#61 戦場伝説
――――――ユートランド要塞
「い、いったいいつになったら、この理不尽な戦いは終わるんだ?」
「俺達の弾薬がなくなるまでだ」
「なくなったら?」
「死」
「ふざけるなあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ユートランド要塞に立てこもるはポートランド残党軍2万5千人。食料の方はユートランド半島の民間人から供給してもらっている。しかし、弾薬の方はそううまくいかず、倒した敵から夜な夜な奪い去って戦っている。
ポートランド残党軍に対するユートランド要塞を包囲する帝国軍は10万人。古代兵器こそないものの、毎日降り注ぐ上空軍の飛行艇による爆撃。榴弾砲や、よくありきたりな魔法攻撃。いくら損害が少なくても精神的に参っている輩が多い。
「フーファイターでも出てくれればな・・・」
「戦場伝説?」
「ああ。ここんところ聞かないか?ポートランド残党軍のゲリラや反帝国同盟諸国の部隊に味方するってやつ」
「はい?」
「しらないのか・・・そいつがいてくれればな・・・」
そんな事を思いながら要塞の上・・・・空を見上げる兵士。
「ああ?」
「どうした?」
「あれ?」
つられて見上げた兵士は見たこともない物を見る。
「な、なんなんだあの黒い物体は?」
突如振ってきた黒い物体は帝国軍のベースキャンプに衝突した。
「な、何があったんだ?」
「へっへっへ・・・こんなものか、帝国軍のベースキャンプは・・・」
まるで隕石が衝突したかのように半径数十メートルのクレーターが作られた帝国軍ベースキャンプ跡地の中心に立つ漆黒の粒子を纏い、黒い翼をもつ悪魔は舌舐めずりをする。
「き、貴様何者だ?」
騒ぎに駆けつけてきた兵士たちはよくありきたりなセリフを吐く。
「何物でもいいだろ?どうせお前ら全員俺にぶち殺されるんだからよ」
「な、なに?」
崩壊したベースキャンプの騒ぎに確認しに行った部隊の隊長が聞き返す。
だが、答える言葉も聞く間に消え去った。
「そうだな・・・あえて言うならばオーレリシア大陸を火の海に変えた悪魔“スルト”様の再臨か?」
「ス、スルト!!」
“スルト”という三文字の言葉を聞いた瞬間全身が凍りついたように動かなくなった兵士達。オーレリシア人にとってスルトという言葉はユダヤ人にとってヒトラー。アメリカ人にとってビンラディン。日本人で言うと原子爆弾や核兵器等の言葉の数千倍の恐怖だろう。
「ああ。という訳だからよ。死んでくれ!!」
「どういう訳だ!!!!」
集まってきた部隊の兵士たちは理由も解らずただ理不尽に死んでいくのであった。
「す、すごい・・・あれが戦場伝説・・・サタン!!」
「サタン?」
「ああ。かつてスルト達が残していった本に書かれていた悪魔の事さ。俺達はスルトを悪魔と見ているが、あれはスルトではなくどちらかというとその本に書かれたサタンそっくりだということで」
「成程」
そんな事を話しながら二人の兵士は龍斗が次々に帝国兵士を理由もなく殺していく姿を見ていた。
「もっとやったれー」
「全滅させろー」
「ぶち殺せ!!」
他の部隊の兵士からも次々と龍斗に対する応援メッセージが送られてくる。
それに応えるかのように龍斗は帝国兵士を無残にも消滅させていく。
そして帝国軍がよくわからずに白旗を上げたのは1時間後だった。
「結局彼は何だったのだろう?」
「サタンだろ?戦場伝説の」
「いや、そういうことではなくて・・・誰だったんだろうかって?」
「それが解らないからフーファイターなんだぜ?」
成程。誰なのか解っていたら伝説じゃないもんな。そう自己解釈する下っ端兵士たちであった。
♦
数ヵ月後
―――――西部戦線
母国が消滅し援助が途絶えたポートランド皇国残党軍の西部戦線は窮地に陥っていた。
サルデーニャ帝国軍は連邦を挟み打ちするために海を渡りイスパーニア帝国に上陸する計画を練っており、それにほぼ全軍を投入する予定で西部戦線を今維持しているのは8割がたポートランド皇国残党軍である。
「こんな理不尽な戦いあるかよ!!」
「仕方ねえだろ!!俺達残党はこうするしかねえんだからよ!!」
塹壕を掘りガトリングガンを構え、敵が近づくまで連邦・帝国双方の砲撃に耐え続ける。古代兵器を持たず支援物資もほぼ途絶えた残党軍はこうするしかなかった。
「・・・・確かこの辺・・・」
地図を見ながら歩く青年九鬼龍斗。
「西部戦線。帝国を叩きつぶすにはちょうどいいな」
背中にしょってあったリュックをその場で下ろして、目を閉じる。
「この動作にも慣れてきたな・・・」
METを操るため集中。し龍斗の身体の周りに緑色に発光し始め、その色はしだいに黒になっていく。
「悪魔化!!」
背中からは翼が生え、右手は忌々しい姿に変わり、体中黒の縞模様。
「久しぶりの大量の獲物だ。大切にぶちのめさねえとな!!」
舌舐めずりした龍斗は目で追いつけないスピードで帝国軍の中心へと降りたって言った。
「フーファイター?」
「ああ。聞いたことないか?」
「いや・・・」
リュートがいなくなって5カ月。もう少しで半年になる。ホント何やってるのかしら?
「これを見ろ」
「?」
大衆酒場で酒を飲みながらウィーンペストタイムズを読んでいたアーノルド大佐は私に新聞を渡す。
「・・・こ、これは?」
「ああ。もしかするとじゃが・・・」
「悪魔化状態のリュート」
「そう。イリーナクン。彼がいなくなる前机に置いてあった冊子には何と書いてあった?」
・・・・顎に指を当てて思い出すそぶりをするイリーナ。
「たしか、責任を取ってくるとか」
「成程。彼らしい」
一人納得してうなずくアーノルド大佐を傍から見て理解できないイリーナ。
「な、なんなんですか?」
「ふむ」と言って酒を一口飲んだアーノルド大佐は少し間を開けて言った。
「彼は自分がスルトということに何と思っていた?」
「俺さえ来なければ・・・とか、一時的に毎日言っていました」
「そこじゃよ」
「はい?」
イリーナは彼が何を言っているのかさっぱり理解していなかった。
「彼は自分が来たせいで戦争が起こったと思っている。つまりその責任をとり、帝国軍を潰す。そう考えているんじゃないかね」
「でも・・・なんで今になって」
「君は確実にあの渦模様が現れたら後寿命が1年という事を聞かれていないと言い切れるか?」
「だって追い出しましたもの」
「姿形がなくとも魔法とかで聞きだせるのではないか?」
「あっ」と、確かにとでもいうような声で納得せざるを得なくなったイリーナは少し唇をかみしめる。
「それならば彼がことを急いだ理由も解るのでは?」
「そ、そんな・・・・」
「しかし、悲しむことはない。今彼はまだ生きている。帝国軍はポートランド=ソフィア王国には手が出せずに、我々は武器輸出でもどんどん金が入ってきており、あちこちに残ったギルド公社の工場などもプシェムィシル地区にどんどん移転している。サルデーニャ帝国やプトレマイオス共和国の資本も入ってきておる。移民政策も取り入れており、発展は止まらず。国土も誰かさんが帝国軍をどんどん元ポートランド皇国領から追い出しているため増えている。わしらに出来ることはリュートクンが帝国をたたきのめすことを祈るだけじゃ」
「・・・そうですね」
九鬼龍斗が南プシェムィシル村からいなくなってから7ヶ月後、ポートランド皇国領内の帝国軍は壊滅。全面撤退をし、連邦はポートランド=ソフィア製の武器を使う反帝国同盟諸国に挟み撃ちにされ連邦は解体された。