#48 決意
「この頃帝国軍の動きが怪しいと聞いた。村ではなくプシェムイシル地区を守る方針でいこう」
「そうだな。とりあえず貴様が提供した戦法で守り一色に染めよう」
「そうだな。対古代兵器対策もしないといかんし」
ここは元ギルド公社南プシェムィシル村支部。現在プシェムィシル地区合併軍司令部と化している。
3週間前に襲った悲劇。帝国軍による海からの古代兵器による南プシェムィシル村侵攻。
たくさんの民間人と自警軍が亡くなった。その前に起こった国境沿いでの戦闘により国境警備軍は壊滅。残った国境警備軍残党は南プシェムィシル村自警軍と合流。そしてジェシェフ地区とプシェムィシル地区との間で新たにできた国境で警備している国境警備軍と自警軍が合併。合併軍となった。なぜそうなったか?
――――――2週間前
「まだまだ瓦礫撤去には時間がかかりそうだな」
「ああ。」
龍斗は自警軍のメンツと村人と共に今だ戦災で癒えない村の復旧作業をしていた。
あらかた死体の撤去は終わっており、残りは瓦礫撤去ぐらいなものだ。
「おい、あれなんだ?」
海上警備をしている自警軍のメンツが叫んでいる。
その声につられ周りの人々は海を見る。そこにはポートランド皇国海軍プシェムィシル地区隊のレベルにはならないほどの大艦隊が迫ってきていた。ちなみにプシェムィシル地区隊は一週間前海上警備に出払っていたところを帝国軍に不意をつかれ全滅している。
「・・・あれは、二代目ローレライ!!どうして?」
「ま、まさか・・・オーレリシア最強と呼ばれるポートランド皇国海軍地中海艦隊!!」
「いや、それだけじゃねえ。ザクセン海艦隊やバルト海艦隊まで合流しているぞ」
ガルバンとカザードははしゃいで喜んでいた。
だが、俺には全く喜ぶことなど・・・むしろ嫌な予感しかしなかった。
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案の定俺の予想は的中していた。
二代目ローレライに乗船していた第一師団団長とその他皇帝陛下直々の親衛隊、特戦部、そしてローラ皇女。彼らから様々な事情を聴き、何があったのか理解した。
「たしか、陛下はレーバ・・・テインとか言っておりました」
「古代兵器最強の兵器・・・やはりもう既に見つけていたというのか。それで、皇帝陛下はどうなった?」
俺は死んだような眼をしているローラ皇女に話すことなどできず、常にそばにいた第一師団長からの話しか頼りがなかった。
「私たちが船で出発して数分後に大爆発が城で起きました。多分今頃ウィーンペストは崩壊しているでしょう・・・・陛下・・・」
俺は説明した後泣き出した第一師団長に対しで責めることしかできなかった。
なぜ、皇帝陛下を無理矢理でも連れてこなかったのか?と。
たしかにアルバート皇帝は何も説明をしなかった。それは説明するのに時間がかかるから逃げ出させるためにはその方がいい。ではなぜ一緒に逃げなかったのか?それは多分皇帝陛下だったから。ウィーンペスト内の国民を見捨てるなど皇帝陛下である自分がしていいわけがない。多分そう考えていたのだろう。
「仕方がない。今日のところはお開きだ。あと、自警軍のみんなに言っておいてくれ。明日からプシェムィシル要塞とあのロンツァート城を制圧する。そして、ジェシェフ地区とプシェムィシル地区との境に展開している国境警備軍と合流する。それと、ローラ皇女様は残ってください」
「・・・・」
勿論返事はなかった。いや、返事をする気力もなかったのだろう。父親の死、望みもしない突然の戦争。そして数ヵ月後に皇帝陛下である兄の死。それと同時にポートランド皇国の滅亡。無理もない。この容姿からみて温室育ちと見た。
誰もいなくなった部屋で俺はやつれているローラ皇女にお茶を配る。
「どうぞ」
「・・・・」
「話したくなければ構いませんが、最後にアルバート皇帝は何と?」
「・・・・あ、後は、後は、後はまか、せたぞ・・リュートクン。と、言ってました」
泣きながら今にも崩れそうな姿で無理に声を出す姿とそのアルバート皇帝の俺に伝えたかった言葉を聞いて俺は涙腺が緩んだ。
「・・・この国はあんたがいたから保てたのに・・・俺に任せたぞって・・・俺なんかが何ができる。俺なんて戦争を引き起こす種にしかならないのに・・・」
しかも、この村だけ自立するにもトップである村長はいないし、軍事力も・・・軍事力?まてよ?
「たくさんの有能な兵士にたくさんの軍艦。これだけよこすということは、アルバート皇帝はまだ諦めていない。いや、これだけの戦力があれば・・・この村を守り抜くことはできる。知恵を振り絞れば・・・・」
「・・・兄は何がしたかったんですか?」
不意な質問に戸惑う俺だが、迷いなく答えられる。
「解らない」
そう。解る筈がないのだ。
「そうですか・・・」
「だって、その答えは俺が作るんですから」
そう、皇帝陛下がしたかったことはない。皇帝陛下はしたかったのではなく俺にしてほしかったんだ。これだけの素材だけよこして。
「はい?」
「そう、ここに新しい国を作るんです。この村にはローラ皇女に、イリーナ。滅ぼされた国の皇女が二人もいます。そして、残りの残党軍もいます。俺達が新しい国を作るんです」
「そんなの無理よ。もうあの平和な日々は二度と戻ってこないわ。私もいずれ帝国の占領軍に捕まるわ。そして処刑よ」
「そうさせないためでしょうに。俺はあきらめませんよ。アルバート皇帝陛下が守りたかったもの。この国。国民。そして一番守りたかったのはあなた。妹であるあなたですよ。だから彼はあなたと一緒に大量の人材と機材、兵力、軍事力をこんな国境沿いの村に送り込んできたんです」
「どういうこと?」
今だ俺の話に理解できていないローラ皇女。まあ俺も難しく言いすぎたんだが、簡単にいえばプシェムィシル地区に国を作るという訳なんだがな。
「俺達が、この地区に国家を作り、アルバート皇帝の遺志をついであなたを守ります。そして全部ではありませんがポートランド皇国民を守ります」
「むりよ。あれだけの兵力と軍事力。勝てっこないわ」
「そうやって逃げて死んだとして兄に合わせる顔はありますか?」
「・・・・」
あるわけがないだろうに。俺は無信教だがあの世というのはあると思っている。
「ないでしょう。でも、俺はそう簡単に合わせるつもりはありませんよ?この地区の民とあなたを守るために国を作るんですから」
「その、その言葉信じていい?」
まだ不安が残りつつも俺に信用を向けてくれた。俺はそれだけでうれしかった。
ならご期待に添えようじゃないか。
「信じてみて損はさせるつもりはありませんよ」
「本当に?」
「ああ。本当です」
「あ、ありがとう」
そのセリフと同時に俺の胸の中に飛び込んで、ローラ皇女は泣きだした。
「ローラ皇女様・・・あ、あの」
突然の出来事に戸惑う俺だったが彼女はやさしく弱く答えた。
「ちょっとだけでいいから・・・すこしでいいから・・・今はこのままでいさせて」
「は、はい!!」
がちがちに堅くなった俺は不格好ながらも彼女の頭を撫でた。
「もう安心してください」
「・・・・」
「この戦争の火種は俺。ならその責任は俺が取ります」
「はい」
先程まで絶望に染まっていたローラ皇女の顔には、希望に満ち溢れた顔になっていた。
そう、俺達の戦争はまだ始まったばかりだ。