【9話】
『ごめんなさいね、こんなに話してしまって。困らせるつもりはなかったんだけど…』
しばらくぼうっとしていたのだろう。先生が心配そうに話しかけてきた。
「いえ、大丈夫です。いつかは言わなきゃと思ってたんで。」
しばらく沈黙が続いた。誰も何も言わなかった。5分が経ち、最初に口を開いたのは
お母さんだった。
[トキ、前に手紙のことお父さんに相談してたでしょ?あの夜トキが寝たあとね、お父
さんが私に言ったの。【そういうことをやってる奴の気はおかしい。今はハルカちゃ
んが標的になっているが、もしかしたら今度はトキにまわってくるかもしれないぞ】
ってね。]
知らなかった。お母さんは何故そのことを私に教えてくれなかったんだろう・・・・・
でもその謎はすぐに解けた。あのとき、もしお母さんが私にこのことを伝えていたとし
ても、私は反発して言うことをきかなかっただろう。その頃、ハルカは私の親友で、人
付き合いが苦手な私にとっては唯一心を許せる友達でもあった。だから見捨てるなんて
そんな冷たいことは出来なかった。もっと言えば、ハルカを失うのが怖かった。無責任
な人だと思われたくなかった。だから私はきっと言うことをきかなかっただろう。
「そんなの・・・今言われてもどうにもなんないじゃん。」
別に責めているわけではない。ただの本心だった。でも一度喋り出すととまらなかった。
「私もう学校行くのやめる。行ってても意味ないもん。冷たい視線だけ浴びてさ、なん
の得があるわけ??学校って勉強しに行くとこでしょ?私このことのせいで授業も全
全頭に入らない。もう嫌だよ。」
いつの間にか泣いていた。声も身体も震えることなく。いっきに喋ると少し楽になった。
でもお母さんに悪いような気がしてならなかった。言い終わってすぐに自己嫌悪に陥っ
た。お母さんを傷つけたかもしれない。考えるだけで胃がムカムカしてきた。
[でも学校行かなくなったら、【やっぱりトキがやってたんだ。だから学校来れなくなっ
たんだ。】って言われるかもしれないよ?そんなの負けてるみたいで嫌じゃない?]
親らしいことを言った。でも私はその言葉にむかついてしまった。
「それでもいい。私が犯人って言うならそう思ってればいいもん。もう関わりたくない。
勝手にやってればいいじゃんって感じ。」
そこで今まで黙っていた先生が口を開いた。
『でもね、それじゃやっぱり悔しいわよ。トキさんは悪くないのに、やっていることを
認めてしまうことにもなりかねないのよ?』
まったくこの人は私がさっき言った言葉を聞いていなかったのだろうか。
「もう、それでもいいですよ。今私が何かを言って反論したところで、誰も私の言葉は
信じません。ただの言い訳に聞こえるだけです。それこそ墓穴を掘ることになります。
もうどうしようもないじゃないですか。本当の犯人が見つからない限り、手段はない
ですよ。それとも先生が全部解決してくれるんですか?」
私のこの挑戦的な態度に先生は口を閉じた。私も口を閉じた。
もう何も話したくなかった。疲れてしまったのだ。なんで何もしていない私がこんな大変
な想いをしなければならないのだろう。怒りがこみ上げてきた。そうよ!!私は何も悪いこ
となんてしてない。なのになんでよ・・・・瞬間的に怒りは沈んで悔しさという後味が残
った。
皆しばらく黙っていた。先生がうちに来てからもう2時間が過ぎていた。
このときも、最初に言葉を発したのはお母さんだった。
[先生、そろそろ遅くなりますので今日はこのへんにしましょう。]
先生は自分の腕時計に目をやり、『そうですね』と疲れたような目で言った。
『それじゃトキさん、明日学校で待ってるからね。絶対に来てくれるわよね?先生信じて
待ってるからね。』
私は返事をしなかった。
先生はなおもねばった。
『人の話を聞くときは?なんだっけ??』
この状況でそんなこと言ってられる場合じゃないでしょ。そう思いながら私は顔を上げら
れないでいた。
先生はあきらめて
『じゃあ明日学校でね。』
と言った。それからお母さんに向き直って
『それでは夜分遅くまでお邪魔いたしました。』
こうして先生は帰って行った。
私は自分の部屋にこもって泣きはらした
悔しさと寂しさとやりきれない気持ちを抱いて。
そして、眠りに落ちた。
夢の中でも、私は泣いていました。
更新が遅れてしまってすみませんでした。
調度修学旅行に行っていたもので・・・・・
読んでくださった方ありがとうございます。
次話も読んでくださいね。
感謝をこめて Shiena




