#45 悪魔の兵器
「ターゲットロックオン!!発射!!」
“ドゴォォォン”と戦車の砲塔は火を吐き龍斗とイリーナが乗る装甲車めがけて火の玉は直進してくる。
「ちぃ!!」
「おわわわ」
急に方向転換する装甲車。その振動に耐えきれず車内で転がっていくイリーナ。
そして敵の攻撃を間一髪でよける龍斗。
「はぁ、はぁ、大丈夫か?」
「なんとか。でも何で手を動かしているだけなのに龍斗は疲れているの?」
「・・・クレヤボヤンス。今外がどうなっているか見えるための魔法を行っているんだ。ちょっと声をかけないでくれ」
「ご、ごめんなさい」
「くっ・・・あいつらには何発弾があるんだ?」
その頃―――――帝国戦車内
「なんであんなにぎりぎりでよけられるのよ!!頭くる!!」
座席をガンガンと殴る戦車の操縦者のリディア・ブレス大佐
「仕方ありません。敵はスルトらしいのですぞ?」
「下僕は黙ってなさい」
「す、すいません」
「こっちの残弾は3発。他の7台で使いすぎたな。輸送機に戻ればまだあるんだが・・・」
龍斗は残った弾を見てため息をついている。それと同じくして相手の戦車側でも
「残弾3発・・・こんなことなら村燃やす程度で使わなきゃよかった」
リディア大佐は残った弾を見て反省するのであった。
そしてリディア大佐は勝負に出るつもりでいた。だが、
「リディア。こちらの古代兵器の損害7・・・大敗北だ。これ以上古代兵器を失う訳にもいかん。撤退だ」
唐突に聞こえた上司の命令に戸惑いを隠せないリディア大佐。
彼女はMET送還機に手を伸ばし通信を試みる。
「マ、マクシミリアン様・・・しかし・・・」
「命令だ。聞こえなかったか?」
「・・・・はい。解りました。・・・・全軍に告ぐ。撤退だ。撤退しろ」
その言葉を放った瞬間、南プシェムィシル村を蹂躙した帝国軍は進路を変更しキエフ海へと向かって行った。
「・・・・どういうことだ?」
クレヤボヤンスにより、外が見えている龍斗は敵の行動が全く見えなかった。
これだけ大規模な攻撃をしておいてのいきなり
「・・・・撤退だと・・・」
「どうしたの?」
外が全く見えないイリーナにとって龍斗の発言は興味をそそる発言だった。
「外へ出て見ろ。何が起こっているか解る」
「うん」
「俺達は舐められたのか?」
その頃――――南プシェムィシル村中部
「ちっ・・・撤退命令か・・・貴様ら。命拾いしたな」
「待て!!何処へ行く!!」
突如出された撤退命令に従うジークフリート。
それを追いかけるエーリッヒ。
「エーリッヒとやら。待て。深追いはするな」
動き出したエーリッヒを止める元ルーシア護衛騎士団団長アーノルド・アストレイ。
「なぜだ?なぜ止める」
「敵さんが撤退してくれるというんだ。今のうちに燃え広がった村の消火や、村人の救助を優先するのが先だ。見るところを誤るな若造」
「・・・解った」
アーノルド大佐の言葉により動きを止めるエーリッヒ。
「これが・・・古代兵器の力・・・」
「ああ。まさしく。そして、俺達の世界ではこんなこと日常茶飯事だ」
「!!」
ふと聞こえた声に村の消火と村人の救助に向かったアーノルド大佐とエーリッヒを入れた5人は後ろへ振り向く。そこには古代兵器を背後に止め歩いている九鬼龍斗の姿。
5人を通り過ぎて崩れた木や石を取り除く。
「・・・おい。何してるんだ?村の消火活動と村人の救助だろ?」
「ああ、そうじゃったな」
俺の言葉に“はっ”と我に返り村の消火や村人の救助を始める5人。
「しっかし酷いもんだな」
「ああ。古代兵器が恐ろしい物とは聞いていたが・・・まさかこれほどの威力」
古代兵器の威力を知らない俺とエーリッヒを除いた4人は驚きを隠せない様子だ。
「これぐらいの被害なら俺達の世界だと100年も前のレベルだ。奴らが本格的に古代兵器を集め出したら・・・」
レーバテインの炎・・・レーバテインと呼ばれるものだけは決して渡してはいけない。なぜならば・・・・
――――――1週間後 スカンディナヴィア半島最北端
「これです」
「でかいものだな。古代兵器・・・・成程。」
「ジークフリート様。何かわかったんですか」
スカンディナヴィア半島の最北端まで来て、海岸に打ち上げられていた巨大な物体を見てジークフリートはすぐに気付く。
「あいつの記憶によれば・・・・潜水艦」
「潜水艦?」
周りの軍人たちが全員首をかしげている。まあ妥当なことだろう。
この世界の住人で潜水艦と呼ばれるものが解るのはスルトか、ジークフリートのような古代兵器の情報を手に入れた者だけだろう。
「取りあえず、船の中に入ろう」
そう言って船の中に入ったジークフリート。
彼は入った瞬間寒気を覚えた。
「そう言えば、元々氷漬けになって流れてきたとか言っていたな。寒いのは当たり前か」
どんどん奥に進むにつれて不気味さは増していき、ある部屋に入った途端、不気味さはMAXになった。
「・・・氷漬けの死体か・・・身体自体は氷漬けのおかげで腐ってない。なら・・」
完全に固まった死体を見てジークフリートは手をやる。
「・・・・こいつらの記憶を俺の頭に・・・」
大和皇国で龍斗にやったような事をする。
氷漬けのスルトの記憶を奪い取る。
「・・・戦略原潜・・・大陸弾道ミサイル・・・・・核兵器搭載・・・通称“レーバテイン”・・・レーバテインだと!!」
頭の中に流れ込んだ情報の文字に驚き手を放すジークフリート。
「・・・どこにあるんだ?・・・・・潜水艦の・・・甲板・・・・成程」
「な、なにかありましたか?」
潜水艦から出るなりに何があったかを聞いてくる兵士。
ジークフリートはその質問の応答ににやりと笑い答える。
「レーバテインの炎を知っているか?」
「古代最終戦争でスルトの放った炎ということは解りますが・・」
小さい時からオーレリシア神話を親から聞かされるのは良くあることだ。
知らない人などオーレリシア大陸でまずいないだろう
「じゃあ、こんな話を知っているか?・・・ラグナロクの後・・・つまりレーバテインの炎の後だ。あの後にふった雨が漆黒だということを。」
「い、いえ。そのようなことは初めて聞きました」
「そうか。・・・・まあ無駄話はこれで終わりだ。この潜水艦の甲板をこじ開けろ。何十人も必要だからな。というよりも、こじ開けろ」
「はっ!!」
ジークフリートの命令によって潜水艦の甲板をこじ開ける兵士たち。数十人が集まって潜水艦の甲板をこじ開けることに成功した。
「こ、これは?古代文字?」
中には均等に詰まっていたと思われる円柱状のオブジェクト。
だが、この中には一つしか入っていなかった。
横には古代文字、地球ではドイツ語と呼ばれる言語で“laevateinn”と書かれている。
その姿形は、地球でミサイルと呼ばれるものだ。
潜水艦に搭載されているから潜水艦発射弾道ミサイルと呼ばれている。
「あの伝説の悪魔・・・スルトの最終兵器」
周りの兵士たちはジークフリートの言葉に息をのんだ。
「レーバテインだ!!」
オーレリシア神話に登場する伝説の最強の武器レーバテイン。
その言葉は周りの人間を戦慄の恐怖へと落とした。
龍斗はまだ燃えている村で一人つぶやいた。
「レーバテイン・・・・それは核兵器。漆黒の雨を降らす悪魔の兵器」