第二章 蒼人
学校の教室で俺は途方にくれていた。
「どうしようかなぁ……」
机の上にある烏を見て呟いた。
昨日、深紅と戦った時に動かなくなってしまったのだ。
「死の蘇生、もしくは不老不死を願うのかな? でもそれはやめて欲しいね!」
「魂を貰う事に不都合がありますが出来ないという事ではありません」
「真紅朗君の魂とは吊り合わないけどね」
「そして真紅朗さんはその道を選ばないでしょう」
黒江と真白が魅力的な提案をする。
だが俺はまだ永遠にやりたい事がある訳ではない。
……それに烏は死んだ訳でもない。
「一応手加減したんだけどね。貴方が悪いのよ! 動物をゴーレムとして使うから……」
深紅は動かなくなった烏を見て悲しそうな顔で言った。
「これは動物じゃなくて機械なんだけどね」
俺はゴーレムの操作があまり上手くなく、機械でその動作を補助して使用していた。
魔法で作り出す事もできるが、俺はなぜか実際にある機械の烏を操作する方が得意だった。
「たとえ機械でも動物の姿をしてあのような使い方をするのは好きじゃないわ!」
「そうだね……。今度からは注意するよ」
俺は機械でも大切にしようとする深紅の忠告を素直に聞くことにした。
「はぁ……自分で直すこともできるんだけど時間が掛かるんだよなぁ」
「じゃあ、蒼人に頼めば?」
話を傍で聞いていた冥子が名案を出してくれた。
「それが良さそうだな。冥子も来てくれるかな? 蒼人は冥子の言う事なら何でも聞いてくれるし!」
「私の言う事を聞いてくれるかどうかは分からないけど頼んであげても良いわよ」
冥子の了承も取れたし、蒼人の所で向かうことにした。
「一応壊したのは私だから一緒に行くわ」
深紅も俺達に付いて来ることになった。
「やぁ、冥子ちゃん。今日も綺麗だね」
「ありがとう、蒼人。でも誉めても何もでないわよ」
蒼人がいつもの調子で冥子に声をかける。
「真紅朗、また冥子ちゃんに迷惑を掛けたんじゃないだろうね?」
「そんなことは……まぁいいじゃないか」
蒼人は俺に対していつも厳しい内容だ。
迷惑掛けてばかりなので言い返すことはできないが。
「そちらの方々は……はじめましてかな? 中桐 蒼人です。二人とは幼馴染だよ。できれば僕とも仲良くしてくれるかな?」
「私は朝比奈深紅よ。深紅でいいわ、よろしくね!」
蒼人と深紅が自己紹介をしていた。
蒼人とは師匠の元で一緒に修行した仲でもある。
そして物珍しそうに黒江と真白を見ていた。
「あいにく俺と深紅はあまり仲は良くないんだけどな。そして仮想画面の事はあまり説明したくない……」
俺は学校内で噂になりつつある公開処刑もといオタク疑惑の原因である仮想画面の二人には触れずに、昨日の戦いで殺されかけた深紅の事を話した。
「噂の事は……気にしないことにするよ。でも深紅ちゃんの事は良くないね。真紅朗はもっと人と仲良くなるべきだよ。今からでも仲良くして貰ったらどうだろう?」
そうだな、ここは俺から深紅に話す方が上手く行くだろう。
友人の忠告は素直に聞くものだ。
「深紅……俺の彼女になってくれないか?」
蒼人と冥子が笑いを堪えるように口元を手で押さえていた。
そして深紅は名前と同じような色に顔色が変っていた。
「な、な、なんでいきなりプロポーズなの? そ、そんなの駄目に決まってるじゃない!」
どうしてだろう?
やっぱり天族のお姫様ともなるとこういったことに慣れていないのだろうか?
「真紅朗君って誰にでもそれ言ってるのね……」
「真紅朗さんのイメージが少しだけ変りました……」
黒江と真白がよく分からないことを言っている。
「じゃあ、友達になってくれるか?」
「と、友達でしたらまぁ良いわ。それ以上の関係は期待しないでね!」
「それは残念だな。まぁ仲良くしてくれ!」
俺は妥協案で納得した。
「僕の時は彼氏になってくれだったから本当に驚いたよ」
「私の時は結婚して下さいだったからこれでも成長してるのよ」
「真紅朗の中では意味は多少違うけど結婚、彼氏彼女、友達の順に親しさが違うだけでどれも友達ってことなんだよね? 真紅朗は本当に面白いよ」
蒼人と冥子が俺と初めて会った時の事を説明した。
「何か間違っていたか?」
「君はそれでいいんだよ。面白いからね!」
なんだか馬鹿にされたような気もするがあっているならそれで良い。
「それで今日は何の用があったのかな?」
「烏が壊れちゃってね、直して貰えるか?」
「この程度なら君でも直せるんじゃないかな?」
「直せるが時間が掛かりそうでね。報酬を出すからお願いできないか?」
「何が貰えるんだい?」
「冥子の手料理を食べさせてあげよう」
「それは破格の報酬だね、烏の修理は任せておいてくれ!」
蒼人は目を輝かせていた。
「真紅朗、この為に私を連れて来たのね。私に働かせるなんて……」
「まぁ、良いじゃないか。一人分や二人分増えたところで手間はそんなに変らないよね?」
「良いけど、蒼人はそんな報酬で良いの?」
「冥子ちゃんの料理を食べられるなら何でもするよ!」
蒼人に頼みごとがあるときは冥子もいっしょに連れて来るに限る。
「そんなに期待できる物なら私も食べたいわね」
深紅も話に乗ってきた。
「そんな凄い物じゃないわよ。普通のご飯だけど蒼人は過剰に反応しすぎなのよ」
冥子が少し恥ずかしそうに言った。
「さて、話がまとまった所でそろそろ実技の時間だな」
遅刻すると師匠に怒られるので急がなくてはいけない。
「僕もご一緒しようかな、深紅ちゃんと手合わせもしてみたいし」
「私も二代目勇者さんと戦えるなら喜んでお相手するよ!」
蒼人も深紅も会うのは初めてだったかもしれないがお互いの事を知っているようだ。
それにしても蒼人と戦いたいとか天族っていうのは本当に好戦的なんだな。
昔、本当に魔族から天族に攻め入ったのだろうか?
少し疑問に思えてきたぞ……。
そして俺達は昨日と同じ訓練用のグラウンドにやって来た。
「蒼人と深紅がいきなり戦ってもいいけど、昨日の真紅朗のように騙まし討ちみたいなのは面白くないから先に私か真紅朗とやりましょうか?」
冥子の提案でまず俺と蒼人が戦うことになった。
「真紅朗、久しぶりに戦うけど腕は上がったかな?」
「全然だから手を抜いてくれ!」
俺は相手を騙す為に言っているのではなく本当に手を抜いてもらわないと戦いにならないからだ。
「二代目勇者って蒼人君の二つ名なのかな?」
黒江が質問してきた。
「一応でも説明するか。俺がするよりも蒼人の事は冥子の方が詳しいかな」
「私も名前だけで詳しくは知らないわ」
俺と深紅はそう言った。
「そうね……蒼人の魔法は凄いわ。気付いたかしら? 真紅朗の烏がもう直っているわ。ここに来るまでにそんな時間は無かったのにね。これが勇者が使ったとされる時の魔法、二代目勇者と呼ばれるのはこの魔法の為ね」
冥子はすでに時の魔法を使っていた蒼人の事を説明した。
「ははは、冥子ちゃんにそう言われると照れるなぁ!」
蒼人は嬉しそうにしていた。
まったくもって不思議な魔法だ。
俺の予想では烏が壊れる前まで時間を戻したのだろう。
こんな魔法を使う相手にどう戦えというのだ。
そして俺と蒼人はグラウンドの中央で対峙していた。
「さぁ、どこからでも掛かってきて良いよ!」
蒼人は余裕の表情で言った。
俺はたとえ勝てなくても一撃くらいは当ててやろうと思った。
「ではお言葉に甘えて俺から行かせて貰う!」
俺は烏をスタジアムの周りに配置していた。
囮として使うのはもう止めたからだ。
そしてその機械の力を存分に使うことにした。
烏を動かすことはしないがその目で見ているものを俺も見ていた。
視覚を共有し死角を無くした。
逆に蒼人の死角に魔法で氷の槍二本を作り出し攻撃する。
同時に目の前から炎の弾二発で攻撃を仕掛ける。
俺の魔法では大した威力は出せないが多角的な攻撃でまずは一撃を当てようとする。
蒼人は炎も氷も簡単に回避してしまった。
だがここまでは俺の予想通り。
見える攻撃と見えない死角からの攻撃、そして最後に地面を伝って本当に見えない雷での攻撃を放っていたのだ。
雷での攻撃は見事に蒼人に当たった。
「へぇ、同時に発動できる魔法の数が増えてるじゃないか!」
しかし蒼人はまったくダメージを受けていないようだった。
一言くらい言い返したかったが俺は地面に倒れていた。
蒼人は同じように俺の目の前から炎、後から氷、そして最後の雷まで同じ攻撃を仕掛けてきていた。
炎氷は死角を無くしていたので避けることができたが雷は避けることができなかった。
俺は蒼人ほど強力な防御障壁を魔法で作り出すことができないし宝具の力も無い。
その結果、倒れることになった。
まったく同じ攻撃をしてくるとか未来でも見てきたかのような攻撃だった。
実際に見てきたのかもしれないが。
「……降参だよ。ここまでで勘弁してくれ」
俺は倒れながら言った。
ダメージはほとんど無かった。
きっちり倒れるギリギリの攻撃をしてくる辺り、俺との力の差を思い知らされる。
蒼人は上を指差していた。
烏で把握している範囲外に魔法を準備しているようだ。
完敗としかいえない。
蒼人を敵に回すことがないようにしないとな……。
「僕に一撃当てれるとは驚きだよ」
「……次は二発当てれるようにがんばるさ」
そういうのが俺の限界だった。
「時の魔法以外も扱いが上手いものね」
深紅が蒼人を誉めていた。
「それほどでもないよ。それに真紅朗の手の内は知っていたからね」
蒼人はそう言っていたが知らない相手でも同じような事はできただろう。
「さ、次は私と真紅朗ね」
冥子からご指名を受ける。
「また俺かよ……」
「私の事を深紅は知らないでしょう?」
先ほどの戦いでほとんどダメージを受けていないからまぁ良いけど。
そして俺と冥子は対戦することになった。
「二代目勇者に一撃入れる事が出来る程、強くなった力を見せてあげよう!」
「真紅朗……そんな器の小さな男に育てた覚えはないわよ……」
呆れたような声で冥子に言われてしまった。
「それに見せるも何もずっと対戦を私は見てたんだけど……」
そうだった。蒼人に攻撃を当てたのが久しぶりで少し浮かれていたかもしれない。
「それじゃあ、冥子の力を見せてくれるか?」
「言われなくてもね!」
冥子は土のゴーレムを召喚した。
十メートルほどの高さのそれと冥子は同化し姿が見えなくなってしまった。
そしてゴーレムは二メートル程の複数のゴーレムに分裂した。
それは太い腕と足を持った、ゴリラか熊のように思えとても恐ろしく感じる。
魔族のゴーレムと戦うときは本人を狙うのが一般的だ。
だがこうなってしまってはどれが本体か分からなくなる。
複数のゴーレム達が俺に襲い掛かって来る。
数が多く体格も大きいが動き自体は単純な物で、烏と視覚を共有している俺には回避するのはそれほど難しくなかった。
見分けの付かないゴーレムだったが冥子のデータを長年集めていた俺はどれが本人なのか分かっていた。
宝具の剣を召喚し、本人が入っているゴーレムに斬りかかる。
「ここに入っているのは分かっている、諦めて降参するんだ!」
剣でゴーレムを斬り裂くことはできなかった。
「真紅朗の力じゃ無理だと思うわ」
ゴーレムに多少斬り傷は出来たがそれだけだった。
俺は結局ゴーレム達に包囲され拘束されてしまった。
そして俺が目星を付けたゴーレムの中から冥子は出て来た。
「私の位置を見つけたのは誉めるけどゴーレムすら倒せないとか力が弱すぎるわ」
「……精進するよ。だからもう拘束を解いてくれ!」
連敗してしまった。
俺の火力不足は致命的だな……。
「真紅朗君は弱いのに力を求めないのはどうしてかな?」
「きっと力の使い道がまだ分からないのでしょう」
俺は気落ちしながら観客席側に移動した。
次は冥子と深紅の対戦になる。
「魔族らしい普通の戦い方ね。私は真紅朗と違って破壊力があるわよ!」
「でも私の位置が分かるのかしら?」
冥子は俺と戦った時と同じようにゴーレムと同化し、そして分裂した。
その間に深紅は宝具の鎧と剣を召喚していた。
「位置が分からなくてもすべて斬り倒せば良いのよ!」
深紅は自身に近いゴーレムを片っ端から一撃で斬り倒していった。
「やっぱり土のゴーレムくらいなら一撃で倒されちゃうわね」
観客席にいる俺は話し掛けられた……冥子に。
「わざわざ先に俺と戦ったのはゴーレムの中にいると思わせる為か」
「さすが冥子ちゃん。抜かりないね」
俺と蒼人は感嘆の声を漏らす。
「そうよ。……試したい事があってね」
試したい事とは何だろう?
俺が答えを出す前にそれは行われた。
深紅は一体ずつゴーレムを倒していたが倒した傍からまた新しいゴーレムが今あるゴーレムから分裂して作られていた。
「これじゃあ何時まで立っても終わらないわね。まとめて倒すわ!」
深紅は横薙ぎの一撃で全てのゴーレムを倒した。
「あの子は分かっているのかしら? あの中に私がいたらただでは済まないって事を」
冥子が試したかったのは、力を正しく使えるかどうかということだった。
「真紅朗でさえ出来ることがどうしてできないのかしら」
「気付いていたのか……」
俺は冥子との戦いの時、不確定要素が多かったので全力を出さなかった。
「ゴーレムを炎で燃やす事も氷で閉じ込める事も雷で直接攻撃する事もできたわよね。それくらいじゃ私は倒れないけど怪我をする。学校の授業でそこまでする必要は無い。自分が使う力でどうなるか考える事が重要だと思うわ」
そして倒したゴーレムの中に冥子が居ない事に深紅は気付いた。
「中に居ないじゃない! あ、観客席にいるとか卑怯よ!」
深紅はこちらに向かって叫んでいた。
「やっぱりあまりよく考えていないようね。……蒼人、お願いできるかしら?」
「分かったよ。実は師匠からも言われていてね」
「先生からも言われていたの? 昨日の校舎を攻撃した一軒もあるし当然かもね」
冥子と蒼人が話していた。
俺はその場にいたのに師匠は何も言わなかった。
蒼人への信頼が少しだけ羨ましかった……。
「私の負けよ。降参するわ」
冥子は深紅にそう言って、最後に深紅と蒼人の戦いが行われる事になった。
深紅と蒼人、グラウンドで向かい合う二人の間には張り詰めた空気が感じれた。
観客席に居るこっちまで緊張するくらいだ。
「勇者様と戦えるなんて光栄ね」
「僕なんてまだまださ。でも手加減は無用だよ、できれば全力で戦って欲しいな」
「言われなくてもそうさせて貰うわ!」
深紅が剣を構える。
だが先に仕掛けたのは蒼人だった。
炎の弾による先制攻撃で、深紅の視界がすべて炎で埋まるほどの量だ。
深紅はそれを鎧の力で障壁を作り出し消し飛ばした。
そして自身の後方に剣を突き立てる。
……それは見失ったはずの蒼人に対する物だった。
「僕の姿を見失ったと思ったんだけどね」
蒼人は剣を寸前で回避し、深紅と距離を取った。
「真紅朗と戦った時に似たような魔法を使われたわ。あれは加速じゃなくて時の魔法だったのね。真紅朗は本当に何でも使えるのね」
これで俺の力はすべて知られてしまったな。
もう深紅には勝てないだろう。
「僕は真紅朗より少しだけ上手く使えるけどね」
そして近づくのは危険だと判断したのか蒼人は遠距離による炎の攻撃を繰り返した。
先ほどより大きな炎の弾は鎧の障壁だけでは防げないのだろう、深紅は剣を使って防いでいた。
炎に気を取られているうちに、蒼人は障壁を防げないほどの氷の魔法で深紅の足を拘束した。
「私にも遠距離での攻撃方法はあるわ!」
深紅は蒼人の方に向かい剣を振り下ろす。
昨日と同じ観客席の結界すら破壊する衝撃波が蒼人に襲い掛かる。
これを蒼人は難なく回避した。
だがその後には……観客席で立ち竦む俺と冥子の姿があった。
「えっ!」
深紅も気付いたのだろう。
しかしそのまま衝撃波が観客席を破壊してしまった……。
「あっ……あああ……」
深紅は声にならない声をあげていた。
自らがしてしまった事に今更ながらに気付き後悔していたのだ。
その深紅に対して蒼人は鎧の上から魔法の力を込めて殴りつけた。
深紅は軽く吹っ飛び地面に倒れ起き上がることが出来なかった。
それは受けたダメージのせいでは無かった。
「君の力は強すぎる。この僕よりも……ね。だからよく考えなければいけないんだ」
パチン! 蒼人の頬を冥子が手で叩いていた。
「やりすぎよ、蒼人。最後に殴る必要は無かったでしょう!」
「ごめんね。冥子ちゃんが傷付いていたかと思うと我慢できなくてね」
俺と冥子は蒼人の時の魔法によって衝撃波が当たる前に反対側に移動させられていた。
俺が気付いたのは移動してからだ。
俺はさすがとしか言えなかった。
「深紅、大丈夫? 私も真紅朗も大丈夫だから気にしなくてもいいのよ。でも力の扱い方だけはこれから気にするようにしてね」
深紅は冥子にもたれ掛りながら泣いていた。
「冥子が手を上げるなんて本気で怒ってるぞ……」
「真紅朗、どうしよう……。何とか助けてくれないか!」
しばし考えて俺は言った。
「時間を巻き戻してやり直すんだな!」
「その魔法はまだ使えないんだよ!」
まだってことはいつかできるようになるのかよ……。
俺は蒼人の心配よりも関係の無い事が気になってしまった。
その後、蒼人は師匠にもやり過ぎだ、むやみに時の魔法を使うななどかなり説教されていて可哀想になった。
そして俺の家で仲直りも兼ねて食事会ということになった。
料理は冥子と深紅、食事代は俺と蒼人ということで。
烏の修理の報酬のはずがこういうことになってしまうとは蒼人は本当に不幸だと思う。
だが本人はずっと嬉しそうだったのでこれでよかったのかもしれない。
「女の子が食事を作ってくれるのを待っているのも中々良いものだね」
「母さんが作ってくれるのと変らないだろう?」
「君は本当に変っていて面白いね……」
蒼人がよく分からない事を言ったが、そういうものなのだろうと覚えることにした。
「さぁ、召し上がれ」
「私はあまり料理をしないから上手くできなかった……かも?」
見た目はどれも素晴らしい料理が出来上がる。
だがこの中に危険な物が混じっている。
多分、深紅が作った物だ……。
俺は今までの記憶から冥子の作った物がどれか分かるので、危険な物は蒼人に食べて貰う事にした。
「どれも美味しいな、蒼人?」
「う、うぐ。そ……そうだね、とても美味しいよ!」
蒼人にはどれが冥子が作った物か分からないので全てを美味しいとしか言えないだろう。
そして世の中には知らない方が幸せな事もあるはずだ。
「真紅朗君って意地悪だね!」
「知らない事が良い事も確かにありますからね……」
本当の事を知らなければ、たとえ偽物でも良い事はあるのかもしれない。
ただ知ってしまった場合、それは悪い事になってしまうのだろうか?
この日は皆泊まっていく事になった。
冥子が泊まると言うとそれに蒼人が続き、それなら深紅も、という風にだ。
そしてお風呂の順番で口論することになる。
「俺と冥子が先に入るね」
「真紅朗それはおかしいだろう!」
「そ、そうね。それはおかしいと思うわ……」
蒼人と深紅は何を言っているのだろうか?
二人なら入れるが三人となると少し狭いだろう。
「そこは僕と冥子。真紅朗と深紅で良いじゃないか!」
ああ、誰と入るかということか。
俺は別に誰とでも良いからな。
「え? そ、それもおかしいよね? それとも魔族と人間はそれが普通なの?」
「は? なんで私が蒼人と入るのよ、嫌に決まってるじゃない!」
まったく皆わがままばかりを言う。
「それじゃあ、冥子と深紅。俺と蒼人でいいか?」
「そ、それならまぁ……」
「それならいいわよ」
「まぁそうなるか」
なんとか皆の納得する結論が得られたようだ。
冥子と深紅が先にお風呂に入る。
「女の子がお風呂に入っているのを待っているのも中々良いものだね」
「昨日は冥子と入ったけどな」
「君は本当に羨ましい奴だな」
蒼人は本当に分からないことばかり言うが覚えておくことにした。
「上がったわ。蒼人、覗かなかったでしょうね?」
「僕はそんな事はしないよ」
「どちらかというと真紅朗が普通に入ってきそうで怖かったわ……」
「三人だと狭いだろう?」
俺は当然の理由を言ったが深紅は呆れた顔をしていた。
「真紅朗はこういう奴なのよ」
冥子は誉めてくれたのだろう……と俺は判断した。
そして俺と蒼人がお風呂に入った。
冥子が髪を乾かす隣で、深紅はそわそわしていた。
「深紅……もしかして覗こうとしてるの?」
「ち、ちがうわよ。でもなんだか気になって……」
「多分、真紅朗がべたべたと蒼人に触ってるでしょうね」
「え、真紅朗ってそっちの趣味だったの?」
深紅は顔を赤くしていた。
「どうなんだろ? まだ分からないわ。そんなに気になるなら覗くか聞き耳でも立てると良いかも?」
深紅は冥子に言われ固まってしまった。
そして期せずして聞き耳を立てる形になった。
「あまり触らないで欲しいな。僕にそんな趣味は無いよ」
「蒼人は全然成長していないな。冥子は凄く大きくなっていたぞ」
「君は人の気にしていることをハッキリ言うね。そして冥子ちゃんの何を見たんだ! そこの辺を詳しく聞かせて欲しいな!」
そんなやり取りをしている時に、お風呂の扉が勢いよく開けられる。
「真紅朗、それ以上言ったら怒るわよ!」
冥子が扉を開け忠告してきた。
その後では顔に手を当てているが、指の隙間からこっちを覗いている深紅が見えた。
「ちょ、冥子ちゃん! 自分は覗くなって言っておいてこれは酷いんじゃないか!」
蒼人は前を隠しながら慌てて言った。
そんなに気にすることなのだろうか?
「分かったよ、もう言わないって!」
俺がそう言ったら冥子は大人しく扉を閉めた。
お風呂から上がり蒼人は気分を落としていた。
「酷い目にあったよ……」
「まぁまぁ……」
俺は蒼人にマッサージをしながらそう言った。
散々な一日だった可哀想な蒼人を労っての事だ。
烏の修理の件もあるしな。
「はぁ……極楽極楽。真紅朗のこれだけは僕にも真似できないよ」
「そんなに気持ちが良いの?」
「深紅もして貰ったらどうかしら?」
マッサージが気になる深紅に冥子が言った。
「深紅にもするね。それじゃあ……」
冥子が蒼人を誰も居ない明後日の方向を向くように移動させた。
「服を脱がすね」
「えっ? ちょ、待っ……」
俺は深紅を脱がし、体のデータを取る事にした。
「やっぱりこうなったか」
「あはは、本当に面白いね」
冥子と蒼人は笑っていた。
俺は深紅の一通りのデータを取ることができた。
深紅は急いで服を着たがショックを受けているようだった。
「もう、お嫁に行けないわ……」
「まぁまぁ……」
俺は深紅にマッサージをしながらそう言った。
「ふにゃぁ……きもちいい……」
「それは良かった。……それでみんなは泊まっていくのか?」
蒼人が何かを察したように反応した。
「まさか真紅朗、昨日は冥子ちゃんと二人で……」
「そうだけど?」
「真紅朗! その時の事を詳しく説明してもらおうか!」
俺は蒼人に首を絞められてしまった。
蒼人は冥子に首を絞められていた。
そしてこの後はお風呂の時と同じようなやり取りが繰り返された。
「これは面白いことになったかもね」
「そうですね、良い方向へ向かっていると思います」
黒江と真白は怪しげな事を言っていた。