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第一章 冥子と深紅

「ん、うーん……」

 時計のアラームがなる。そんな物が無くとも俺は時間通りに起きれるが教わった通りにいつもセットしていた。

 そしていつもの様に目を覚ます。

 いつも通り過ぎて、今まで起きた事が夢のように思えた。

「おはよう、真紅朗君」

「おはようございます、真紅朗さん」

 はぁ……しかしいつも通りでは無かったようだ。

 正直自分の中の何かが壊れてしまったのか心配になるが、自分自身では何も思い当たることは無かった。

 それともこれが新しい人としての覚醒なのだろうか?

 そんなはずは無い。俺が知る限りこういった症状の人は壊れてしまっている。

 周りには気付かれるまで黙っておく方が良いだろう。

「その……別にずっと傍に居なくても良いんじゃないか? 願い事ができたら呼ぶとかできないのか?」

 俺以外には多分見えないのだろうができれば俺も見えないほうが嬉しかった。

「まぁまぁ、私達結構暇なんだよ」

「お気になさらないで下さい。他の人には私達は見えませんし、声も聞こえません」

 そういうことなら良いのか? 俺が気にしないようにすれば良いだけだしな。

「……真紅朗、起きなさーい。朝ご飯が出来たわよー」

 母さんの声が聞こえた。

 このままずっと部屋に閉じこもる訳にも行かない。

 ご飯を食べてそれからゆっくり考える事にした。

 俺は二階ある自分の部屋を出て一階へ向かった。

「おはよう」

 俺はテーブルですでにご飯を食べ始めている、父さんと母さんに声を掛けた。

「おはよー!」

「おはようございます」

 それに真白、黒江が……続けた?

「おはよう……真紅朗。その二人は友達か? 学生の身分で女性を泊めるのは感心しないぞ」

「あらあら、真紅朗。中々やるわね! 一度に二人の女性を相手にするなんて。父さんとは違うわね」

 見えない筈の二人を見て父さんと母さんは声をかけた。

「おはようございます、お二人も朝食を食べるかしら?」

「いえいえ、私達は食べれませんので」

 そう言って、とは言っても声は聞こえていないはずだが真白と黒江は姿を小さいぬいぐるみのような物に変えてしまった。

「ホログラム、仮想画面か? そういう遊びを人前でするのは誤解を招くぞ! まさか……お前……」

 父さんが何か勘違いしているようだ。

 俺にそういう趣味は無い。

 大体において他の人には見えないんじゃなかったのか?

「見えない様にする事もできますが、見えない者と話していると変に誤解を受けると思いまして」

 俺の心を読んだかのような言葉を真白が言った。

 確かにそうかもしれないが違う誤解を受けてしまった。

「まぁまぁ、お父さんも人形遊びをなさっているじゃありませんか。でも真紅朗あまりそういうのを真似しちゃ駄目よ。辛くても現実の世界を受け止めるのよ!」

 母さんも何か勘違いしてるようだ……。

「か、母さん! 魔族はそういう事が得意なだけで別に趣味でやっている訳じゃないぞ!」

 父さんが必死に弁明している。

 俺は説明するのも面倒だし、信じて貰えないと思うので逃げ出すことにした。

 俺は朝食のパンを銜えて玄関に向かった。

「あー、真紅朗。父さんは仕事で魔界の方に行くからしばらく家には帰らんぞー」

 父さんの声が聞こえた。

 父さんは警備員というか身辺警護の仕事をしているらしい。

 俺は将来、父さんと同じ仕事に就こうかと思っている。

 これはまだ秘密だ、母さんはあまりこの仕事が好きじゃないらしいからな。

「分かったよ。それじゃあ行ってきまーす」

「行ってくるねー!」

「行ってきます」

 俺の返事に黒江と真白が続いた。

 これから先が思いやられる……。



 学校へ向かう道でパンを食べながら、黒江と真白に尋ねた。

「姿を隠してくれると助かるんだけど……」

「めんどくさいから無理」

「このほうが何かと便利でして。でも安心してください。私達の姿は見えますが声は聞こえていませんから。先ほどは会話をしているように見えたかも知れませんがそれはたまたまですから」

 なんでも願いを叶えてくれるとか言ってこれだよもう。

 俺はこの状態に混乱していた。

 どこまでが本気で本当か全然分からない。

 考えをまとめるには時間が掛かりそうだ。

 この難しい問題を集中して考えていたら人にぶつかってしまった。

「いたた。登校中にパンを銜えた美少女にぶつかるとかどんなフラグかなって……真紅朗か」

「俺は美少女じゃないけどな。おはよう、冥子」

 俺はパンを食べ切り、倒れてしまった冥子に手を差し伸べる。

 そして起き上がった女の子を見ながら真白が話しかけた。

「真紅朗さん、この方はどなたでしょうか? ご紹介いただけますか?」

「ああ、小さい頃からの友人で土御門つちみかど 冥子めいこって言うんだ」

「よろしくお願いします」

「よろしくねー」

 二人の声は冥子に聞こえないのに、俺は思わず真白と黒江に冥子を紹介してしまった。

 冥子はなんだか軽蔑の眼差しを向けている気がする……当たり前だが。

「魔族は誤解される事が多いからこういうのはやめた方が良いと思うわ……」

「話すと長くなるんだが、俺の趣味では無いとだけ信じてくれ……」

「彼女になれとか言っておいてそれは無いんじゃない?」

 こいつは本当になんてことを言ってくれるんだって俺以外に声は聞こえないのに体が反応してしまった。

 今度は声を出さずにすんだが。

「真紅朗……これからは貴方からは話し掛けないでね。同じ魔族だと思われたくない」

「いや、本当に違うんだ!」

 俺はありのまま起こった事をすべて冥子に説明したかったが話しても良いのだろうか?

 もしかして他の人に話したら殺されちゃうとかあるのか?

「あまり広められると困るので、できれば変態と言う事で通して頂きたいです」

 真白は俺に変態で通せと言った。

「……できれば何も見なかった事にして下さい……」

 俺は諦めてそれで通す事にした。

「私から他の人に説明する事は恥ずかしいから無いと思うわ……。とりあえず真紅朗からは私に近づかないでね!」

 そう言い残して冥子は一人で足早に学校へ向かって行ってしまった。

 俺は大切な何かを失った気がする。

 会話を無視する方が、変った仮想画面を表示しているだけで幾分良く思われるだろう。

 これから黒江と真白を気にしないように注意しないとな……。

 その後も登校中ずっと俺は偏見の目に晒された。

 それは教室に入ってからも同じだった。

「僕達が話し相手になってあげるからそう落ち込まないの!」

「真紅朗さん、元気出してくださいね!」

 その話し相手が問題なんだよ……。

 ただでさえ魔族は友人が少ないって言うのに!

 丁度、歴史の授業が始まる。

 仮想画面で表示された教師がこれまで何度も聞いた事の説明を始めた。

 魔族はどうして友人が少ないのかよく理解できることだろう。



 この世界には人間界の人間、魔界の魔族、天界の天族と大きく分けて三種類の種族が居る。

 二十年程前に魔族が次元の扉を開き魔界から天界へ攻め込んだ事がある。

 魔族の王がこの世の全てを支配するという狂った考えで攻め込んだのが理由だ。

 圧倒的な物量の魔族に天族は劣勢に追い込まれた。

 天族は同じように次元の扉を開き少数精鋭による魔王討伐を行おうとした。

 しかし魔族の真似をした次元の扉は上手く開かず人間界に繋がってしまった。 

 そこで天族は人間と協力し、人間界からさらに次元の扉を開き魔界へと攻め込んだ。

 その力を借りた人間には特殊な力があり、その力で魔王を倒す事に成功し戦争は終結した。



 こういった歴史があって魔族はあまり好まれていない。

 魔界と天界を繋ぐ次元の扉は封鎖されているし、魔族が天界に行くには厳しい規定があって簡単には行けない様になっている。

 だがこういう確執を無くそうと小さい頃から学ぶ学校を全て同じにして、お互いを分かり合おうとする事になった。

 場所は人間界。

 そして名前もなるべく人間と同じにする様になっていた。

 真白と黒江はこれに合わせたのだろう。

 あの二人はまた少し違った理由なのかもしれないけどな。

 名前を変えたところで力の系統が種族ごとに違うのですぐに分かってしまう。

 しかし皆同じ「人類」であるという事を教えたいのかもしれない。



「真紅朗君は真面目に授業を受けなくても良いのかな?」

 心ここにあらずの俺に黒江が話し掛けてきた。

 授業中に関係の無い仮想画面の黒江を表示していても何も注意されない……。

 教師も同じ仮想画面だからだろうか?

 どうでも良いことが気になってしまうがわざわざ聞くこともできない。

「俺は一度見たことや聞いたことはすぐに覚えてしまうんだよ。だから学科は得意としている。少し応用されると全然分からなくなっちゃうけどな。そして実技だったらあまり得意ではないから真面目にやるよ」

「優秀すぎて願い事が無いのかな?」

「そういう訳でも無いんだが今は願い事がある。授業中は話しかけないで欲しい……」

 俺は先ほどから生徒の冷たい視線を浴びている。

 教師は無視してくれたが生徒はそうは行かなかったようだ。

 俺は授業中に可愛い仮想画面と話していた。

 これにはまるで勇者が使う魔法のように時を操る効果があった。

 教室内の時はピタリと止まっていたのだ……。



 二十年前に天族とともに魔王を倒した人間は勇者と呼ばれるようになった。

 勇者は特殊な力、時の魔法を使っていたといわれている。

 名前は伏せられているが、その力は広く知れ渡っている。

 魔法は人間界の人間が得意としている。

 天界の天族、魔界の魔族、人間界の人族とは言わずに人間ということが一般的だ。

 その全てを併せて人類。

 見た目はほとんど変らないが得意な特殊な力が異なっていた。

 人間は炎氷雷などを発生させる魔法の力。

 天族は宝具ほうぐと呼ばれる物に魔法の力を封じ込め扱うことの出来る力。

 魔族はゴーレムと呼ばれる土や石の人形を作り出し操る力。

 天族と人間、魔族と人間の子供はその両方を使うことが出来るが、その力は弱いか片方に偏りのある場合が多い。

 そして天族と魔族の血が交じり合うことはない。

 最近は男同士や女同士というのも珍しく無くなって来ているが、それとは別にいずれまた天族と魔族が対立する可能性を心配する声が多いのもまた事実だ。

 お互いを分かり合う為のこの学校は思っている以上に重要な場所なのかもしれない。

「真紅朗さんは争いの無い平和な世界を願いますか?」

 真白が俺の心の中を呼んだかのような質問をする。

 そして次の言葉も分かっていた。

「真紅朗さんの魂では足りませんので叶えることはできませんが……」

 魂は成長するらしいがどこまで成長しても無理なように思えた。



 退屈な学科の授業が終わった。

 俺は教室から場所を変えとても広いグラウンドに実技の為にやってきた。

 周りには観客席もあり、まるでスタジアムのような場所だ。

 この学校のいたる所には魔法の結界が施されている。

 魔法で建物や学校周辺に被害が出ないようにする為の物だが、特にここは観客席に被害が出ないよう強力な結界が施されている。

 いつもならこんな所には来ないのだが、目の前にいる天族の女の子のおかげでここに来ることになってしまった。

 理由は三十分程さかのぼることになる。



 教室で黒江と真白をどうするか考えている時にそれは起こった。

「貴方、名前を変えなさい!」

 俺は初対面の名前も知らない女の子にそう言われた。

「何の事かまったく分からないけど、とりあえず名前を教えてもらっても良いか?」

 まったく礼儀を知らない女だ。

 そういえば最近、天族の長の娘が転校して来たというがもしかしてこいつの事だろうか?

 偉そうな態度の女の子だと聞いたから多分そうだろう。

「私の名前は朝比奈あさひな 深紅みく、ふかいにくれないでミクって言うの。これで分かったでしょう?」

「名前は分かったけどその深紅さんがどうして俺の名前を変えて欲しいのか分からないな」

「まだ分からないの? 深紅と真紅。同じクリムゾンで嫌なの! これだから紛らわしい人間界の名前は嫌いなのよ!」

 俺にはまったく理解できない理由だったがこの女の子にとっては重要な事なのだろう。

 だからといって変えるわけにもいかない。

「すまないが親から貰った大事な名前でね、変えるつもりはないよ」

「それなら次の実技で貴方を名前の通り、真紅に変えてあげるわ!」

 実技で俺を殺すのかよ……。

 死んだからと言って名前は変らない。

 それとも力ずくということだろうか?

 本当に天族なのだろうか、まるで魔族のような言い分だ。



 というわけで今に至る。

 観客席には冥子が座っていた。

 今朝はいろいろと言われたが冥子はいつも通りに接してくれた。

 黒江と真白も観客席に居て、俺を助けるつもりは無いようだ。

「真紅朗君がんばってねー!」

「真紅朗さん頑張ってくださいね!」

「真紅朗! 魔族の力を見せてあげなさい!」

 その応援を聞いて深紅は確信したように言った。

「貴方魔族なの? やはり天族と魔族は分かり合えないのね!」

 俺の事はあまり知らないようだな。

 それならばとっておきの一度だけ使える作戦があるので何とかなりそうだな。

「こんなことは止めにしないか? 話し合えばきっと分かり合えるさ」

 俺はできれば戦いたくないので最後の説得を試みる。

「話し合いの時間は終わったの、後は力で決めましょう!」

 一体いつ話し合いの時間があったのだろう。

 深紅の中ではとにかく戦うということは決定したようだった。

 そして深紅は宝具を召喚した。

 制服の上に何も無い空間から現れた白い鎧が纏われた。

 ただの鎧ではなく魔法の力が封じ込められているに違いない。

 そして鎧だけでなくその手には大きな赤い剣が召喚された。

 あれを俺は知っている。

 教科書で見たことがある。

 レーヴァテインとかいう天族でも最高ランクの宝具だ。

 レプリカであってほしいが深紅の生まれからしても多分本物だろう……。

 そして問答無用で俺に襲い掛かってきた。

 歴史とは逆で天族は好戦的なんだな。

 そんなことを考える余裕は無かったがそう思わずにはいられなかった。

 しかしそれ以上考える時間は無い。

 俺は魔族らしくゴーレムを操った。

 深紅に無数の黒い鳥、カラスが纏わり付き視界を遮る。

 俺のゴーレムは特殊で他にこんなのを使っている者はいない。

 扱いがとても難しくそして弱い。

 そして攻撃力など皆無だからだ。

「烏をゴーレムとして使うなんて……。動物は大切にしないといけないのよ!」

「俺は大切にしなくていいのかよ!」

 俺は視界を遮った隙に死角に回り込もうとしたが、馬鹿なツッコミを入れてチャンスを逃してしまった。

 鎧の力だろうか?

 深紅の周りに見えない障壁のような物が現れ、烏が弾かれて地面に落ちてしまった。

 そして俺とはかなり距離があったがレーヴァテインが振り下ろされた。

「おー!」

「すごいですね!」

「きゃっ!」

 観客席から上がる歓声と悲鳴。

 剣から発せられた衝撃波が、地面と結界で守られていたはずの誰も居ない観客席を破壊していた。

 俺は辛うじてその攻撃を回避していた。

 距離があった事とその威力を知っていたからだ。

「次ははずさない!」

 そう言って深紅は俺と距離を詰めながら剣を振るう。

 俺は使いたくなかったが魔法を使った。

 3 深紅の傍に近づく

 2 深紅の死角に回る

 1 深紅の喉元に手を伸ばす

 そして俺は深紅に声を掛けた。

「動くな! 動けば手加減しない!」

 深紅からは俺が消えて見えたはずだ。

「貴方、人間とのハーフだったの? 見失うほどの加速の魔法とは驚きね」

 俺の言葉通り動きを止めて、深紅は驚きの声を上げていた。

 深紅は俺に背を向ける形になっているが、まだ俺への警戒を解いては居なかった。

「できれば降参して欲しいのだが?」

 俺は警戒しながら言った。

「降参? ……でも貴方に私の防御障壁が破れるのかしら?」

 そして俺は最後の切り札を使った。

 宝具を召喚し、喉元に伸ばしていた手に黒い剣が握られた。

 宝具の剣フォールスは昔、父さんに天族から贈られた物らしい。

 魔族に天族からの贈り物とは珍しいが理由は教えてもらえなかった。

 大した価値も威力も無いらしいが一応は宝具、防御障壁くらいは破れるはずだ。

 普通にに扱えれば……ね。

「ど、どうして貴方が宝具を使えるの!」

 深紅は本当の驚きの声を上げた。

「マルチスキル、それが俺の二つ名だ」

 俺は天魔人全ての力を使う事が出来る。

 相手の知らない力を使い動揺させ冷静な判断をさせない。

 これが俺の作戦だった。

「……降参よ。私の負けだわ……」

 そして深紅は降参してくれた。



 戦いを終え、俺達はグラウンドから教室のある校舎へ向かっていた。

「真紅朗君って中々強いねー」

「真紅朗さんは実技が苦手と仰られていましたが謙遜だったのですね」

 誉めてくれる黒江と真白。

「真紅朗! 魔族の力を見せろって言ったのに人間と天族の力で勝つとか魔族としての誇りが無さ過ぎるわ!」

 俺に軽く蹴りを入れて怒っている様な冥子。

 だが始めの「魔族の力を見せてあげなさい」が布石になり勝つことができたようなものだ。

 それは長年付き合ってきた冥子なりの助力だった事を俺は分かっていた。

「まぁあのままやってたら真紅朗が負けてたし仕方ないか」

 冥子は言わなくて良いことを言ってしまった。

「……あのまま続けても私は勝てなかったと思いますが?」

 深紅が質問していた。

「真紅朗は宝具を召喚できるけどその力を使うことはできないんだったよね?」

 冥子は俺の弱点をばらしてしまった。

「二つ名も本当は器用貧乏マルチスキル。騙されちゃったね、クリムゾンさん!」

 悔しそうにしている深紅に容赦の無い冥子。クリムゾンは深紅の二つ名なのだろうか?

「クリムゾンってやっぱりその赤い剣の事でか?」

 俺は深紅に聞いてみた。

「そうなんだけど……たった今からこの白い鎧が返り血で赤く染まるからにするわ!」

 まずい、ちょっと怒らせすぎたようだ。

 俺に向かって剣が振り下ろされた。

 また辛うじて回避することができたが、その衝撃波は校舎へ向かって進んでいた。

 幸いなことに校舎にあたる寸前、先生によってその衝撃波はかき消された。

「お前ら、何勝手に暴れてるんだ?」

 片桐 あかり(かたぎり あかり)先生。

 結構いい歳なはずだが、あかりちゃんなどと生徒から呼ばれて慕われている。

 だが怒るとかなり怖い。

 その力は凄まじく、レーヴァテインの衝撃波をかき消したことからも分かるだろう。

 俺の小さい頃からの師匠で頭が上がらない。

 そしてこの場合どうなるかも分かっていたので誰よりも先に逃げ出していた。

 3 遠くへ走る

 2 ただ遠くへ走る

 1 一心不乱に遠くへ走る

 俺は己の限界の力を使い遠くへ逃げた。

 だが目の前には片桐先生が立ちふさがっていた。

「誰がその魔法を教えたと思っているんだ?」

「し、師匠に俺の成長を見てもらいたくて!」

 必死に誤魔化した。

 一応嘘ではなく、一割ほどは本当に思っていた事だ。

「そうかそうか、だがまだまだだな。久しぶりに稽古をつけてやろう、そこのお前達もな!」

 見ていただけの冥子もいっしょに地獄の稽古が始まった。

 魔法が重要視されるこの時代に過度の筋力トレーニングをすることになった。

 魔法で負荷をかけながら行うことで全ての能力が満遍なく鍛えられるらしい。

 そして俺達が解放されたのは日が暮れるころだった……。



「真紅朗のせいで酷い目にあったわ……」

 深紅とは学校で逃げるように別れ、俺は冥子と一緒に帰っていた。

「面白い見世物だったよ!」

「大変でしたけど楽しそうでしたね」

 黒江と真白はもう俺から離れることはないのだろうか?

 ずっと傍についてきていた。

 冥子は完全なとばっちりだった。

 すべて俺のせいというわけでもないはずだが本当に悪いことをしたと思う。

「巻き込んじゃってごめんな」

「まぁ止めなかった私も、ほんの少しだけ悪かったかもだし許してあげるわ」

 この借りは何時か返そうと思うがこんな事がこれまでもたくさんあって全然返せていない。

 もうすぐ俺の家に着くという所で一つ疑問があった。

「冥子はどこまで付いて来るんだ? 家はこっちじゃないだろう?」

「あら聞いてないの? 美香みかさんから連絡があって貴方の面倒を見て欲しいって言わ

れたわ」

 母さんから俺はまったく聞いていない。

 父さんはしばらく帰らないと言っていたがそれと関係あるのだろうか?

阿門あもんさんが心配だから一緒に魔界に付いて行くそうよ」

 普通まずは息子に連絡するものだろう……。

 俺よりも父さんが心配なのかとも思ったが、冥子に頼む事からも一応は心配しているのだろう。

 俺は料理などは教わったことが無いので何も出来ないからな。



 そして俺達は家に着いた。

「これは僕達は邪魔しないように物陰に隠れていた方が良いかな?」

「そうですね、私達は隠れていましょう」

 黒江と真白は隣の部屋から扉で顔を半分隠しながら覗き込むようにしていた。

「俺達は姉弟みたいなものだから変な気を使わなくても良いよ」

 また会話に反応してしまった。

「そうね、手間のかかる弟だわ!」

 そう言いながら冥子はお風呂の準備を始めた。

 仮想画面と話す俺に対して、特に気にした様子を見せないのが冥子の優しさだろう。

「片桐先生に絞られたから汗かいちゃった。ご飯の前にお風呂入るね」

「そうだな。久しぶりに一緒に入ろうか」

 俺は小さい頃を思い出し、冥子を誘う。

「いいけど、変なことしないでね!」

 驚いた顔をする黒江と真白。

「あわわ、あの二人結構大胆なんだね!」

「あまり詮索する事ではありませんよ」

 そう言いながらも二人はこっそり覗いていた。



「冥子の凄い大きいな。サイズは……」

「真紅朗の何でもデータを取ろうとする癖は変らないわね」

「後で役に立つこともあるんだよ!」

 俺と冥子は二人で入り、そして二人いっしょに出てきた。

「本当の家族みたいで何も起こらなかったね!」

「本当の家族でもこんな大きくなった人達では変った事だと思いますが……」

 一緒に入っていた俺が言うのはおかしいかもしれないが覗きとはあまり良い趣味とは思えないな。

 もしかして俺は監視されているのだろうか?

 心配したところで俺にはどうすることもできない事だった。



 冥子は慣れた手つきでご飯を準備し始めた。

 俺は料理の手伝いをしろとも仕方を覚えろとも言われていないので邪魔をしないようにしていただけだった。

 そして出来たご飯を俺は美味しく頂いた。

「ご馳走様、美味しかったよ。いつも一人でさせてしまってなんだか悪いなぁ」

「これくらい何でもないわよ。気にしないで」

 だがここは少しでもお礼をするべきだろう。俺は冥子を抱えてベッドに運ぶ。

「ん、何をするの?」

「お礼にマッサージでもしようかと」

 ここで先ほど入手したデータが役に立つ。

 培ってきた情報を整理し、最適なマッサージを俺は行うことができる。

「真紅朗のマッサージの腕前だけは一流だからお願いするわ」

「うん、任せとけ!」

 そうこうしている内に夜は更けていった。

「今日は泊まって行くんだろう?」

「今日というか美香さん達が帰るまではそうさせて貰うつもりよ」

「じゃあ……一緒のベッドで寝ようね」

「いいけど、真紅朗はなんていうか寂しがりや過ぎないかしら。ちょっと心配になるわ、その

変な仮想画面の事もあるし……」

 俺の願いは全て叶えられていた。

 あやしげな羽の生えた人達とは大違いだ!

「僕、分かっちゃったよ。真紅朗ってとっても子供なんだね……」

「私達が願い事を叶えに現れる人達は純粋な人が多いのですけど、これはまた特別かもしれませんね……」

 俺はまだ成人していないから子供なのは当たり前なのに何を言っているのだろう。

 だが周りと比べると幼い印象があるのかもしれないな。

 そういうことにして無理矢理納得することにした。

 それにしてもまだ一日目だけど、周りに聞こえない声で話し掛けられるのは対応が大変だ。

 ずっとぬいぐるみの様な姿で居てくれることが唯一の救いか。

 これから先も苦労しそうだな……。




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