#42 お金で手に入らないもの
「はぁはぁはぁ」
「くそっ!!帝国の古代兵器は全滅したんじゃないのか!!」
僅か18人の国境警備軍残党は必死で逃げ続けている。それを後ろから追いかけてくる帝国兵。そして、天然の要害であった辺り一面の木々を引き倒し燃やし続ける古代兵器。
バキバキと次々に折られていく木々。
バチバチと燃え広がる木々。
赤く朱に染まる大地を見ている残党はこの光景を目に焼き付け逃げ続ける。
“バァン”“バァン”
2発撃てば
“バババババババ”
と数十倍に何発も返してくる帝国。
ポートランド皇国が何発も打てるのは固定式のけん引銃なのに彼らは携帯式の連発銃を持っているのだ。
「いくら新しい銃を開発したところで向こうは古代兵器を使ってくるんだ。勝てっこない!!」
「奴らが携帯している古代兵器は我々が4人がかりで運ぶ連発のガトリングガンよりも威力が高いんだ」
「くそっ!!このままじゃジリ貧だ。バット!!お前がこの中で一番足が速い。すぐさまに南プシェムィシル村へ行くんだ!!あそこにはあのスルトがいると聞く。早く行け!!」
「そしたら伍長が・・・みんなが」
「早く行け!!これは命令だ。従わないなら殺す!!」
「は、はい!!」
バットと呼ばれるまだ少年が抜けない正規軍兵士はボルトアクション式の小銃を持ったまま南プシェムィシル村へと向かって走って行った。
「伍長・・・みんな・・・ごめんなさい」
「取りあえずここに隠れよう」
「はい」
国境警備軍残党の寄せ集めの部隊で一番階級が上のジョン伍長は作戦を練っている途中だ。その過程で隠れられる程度のくぼみがある草むらに隠れることにした。
「どう転んでも俺達は死ぬ。それぐらいの覚悟はできているな」
「は、はい」
「それぐらいは解っています」
二人の返事に続いて周りの兵士は首をうなずかせる。それを聞いて安心したようで、
「良かった。みんな分かっているようで安心した。・・・この戦争はあの偉大な前皇帝陛下の仇打ち戦争だ。利益を目的とした戦争ではない。けれど、俺はそれでも戦う。皇帝陛下を殺した帝国が憎い。現皇帝陛下のアルバート陛下はもっとつらかったはずだ。
・・・・俺達は死んでも一人以上は道ずれにしてやろう。いいな?一人十殺」
とむちゃくちゃな目標を立て出す。
「はっ!!」
“ブルブルブルブル”
横を通り過ぎる古代兵器。彼らは隠れている。だから大丈夫。そんなこと古代兵器には関係なかった。
「敵兵発見。攻撃!!」
“バババババババ”
「ぐわあああああ!!」
「うぐうううう!!」
「お掃除完了」
古代兵器に取り付けられていた赤外線カメラにより兵隊の位置を確認した装甲車は銃眼から次々に発砲し残りの17人を瞬殺した。
そして彼らは一人十殺という目標の100分の一も達成できずに散っていった。
彼らが最後に残した戦績は相手に無駄弾を使わせた。ただそれだけであった。
―――――――南プシェムィシル村駐屯字形軍訓練場代わりの闘技場
「ほらそこ!!ケツが上にあがっている!!しっかりしろ!!」
木刀を持ちながら自警軍の教官をやっているエーリッヒは腕立て伏せ連続100回という筋トレをやらせている。自衛隊で訓練をしていた俺にとって何のことでもなかったが、ギルドのただの受付係だったアイリスさんにとっては過酷だったろう。
「は、・・・・はいぃ」
「言ってるそばからしっかりしろ」
「いいなぁ。アイリスは・・・私ももっとしごかれたい・・・そうだ。」
他の村の女性が始めたこと。
「エ、エーリッヒ教官・・・もう無理です」
「貴様もしっかりやらんか!!」
「成程・・・・私も・・・」
「私も」「私も」「私も」「私も」・・・・・・・
次々に腰を上げたり、くたばったりしていく女性陣。イリーナやエアリィはもうとっくに終わっていたため、
「まったく・・・あいつらはあの男のどこがいいんだか」
「さぁ?私には解らないわ」
と言っているが他の村人の女性陣と二人の感覚は違うようだ。
そんな村の女性陣の姿を見ていたエーリッヒは、業が煮えたようで
「貴様ら・・・しっかりやれえぇぇぇぇぇ!!」
闘技場からエーリッヒ・フォン・ザクセンの怒号が響いていた。
怒る理由は・・・聞かずとも解る。仕方ないことだ、おれはそう思って黙ってその不思議な風景をみていた。そんな時、突然扉が開いた。
「!!!」
「!!!」
「何?」
みんなが一斉に扉の方向を向く。向いた先には傷だらけのまだ少年が抜けない正規軍兵士がいた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「どうした!!」
俺は扉の方向へ急いで走る。腕立て連続100回の後で多少疲れていたが、その時は何も感じなかった。
「帝国が、帝国が、」
「落ち着け。とりあえず落ち着け。イリーナ、エアリィ。手伝ってくれ」
「りょーかい!!」
とりあえず俺達はその謎の正規軍の少年兵士を休息室へと連れて行った。
――――――――闘技場 休息室
「ごくごくごく・・・ふぅ。落ち着きました」
正規軍兵士は机にお茶の入ったコップを置く。
「それはよかった」
目の前にいる少年・・・・バットはいま腕や足に包帯を巻いている。とりあえずイリーナとエアリィの治癒魔法で止血した後薬を塗って治療した。
「で、なにがあったんだ?」
「あ、はい。えーと僕は国境警備軍プシェムィシル地区南プシェムィシル地方守備隊に所属しているんですけど、っていうか、その部隊が壊滅したんですよ。」
「なんで?古代兵器は壊滅したはずだろ?」
俺はありのままの事実を彼につきだす。古代兵器が壊滅したまま普通の帝国兵に負けたのであれば正規軍の体たらくをさらけ出すことだろう。
「それが、やつらが、帝国が新たに古代兵器を投入してきたんです」
「なんだと?・・・あいつらは大和皇国やムガル連邦等の国境から古代兵器を引き上げたとでも言うのか?」
「よ、よく解りませんが、古代兵器にはルーシア征教の教旗が掲げられていました。」
「そう考えると、奴らはルーシア征教に援助でも頼んだのか?・・・・それにジークフリートのことも考えるとこの戦争ルーシア征教がかなり望んでいる戦争となるな」
俺は一人で彼の話から考察しているとこっそりその話を聞いていたそうで・・・
「リュート・クキ!!今のはどういうことだあぁぁぁぁ!!」
“パキィーン”う~ん・・・いい音色。
「防ぐな!!」
「防ぐわ!!いきなり人の名前呼んでおいて切りつけるバカがいるか!!」
いきなり俺の名前を呼んだかと思ったら俺を切りつけてきたのはエーリッヒ。幸い、腕に付けていたストライカー装甲車の複合装甲で防いだ。こんな常識外れのことをするとは・・・人智のかけらもないと言いたいところだが、めんどくさくなるのでやめた。
「で、お前の要件は何だ?」
「今の話だ。人がこっそりばれずに聞いていると思いきやとんでもないことを言って」
「盗み聞きは良くないが、お前に話しておいて損はない。お前が盗み聞きした通りだ。国境警備軍が帝国の古代兵器によって壊滅したようだ」
「「「「・・・・・・・」」」」
「なんだよ」
イリーナ、エアリィ、エーリッヒ、バットは俺のことをなんかの異物を見るかの如くな目で俺を見ている。俺何かしたか?
「・・・なんでそんなに落ち着いていられるんだ?」
なんだそんなことか
「多分帝国はここに来れない」
「なぜだ?」
「古代兵器があんな細道を通れないから。うん。ただそれだけ」
そう。帝国軍が国境付近からここまで来るのには山の細道を通り洞窟を通り、また山の細道を通って行かないといけないのだ。だから古代兵器がここに来るには北プシェムィシル地方まで回っていかないといけないのだ。
「・・・確かに・・・あんな細道通れるわけない。まだ兵隊ならともかく」
「だろ?まあとりあえず危険だから村の入り口付近に警備隊を配置しよう。というわけで訓練は中止。いざという時に動けなくなったら困るからな」
「し、仕方がない。訓練はしばらく中止だ」
俺の案によって南プシェムィシル村駐屯自警軍の訓練は中止され警戒態勢が村に敷かれることになった。
――――――その夜 南の村の入り口
「なんであたしが・・・村の入り口の警備しなきゃならないのよ。しかも東は陸から、南は海から・・・同時に来たらどうするのよ」
俺の隣で文句タラタラ吐いているのは猫もどきであり人間モドキである獣人族のネコ獣人の
「エアリィ・・・もう少しやるき出そうぜ」
俺は無駄だとは知りながら応援する。多分こいつにはお宝探し・・・もとい古代兵器探し以外やる気はないんだろうな。と確信した。
「うぃーすぅぅぅぅ・・・・」
「やる気無!!」
「それに、眠いったらありゃしない」
「もう少し気を引き締めておけ。そんなボルトアクション式の銃じゃ古代兵器には役に立たんぞ?」
俺はエアリィが握っているボルトアクションの銃。形的にいえば普墺戦争でプロイセンが使ったドライゼ銃に近いと高須は言っていた。
「でもあんたがいるから別にいいでしょ?古代兵器を自在に操るスルトさん」
「自在って・・・使い方を知っているだけで手足のようには動かせん」
とりあえず俺は危険な目に遭わないように89式小銃に9mm機関拳銃、9mm拳銃。そして正規軍装備のガトリングガン。さらに84m無反動砲“カールグスタフ”まで持ってきた。対戦車榴弾3発。多目的榴弾3発。照明弾1発。5.56mm弾は合計で210発。9mmパラベルム弾は175発。俺にぬかりなし。
「でもこれだけ持ってきたなら安心よね。なんだかんだ言ってあんたの事頼りにしてるんだから、いざとなったらあたしのこと守ってよね」
「お、おう・・・・ま、任せとけ」
俺は周りが暗くてエアリィの顔までは解らなかったけど、エアリィの言葉にとてもドキッときた。俺から見れば12歳も年下なのに・・・・もしかして俺そっちに目覚めてしまったのか?
いや、決してロリコンではない。断じて違う。因みに言っておくぞ。妹萌えでもない!!
「なーに?もしかして照れてんの?」
「ち、違、ちが、違うって」
「あははは。てんぱってる。照れてるんだ」
俺のことをからかうエアリィ。こいつは俺をなんだと思っているんだ?
「う、うるさい、うるさい!!だ、黙れ。し、静かにしろぉぉ!!」
「ちぇ。解りました。・・・・・あんた軍人だから堅い奴かと思ってたけど普通に笑えるんだね。可愛いところもあるじゃん」
この年でかわいいなんて言われるとは思ってもいなかった。って言う所は置いておいて
「笑える?」
「うん。リュートが軽く苦笑いするところなら何度も見たことあるけどそうやって笑っているところ見たことなかったから」
「そっか・・・」
よくよく考えたら真面目に笑ったことなかった。俺は今日エアリィに言われて初めて気づいた。
「戦争が長く続いて誰かが死んでいくと、戦争はこの笑いも笑顔もみんなから奪い去って行くんだよね・・・」
俺は体育座りで石の上に座り海を眺めているエアリィの頭に軽く手を置いた。
「そっか・・・・皇帝陛下が戦争を回避したかった本当の理由が解ったかもしれない」
「なんなのさ?」
「教えない」
「また皮肉屋に戻ったな。教えてよ」
「それはお前が一番知っているぜ」
俺はさらに皮肉っぽく言う。というよりも俺はお前に教えられてい気付いたんだぜ。
「え、どういうこと」
ものすごく俺の言葉に意味深になって考えるエアリィ。
そしてそんなエアリィを横目にして俺は真上の星空を見て独り言をつぶやいた。
「皇帝陛下。あんたは笑いや笑顔・・・お金じゃ手に入らない幸せを守りたかったんじゃないのか?・・・・俺は金に目がない奴にそのことを教えられたよ」
その頃――――――村の入り口 山の崖
「ここが南プシェムィシル村だな。上陸部隊。そろそろ動きだせ」
「はっ!!」
「スルト・・・貴様を塵一つ残さず焼き払ってやる」
崖の上で双眼鏡を持ち一人しゃべるジークフリート・アルジェントは不気味だった。
ジークフリートの足もとに倒れている赤い物体は警備につかせた血まみれの元ソルジャーだった。