#67 最終話
荒廃した大地。この土地が再生するまで相当時間がかかるだろう。
俺がいまいる場所はルーシアグラード。
一週間前――――――
反帝国連合軍に攻め込まれ、最終的にレーバテインを自爆覚悟で放った。
爆心地のルーシアグラード城には人の死体という物がない。蒸発したのだろう。
「ざまあみろ」
放射能を浴びると解っていながら龍斗はここに赴いた。
どうせ俺はもうすぐで死ぬ。いまさら放射能などどうってことない。
いまなら使用済み核燃料と一年過ごそうと問題ない。
俺の寿命はもう一年もないからである。
オーレリシア大戦開戦日に始まったシャンバラ大戦。
僅か2週間でセールス・トルキスタン王朝の領土は奪還され、セールス・トルキスタン王朝の再興が確実となった。
それと同時に集まるセールス・トルキスタンの有志達。レジスタンスはセールス・トルキスタン軍と名前を変え、軍勢は六千人から六万人へと10倍になっていた。
アルト・テギン率いるセールス・トルキスタン軍はムガル連邦軍と大和皇国軍、プトレマイオス共和国軍と共に北へ東へ西へと進んでいった。
その一週間後帝国の領土の東側を完全に制圧した大和皇国軍は西で苦戦しているその他連合軍支援のため西へ向かった。
大和皇国軍が支援に来てからは勢いのあった帝国も沈静。連合軍無双だった。
開戦日から一カ月後。首都ルーシアグラードは連合軍数十万の軍勢に囲まれていた。
連合軍も士気はともかく電撃戦と短期物量戦で弾薬は尽きかけていた。持っていた装備は帝国から奪ったものを代用しているのが多く、兵士の数だけ勝っていた。
だが、弾薬がなくともそこに見える大量の軍勢と大和皇国の古代兵器群。
勝ち目なしと諦めていた帝国は連合軍侵攻と同時にレーバテインを使用。
死者両軍・民間人合わせて五十万を超える大被害となった。
「また・・・人が死んだか・・・実感わかないね・・・あと一カ月か・・・」
俺は何もする気にならない。
だって・・・俺のするべき事は終わった。復讐も済んだ。
でも・・・
「なんでだろう・・・悲しくもないのに涙が出るよ・・・」
そして
「とても人に会いたい・・・・あの、みんながいた場所に行きたい。帰りたいよ」
でも、身体が動こうとしない。枯れ木一本も残らずに、荒廃したルーシアグラードの地面を座る俺は人間の馴果てだろう。何かしたいのに、でも動けない。
いや、動きたくないのかもしれない。このまま黙ってひっそりと死にたいのかもしれない。
でも、
「もう一度会いたいよ・・・・イリーナ・・・・」
俺はある一人の少女の名前をつぶやいていた。
「最近イリーナ調子いいね」
「ほんと、リュートさんがいなくなった時はどうなるかと思っていましたけど・・・」
店に来ているユリアといつもの話し相手で従業員のアイリスは働いているイリーナを見て感心する。
「数か月でここまで立ち直るとは・・」
喫茶店スルト。彼女が今働いているところだ。別にギルドをやめたわけではない。
けど、イリーナは龍斗がいなくなって10ヶ月がたった時に言いだした。
「私に料理を作らせて!!」
大衆酒場に頼みこみに行った。
最初の方はアイリスも困っていたが、彼女は龍斗を見て学んだのか知らないが誰一人として知らない料理をたくさん知っていた。今となってはここにいないといけない・・・いてくれないと客が減るからである。もしイリーナがいなくなったらコックがいなくなったレストランである。
戦争が終わってまだ一週間。大衆酒場はプシェムィシルを救った英雄スルトの名前を使った喫茶店スルトと改名した。
「なんでそんな最近調子いいのさ?」
料理を運んできたイリーナにユリアはさりげなく聞いた。
「ん?なんでかな?」
「だってあいついないんだよ?」
作り笑いとは思えない顔をしているが、それが気になったのかユリアは遠回しではなく直接聞いた。
「でも生きてるもん。リュートは生きている。私はそれを知っている。それだけで十分。二度と会えないわけじゃないから」
「何で言いきれるのさ」
「フーファイター。あれリュートの事だよ。あいつ以外あんなことしないもん。リュートが戦って頑張る。私も戦えるけどもう人殺しはしたくない。どうせならおいしい物作って村のみんなに喜んでもらって、みんなに頑張ってもらいたい。だから私はみんなに元気を与えるために頑張る。へこたれて、情けない姿さらしている私見たらリュートなんて言うと思う?」
「情けないな?」
「ご名答です。だからそんなこと言われないために頑張る」
「偉いですよ。イリーナ」
「そう?ありがと」
そんなイリーナを傍目で見る彼女らは
「何が起こったんだろうな・・・」
「さぁ?」
「お金もらった側としちゃ言うのもなんだけど、プシェムィシルまで相当掛かるよ?」
「問題ねえ。俺には行かなきゃいけないんだ」
九鬼龍斗はセールス・トルキスタン王朝からサルデーニャ帝国まで行くという商人に金を払うことで荷台に乗せてもらってる。
悪魔化すればすぐに行けそうだ。と思われるかもしれないが、現状況、俺は使いたくない。というかうまく使えない。自分が怒りに震えている時しか使えないと書いてあったから、うまく使えないのかもしれない。俺の復讐劇は終わったも同然だからな・・・
「何でそこまでしていきたいのかわからないけど・・・でもあの国は新興国だからいろんな人たちを移民として受け入れているよ」
「それぐらいは知っているよ。俺はそれが目的じゃないんだ」
「じゃあ何?」
「そうだな・・・・今生の別れの前のあいさつ?」
「はぁ~・・・・若いもんの考えることはよくわからないね」
解らなくてもいいさ。
「俺はあいつに会わなきゃいけない」
どんなに遠くても・・・
「じゃあ今日はお疲れ様」
「はい」
そう言って一礼するとイリーナは帰路に立つ。
・・・・さみしいに決まってる。リュートがいなくなって何度泣いたか。
でも、さみしいって言っても耐えれるさみしさ。
だって、ここにいなくてもリュートは・・・・
どんなに離れていてもイリーナは・・・・
俺と
私と
「同じ時間を同じ空の下で生きているから」
そして
「また会えるから」
離れ離れの二人は星が満面の夜空を見上げこの何処までも長く続く空の向こうにいる人ともう一度会うため、笑いあえるその日まで、今も頑張って生きている。
笑いあえたあの日々を思い出して・・・
約8ヵ月間応援ありがとうございました。
こんなはっきりしない終わりでいいのかなと思いますが、とりあえず一応これで完結です。気が向いたら、エピローグ的なものを書こうかなってところです。