#59 後悔
プシェムィシル地区を領地として独立を果たしたポートランド=ソフィア王国。
その首都ともいえる南プシェムィシル村。その村の中心。大衆酒場。
そして大衆酒場では今日も相変わらずバカ騒ぎが続いている。
「いやっほーい!!飲め飲め!!俺達は独立戦争に勝ったんだ!!」
もはや先程の戦争を独立戦争などの命名している馬鹿野郎はいつものおちゃらけキャラのガルバン。その相方カザードもがぶがぶ飲んでいる。
「連戦連勝!!さすがわが友リュート!!ほらほらエンフィールドも遠慮するな!!」
「そ、そんなに飲んだら・・・急性アルコールなんたらになりますよ」
「そんなこと知るか!!」
とまぁ・・・大騒ぎ中です。でもその一方・・・
「あの人達よく騒いでいられますね・・・」
元ギルド公社受付看板娘で現大衆酒場看板娘となったアイリスは静かに酒を飲んでいるアーノルド大佐のところへ酒を持っていく。
「まったくだよ。あの二人はいまだ立ち直ってないのに・・・よくぞまあここまで騒げる」
目の前で酒を飲むユリアはガルバン達を見て呆れている。
「なおさらじゃよ。あの二人がこのままだと他の連中にも響く。あのような連中がいたほうが軍の士気も上がる。それでなくともあの二人がこの状況なんじゃ。あれぐらいしないと・・・」
「だが・・・」
「だが?わしたちはあの二人に何かできるとも?慰めの言葉をかければ再び立ち上がるとでも?そんな綺麗ごとで何とかなるんならよほど人間という物は単純に作られているのじゃな」
「・・・あんたねぇ・・・人ごとみたいに」
「人ごとじゃよ。お前さんは解るかい?3ケタ以上の人間を一瞬で殺す感覚と後悔を?いくら元ルーシア征教教祖直属護衛騎士団団長だったわしとて一日ならともかく・・・一瞬・・・そんなことした事もない」
「あんたいい加減にしなよ?それ以上言うんだったらあんたの口二度と喋れないようにするよ?」
「ほほほ・・・出来るもんならやってみせい!!お前さんごときにやられるほどわしはまだ年じゃない!!」
二人の間で飛び散る火花。更にそれに介入するアイリスさん。
「や、やめてください。するなら外で!!あなた達が壊れるのは勝手ですけど・・・店まで壊さないでください!!」
「・・・・せめて私たちの心配しろよ・・・」
「全くじゃ・・・・とりあえず、あの二人は今落ち着かせておくのが一番だ。二人とも目の前で大切な人を失っている。立ち直るのは早くはないだろう。そっと見守っておくのがわし等ができる一番の事だ」
「・・・それもそうね。で、過去を詮索するのはそこまで好きじゃないが、あんたいったい何やってきたのさ?」
「わしか?・・・一言でいえば人殺しじゃな。たくさんの人々を殺したよ。それがルーシア征教の教え・・・人間皆平等になるための仕方がない犠牲だと・・・そう心に言いきかせても残るのは後悔ばかり・・・それが嫌になって任務の途中脱走。ここでギルドのソルジャーになった」
「へぇ・・・あんたも色々あるんだねぇ」
アイリスさんは先程まで一触即発状態だったのにいまや友好状態となっている二人を見て何が起こったのか理解できていない様子。
「何がどうなっているのでしょう?」
C-2輸送機内―――――
「ひっく・・・ひっく・・・・・」
こんなに涙が出るのは何でだろう?もう、涙が枯れるほど泣いたと思うのに・・・
「大丈夫。大丈夫だよ・・・リュート。私が傍にいるから」
「でも、でも・・・あの時・・・無理矢理でも俺が止めていれば!!」
俺は後悔の念に苛まされていた。無理やりエアリィを止めておけば死んだのはエアリィじゃなくて俺だったのに!!
「エアリィは死ななかったんだ!!」
イリーナの肩を強く握る。
「リュ、リュート痛い!!」
「ご、ごめん」
「・・・リュート・・・泣きたいならもっと泣いていいよ」
小さい体ながらも俺の顔を胸に包み込むイリーナ。女性に抱かれて泣くのは何年振りだろう?
「・・・・ひっく・・・ひっく・・・うわああああああああ!!!」
俺は泣いた。イリーナの胸で。イリーナの身体を強く抱いた。
誰かに慰めてもらいたかったのかもしれない。
でも、自分がこれじゃあ・・・この国はどうなるんだろう・・・
――――――村立図書館
「ロ、ローラ皇女殿下・・・お一人でのお出かけは危険です」
一人で出かけたローラ皇女を追いかけるエーリッヒ。
「あらそう?なら、あなたがついてくればいいことでしょ?」
「ご、ごもっともであります!!」
「で・・・・すいません」
ローラ皇女は図書館のカウンターへと出向き受付係の人と話す。
「おお、これはこれは、ローラ皇女様。本日はどんなご用件で?」
「スルトについての文献と、魔法関連の書籍を全部持ってきていだたきたいのですが?」
「ぜ、全部ですか・・・解りました」
隣にいたエーリッヒが、受付係を軽く睨んだところ、それに屈してすんなりと承諾してくれた。
「・・・・えーと、多分これで全部ですね」
そう言って受付係が持ってきたのは10冊程度の書籍。全部ほこりまみれになっている。
「ありがとうございます・・・では、エーリッヒ?」
「はい!!」
「悪魔化魔法について調べるわよ」
「はっ!!」
エーリッヒはこうしてローラ皇女に数時間付き合わされた。
・・・・数時間後
「ふぅ~全部読み終えたわ」
「全く大変でしたよ。で、この資料をどうするんですか?」
悪魔化魔法について調べた情報を書き写した数十枚の紙。
「・・・・とりあえずリュートさんには伝えない方がいいかと・・・」
「・・・まぁ、確かに。でも、あのスルトべったりの元皇女様にも・・・伝えたら多分発狂して死んじゃいますよ?」
「でも、真実を知らずにしておく方がよっぽど可哀想だわ」
「・・・まあ、そうですね。手のひらに真っ黒の渦模様・・・もしくはどちらかの腕が悪魔化から戻らなくなったら・・・」
「悪魔化魔法を唱えたスルトに1年も持たずにそれが現れたって人がいますから・・・」
その頃――――C-2輸送機
「・・・ありがとう。イリーナ」
「・・・そ、そんなこと・・ないよ」
二人とも恥ずかしいから顔が見えないように暗闇にランプを照らしているだけである。
でもそれでも、イリーナの顔が火照っているのが確認できる。
「恥ずかしがるなよ。その・・・俺も気まずいし。それに、そういうときはどういたしましてって言えよ。素直じゃないな」
「う、う、うぅ・・・・ど、どういたしまして!!」
「良く言えました」
そう言うと俺はイリーナの頭をなでる。
「子供扱いしないでよ!!」
「まだ子供じゃんか」
「う、うるさい!!」
そう言って俺の右手を払いのけるイリーナ。だが、イリーナは俺の右手を掴んだまま動かなかった。
「どうした?」
「なにこれ?」
俺は自分の右手見えるように裏返す。いや表返すか?まあ、どちらでもいい。
取りあえず手のひらが見えるようにした。
「な、なんだこれ?」
いくら手でこすっても消えない。右手のひらに浮かんだ黒の渦模様。
「それが現れたスルトは1年で亡くなったそうよ・・・」