#47 レーバテインの炎
「村のために散らした47の命に対し敬礼!!」
アーノルド大佐の一言により一斉に敬礼する自警軍。
ほの一週間ちょっと前にあった帝国による南プシェムィシル村侵攻は、自警軍の足止めと、龍斗の動かした古代兵器により帝国を撤退させることには成功した。
だが、被害は大きく、村南部から中部は焼け野原。村総人口2300人中民間人死者89名、負傷者389名。自警軍死者47名、負傷者630名。そして、一番の大きな被害は
「そして、村人を守るために人質となって殺された村長に敬礼!!」
この村の村長が亡くなったことだ。
話によると村人何名かが人質になっていたところを自分が人質になる代わりに他を解放してくれと。結果的に人質は助かったものの、村長自身は亡くなった。
―――――――“元”ギルド公社支部ロビー
「大ニュース!!大ニュース!!」
イリーナが大はしゃぎで俺の前の机にウィーンペストタイムズを叩きつけた。
「なんだなんだ?今日はどんなニュースがっ・・・・」
九鬼龍斗はウィーンペストタイムズの大一面を聞かざる記事に唖然、驚愕した。
そう、誰もが様相だにしない事。むしろうれしいこと。
「東オーレリシア帝国クーデター勃発・・・・ルーシア征教と帝国軍ポートランド侵攻軍司令官である帝国第5皇位継承者マクシミリアン・フォン・ヘルフ・アレクサンドロヴィチによるクーデター。彼らは共産主義を掲げルーシア征教の教えである人間の平等を唱え皇帝陛下を倒し・・・・成程」
龍斗は村の復旧作業は今困難と考え、村の入り口に城壁と物見やぐらを作ることを計画した。発案者である当の本人はロビーでくつろいでいる。
「どうなるの?戦争評論家として」
「・・・評論家ではないだろう。ただの軍人だ。奴らは多分まだ戦争をする」
「へ?」
俺の答えが意外すぎてイリーナは茫然とし、顎が開いたまま立っている。
そこまで驚くことはないだろうに。
「へ?じゃねえよ。戦争は続く」
「なんで?どうして?どうなって?」
「あいつらの狙いが俺の古代兵器の情報なら奴らは俺の脳みそから情報取って行ったから問題ないはずだ。奴らの狙いはその情報により古代兵器を手にしオーレリシア大陸を取ることだ。だから戦争を続ける」
俺のこの演説に対し異議を唱える者がいた。
丸坊主の頭と左目の眼帯がチャームポイントであるいかにもヤンキーオーラ出しまくりのガルバン・ウォーライト
「リュート。ならなぜ奴らは共産主義などという思想を掲げているんだ?みな平等にするならむしろ戦争に不利になる影響が出てくるのでは?」
あまい。君の考えは甘い。と言いたかったところだがあえて黙ろう。
まあいい線をついているが、本物の共産主義を知っている俺には解るんだよ。
「いいか。共産主義ってのはみんな平等なんだろ?つまり給料も一緒。食べる食事も一緒。住む家の広さも。もてる土地も。働く量も。もし個人会社が社員に給料を平等に払う。みんな給料が一緒ということは国が払わせる給料を決めるわけだ。その給料を払っても社長の方に莫大な金が残ってたらどうする?」
「捨てる?」
イリーナは何を言っているんだ?
「バカ言っちゃいけない。そんなことにならないため、全部の会社を国のものにする。国営だ。そこで渡す給料を統一。余った金は全部国の物だ。その方がよっぽど戦争をするための金回りがいい。そして貧困になっていたと言っても一部がその何千倍もの金を持っていたのだから、みんな普通に生活できるなら文句は言わない。文句を言わずに戦争が継続できる。ルーシア征教。いい時期にクーデター起こしたな」
「成程」
「ガルバンはなかなか理解力があるようだな。それに比べて・・・」
「どういうこと???」
「イリーナは全く理解できていない・・・まあ簡単に言うとそのみんな平等ですよ的な考え方の方が今の時期戦争に有利に進められるってこと」
これならさすがに解るだろう。
「・・・なんとなく」
「ダメだこりゃ」
呆れて手で頭を押させる龍斗だった。
――――――ジェシェフ地区
既にこの地区はポートランド皇国領ではなく東オーレリシア帝国領だ。
そしてここに“危険。触るな”と書かれて厳重な警備で運ばれてきたある物が置かれている。それは
「レーバテイン・・・俺達の計画も半分を迎えた。これをウィーンペストに仕掛け爆破させれば」
「オーレリシア大陸は我らの物」
ルーシア征教教祖直属護衛騎士団団長ジークフリート・アルジェントと帝国陸軍国家戦略情報部隊隊長ヴィクトル・チェブリコフは不気味な笑みをしている。
「出発は明日。現地の人間ですら知らないこの道を行けば5日でばれずにウィーンペストにつく」
「5日後が勝負どころだ」
周りの兵士たちは嬉しさのあまり笑顔を隠せずに酒を飲んでいる。
ポートランド皇国消滅まで後5日・・・
5日後――――――ポートランド皇国首都ウィーンペスト
「私達旅をしている行商人で、ウィーンペストへ荷物を運んでいる最中です」
ウィーンペストに入るためには、厳重な警備を越えなければならない。
そのためウィーンペストにレーバテインを運びたい帝国は行商人に偽装して中へ侵入しないといけない。
「なるほど。ならその中身を見させてもらう。」
「いいでしょう」
行商人に偽装したジークフリートは荷車のホロを取り中に入っている物を見せる。
「見ての通りサルデーニャ帝国原産のパスタですよ。」
「成程な」
門番の兵士は荷車の奥をさらにごそごそと漁る。そこから出てきたのは大量の武器・弾薬とレーバテインだった。
「この戦時に行商人がと怪しいと思っていたが・・・武器商人とでも呼ぼうか?え?貴様は帝国のスパイか?それとも連邦か?どっちだ?」
「ばれちゃ仕方がない。かかれ!!」
行商人に変装していた兵士150名(後ろに並んでいた)は一気に服に隠していた小銃を乱射し、ウィーンペストへ突入する。
「初めからこうしてれば良かったな。おい、貴様ら。荷車の中身は絶対に守れ!!」
「はっ!!」
次々と突入していく帝国兵。手当たり次第に小銃で乱射し殺していく姿はかつての古代最終戦争の時のスルトの風刺画を思い浮かべられる。
「城まであと少し。白の中央部に置いたらすぐにウィーンペストへ脱出するぞ。2分後には爆発するようにセットするから」
――――――――ポートランド城
「あれは・・・ジークフリート?だったか・・・荷車の中身は?」
「陛下・・・危ないですぞ。ここは第一師団にお任せを」
「ああ。だが少しまて・・・クレアボヤンス!!」
ポートランド皇国皇帝陛下であるアルバート・ポートランドは城の上から荷車を守りながら城へと向かうジークフリートを見てクレアボヤンスを発動させた。
「・・・・なんだ・・・あの円柱状の物は?・・・・なんて書いてある・・・れ、レーバ・・・レーバテイン・・・レーバテイン!!」
さらに視力が一時的に向上する魔法を使い小さい文字まで読み取る皇帝。
そこには古代文字でレーバテインと書いてあった。
「ど、どうしましたか・・・?」
何かに脅えるような顔で身体を震わす皇帝陛下を見て焦りを隠せない第一師団長。
「たしか・・・何かの文献で見たレーバテインは円柱の形をしていた。まさか!!」
一気に走りだすアルバート皇帝。向かった先は
「ローラ!!」
「どうしました?外が騒がしいようですが何があったんですかお兄様」
「ローラ。それどころじゃない。地下通路を通って、軍港に出るんだ。行き方は解るよな?」
「はい。解りますけど・・・」
「なら全軍艦率いて南プシェムィシル村へ逃げるんだ」
「なぜに?理由がなければ」
「理由なんかない!!これは皇帝からの命令だ!!反論は許さない!!」
突如として怒り出した兄の様子をみて何が何だか理解ができていない妹のローラ・ポートランド。仕方がなくしぶしぶ兄に従うことにしたローラ。
「ありがとう。こんな兄貴の言うことを聞いてくれて」
「いいえ、十分立派です。私にとって自慢の兄ですよ」
「そうか。第一師団長!!」
「はっ!!」
「特戦部を全隊員集めて君も一緒に軍艦に乗れ。いいな?」
「はっ!!(なぜに?)」
「これが俺が皇帝陛下として出す最後の命令だ」
最後の命令を下した時のアルバート皇帝の顔はさわやかになっていた。
「何が何だかわかりませんが・・・ご期待に添えるよう全力を尽くします!!」
「ありがとう。そしてウィーンペストに行ったらリュート君に伝えてくれ。後は・・・」
「解りました。」
彼らは走りだした。城の地下を。そして彼は決めた。死を。
「よし、ここらへんでいいだろう。導火線に火をつけろ」
原理的にいえば導火線に火をつけて爆弾が爆発する。その爆発が核を搭載したミサイルの起爆剤となり爆発する。
「はっ!!」
「今から二分だ。二分後にウィーンペストから脱出していないといけない。いくぞ!!」
「はっ!!」
一気に背中に翼をはやしていく兵士たち。その速度はライト兄弟の飛行機より速いだろう。
「くそっ!!結局あいつらは何がしたかったんだよ」
死んでいった兵士や敵の片づけをしている兵士は城の方からまぶしい光を見た。
それ以降彼が見た光景はない。
――――ウィーンペスト城
「リュート君・・・ローラを・・・この国を・・・まかせたぞ」
アルバート皇帝陛下は頬に涙を流しながらまばゆい光と共に消えていった。
――――――地中海
「全くお兄様は何を考えて!!」
二代目ローレライの甲板で怒っているローラを制止させようと試みる軍人たち。
「皇帝陛下にもきっと何か策があって・・・」
それでも制止しないローラを制止させたのは一筋のまばゆい光と鼓膜を引き裂くような第爆発音。そしてウィーンペストを丸ごと包み込むほどの大爆発だった。
「ど、どういうこと・・・」
「まさか、皇帝陛下はこれを予測して・・・われらを・・・」
「そんな・・・お兄様・・・・お兄様!!!!!!」
巨大な爆発にのまれていくウィーンペストを見ながら遠ざかっていく景色に涙を流すローラはずっと兄の名を叫び続けた。
「す、すげえぞ。こ、これが・・・これが・・・・これがレーバテインの炎!!」
一人空で高笑いするジークフリートだった。