

「力を抑えるだけだしね。誰かさんのように力を強くするのとは違うよ」

 俺に向かって蒼人は厳しい事を言うが本当の事だった。

「次は真紅朗が深紅ちゃんに習う番だね。僕は冥子ちゃんと特訓してくるよ!」

 蒼人の提案で皆で実技の訓練をしていたが、どうも本心は少し違っていたらしいな。

 蒼人は嬉しそうに冥子の方へ走っていった。

「私が教える事ができるのは宝具の事だけど、貴方はどこまで宝具が使えるの?」

「ただ召喚するだけでそれ以上は何も出来ない。出し入れ自由な剣ってだけだな」

「召喚が一番難しいんだけど、どうして力が使えないの……」

 それが分かれば苦労はしない。

「私が宝具の力を引き出すから、その状態で剣を振るって見て。冥子、ゴーレムを出してー!」

 離れた所に居た冥子だが深紅の声が聞こえたようで俺達の前にゴーレムが出された。

 剣を握った俺の手の上に深紅は手をかざす。

「そのままゴーレムを斬るのよ!」

 俺はゴーレムを簡単に斬り裂いてしまった。

「この感じを忘れないように何度も繰り返しましょうか」

 かなりの回数を繰り返したが俺一人で強力な力を扱うことは出来なかった。

「うーん……一応宝具の力を引き出せてはいるんだけど一定以上の力を引き出せないわね。後は何も思いつかないわ。これからも繰り返し練習するしかないかも」

「ありがとう、力の引き出し方も扱い方も一応覚えたよ。これからは一人でも練習できると思うよ!」

「私も練習を手伝ってもらったしね。これから何時でも聞いてくれて良いわよ」

「俺も何時でも力になるよ!」

「それじゃあ早速なんだけど……マッサージをお願いしても?」

 俺の考えていた事と違っていたが快く承諾した。

「深紅で良いわよね?」

「そうだね、僕も深紅が良いと思うよ」

 俺と深紅が仲の良さそうな所を見て冥子と蒼人はそう言った。

 この日もまた皆が泊まりに来た。

 昨日と同じようなやり取りが繰り返されたが、違うこともあった。

「私と蒼人は用事あるのでこの辺で帰るわね」

「真紅朗も深紅ちゃんも僕達の邪魔をしないでくれよ!」

 冥子と蒼人は泊まっていかないようだ。

「えっ! わ、私も帰るわ!」

 深紅は慌ててそう言った。

「深紅は泊まっていくと良いわ。真紅朗もそうして欲しいでしょう?」

「そうだね、深紅は泊まっていくと良いよ」

 そして本当に冥子と蒼人は帰ってしまった。

「こ、こういうことはやっぱりまずいと思うんだけど……」

「昨日は蒼人のせいであんまり休めなかったし、早めに寝よう」

 俺は深紅を抱えて一緒にベットで横になった。

「あわわ、だ、だめだよー」

「ふぁーぁ。別に何もしないよ、おやすみー」

 そしてそのまま朝まで休んだ。

「真紅朗君だとまぁこうなるよね」

「予想通り何もありませんでしたね」



 次の日の学校では深紅がとても眠そうにしていた。

「一睡もできなかったわ……」

「フフフ、でも何も無かったでしょう? 真紅朗は人畜無害なのよ」

 深紅と冥子が話していた。

「真紅朗は本当に何もしなかったのかい? 僕なら無理だねー」

 蒼人は驚いているようだった。

 そしてまた退屈な学科の授業が始まった。

 今日は魔族が得意としている結界についてだった。

 結界は構造物を守る為に使われる事が多い。

 地面や壁に魔方陣を描き使用する事ができる。

 魔法を力の源としているがこれを魔道具、人間界で言う機械を使用して発動することもできる。

 それが次元の扉だ。

 その使い方は魔王にしか分からず、その力を持って魔界を支配したと言われている。

 俺は結界を使って防御障壁を張っているがその威力は低い。

 直接魔法の力で防御障壁を張ることもできるので俺は二重に障壁を張っている。

 それでも蒼人が使用する魔法だけの障壁に遠く及ばない。

 近い内に鎧の宝具も入手して、三重の障壁を張りたいと考えている。

 それでもまだ弱いだろうが。

 それに宝具はとても高価だからな……。

「新しい宝具を得ること、巨万の富を得ることが願い事かな?」

「自分を守る為に自分の売るようなことはしないでしょう。それに真紅朗さんは物欲があまりなさそうですし」

 真白が言うように、まったく持ってその通りだった。

 巨万の富にも興味は無く、俺は今のままで満足だった。



 次の実技ではやりたい事があったので、冥子に相手をお願いした。

「今日は真紅朗が相手をしてくれるのね」

「新しいゴーレムの力を試したくてね」

 俺は退屈な学科の間に新しいゴーレムの魔法理論を組み立てていた。

 新しいと言っても元からある物の複製だが。

 冥子はいつものように土のゴーレムを召喚した。

 そしてそれに続いて俺もゴーレムを召喚した。

「真紅朗は面白いことを考えるね」

「私はそういうのは嫌いだって言ってるのに……」

 蒼人と深紅が感想を述べる。

「これは操作するゴーレムに力が入りそうね」

 冥子は嫌な感想を述べた。

 俺が召喚したのは……自分の分身。

 中身が簡単な機械仕掛けになっている物だ。

 日頃から人の体を調べ、精巧な動きが出来るように魔法で作り出したつもりだ。

「試しに殴らせてもらう!」

 俺は分身に冥子のゴーレムを全力で殴らせた。

 簡単に砕いてしまった。分身の拳の方をだが。

「よわっ……」

 深紅が思わず声を漏らしていた。

「真紅朗、それで全力かい? 魔法の力をほとんど感じなかったけど?」

「全力だよ。多分俺と同じくらいの力は出せたはずだ」

「真紅朗の力では私のゴーレムを倒せないし妥当な所かもね……」

 これは失敗だったかな。

 また微妙な一発ネタを作り出してしまった気がする……。

 複数出す事はまだできないし、魔法を撃つ事もできるが自分で撃った方が早い。

 烏のように機械で作ればもう少し扱えるようになるかもしれないが、こんな物を実際に作る技術を俺は持っていなかった。

「やっぱり自分自身を鍛えた方が良いと思うよ!」

 深紅に言われた通りにする事にした。

「深紅ちゃんは僕と向こうで手合わせしようか」

 今日は蒼人と深紅が一緒に練習するようだった。

「それじゃあ、冥子には代わりに俺の宝具捌きを見せよう」

 俺は冥子と改めて対峙した。

 冥子はゴーレムと同化せずに俺との間に複数のゴーレムを挟んで対峙している。

 俺は同化してもすぐに位置が分かるので、冥子までのゴーレムをすべて倒せば良いということだ。

 全力でゴーレムを攻撃しろと言う事でもある。

 前回はゴーレムほとんど傷つける事が出来なかったが、今回は秘策があった。

 俺は宝具の剣を召喚した。

「それはちょっとずるいわよ……」

 冥子が何か言っているが俺はそのままゴーレムに剣で斬り掛かった。

 俺が召喚したのはレーヴァテイン!

 深紅に少しの間だけ貸して貰ったのだ。

 ゴーレムを簡単に斬り裂く予定だったが上手く行かなかった。

 前回と同じように多少斬り傷が出来ただけだった。

「やっぱり何時もと同じくらいの力しか引き出せないな……」

 いくら宝具が良い物だろうとその力が引き出せないのでは意味が無い。

 さて困った……。

 正直もう手が無い……。

「もうおしまい? いたぶるようで悪いけど攻撃するわね!」

 俺は冥子にまたしても負けてしまった。

 一応これまでの攻撃パターンから拘束されるまでの時間は稼ぐことは出来たがそれだけの事だった。

「真紅朗は逃げ足ばかり速くなるわね……」

 俺はこのスタジアムの様なグラウンド内に場所が限定されていなければ何時までも逃げれる様な気がする。

「まさか僕達からも逃げるつもりじゃないだろうね?」

「死んでから逃げる事はできないでしょう」

 黒江と真白からは逃げられそうに無いな。


 

 自主練習ばかりしている俺達を師匠が注意しに来たが、俺はそれを逸早く察して蒼人だけを残して逃げ出して来た。

「明日はあかりちゃんの授業を受けるべきね」

「師匠は厳しいからな……」

「私はこの前絞られた時以外に、一度も授業を受けた事が無いんだけど……」

 転校して来たばかりの深紅はまともに授業を受けた事が無いようだ。

 学科は仮想画面の先生が形式的な授業をするだけだが、実技はきちんと先生が指導する事になっていた。

 だが強力な魔法の使い手は戦争で戦死したか軍隊に徴兵されたかなので教員が不足していた。

 その為、全ての生徒を先生が指導するのは難しい。

 一定以上の魔法力があれば単位は貰えるので授業は受けなくても困る事はなかった。

 そういった理由から希望する人が優先して先生の授業を受けていた。

「蒼人は強いし、教え方も上手いからね。だからいままでは困らなかったんだけど、俺はこれ以上どうすれば良いか分からなかったし明日相談してみようかな?」

「それが良いかもしれないわね」

 冥子も賛同してくれた。

「真紅朗と蒼人の師匠だったわね? もしかして女性だけど戦争を終わらせた勇者なの?」

 深紅がこれまでの事から疑問に思った事を質問した。

「そうなんじゃないかって言われてるね。でも俺は直接聞いたことは無いよ。昔の事はあまり話したがらないんだ」

「そう……。英雄が名前を伏せるのだから何か話したくない理由があるのかもね。詮索はここまでにして置くわ」

 深紅は納得しその話は打ち切られた。

 そして俺達は家に帰った。

「今日も泊まっていくのかい? 連日だけど大丈夫?」

 俺は前に冥子が毎日泊まっていると親に文句を言われると愚痴をこぼしていたのを思い出した。

「美香さんに頼まれた時は、両親も何も言わないし大丈夫よ」

 冥子が答える。

「むしろ私は天界にずっと居たかったんだけど、親が外の世界を見て来いって無理矢理追い出されたわ。今はこっちに来て正解だったと思ってるけどね」

 深紅も答える。転校してきたのは親の意思だったようだ。

「俺は大歓迎だよ。美味しいご飯も食べれるからね」

「たまにも真紅朗が作ってね。深紅も一緒に作ってみたらどうかしら?」

 予想していない事だった。

「まぁ見よう見まねで出来ると思うよ」

「この前は蒼人にも好評だったしね、がんばってみるわ」

 深紅の料理がこの前のようにならないよう実技以上に頑張らないとな。

「えーと、これだったかしら?」

「こ、こっちだと思うよ、天界と人間界では調味料の名前が違ってて分かりにくいね」

「そうそう、こっちね」

 何気なく冥子が料理しているのを見ておいて良かった。日頃から情報収集はしておくものだ。

「ん、私が作ったのより美味しいかも」

 冥子が賞賛の声をあげる。

「そう? お世辞でも嬉しいわ」

「次はもっと上手くできるようがんばるよ」

 俺は待つだけでなく、人の為に働くのも中々良いものだと感じていた。

 その後、お風呂に入り(俺は一人で入った)就寝する。

 左右には冥子と深紅、川の字のようになって横になる。そして俺はすぐに休んでしまった。

「……深紅、まだ起きてる?」

「まだ眠れないわ……。どうして真紅朗はこうなの?」

「そうね……真紅朗は子供なの、五歳か六歳くらいのね。それでね……私では無理みたいだから貴方に真紅朗をお願いしたいの」

「えっ、えっ? な、何を言っているの?」

「声が大きいわ、真紅朗が起きてしまう。……私では姉か母にしかなれない。でも貴方なら女性として真紅朗は見るかもしれない。もちろん断っても良いわ、でも真紅朗を男性として見てあげて。ただそれだけで良いから……」

「……私は天族で、真紅朗は魔族だわ」

「それでも……だからこそお願い」

「……分かったわ。でもそれは今までとあまり変らないことよ?」

「一緒に寝ているのに?」

「頼み事をしているくせに意地悪ね」

「もしかして……もう?」

「こ、今後は気をつけるわよ! お休みなさい!」

「フフフ、お休みなさい……」



「ここは僕が一肌脱いであげようかな?」

「いえいえ、ここは私に任せて下さい!」

「突っ込みを期待したんだけどね……」

「真紅朗さんが休まれていたのでは意味がありませんでしたね……」



 今日の学科は魔法についてだった。

 魔法は人間が得意としているがその歴史は短い。

 初めてその現象が確認されたのは天界より次元の扉が開かれた時だ。

 その為、人間界で使用されている魔法技術はほとんどが天族か魔族より伝わってきた物だ。

 日常生活に魔法技術が使用されるのはもうしばらく先の事になりそうだ。

 次元の扉が開かれた時、魔法の力は従来の機械によるものより強かった。

 防御障壁を物理的に破ることができなかったのだ。

 そして一人だけ強力な魔法を使える者が現れた。

 のちに勇者と呼ばれる者だ。

 その者が使用する時の魔法は世界を崩壊させる程の力があるといわれている。

 通常の授業では教えられないので極一部の者にしか使用できない。

 魔法は基本的に自分が把握できる範囲ならどこからでも発生させることが出来る。

 ただ自分以外の障壁や結界の中には直接発生させることが出来ない。

 宝具や結界、ゴーレムも元は魔法の力だ。

 魔族天族がそういう力を高める一方で、進化の過程で魔法そのものを使う力が弱まったのかもしれない。

 覚えたての人間が原始的な魔法の力だけだが一番強いのはそういった理由なのかもしれない。



 そして学科で習った魔法を実技でも使うことになる。

 習わなかった魔法も使うことになるだろうが。

「今日は全力で魔法を使わせてもらうよ」

「そうだな。前回は使わなかったが今回は使わせてもらう」

 蒼人と俺は師匠の立会いの元に戦うことになった。

「今日は私が立ち会う。魔法をセーブしなくても良いぞ、思う存分やりな!」

 師匠の許可も出た。

 蒼人は最小限の時の魔法しか使わないが今回は全力で使ってくるだろう。

 俺は蒼人とグラウンドの中心で対峙する。

 観客席には冥子と深紅、その少し前に師匠が立っていた。

 そしてその他の生徒も教師も誰も居ない。

「真紅朗君はもう隠してる力とか無さそうだけど大丈夫なのかな?」

「真紅朗さんは私達の予想をいつも超えてくれますからきっと何かあるのでしょう」

 羽の生えた人達は居たけどな。

「それでは……勝負、はじめ!」

 師匠から開始の合図が発せられた。

 すでにグラウンドの周りには何時ものように視覚共有した烏が配置されている。

 俺は最初から時の魔法で攻めた。

 3 蒼人の正面に突っ込む

 2 手を振り上げ、宝具の剣を召喚する準備をする

 1 蒼人の背後に氷の槍五本を発生させる準備をする

 俺の時の魔法は時間を三秒程止める事。

 だがその間、自分以外の物はほとんど動かせない。

 そして時の魔法が切れると同時に剣が召喚され、氷の槍が発生する。

 正面から行ったのは回り込む時間が足りなかったからだ。

 そして俺は誰も居ない空間を斬り裂いた。

 その場に蒼人が居なかった訳ではなく、俺が後を向かされていた。

 俺は後から蹴られたような衝撃を受け前に飛ばされる。

 その更に後から氷の槍が傍の地面に突き刺さった。

「まだまだだね」

 蒼人の時の魔法は時間停止中に自分以外の物も動かすことが出来る。

 そしてその時間は俺よりも長い。

 他にも生物以外の時間を自在に操ることができ、時間を戻し壊れた物を直すなどといったようにだ。

 力の差は歴然だが諦めるには早い。

 最低でも二発は攻撃を当てると決めているのだ。

「そうだな……まだまだいかせてもらう!」

 俺は自分が有利な事で攻める事にした。

 3 蒼人の正面に突っ込む

 2 手を振り上げ、剣で斬り掛かる

 1 蒼人の背後に氷の槍三本と二本を発生させる準備をする

 先ほどとほぼ同じ攻撃を仕掛けた。

 そして同じ様に誰も居ない空間を斬り裂く。

 俺は後からの衝撃に耐え、今度はすぐさま受身を取った。

 やや遅れて地面に刺さる氷の槍。

 だが氷の槍は蒼人にも刺さっていたが、防御障壁ですぐに砕け散った。

「二本刺さったか……中々やるね、真紅朗!」

 まずは二発、目標は達せられたがまだまだやれそうだ。

 蒼人は力を見せ付けたいのか同じ様な行動を取る事が多い。

 その為、魔法の狙いは付けやすかった。

 俺は同じ事を繰り返し、何度も魔法を当てる。

 蒼人にダメージは無いが顔には焦りの色が見える。

 決着はこの後すぐについた。

「僕の負けか……」

 蒼人はそう言っていたが地面に倒れていたのは俺だった。

 多分、俺はこの前の深紅と同じ様に殴られたのだと思うが反応はできなかった。

 何時もならすぐに起き上がれるのだが今回はすぐには立てなかった。

「いたた、俺の負けだよ。だが前回よりは頑張れたはずだ」

 蒼人が近づき俺に手を差し伸べた。

 俺はその手を掴み立ち上がる。

「まだまだだったのは蒼人だな。油断するからだ、この馬鹿者め!」

 蒼人は軽く、師匠に小突かれていた。

「いてて、僕にはどうして攻撃を喰らうのか分からなかったよ。教えてくれるかな?」

 俺は黒江と真白を指差した。

「これだよ。蒼人に二度目は通じないかもな」

「仮想画面か……。本物は三本で二本は偽者。把握していない二本に僕は当たっていたのか」

「俺の魔法が五発しか同時に出せないって知っているのを利用させてもらった」

 俺は前から烏を使い仮想画面を表示させる事を上手く使えないか考えていたのだ。

「変った趣味も役に立つものなんだね、勉強になったよ」

「僕達が利用されちゃったの?」

「どうでしょう? 元からあった技術のようですしね」

 願いを叶える為にいるはずの羽の生えた人達は自分が役に立つのは嫌なのだろうか……。

「蒼人まで変な趣味に興味持たないでよ……」

「そうね、ペットの様な物といってもこれはちょっとね……」

 冥子と深紅には酷い言われようだった。

「ちなみに私は犬派よ」

 冥子が本当にどうでも良い事を言った。

「私は猫派かなぁ?」

 これは深紅。

「僕は冥子ちゃん派だね!」

 蒼人はたまに馬鹿な事を言う。

「私はペットか!」

 冥子は蒼人を蹴り上げていた。

「俺は烏派だね!」

「真紅朗のそれは動物なの? それとも機械なの? まさか……仮想画面って言わないよね?」

 深紅は真面目な顔で質問してくる。

 俺は多分とても誤解されている。

 このタイミングでの発言は控えておくべきだった。

「私は……人……」

 師匠が何か言いかけたが途中でやめたようだ。

 確か独り身のはずだったし、寂しいのだろうか?

 今度みんなのお泊り会に誘ってあげよう……。

「私が見ていない所でもきちんと修行していたのだな。さて次は冥子と深紅が対戦するか?」

 師匠にも多少誉められ、蒼人にも試合は負けたが勝負には勝ったような感じで俺は大満足だ。

 これからもこんな時間が続けば良いと思っていた。


 だが、そうは『魔王とんや』がおろさなかった。




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