#55 夜襲-前編-
「人数確認するぞ?陽動部隊である別働隊はちゃんといるか?」
「ああ。俺に任せておけ」
胸を叩いて自身満々に誇るのは元ポートランド皇国陸軍第一師団特殊作戦情報部隊隊長エーリッヒ・フォン・ザクセン。彼が率いていた部隊自体隠密行動にふさわしく各国へ行ってスパイ活動をしていた経歴を持ち、体術が得意な部隊として各国から知られていた。
そして陽動隊の隊員も隊長と同じく全て元特殊作戦情報部隊の隊員で占めている。
「では俺達本隊は・・・」
俺。イリーナ。エアリィ・・・・そして特戦部選抜メンバー10人。と、俺が心強い味方?か知らないが、ガルバンとカザード。そしてユリアを呼んできた。
「これか・・・・」
「これかとは何よ!!せっかく来てやったのに」
「全くだ」
「同感、同感」
「ホント、ホント。失礼な」
「特にお前の事なんだがな!!エアリィ」
失礼極まりないことは覚悟で言うが、俺の言うことは事実である。
お前は怪我が治ったとか言っているけどそう簡単にあの傷が治るか!!などなどエトセトラエトセトラ・・・・
「まあまあ、リュートも怒らず。何かがあったら私が本気出せばいいってことでしょ?」
自信満々にそのないペッタンコの胸を張り威張るイリーナ。
自信満々に張るほどの胸なんかないのにな
「なんか余計なこと考えたでしょ?今なら自白すれば許すわよ?」
なんでこいつまで俺の考えたことわかるのだろうか?
「まあそこは置いておいて・・・まあ、結果的にはそうだけど、俺的には穏便に進めたいんでな。じゃあ行くぞ。ステルス!!」
「私を無視するな!!」
俺がステルスと言った瞬間俺と俺の周りの本隊の隊員たちは一瞬緑色の光子・・・METに包まれて、そして元に戻った。
「本当にこれでいいのか?」
「ああ。これで敵に気付かれにくくなった。さあ行くぞ」
「待て?俺達には?」
自分達にステルスを掛けてもらえなかったことを不思議に思ったエーリッヒは行くぞという時に俺を止めた。
「お前らにかけたら陽動の意味がないだろう。俺達に比べるとお前らは数百倍見つかりやすい。敵の注意がお前らに向いている時に俺達は武器をごそごそ漁ってちゃっちゃっと帰る。という訳だ。じゃあ、一時間後、ここで」
「成程な。じゃあな。そちらも無事で」
「ああ。じゃあ行くぞ」
俺達本隊は正面切って堂々と平地からベースキャンプを襲う。陽動隊は山林から裏を回ってベースキャンプに攻撃を仕掛ける。俺達はステルス効果があるから平地を堂々と歩いてもまず見つからない。
――――――プシェムィシル要塞北5km先 神聖東オーレリシア帝国陸軍ベースキャンプ
「こちら南部監視塔・・・異常なし」
「こちら西部監視塔異常なし」
「こちら東部監視塔異常なし」
「こちら北部監視塔・・・異常?・・・何でもない。異常なしだ」
「引き続き監視を続行せよ」
「ああ」
「・・・・・あれが目的のベースキャンプですね」
「ああ。俺達はあれに向かって魔法攻撃を繰り出し、そしてただ暴れて敵の注意をひけ」
エーリッヒが一通り陽動隊の仕事を的確に説明する。
彼らが持っている飛び道具と言えば拳銃だけだ。しかも確実と言えるぐらいの当てられる距離など狙撃銃に比べたらほんの僅かだ。ガトリングガンに比べれば命中率はいいだろうが、何せ単発。
「出来るだけ遠距離戦には持っていくな。この山林をうまく使って隠密白兵戦に持ち込め。暗闇の中での視力は俺達の方がいいはずだ」
「はい!!」
「では行くぞ・・・・Burn.」
「Blitz ray!!」
次々と繰り出されるよくありきたりな魔法攻撃。攻撃レベル的にいえば拳銃の弾一発が100としたなら40程度だ。それでも敵の注意を惹くには十分足り、寝ていた兵士は監視塔で警戒していた兵士が鳴らした鐘の音を聞き起き出し臨戦態勢を整えている。
「よし。こちらへ注意をひいたぞ。全員解散。山林へ散開し散発的に攻撃を仕掛けよ」
「はっ!!」
エーリッヒの命令により散開し次々にあちらこちらから攻撃を仕掛ける陽動隊員達。
帝国軍兵士は標的が山林のあちらこちらに展開しているため標的が定まらずに困惑している。
「いいぞいいぞ。その調子でもっと敵の目をかく乱させてくれ。では、俺達は突入!!」
「おお!!」
たくさんの兵士が外に出ていくのをいいことに俺達はキャンプ内の武器を漁る。
「武器は見つかったがどうすればいいんだ?」
カザードは大きな筒を持ちながら俺に尋ねる。確かにこれだけの武器を素手で持って行ったところで手に入れられる武器の量はたかが知れている。
「それについては俺に任せろ。そうだな・・・・」
ふと俺が目についた物。俺達の世界には多分ないと思う巨大な輸送トラック。陸自の3.5トントラックの2倍以上はあるだろう。
「これの後ろに詰め込もう。とりあえずお前らじゃ何が古代兵器か解りそうにないからカザードはここにいてくれ」
「わかった。出来るだけ多く集めてこいよ」
「OK」
「このテント・・・・たくさんあるなぁ」
俺がテントに積まれた大量の箱を見る。ドイツ語で7.92mm弾と書かれている。
そして近くには見たこともない銃があった。
「形的にはスマートになったStG44みたいだな。やはり異界からの失い人・・・スルトとはドイツ人なのか?」
龍斗はStG44に似た銃をとりながら何か色々と考えたが答えは結局見つからずあきらめた。
「こんなことしている場合じゃない。つめこむか」
何10キロの重さの箱をたくさん、何回も、往復して、そしてトラックには本隊員以外全部古代兵器でほぼ埋まってしまった。
「これで全員か?」
「いや・・・それがまだエアリィが来てない」
「あの野郎!!」
「おーい!!」
「何処行ってんだか・・・」
「おーい!!気づけぇ!!」
ふと聞こえた聞き覚えのある声・・・外に出て後ろを振り返るとそこにはエアリィがいた。
「遅れてごめん!!」
と言っても100メートル近く先にいるのでまだ時間がかかりそうだ。
そんな時!!
「敵襲敵襲。ベースキャンプ内に数名の潜入部隊発見。直ちに目標を変更せよ!!」
“カンカンカンカン”と鐘を叩く音が聞こえる。それと同時にたくさんの兵士たちが俺達に銃撃を仕掛けてくる。
「まさかの魔法の時間切れか?」
「エアリィ!!早くしろ!!」
「そ、そんなこと言っても遠くて・・・」
背中に大量の古代兵器を背負っているからだ。
「もう古代兵器はいい。お前の命の方が大事だ!!戻って来い」
「後ちょっとだからっ!!」
“パァン”と乾いた音が鳴り響く。
乾いた音の方向。エアリィがいきなり倒れた場所より少し後ろだ。
そこには・・・だいぶ前に見たことのある顔。
「久しぶりだな。リュート・クキ」
「あ、えーと、・・・ちょっと待ってろ・・・・確か・・・えーと」
「思い出せよ・・・ヴィクトル・チェブリコフだ。俺達を陽動隊に惑わせて武器を奪おうとは・・・さすがスルトの考えることだな。だが、これでお前も動けまい」
“カチャ”ヴィクトルの持っていた拳銃が倒れたエアリィの胸に当てられる。
「た、助けてよ・・・リュート・・・」
先程の銃撃で足を撃たれたエアリィは倒れて、現在進行形ヴィクトルの人質になっている・
「き、汚ねえ!!」
「何とでも言え。これが俺のやり方だ。それにお前らにも敵をだまして武器を奪うという汚いやり方があるじゃないか」
「リュートは正々堂々としているもん!!あんたら何かと一緒じゃない!!」
突如後ろから出てきたイリーナとその他はヴィクトルを囲む。
「俺らをその他でまとめるな!!」
ガルバンはエアリィと同じ相手の心を読む力を使ったらしく、俺の考えていることが筒抜けだった。
「そりゃ悪かったな。」
「イリーナ・・・・みんな・・・」
「ほう。成程。でもその状態がいつまでもつかな?」
「どういうことだ?」
ヴィクトルのその意味深な発言は龍斗だけでなく周りのみんなの心も惑わしていた。
「ふっ・・・俺はこのナイスバディな子猫ちゃんを殺せない」
そう言うとヴィクトルは拳銃でエアリィの胸をはじく。
「あっ!!」
「お前・・・なにがいいたい?」
「怖い怖い。この娘・・・いや猫・・・どっちでもいいが殺した瞬間お前らは俺を殺す。だけど、お前らも俺を殺せない」
「なんだと?」
「なぜならお前らが何かしでかしたなら、俺は真っ先にこいつを殺す。どうだ?」
「成程。だが、お前がこの状態いつまでもつか・・・隙を見せた瞬間殺す」
「どうだか・・・俺達がこんな間合いを取っている間にどうなるか・・・戻ってきた兵士はお前らを包囲するだろう。クックック・・・自分達で行動を考えな」
「俺は・・・俺は・・・・」
どうすればいいんだ!!
僅かな時間の中でみんなが助かる方法をどう選ぶか・・・
龍斗は悩むのであった・・・