#46 クーデター
「よいしょっと・・・・」
「ふぅ~」
「それにしてもひどいもんだな」
九鬼龍斗とその他自警軍の兵士、村人たちは、古代兵器によって蹂躙された村の南部から中部の瓦礫撤去と村の立て直しをしている。
「おいリュート。詳しく聞けなかったがお前の世界ではいつもこんなことが起こっているのか?」
瓦礫撤去作業中に後ろから話しかけてきたのは、ギルドの同僚で今では自警軍の同僚。
階級は同じ大尉のカザード。
「カザードか。ああ。俺が住んでいた国ではそんなことはなかったが隣国では二つの勢力が武力衝突していたからな。こんなもんじゃない。ついでに俺の母国は、俺の住んでいた世界で唯一レーバテインの炎の被害国だ。と言っても俺がいた時代よりも70年以上前の話だけどな」
「そうか。悪いな。無駄話につき合わせちまって」
「べつにいいさ。こんなご時世だ。それに無駄にはならないと思うがな」
「なんでだ?」
「奴らが・・・帝国が、いつレーバテインを手に入れるか解らない」
急に目つきが変わった龍斗が話し出したことはカザードだけでなく、周りの復旧作業をしている人々を震え上がらせた。
“古代兵器”この漢字4文字の言葉ですら彼らにとって恐怖の象徴。その古代兵器の中でも最上級クラスの、いや、最強で最凶の兵器。レーバテインとなれば恐怖の対象どころではない。死を意味しているのだ。
「あ、すまん。たとえ話だ。例えだ」
「例えばなしにしては怖い顔をしていたな」
鋭いところを突いてくるカザード。
「気のせいだ。気のせい・・」
俺が続きを言おうとした時、村の中央部の時計台。壊されていなかったのが奇跡だが、その時計台の鐘が鳴った。お昼のお知らせである。
「おーい。そろそろ休憩してもいいぞ」
「じゃあカザード。俺は治療院の方を行ってくる」
「ああ」
俺はカザードに見送られ治療院へ行った。
―――――――治療院
「よう、元気してるか」
「リュート!!」
俺は昨日ジークフリートに狙撃され治療院に入院していたエアリィのお見舞いに来た。
エアリィがいる小部屋に来た瞬間、エアリィは俺の名前だけ呼んで飛びついてきた。
「おいおい。まだ胸の銃痕治ってねえだろ?・・・まあ俺に飛びつけるだけの元気があれば問題ないだろうけど」
エアリィは俺に言われた通りまたベッドに戻った。
「で、村の復旧作業はどう?」
「ぼちぼちだ」
「頭の復旧作業は?」
「どういう意味だ?」
「イリーナがさっきお見舞いに来て、古代兵器操縦している時のリュートの頭はおかしい。だから今度ちゃんと見るって言ってた」
イリーナめ・・・余計な御世話だというのに。
しかもよりによってたちの悪いこいつに言いやがって。何されるかわからん。
「余計な御世話だ。まあ、エアリィも元気そうだし良かった。じゃあ俺はこれで」
「戻っちゃうの?」
「ああ。悪いけど村の復旧長引きそうだから。・・・大丈夫。夜になったらイリーナと一緒に見舞いに来てやるから」
「ありがとう・・・・・本当はリュートと二人っきりが・・・」
「なんか言ったか?」
「ううん。別に何も」
「そうか。じゃあしっかり食べて、ちゃんと傷治せよ」
そう言うと龍斗はエアリィの気持も知らないで復旧作業へ戻ってしまった。
その後見舞いに来たエーリッヒがものすごいやつあたりをされたのは別の話。
そして、もう一つの別の話。
―――――東オーレリシア帝国首都ルーシアグラード グラード城
「貴殿の言っていることは本当か?」
「はい。皇帝陛下。“これ”をポートランド皇国の首都ウィーンペストに落とせば・・」
「ああ。ポートランド皇国を無傷で手に入れることができる」
「それだけではありません。反帝国同盟の中心はポートランド皇国。この国をつぶせば反帝国同盟は崩壊するでしょう」
東オーレリシア帝国皇帝陛下の前で例の物の話をするジークフリート・アルジェント。
彼らの顔は正に“悪”そのもの。
「成程。では、それによって態勢の崩れた反帝国同盟を順序良く駆逐していく。そして反帝国同盟の残党との戦闘で疲弊した西オーレリシア諸国連邦機構を取り、オーレリシア大陸は我が物」
「・・・それは間違いですぜ。皇帝陛下」
「何?」
ジークフリートの思わぬ発言にとりみだす東オーレリシア帝国皇帝陛下。
そして、それに便乗するかのようにドタドタと小銃を手にし皇帝陛下の部屋に侵入してくる人たち。背中には鎌と槌のルーシア征教の教旗が描かれている。彼らはジークフリート率いるルーシア護衛騎士団。
「お久しぶりです。皇帝陛下。・・・いや、父上」
「お、お前は!!」
「東オーレリシア帝国第5皇位継承者のマクシミリアン・フォン・ヘルフ・アレクサンドロヴィチです。単刀直入に言わせていただきます」
マクシミリアンはいつもの4人の参謀をつけながら右ポケットに手を突っ込み拳銃を取り出した。
「死んでください」
右手に掴んだ拳銃を実の父親である皇帝に向ける。
「マ、マクシミリアン!!血迷ったか?わしはお前の実の父親だ!!」
「そうですね。だからどうしました?そうですね・・・現実味を出させるために出てきてください。教祖様」
更に後ろから出てきたルーシア征教教祖。
「きょ、教祖!!」
「さよう、わしがルーシア征教教祖レフ・トロツキー。悪いが、この国に貴殿は必要ない。国民はこの戦争で、いや、その前から国土ばかり求めた皇帝の所為で国民は貧困に苦しんでいる。いま、国民に必要なのは、救いの手。頼れるもの。我らルーシア征教ならそれを救える。我らが唱えるすべての人間は平等である。そして国民はみな我らルーシア征教と一致団結した。」
「そ、そんな・・・バカな!!う、嘘だ!!」
椅子から転げ落ちて腰が引ける皇帝陛下。とてつもなく無様な姿である。
そしてそれを上から見下ろす人々。
「嘘・・・ですか・・・嘘だと思うならどうぞ。外に出て見下ろしてみれば解りますよ」
マクシミリアンの言葉に、四つん這いになり、はあはあいいながらベランダへ駆け走る皇帝。
「はぁ、はぁ、う、嘘だ!!そんなことある筈が!!」
バァンと大きな音と共に開くベランダへの扉は皇帝陛下にとって地獄への扉のようなものだった。
「・・・・・あった・・・・嘘でなかった・・・・」
皇帝陛下が見た光景は、ルーシア征教の教旗を掲げて、共産と叫ぶ人々の姿だった。
その光景は皇帝陛下にとって死を意味していた。
「そうです?みんな平等を求めているんです。だから・・・」
「死んでください!!」
“パァン”と一室で鳴り響いた銃声は東オーレリシア帝国が共産主義に変わった始まりの鐘だった。
「そして、これからは共産主義の時代が始まる!!」