#2 嫌う理由
俺の打ちあげられていた海岸から歩いて40分。地球の距離換算にして3kmぐらいか。未だにイリーナの住んでいる村には着かない。
「イリーナ、君の住んでいる村はどこなんだ?歩いても歩いても森ばかりだぞ」
「もうすぐで着く筈よ。それにしても今日は運がいいわ。モンスターに合わないし」
「もんすたー?」
「やっぱりあなたは異界からの失い人ね。記憶があるから失い人ではなく異界からの人だけど・・・私たち人と呼ばれる生物が魔法粒子をたくさん浴びるとどうなる?」
「記憶を失う代わりに体内にMETが自動蓄積されていき、身体能力が強化される・・・だっけ?」
「そう。もし、その浴びたMETの量が失い人になる量の数十倍だったら?」
「・・・モンスターになるとか・・・」
「そう。もはや、記憶が失うのではなく人間としての本能すら失う。そして、これは人間だけでなく他の生命にも通用する。特に他の生物は、人と同じ割合ではなく人と同じ量を失うため私たちが失う量は他の生物にとっては、記憶だけではないの。本能そのもの。だからモンスター化する生物が多いの。だけど今日は会わないわ。・・・・・・・村が見えてきたわ」
「どれどれ」
俺はイリーナが指差す方向を向いた。森を抜けるとイリーナの村の周りは西と南に海、東に俺達がいる岩肌の見えている山、北には大きな川・・・川の向こうにはさらに森が広がっており森の奥には大きな要塞。
「ここは何という村だ?」
「南プシェムィシル村よ。さあついてきて」
「ああ」
と、彼女に連れられて彼女の家に向かった。どんな家なのだろうと少し期待をしていたのだが・・・
「ここ」
「・・・・・は?」
「いや、は?じゃなくて」
「此処はどう見ても家じゃなくて・・・」
「いいから」
「はぁ」
俺が見た彼女の家と言うのは、先程まで俺達がいた岩肌が見えている山の下にある入口が高さ2mぐらいの鍾乳洞だった。
「此処本当に家なのか?」
「だまされたと思って入って」
そう言われたため俺はしぶしぶ鍾乳洞に入った。・・・・そこは、彼女の言うとおりだった。
「ここは・・・」
確かにだまされたという感じだ。
「ねっ!!私もこの村で失い人として拾われた時家の提供でここに住めと言われた時はさすがにびっくりしたよ。でも、案外住み心地良くて。ただ奥の方によくわからない扉や倉庫があるから気をつけて」
鍾乳洞だと思って入ってみたら中は縦に長い円柱型で壁がすべて鉄でできていた。
(なんかここ・・・見たことあるぞ・・・・)
入って左側を見ると扉を見つけた。
「ここはなんだ?」
「う~ん・・・私にもわからないのよね。中は入れるけど何が何だか・・・」
俺は気になったので中に入る事にした。
「これは・・・・」
「なにかあったの?」
「やはりそうだ。これは・・・」
中はシャンバラの人に限らず、地球の一般人でもよくわからない装置がたくさんあった。しかし俺は解る。かつて俺が見たことのある光景。そう航空自衛隊に配備されたばかりの
「C-2輸送機だ。まさかこんな所にあるとは」
「しーつー?なにそれ?」
「いやなんでもない。それよりもシャンバラについて詳しく書かれた本などはないか?」
「私の家にはないわ。行くだったらこの村の村立図書館へ行けば?この村はポートランド皇国では大きい村のほうだし・・・もっと詳しく調べたいなら此処から北西のずっと向こうにあるポートランド皇国の首都ウィーンペストにある国立図書館に行けば?」
「そうか。ありがとう。では、その村立図書館とはどこにある?案内してくれ。」
「了解。と言いたいところだけど、今日は遅いから明日にしない?大丈夫。宿なら提供するよ」
「君がその方が助かるならそうしよう。」
「ちょっとお惣菜とご飯を買ってこないと・・・」
「・・・何なら俺が調理しようか?材料だけ君が買ってきて」
「あなた、ご飯作れるの?」
「君の舌に合うかどうかは保証しないが、少なくとも人間が食べられるものは作る」
「なんかものすごく伏線張ってるわね」
「まあ食べてみればわかるさ」
「じゃあ信用するよ。何買ってくればいい?」
「えーとね、シャンバラにあるかわからないけど、・・・・・・この紙に書いたものを買ってきて」
「・・・・わかったわ。どれもみんなシャンバラにあるわよ」
「そうか。ならいい」
「じゃあ行って来るね。留守番頼んだわよ」
「ああ」
そうして、俺は料理の準備に取り掛かった。
―――――――夜
「・・・・ご飯にかかっているこの黒い液体は何?いいにおいはするけど・・・・本当に大丈夫?色が何だか・・・」
イリーナは俺の作った料理を果てしなく疑っている。これは食べ物なのかと・・・
「とことん失礼な奴だな。牛肉と玉ねぎを薄切りにしてトマトピューレで和えて小麦粉とバターとかで作ったデミグラスソースを」
「解らないからいいわ。あなたの言うとおり食べてみればわかるから」
「食べてくれ」
「・・・ん」
イリーナはものすごい顔をして口に含んだ。そこまでスルトの作る料理は信用できねえのか?
「・・・・・何これ?こんなにおいしい物今まで口にしたことがない・・・・」
先程の低い声とはトーンが違い高くなった。俺の料理ってそこまでうまかったのか?それとも料理があまりこの世界にないのか・・・
「ハヤシライスって言うんだ。・・・おいしいか・・・それは良かった。お代わりもあるぞ」
「うん。これならうちのコックとして永久的に雇いたいわ。もはや店まで開くわ」
「大袈裟な・・・」
こんなので店開けたら俺は開いているよ。とっくに!!
「もう一杯」
「早いな・・・食べるの」
「・・・・また明日も私の直属のコックとしてよろしくね」
「はいはい。代わりに宿代はその場合タダだぞ」
そんなたわいない話をして俺はシャンバラでの生活の一日目を過ごした。戻ることはできるのだろうか・・・そんなことを考えて俺は眠りについた。
―――――――朝
俺達は村立図書館へ行くために朝早く起きていた。勿論資料調べである。
「あなたその格好では目立つわよ」
そう言われてみると俺の恰好は、F-35Bに乗ったままの状態で耐Gスーツを着っぱなしだった。確かにこの時代にこれは目立つ格好である。
「それと、あまり顔を出さない方がいいわ。」
「なんで?」
「それは・・・あまり詳しくは言えないけど、図書館で本を見ればわかるわ。ちょっと待ってて」
そう言うとイリーナは奥に行って棚を漁りだした。この家具はどうしたんだろう。村から支給でもされたのだろうか?
「あった。少し小さいかもしれないけどはい。」
渡されたのはフードだった。
「これで顔を隠して」
「・・・俺はお尋ねものか?」
「此処ではそこまでいかないと思うけど、他の国ではスルトを見つけたら懸賞金がかけられているわ。あなたは私の命の恩人だから、私はそんなことしないわ」
「まあ、いろいろ事情があるんだろうな」
俺はそう言ってイリーナから受け渡されたフードをかぶった。正直なところこっちの方が怪しいだろ・・・と言う突っ込みをしたかったが、我慢した。そして、輸送機内が気になったため漁った。
「・・・此処が格納庫だな・・・確か・・・かつて撃墜されたと報じられたC-2はアメリカ陸軍を運ぶってことだったよな。・・・・これは・・・・アメリカ陸軍のストライカー装甲車MGS・・・たしかC-2は30トンまで積載可能だからな。それにH&K HK416に、ベレッタ、銃剣、バレットM82、ミニミにM2にジャベリン、その他弾薬諸々・・・・此処にあるということは撃墜されたという報道は嘘だったのか?今の時代人工衛星があるから謝って報じることはないはず・・・報じることができなかったのか・・・」
「おいて行くわよ」
「悪い。待ってくれ」
とにかく何かあった時用のために・・・
―――――――南プシェムィシル村中央部 村立図書館―――――――
此処まで来るのに、村をいろいろ見て回ったがそれなりに活気がある村だった。それなりの規模の村なんだろう。
「シャンバラでスルトが嫌われる理由はこれに書いてあるわ。多分これを見ればスルトを嫌う理由がわかるとおもう」
イリーナから渡された本を手に取り開く。
「オーレリシア神話・・・・・・」
書かれている文字が完全に日本語という点に疑問を持ったが、その点については質問しなかった。しばらく見ていると、気になる文字が出てきた。
「古代最終戦争―ラグナロク―・・・どこかで聞いたことのある言葉だな」
ラグナロク・・・北欧神話か?
「ラグナロク歴前3年、スルト達は海をヨルムンガンドたちで囲み、地をナグルファルと呼ばれる船で上陸し、空は黒き龍ニーズヘッグにより突如オーレリシア大陸全土に侵略を開始した。スルト達はフェンリルやガルム、ニーズヘッグたちを巧みに使い、それらはどんな炎も効かず、どんな剣も折れ、口から放つ玉はすべての生命を死に追いやる力を有した。わずか半年でスルト達はオーレリシア大陸全土を支配した。スルト達は略奪と破壊、強姦の繰り返し。その2年後、オーディンとその部下アインヘルヤル達はスルト達に宣戦布告する。スルト達のフェンリルやガルムを奪い我が物にし、スルト達をオーレリシア大陸から追放する。
――ラグナロク――
海へ逃げたスルト達は残ったヨルムンガンドを使いレーバテインを放ち、レーバテインの炎はオーレリシア大陸を火の海にさせ、100万の民と100万の生命と100万の歴史を破壊し、突然消えた。そして、この日をラグナロクと言う。そして現在使われているラグナロク歴はこの日から数えてからの年である。なおMETはスルト達の言葉の頭文字を取り作った言葉で、シャンバラ語で魔法粒子と言う意味であり魔法粒子がシャンバラで精製され始めたのはラグナロクの時スルト達が放ったレーバテインの炎が原因と言われている・・・・・・・成程ね」
METはドイツ語で魔法粒子という言葉の頭文字を取った言葉。つまりスルト達はドイツ人?
「どう?理由分かった?」
「ああ。しかし、これは神話だろ?今はラグナロク歴何年だ?」
「1万年」
「ウソの可能性があるだろう。それに、この神話の中ではスルト達は黒髪茶眼で肌が黄色なんて出ていない。」
「それが嘘でもないのよ。まあ確かに神話だから、ヨルムンガンドとかになっているけど、実際は古代兵器と呼ばれる代物なのよ。そして、この村の港に残っているのよ。スルト達の遺産。この村だけじゃないわ。とくに、スルト達が最初に制圧したのはオーレリシア大陸中央部。ポートランド皇国なのよ。此処から北のプシェムィシル要塞。これはあの古代最終戦争でのスルト達が使ったとされる要塞で、オーディンたちはこの要塞を強襲し本部としてスルト達と戦い勝利したのよ。レーバテインの炎でもあの要塞は破壊されなかった。あれから1万年たっているのにあの要塞は劣化せずポートランド皇国がいまだ血眼になって研究しているけど、解析不明。それと先程言った南の港にあるナグルファル。今では海上要塞とか言って、ポートランド皇国海軍の海上基地になっているけど、それも、未だに解析不明。全長262m、全幅31m。巨大な鉄の要塞としか言いようがなく、どうやってあれを動かしたのか考古学者達の間で論争がおこなわれているけどいまだにはっきりしていないわ。外見の特徴は良くわからないけど、スルトと言うと他の人と外見が違うという特徴があるから。ついでに言うと私の家も多分・・・」
成程外見的特徴か。ならあの服装・・・耐Gスーツなんぞ来ていれば怪しまれるはずだよな。
「ああ。あれは君達が言うスルトの物だ。あれは俺の所属していた軍隊に配備された兵士と兵器を輸送するための物だ。しかし、俺達の星でこの大陸を制圧できるほどの軍隊が消えたという話は聞いたことがない。何かほかに証拠があれば・・・」
「残念ながら他にはないわ。これからさらに研究が続けば何かあるかもしれないけど・・・」
「まあ、解った。・・・もう一つ頼みたいことがある。」
「なに?私にできることなら言って」
「俺の職場を探してくれ!!」
「はい?」
俺にとってこれは重要なことだった。この世界で生きていくためには・・・・